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153 ロムス教国軍侵攻

 突然のロムス教国軍侵攻という知らせに、俺達は一旦北に退避する。


 この辺りは街道と大山脈の距離が少し離れていて、間に村もあるので、まずはそこを目指す。


 メルツとメーアの馬がとても疲れているのと、馬車が古くてスピードを出すとバラバラになりそうなので、ゆっくりと進んでいく。


 メルツが何度も『アルサル様とシーラ様だけで先に逃げてください』と言うので、『分かった、本当に危なくなったら逃げさせてもらうよ』と言って納得してもらったけど、少し心配し過ぎな気もする。


 メルツは上級傷薬の件で俺に大恩を感じているらしいのと、元ジェルファ王国の貴族家出身なので、ジェルファ王国の再興に強い思い入れがあるらしく。そのためにも、俺に生きて欲しいと強く願っているようだ。


 ……たしかに、今俺とシーラがいなくなったら、反乱軍は機能停止してしまうだろう。


 でも俺達は帝国兵じゃないし、裏で色々陰謀を巡らせているとはいえ、それがバレた訳でもないはずだ。


 それならロムス教皇国軍に掴まっても殺されたりしないと思うし、なんなら捕まる理由さえない気もする。


 ……だけど実際に教国に潜入した事があり、侵攻の現場を見たメルツがこれだけ警戒するのだから、なにかあるのだろうか?


 ゆっくり進む馬車の中で、ようやく落ち着いてきた様子のメルツに話を訊いてみる。


「ねぇメルツ。俺達帝国兵じゃないんだし、捕まっても殺されたりしないんじゃないかな?」


 そう言うと、メルツは真剣そのものの表情で言葉を返す。


「アルサル様、その考えは危険です。今回攻めてきたのは、おそらく教国でも特に過激な狂信者達です。やつらは異教徒を同じ人間だとはみなしません。異教徒を殺す行為は善であると言う者さえいるほどです」


 おおう……そういえばメルツの報告書にそんな人達がいるって書いてあったね。


「でも、そんな人達は少数って話じゃなかった?」


「全体で見れば小数ですが、国中から集まればそれなりの数になります」


「なるほど……普通の兵士じゃないってのはどこで判断したの?」


「攻撃の仕方が、常軌じょきいっしていました……ギラついた目をした人の群れが、武器を振りかざしてただ真っ直ぐに突っ込んでくるのです。


 夜間に奇襲を受けたとは言え、帝国軍も部分的に反撃したのですが、やつらの前進は矢を受けても止まりませんでした。


 狂気に満ちた形相ぎょうそうで、力尽きて倒れるか目標に到達するまで前に走り続けるのです。胸をやりで貫かれたのに、息絶えるまでの一瞬に最後の力を振り絞って武器を投げ、相手を道連れにした兵士も見ました。

