158 反乱軍始動
会議の結果反乱軍を起こす事が決まり、全員が全力で準備に取り掛かる。
敵の動きが停滞している間に行動を起こさないといけないので、可能な限り迅速にだ。
まずは仕事を割り振り、エリスとクレアさんには民政面と後方の仕事をお願いする。
移住してくる人達の受け入れ準備、その人達を養うために必要な『北部領』の範囲策定、北部領の管理と治安維持、食料や武器の調達……仕事量で言えば一番多い。
とりあえず経費面はエリスに一任し、手元に金貨三枚300万ダルナだけを残して、残りの資金を全部預けた。
そしてメルツとメーアには、ティアナさんが戻って来次第兵士の子達を連れて北の拠点に向かい、可能な限りの塩を運んできてもらう。
これは資金確保のためだ。今ならまだギリギリ大山脈を越えて往復できる。
そのために、周辺の街に派遣している偵察要員の兵士達に急いで帰還の伝令を送る。
キサにはしばらくの間冒険者養成所三期生の子達に、乗馬とティアナさん直伝の弓を教育してもらい。冒険者養成所の子達が塩輸送に出発した後は、馬を使っての輸送任務に当たってもらう。
そして俺とシーラは、対外交渉と資金調達だ。
塩を卸している商会に出向き、近いうちに大量の塩を入荷予定なので、まとめて引き取ってもらうようお願いする。
この状況を想定していた訳じゃないけど、前に会った時に西部の情勢を考慮して『これから危なくなるようであれば、急いで可能な限りの量を手配しようと思っています』と伝えていたので、違和感なく話を受け入れてもらえた。
直接言葉にはしていないけど、『これから危なくなるようであれば』案件を実践したので、危機感を伝える事もできたと思う。
この街は旧ジェルファ王国を三分したら帝国の勢力圏になると思うので、今のまま帝国との繋がりを維持して情報を流して欲しい。
そんな段取りを整えて中州の拠点に戻り。塩の輸送隊の帰りを待つ。
俺達が戻った翌日には輸送隊も戻ってきて、ティアナさんの分を合わせて運ばれてきた360袋の内300袋をアルパの街に運び込み。待機していた商会の馬車に引き渡して、9000万ダルナの資金を得る。
残りの60袋は自家消費用だ。移住者を大勢受け入れるに当たっては炊き出しとかをする必要もあるだろうから、エリスに預けておく。
そんなこんなで資金調達を終え、各種準備も一応の目途がつく12月8日を、反乱軍決起の日とする事が決まった。
季節はもう12月に入っているので、今から北の拠点への退避は難しい。
もう後には引けないと覚悟を決め、軍の編成にかかる。
人員はシーラ・メルツ・メーアの他、実戦経験がある冒険者養成所一期生と二期生の子が34人。護衛任務以外の実戦経験がない三期生の子が63人で合計100人と、医療班の子が一人。そして軍師の俺。
後方参謀がエリスで、支配地域の運営管理責任者がクレアさん。
ティアナさんは中州の拠点と北の森を往復して、魔獣を狩ってきてくれる。圧倒的な人口の前にどれだけ足しになるかは分からないけど、食料の補給はありがたいからね。
そしてキサは、馬を扱う技術を生かして荷物輸送に当たってくれる。
戦闘用の馬が70頭しかいなくて、冒険者養成所三期生の子63人の内31人は馬がないので、最初に解放する予定のアルパの街で待機してもらい。帝国軍から奪った馬が調達でき次第、主に伝令として働いてもらう予定だ。
多くの街を解放したら、各街と連絡を取るの大変だからね。
……そうして反乱軍と各所の準備を整え、12月8日の朝を期して行動を起こす。
シーラ率いる反乱軍部隊が69人。それに医療班の子一人が加わって70騎。馬に乗れないのでシーラと二人乗りの俺も加わって、総数71人だ。
ちなみに、表向きの隊長はメルツである。
反乱軍はいずれジェルファ王国解放軍になり、隊長は将来再興したジェルファ王国の王候補になる予定なので、俺が秘かに推しているメルツが適任という政治的な判断だ。
メルツ以外の隊長候補はシーラだったけど、元帝国貴族で軍人の家系であるシーラがやるのは身元がバレた時に色々まずいし、なによりシーラ本人がジェルファ国王の座に全く興味がなく、宰相を討つ事しか頭にないからね。
いろんな事情を考慮してメルツが適任という事になり、誰も異を唱えなかったので、スムーズに決定した。
