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156 教国軍の誤算

 冷たい風が吹き始める11月の半ば過ぎ。北の拠点に総員退避するタイムリミットと決めた12月まで、あと10日と少しだ。


 北の拠点への退避は計画の大きな後退になり。旧ジェルファ王国地域での大きな悲劇が不可避になるという事でもあるので、それまでになにか状況を変える策はないかと、寝る間も惜しんで考え込む。


 エリスに『アルサルさん、食事はちゃんと摂ってくださいね』と心配されてしまったので、やつれていたのかも知れない。


 だけどエリスに心配をかけるくらい考え込んでも、早々名案なんて浮かんでこず。


 逆に塩を卸している商会からの情報では、教国の侵攻は止まる事なく着実に進んでいるらしい。


 帝国軍西方遠征隊総司令官のクシュル侯爵は、ジェルファ王国の旧王都に全軍を集めて防衛拠点とし、教国の侵攻を食い止めようとしたそうだが、集められた戦力は1万数千に過ぎず。


 逆に教国の侵攻部隊は不確かな情報ながら総数20万を超えるそうで、旧王都は五万の教国軍に包囲されて、援軍の当てもないまま絶望的な篭城戦に突入した。


 残りの教国軍は東進を続けていて、旧ジェルファ王国の四割ほどがすでに教国の占領下になっているらしい。


 そして教国の占領地域では、異端審問いたんしんもんの名の下帝国関係者に対する迫害が行われているという情報も入ってきている。


 旧勢力の関係者を排除するのは占領軍がよくやる事で、帝国も西方新領で貴族を初めとしたジェルファ王国の有力者達を捕らえ、帝国本土に移送して、代わりに自分達の息がかかった人達を要職にけた。


 だけど教国のやり方はもっと直接的と言うか乱暴で、元の世界の魔女狩りを思い出させるような案件も起きているらしい。


 帝国の支配もかなり酷いと思っていたけど、それを上回ってくるとかドン引きである。


 今はまだ対象が帝国の関係者だけみたいだけど、いつ一般人にも広がって異端狩りみたいになるかと思うと、気が気ではない。


 唯一安心できる情報としては、メルツいわく『狂信者』である捨て身攻撃部隊はさすがに損害も大きかったらしく、最近は見かけないという事くらいだ。



 そんな不安とプレッシャーにさいなまれながら日々を送っていたある日。


 教国軍の侵攻状況を地図に書き込んでいた俺は、違和感に首をかしげる。


 この数日、教国軍の進行速度が急速ににぶりはじめたのだ。


 帝国軍の主力は旧王都で篭城戦中で、本国からの増援が来た話も聞かない。


 旧王都正面以外はほとんど抵抗を受ける事なく前進できるだろうに、進軍が鈍るというのは妙な話だ。なにが起きているのだろう?


 最近寒さが増してきているけど、教国は南国という訳でもないので、寒さに不慣れという事はないだろう。


 となると……これはいわゆる息切れ。本で読んだ知識で言うと攻勢終末点というやつだろうか?


 最初は勢いよく進軍していた部隊が、消耗や補給が追いつかずに停止する地点の事で、そこで一旦停止して休養をとり、補給や増援を得て第二次攻勢を開始するか、あるいはそこで攻勢を停止し、占領地確保のために防御体勢に切り替えるかを選択する地点と書いてあった。


 今度の戦いでは最初期の国境での戦いを別にして、以降は旧王都以外で大規模な戦闘が起きたという情報はないので、戦力が消耗したという事はないだろう。


 となると補給だろうか? 弓矢とかは大きな戦闘がなかったらそんなに消費しないから、可能性があるとしたら食糧。


 教国は開戦直後に国境付近で帝国軍が集めていた食糧を大量に捕獲したので、補給は潤沢かなと思っていたけど、もしかして部隊編成に問題があるのだろうか?


 商会からの報告に『教国軍の数は20万以上』というのがあったけど、前線部隊の割合が圧倒的に高くて、後方部隊が少ないいびつな編成なのかもしれない。


 トラックも鉄道もないこの世界では軍隊の食糧は現地調達が基本だけど、それでも一定量は後方から補給する必要が……って、そうか!


