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163 農業生産を上げる方法

 クレアさんから北部解放区の状況と見通しについて報告を受け、来年以降不足が心配される食料の相談をされた。


 食糧問題は反乱軍と北部解放区住民の士気に。ひいては存続にさえ関わる、最重要案件である。


 最近存在感が薄い気がする反乱軍参謀の名にかけても、ぜひともいい働きを見せたい所だ。



 ……そんな訳で、まずは紙に現状を書き出しながら状況を整理していく。


 この冬はなんとか越せそうらしいので、問題になるのは来年の冬から春。小麦の収穫がはじまる初夏前の時期だ。


 塩なら北の拠点から運んでこられるけど、塩は人体に必須の栄養素とはいえ、お腹は膨れない。


 お金なら多少あるけど、周辺一帯で人口移動による焦土作戦モドキをやる都合上、お金があっても買い集めるのは非常に困難。周りが全部敵なので、遠方からの輸送も実質不可能。


 うん……やっぱり自分達で、北部解放区内でなんとかするしかないよね。


 まず真っ先に思いつく方法は、狩猟採取の強化。特に森や山で魔獣やけものを狩って食料にする事だ。


 今現在ティアナさんがやってくれているけど、志願兵達からも適性がある人を集めて、人員を増やす。


 お肉は腹応はらごたえがするし、塩漬けにすれば保存もきくからね。


 魔獣は沢山いて、低級の冒険者が森に入るのは自殺行為だと言われていたくらいだから、量もそれなりに確保できるだろう。


 これは当然クレアさんも考えているだろう方法で、ここで俺が果たす役割は保存用の塩の調達と、志願兵の中からお肉調達部隊を編成するに当たっての調整くらいだ。


 それは多分問題ないと思うので、メインは他の方法。農業生産の効率を上げる方法を探す事だろう。


 ……この手の話で定番なのはいわゆるノーフォーク農法だけど、あれは四圃式よんぽしきとも呼ばれるように、畑を四つに区切って、秋撒きの小麦・カブなどの根菜類・大麦や豆などの夏作物・牧草をローテーションで育てるやり方だ。


 稲作圏の人間は誤解しがちで、俺も学生時代間違って覚えていたけど、一年の間に小麦・牧草・夏作物・根菜類と収穫できる訳ではない。


 日本では二期作とか二毛作とかあったけど、あれは連作障害がない稲と、栄養が豊富に供給される水田という栽培方式、種を発芽させてある程度育成してから植える田植えという手間をかけるからこそ実現できていたのだ。


 畑作の小麦は、そもそも毎年同じ場所で作る事からして難しい。


 古くローマ時代には二圃式にほしきと言って、一回小麦を作ったら翌年丸々。時間にして一年半畑を休ませる栽培方式が主流だったし、中世の三圃式さんぽしきにしても、秋に小麦を蒔いて初夏に収穫したら、ほぼ一年休ませて翌年の春から夏作物を栽培し。秋に収穫したら丸一年休ませて翌年の秋からまた小麦を育てる。

 畑が空いている間は放牧地にして、家畜のふんを肥料にして地力を回復させるという方法だった。


 つまり同じ畑からは三年に一回しか小麦を収穫できない訳で、稲作に馴染なじみが深い日本人からすると、なんともじれったい話に思える。


 だけど毎年小麦を植えると地力の低下と連作障害で、かえって収量が低下してしまうのだ。


 近代まで小麦作ヨーロッパが稲作アジアと比べて、人口密度が大幅に低かった理由でもある。


 この世界が元の世界と全く同じである保証はないけど、今までの経験上かなり近いと思う。実際行われている農法も三圃式だしね。


 ならばノーフォーク農法の導入で収量が上がるはずだけど……あれは『四圃式よんぽしき』と呼ばれるように土地を四分割するやり方なので、三圃式が三分の一の土地で小麦が採れるのに比べて、四分の一の土地でしか小麦が採れなくなってしまう。


 上手くいけば面積当たりの収量が1.5倍かそれ以上になるし、家畜を飼える頭数が増えるので全体で見た供給カロリーはかなり増えるんだけど、一通りの成果が出るのは四年後から。