主要メンバーは俺が元帝国皇帝でシーラが帝国貴族と知っているし、兵士の子達はシーラが隊長をやると思っていたみたいだけど、『シーラ教官がそうおっしゃるなら異論ありません!』という姿勢だった。
実によく訓練されているようでなによりである……。
という訳で、70騎という数はとても軍隊と呼べる規模ではないけど、練度はそこそこだし、士気は高い。
帝国軍は今、可能な限りの戦力を旧王都に集めて籠城戦中なので、東部一帯の戦力は極めて薄く、アルパの街なんて帝国兵は10人ほどしかいないと報告が来ている。
10人相手なら69人でも圧倒的な戦力差なので、果敢に正面から街に乗り込む事にした。
街の入り口には元王国兵の雇われ門番がいるけど、俺達が掲げる北極星を模した旗を見て反乱軍だと気付いたのか。あるいは数を見て敵わないと思ったのか、なにもせずあっさりと通してくれる。
そのまま街のメインストリートを走り抜けるが、驚いてこちらを見る街の人達も、俺達が反乱軍だと知ると歓声を上げ、手を振って歓迎してくれた。
なんだか嬉しくなって、テンションが上がってくる。
他のみんなも同じなのだろう。人の目を気にしてか、気持ち姿勢を正して馬を走らせ。一路街の西部にある旧領主館へと向かう。
そこは帝国軍が駐留している場所で、門の前でメルツが『我々は帝国の支配に抵抗するために立ち上がった反乱軍である! 今すぐ降伏するなら命は取らんと約束する! 門を開けろ!』と叫ぶと、まるで命令されたかのように門が開いた。
これも事前の情報によると、ここにも雇われた元ジェルファ王国兵。特に領軍の兵士達がいる。
彼らは生活のために帝国に雇われ、以前と同じ街の警備などをしている人達なので、帝国に対する忠誠心なんて微塵もない。
むしろ普段横暴な帝国兵と間近に接しているだけに、反乱軍と聞いて喜んで門を開けてくれたらしい。
知っていたけど、帝国の人気のなさは相当なものだ。
意気揚々と旧領主館に入ると、10名の帝国兵はあっさりと降伏し。ろくな戦闘もなしにアルパの街の解放が実現してしまった。
拍子抜けしてしまうほど簡単に進んだ……けど、大変なのはこれからだ。
この街出身の元孤児達はすごく嬉しくて誇らしそうだけど、俺は浮かれてる訳にはいかないので、じっと冷静さを保って喜ぶみんなを見つめ。この先の事に考えを巡らせるのだった……。
帝国暦167年12月8日
現時点での帝国に対する影響度……0.4021%(+0.01)反乱軍アルパの街を解放
資産
・9120万ダルナ(-95万)
・エリスに預けた反乱軍運営資金 8893万ダルナ(+8590万)
・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)
・エルフの傷薬×1637
配下
シーラ(部下・反乱軍影の部隊長・C級冒険者 月給50万)
メルツ(部下・反乱軍名目上部隊長・E級冒険者 月給35万・内15万を上級傷薬代として返済中)
メーア(部下・反乱軍副部隊長・E級冒険者 月給35万・内15万を上級傷薬代として返済中)
エリス(協力者・反乱軍後方参謀 月給10万と月30万を宿借り上げ代として支払い)
ティアナ(エリスの協力者 月給なし)
クレア(部下・反乱軍支配地内政担当 月給29万 内24万は帝国暦169年5月分まで前借り中)
オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)
元孤児の兵士達103人(部下・月給3万 兵士97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)
セファル(部下・拠点間輸送担当・C級冒険者 月給30万)(弟も冒険者養成所会計補佐として雇用 月給10万)
ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)
船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)
怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)
キサ(協力者・遊牧民傭兵 月給48万 帝国暦168年4月まで給料前払い)