 考えていてピンときた。教国軍の侵攻直前まで、帝国は逆に教国を攻めるつもりで、国境に兵を集めていたのだ。


 兵を集めるという事は食料も必要になる訳で、帝国はその大半を現地。旧ジェルファ王国の西部から集めた。


 それはそっくり教国に奪われてしまった訳だけど、徴収が行われた結果、王国西部では食料が不足気味なのだ。


 そして元々食料が不足している所に、更に教国軍による調達が行われたら。それは住民にとって致命的な事になりかねない。


 住民も命は惜しいから、ギリギリ飢え死にしない程度までなら食料の徴収に応じるけど、それ以上となると、飢え死にするくらいならと開き直って、死ぬ気で抵抗する。


 教国軍による食料の現地調達は、その状況を起こしているのではないだろうか?


 地元住民の抵抗というのはとても厄介で、これがあったら帝国軍もジェルファ王国をあっさり占領できなかっただろう。


 ――もし、教国軍の進行速度が急激に落ちた理由が地元住民による死ぬ気の抵抗なのだとしたら。


 そして食料の現地調達を当てにしていた教国軍の計画が狂い、食糧不足に陥っているのだとしたら。


 ……これはもしかしたら、ワンチャンあるかも知れないね。



 本で勉強した戦術の一つに『焦土作戦』というのがあって、敵が侵攻してくる場所をあらかじめ焼き払ってしまい、物資の現地調達をできなくする戦法だけど。意図せずこの状況が生じているのだとしたら、これは好機なのかもしれない。


 ――現状まだ俺の想像だし、仮に事実でもどれだけ教国軍が弱体化しているかは分からないけど、チャンスには違いない。


 帝国軍は可能な限りの兵力を旧王都に集めた上で包囲されてしまっているので、他の地域での活動はかなり低調なはず。


 それはつまり、旧ジェルファ王国東部では今、巨大な権力の空白が生まれているという事でもある。


 帝国本土からの増援は遠征隊を出したばかりである都合上すぐには難しいだろうし……もしかしてこれ、いけてしまうのだろうか?


 夏に布石を打った反乱軍。予定では来年だったけど、あれを今再興して旧ジェルファ王国全土で決起と結集を呼びかければ、一大勢力を作れるだろうか?


 ……仮に作れたとして、問題はその維持だ。軍隊の維持には武器と食料、できれば給料も必要になる。


 武器の在庫は、夏に帝国軍討伐隊と戦った時に拾い集めたのが多少あるだけ。急遽調達するとして、どれだけ集まるだろうか?


 食料は買い集めるしかないけど、帝国軍西方遠征隊用の食料が重点的に徴収されたのは西部のはずで、アルパの街の様子などを見るに、東部では多少の余裕がある。


 資金はある程度の手持ちがあるけど、武器と食糧を買い集めた上に給料まで出せるだろうか?


 突然の事なので、全く計算が立たない。


 ……でも、やるなら今しかないのは間違いないよね。


 東部には多少食料の余裕があるという事は、逆に考えれば教国軍が東部地域まで進出すれば、食料の調達が容易になって後は一気に行ける所まで行ってしまうという事だ。


 そうなったらアルパの街も危ない。やはり動くなら今しかないか……。



 さすがに一人では決めきれない案件な気がしてきたので、またみんなに相談するべく。俺は第二回教国侵攻軍対策会議を召集するのだった……。




帝国暦167年11月24日


現時点での帝国に対する影響度……0.3921%(±0)


資産

・9215万ダルナ

・エリスに預けた冒険者養成所運営資金 303万ダルナ@月末清算(現在10月分まで)


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×1637


配下

シーラ(部下・反乱軍部隊長・C級冒険者 月給50万)

メルツ(部下・反乱軍拠点訓練担当・E級冒険者 月給35万・内15万を上級傷薬代として返済中)

メーア(部下・反乱軍拠点メンタル担当・E級冒険者 月給35万・内15万を上級傷薬代として返済中)

エリス(協力者・反乱軍拠点運営担当 月給10万と月30万を宿借り上げ代として支払い)

ティアナ(エリスの協力者 月給なし)

クレア(部下・中州の拠点管理担当 月給29万 内24万は帝国暦169年5月分まで前借り中)

オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の運営担当 月給12万)

元孤児の冒険者 一期生二期生合計40人(部下・部隊指揮官候補として教育中 月給3万)

三期生63人(月給3万)

セファル(部下・拠点間輸送担当・C級冒険者 月給30万)(弟も冒険者養成所会計補佐として雇用 月給10万)

ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)

船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)

怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)

キサ(協力者・遊牧民傭兵 月給48万 帝国暦168年4月まで給料前払い)

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