 二年目から多少の成果を望む事ができるかも知れないけど、短期的には小麦を作る面積が減る分、食料生産量としてはマイナスになってしまう。


 元の世界において、ノーフォーク農法の導入に抵抗があった理由がこれだ。


 そして今の俺達に求められているのは、来年の収穫増。なんならもうすでに植えられている小麦の収穫増だ。


 悠長にノーフォーク農法を導入している暇なんてありはしないのである。


 ……となると、次の策は『農業革命』とも呼ばれた化学肥料の導入だけど、アンモニア合成とかやり方知らないし、知っていても実現できるとは思えない。


 他にも品種改良とか農薬の導入とか生産量を増やす方法は色々あるけど、どれもこの世界で今すぐ実現するのは不可能案件。


 元の世界の知識があっても、実現できるかや状況に合うかは別の話なんだよね……。


 紙に色々書き出した項目を見ながら悲しい気持ちになるが、諦める訳にはいかない。


 なんでもいいから、できる事を探すのだ。



 ……その後もあれこれ記憶を探ってみるが、画期的な解決方法は出てこない。


 ならば地道な方法を積み重ねるしかない訳で、化学肥料が無理なら有機肥料だ。


 たしか、窒素・リン・カリウムが肥料の三大要素で、窒素は動物のふんや落ち葉、リンは鳥の糞や骨、カリウムは植物の灰に多く含まれているはず。


 落ち葉集めなら子供やお年寄りにもできるし、体力的な問題で反乱軍に行けなかった人達でも、できる範囲で手伝ってもらえる事は多いと思う。

 幸い、人手は多く集まっているのだ。


 落ち葉を集めて、動物の糞とかを混ぜて発酵させた腐葉土を作って、畑にまけばいい。……元の世界でベランダ菜園をやっていたのを思い出すね。


 そして植物の灰で思い出したけど、焼き畑農業というやり方もあった。


 これはお手軽で、枯れ草を燃やして焼け跡に種を蒔くと、灰がそのまま肥料になるというやり方だ。


 丁度今は冬で、草原だった場所には一面枯れ草が広がっている。


 大火災にならないように気をつけないといけないけど、焼き畑はワンチャンありそうだよね。


 持続性があるかは怪しいけど、差し当たり来年の食糧確保には貢献してくれるかも知れない。


 あとは、灌漑水路とか造れるといいけど……反乱軍の人達にお願いしてみようかな。


 体力作りをするならマラソンや腕立て伏せでも、水路掘りでもあまり変わらない気がする……実際は違うのかもだけど、そこはよく知らない。


 帝国軍の動きとの兼ね合いになるけど、時間に余裕がありそうだったら頼んでみよう。そのためにも、帝国軍の動向を掴む必要がある。


 他には……農具や工具の増産はクレアさんが計画していたので、お任せでいいだろう。


 あとは……天然肥料を探すとかだろうか?


 黒色火薬の原料になる硝石は肥料にもなって、『平時の肥料、戦時の火薬』と言われて重宝されたと聞く。


 床下とかから採れないか、どこかに鉱床がないか探してみよう。たしか、コウモリの糞が溜まっている洞窟の中とかにあると聞いた記憶がある。


 成分的には化学肥料と大体同じだから、期間限定で農業革命を起こせるかも知れない。


 黒色火薬を作るには硫黄の当てがないけどね……この世界に来てから火山を見た記憶がない。


 石油っぽい性質だった瘴気しょうきの元に含まれていたりするだろうか?


 北の拠点に灯油を分離した後の残りが大量にあるけど、あれから硫黄を抽出……できる気はしないなぁ。



 ――ともあれ、可能性がある事を紙にまとめ。明日クレアさんに相談して、実現に向けて動き出す事にする。


 食糧確保は反乱軍の生命線なので、ぜひとも成功させたいものだ……。




帝国暦168年1月12日


現時点での帝国に対する影響度……0.5821%(±0)


資産

・8840万ダルナ

・エリスに預けた反乱軍運営資金 7455万ダルナ


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×1637


配下

シーラ(部下・反乱軍影の部隊長・C級冒険者 月給50万)

メルツ(部下・反乱軍名目上部隊長・E級冒険者 月給35万・内15万を上級傷薬代として返済中)

メーア(部下・反乱軍副部隊長・E級冒険者 月給35万・内15万を上級傷薬代として返済中)

エリス(協力者・反乱軍後方参謀 月給10万と月30万を宿借り上げ代として支払い)

ティアナ(エリスの協力者 月給なし)

クレア(部下・反乱軍支配地内政担当 月給29万 内24万は帝国暦169年5月分まで前借り中)

オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)

元孤児の兵士達103人(部下・月給3万 兵士97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)

セファル(部下・拠点間輸送担当・C級冒険者 月給30万)(弟も冒険者養成所会計補佐として雇用 月給10万)

ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)

船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)

怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)

キサ(協力者・遊牧民傭兵 月給48万 帝国暦168年4月まで給料前払い)

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