 あんな事……およそまともな人間にできる事ではありません……」


 そう言うメルツの声は、恐怖に震えている。


 ……たしかに、武人の中でもトップクラスの勇猛さを誇るのだろうグラファス総督でさえ、シーラの矢を受けてとっさに馬を止めたもんね。


 敵に追われているとかでなければ、負傷したらとりあえず怪我の確認や治療というのは、人間として以前に生物としての本能だと思う。


 ――正直、自分の命以上に大切なものがあるという感覚自体は分からなくもない。俺だってシーラの命が危ないのを目にしたら、身をていしてかばおうとするだろう。


 もしくは俺と後宮ハーレムを逃げ出す前のシーラがやろうとしていたみたいに、敵の大物。宰相と刺し違えるみたいな案件なら、理解できなくはない。


 あるいは孤児の子達。たとえばララクがやったみたいに、半ば自暴自棄になって自分の命を顧みず、家族の仇である帝国兵に石を投げるみたいな行為なら、気持ちは分かる。


 だけど普通の戦闘で普通の戦い方もできるのに、あえて自分の命を捨て駒にするような戦い方は、理解に苦しむ。メルツが『常軌を逸している』と言ったのも当然だ。


 そしてそんな人達が敵視する存在。捕らえた『異教徒』をどう扱うかなんて、考えたくもない。


 メルツが必死に、俺とシーラだけでも先に逃がそうとするのも納得だ。


 これは俄然がぜん捕まる訳にはいかなくなってきたね……。



 メルツの話を聞いて危機感が増し。馬車から外を覗くと、遠く西の空に煙が上がっているのが見えて、緊張が更に高まる。


 だけど馬車が進む速度はゆっくりで、街を出たのが午後だったせいもあって、あまり進まないうちに日が傾いてきた。


 とはいえ、教国軍が街道沿いを真っ直ぐ東進するなら、まずまずの安全圏なはずだ。


 ここは街道から外れた、北の村へと続く細い道であり、主要な侵攻ルートにはならないと思うけど、念のため警戒して馬車を道の脇に停め。少し離れた所で夜営をする。


 辺りは草原で隠れる場所がないので、もし教国軍に追い付かれたら、馬車に気を取られている間に逃げるのだ。


 さすがに命を惜しまない捨て身攻撃をかけてくるのは教国軍でも一部だろうし、そういう兵士は最前線に配置されるはずだ。


 こういう所に送られてくるのは普通の兵士だと思うので、馬車があれば調べたりするだろう。


 教国兵はどうか分からないけど、帝国兵は略奪大好きだったしね。


 街からの避難民が来て馬車を奪われるかもしれないけど、それはそれでいい。


 俺達より目立つ存在になってくれれば教国兵の注意がそっちに向くだろうし、元々明日からは馬に乗って、道から外れた場所を進むつもりだ。


 馬車は疲労困憊ひろうこんぱいだったメルツとメーアを、差し当たり街から遠ざける事ができればそれで十分だった。その上囮おとりにもなってくれるなら、言う事なしだ。


 ……囮は言い方が悪かったけど、避難民の役に立つならそれでいい。避難するなら馬車はあって困るものじゃないからね。


 馬がいなくて引けなくても、休憩場所とかにはなると思う。



 そんな訳で交代で見張りを立て、厳戒態勢で夜を明かすが、幸いその夜は教国軍が現れる事はなく。翌朝からは馬に乗って北へと逃げる。


 昼頃には南の方。俺が一報を受け取った街の辺りからも煙が上がるのが見えた。


 帝国軍が順次集結中のはずなので、その一部隊と交戦したか。


 あるいは単に異教徒の街を焼き払ったのか分からないけど、戦いは俺達のすぐ後ろで展開中だ。


 追いつかれないようにと先を急ぎ。その日は北の村で一泊したが、そこにはまだ教国侵攻の知らせは届いていなかった。


 帝国軍遠征隊のために食料が徴収されたそうで、食べ物は不足気味だったけど、シーラが近くで狩った魔獣の肉を提供したら喜んで一晩泊めてくれ、ゆっくりと休む事ができた。



 ……翌朝。村をつ直前に、教国の侵攻があった事を伝える。


 昨日伝えなかったのは、村が混乱状態になったら俺達がゆっくり休めなくなるのと、もしかしたら襲われる可能性もあったからだ。


 村から避難する前に旅人の寝込みを襲って身包み剥ぐとか、ないとも限らないからね。


 教国軍がこの村に来るまでにはまだ少し時間があると思うけど、避難民も来るかもしれないし、帝国軍の敗残兵も来るかもしれない。備える事はいっぱいあるだろう。


 村長は俺の言葉を聞いて顔を青くしていたが、『なぜ昨日教えてくれなかったんだ!』とは責められなかったので、事前に知れただけマシと思ってくれたか、あるいは俺が心配した事に心当たりがあったのか。


 ともかく、あわただしく村人を呼び集める村長と一応平和的に別れ、俺達は大山脈の裾野すそのに広がる森沿いに、東へと馬を走らせる。



 ……教国の侵攻はどのくらいの規模なのだろうか?


 幸いと言っていいのか、帝国も西部に兵力を集めている最中であり。国境に張り付いていたグラファス総督の隊なんかはどうなったか分からないけど、旧ジェルファ王国王都に戦力を集中して迎え撃つ態勢とかは、わりと迅速に整える事ができると思う。


 教国軍の奇襲による初期突破がどこで止まって、その後膠着こうちゃく状態になるのか、あるいはどちらかが押すのか。


 早目に止まってくれればいいけど、旧王都が陥落してクレアさんの故郷の街まで戦場になるとか、更に進んでアルパの街まで戦場になるとかになったら、大いに困る。



 ともかく俺が考えていた第二段作戦は初手からいきなり大きく狂った訳で、一刻も早く修正を図るべく。俺達は中州の拠点への道を急ぐのだった……。




帝国暦167年10月29日


現時点での帝国に対する影響度……0.3921%(±0)


資産

・9238万ダルナ(-320万)

・エリスに預けた冒険者養成所運営資金 1118万ダルナ@月末清算(現在9月分まで)


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×1637


配下

シーラ(部下・反乱軍部隊長・C級冒険者 月給50万)

メルツ(部下・反乱軍拠点訓練担当・E級冒険者 月給35万・内15万を上級傷薬代として返済中)

メーア(部下・反乱軍拠点メンタル担当・E級冒険者 月給35万・内15万を上級傷薬代として返済中)

エリス(協力者・反乱軍拠点運営担当 月給10万と月30万を宿借り上げ代として支払い)

ティアナ(エリスの協力者 月給なし)

クレア(部下・中州の拠点管理担当 月給29万 内24万は帝国暦169年5月分まで前借り中)

オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の運営担当 月給12万)

元孤児の冒険者 一期生二期生合計40人(部下・部隊指揮官候補として教育中 月給3万)

三期生63人(月給3万)

セファル(部下・拠点間輸送担当・C級冒険者 月給30万)(弟も冒険者養成所会計補佐として雇用 月給10万)

ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)

船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証 帝国暦167年5月分まで10万ダルナ分前払い)

怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)

キサ(協力者・遊牧民傭兵 月給48万 帝国暦168年4月まで給料前払い)

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