151 帝国本土の情報
支店長さんから討伐軍の情報を得て、俺はしみじみと情報の重要性を噛みしめる。
今回の戦い、シーラをはじめ兵士のみんなが頑張ってくれた事。ティアナさんやキサ、クレアさんやエリスをはじめとする後方要員の貢献ももちろんだけど、情報の力が大きかったと思う。
敵の動きが逐一報告され、戦力や指揮官も把握できたのはとても戦いやすかったし、指揮官の性格が分かったので作戦も立てやすかった。
やはり情報は重要だね。そしてその情報を得る元手となったのは資金な訳で、北の拠点で塩の生産に当たってくれているみんなの功績も大きい。
……そしてその塩だけど、春に大量に運んできた分の在庫がなくなってしまったそうで、商会に卸せなくなっているそうだ。
今回の戦いで商会からの情報はもちろん、商会経由で流した情報も大いに役に立ったので、これからも関係は継続したい。
なので中州の拠点に帰って、ティアナさんに塩輸送の再開をお願いする。
いつも通り北の拠点と中州の拠点を六日ごとに往復して、うち一日はエリスと水入らずで一緒に過ごす日程だ。
……そして塩といえば、船を使って東の拠点経由で運んでいる分がほったらかしだったので、帝国本土の情報収集を兼ねて様子を見に行く事にする。
どうせしばらくの間は。帝国軍のロムス教皇国遠征が始まるまではやる事ないからね。
――という訳で、10日ほど待ってから東へと旅立つ事にする。
今はまだ戦いの一報が届いた頃だろうから、ロムス教皇国への対応を決めて実際に動き出すまでは時間がかかる。
帝国本土での情報網はまだ弱いので、動きが出てからじゃないと情報を取れないと思うんだよね。
……そんな訳で、しばらくの間中州の拠点でのんびりと過ごし。
英気を養った所で、キサの里帰りもかねてシーラと三人で東へと向かう。
道中街の様子を観察してみたが、『反乱軍鎮圧』の張り紙があちこちに貼ってあったのを見ると、それなりの影響があったのが感じられる。
本格的な反乱軍始動前の布石としては、上々の成果だったようだ。
『帝国の将軍と一騎討ちをして倒した女剣士』の噂も広まっていたけど、この世界では金髪も、女剣士も女冒険者も珍しくないし。どこで情報が違ったのかシーラのメイン武器は槍で剣士ではないので、バレる事はないだろうと変装はしない事になった。
毎朝変装するのは時間も手間もかかるし、シーラはすぐに『面倒なので髪を切って常時男装でいます』とか言いだすからね。
シーラの男装はカッコいいので、俺としては常時男装でもいいんだけど。髪まで切っちゃうと本当にシーラの中から戦い以外の全てが消えてしまうような気がするので、最後の一線として残しておきたい。
そんなこんなで帝国本土との境界を超えて、新商会の本店がある街に到着する。
久しぶりに会う支店長の右腕さんと挨拶を交わし、塩の売上を受け取ったら、5820万ダルナだった。
ここは帝国本土という事もあって流通が円滑で、旧ジェルファ王国みたいに沢山の関所があって一つ通るたびに通行税を取られたりしないから、物の値段が安い。
だから塩の単価も安いんだけど、それでも運び込む量が多いだけにかなりの額だ。
ありがたく頂戴したあと商売の話などをし、自然な形で情報収集の流れに持っていく。
ここは塩を卸している商会で馴染みの支店長さんが運営していて、主たる商品が俺が卸している塩という事もあって、とても協力的だ。
まだ影響力を広げはじめた所であるのと、ここは帝国内でも辺境部なので中央の情報を迅速に取るのは難しいみたいだけど、それでも可能な限りの情報を教えてくれる。
それによると、
・西方新領で反乱が起きた情報はこちらにも伝わっている
・反乱の鎮圧に手こずったという事で、グラファス総督の評価は下がり気味
・反乱が起きて鎮圧されたという情報だけで、戦いの詳細はほとんど広まっていない
・反乱の背後にロムス教皇国がいるという話が確定情報レベルで広まっている
・ロムス教皇国への遠征軍が派遣される事が決まり、この街がある伯爵領からも兵士が送り出された
・送り出された兵士の数は300人で、動員としては中規模
・伯爵領の規模を考えると、帝国全体では一万人かそれを超える規模の遠征軍が編成されるだろうとの事だった。
……一万人はすごい数だけど、ロムス教皇国を攻めるには心許ない気がするね。
地方領主からの動員軍とは別に王都駐留の精鋭部隊があって、そこから主力を派遣するとかだろうか?
これ以上の情報は現時点では不明との事で、改めて情報の重要性を再認識させられる。
今回は俺達が戦う訳じゃないけど、実際に戦うとなったら数の分からない敵とか恐怖でしかない。
そして実際の戦いではほとんどの場合で敵戦力が不明である事を考えると、軍師の仕事って大変だね……。
そんな『おまえも軍師だぞ』と突っ込まれそうな事を考えながら右腕さんと別れ、北の村経由で遊牧民の集落へと向かう。
キサは久しぶりの故郷なので嬉しそうで、再会した兄や他の人達とにこやかに言葉を交わしている。
……のだけど、俺と久しぶりに会った時は勢いよく抱き付いてきた記憶があるのだが、その時より熱量が低い気がするのは気のせいだろうか?
――気のせいだと思う事にして、その晩は遊牧民の集落に泊めてもらい。夕食の席でキサの活躍を話す。
直接戦闘に参加する事こそなかったけど、馬の管理をはじめとした戦闘支援に大活躍だった事。
立派な騎兵に成長し、兵士達の乗馬の先生として指導に当たり、技術向上に大きな貢献をしてくれた事なんかを話すと、キサ兄も他の遊牧民の人達も大いに感心して、キサを褒めてくれた。
キサは照れ臭そうに顔を赤くしていたが、嬉しそうな笑顔を浮かべていたので俺も嬉しくなる。
出会った頃は自信なさげで暗い表情をしていた少女が、自信に満ちた立派な遊牧民に成長し。
その成長に俺も一役買えたと思うと、なんか感慨深いものがあるね。
……と言うかキサ、暇を見つけては一緒にいる事が多かったティアナさんに弓を習っていたので、もしかしたら弓騎兵としてもかなりのレベルに成長しているかもしれない。
ティアナさんに教わって自作の弓作ってたしね。
そんなキサの活躍が見たいような、戦場になんて出て欲しくないような複雑な気持ちになりながら、俺は花が咲いたような笑顔を浮かべる少女を見つめるのだった……。
帝国暦167年10月11日
現時点での帝国に対する影響度……0.3921%(+0.08)※ロムス教皇国への遠征軍を派遣させる事に成功
資産
・1億4578万ダルナ(+5736万)
・エリスに預けた冒険者養成所運営資金 1934万ダルナ@月末清算(現在8月分まで)
・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)
・エルフの傷薬×1637
配下
シーラ(部下・反乱軍部隊長・C級冒険者 月給50万)
メルツ(部下・反乱軍拠点訓練担当・E級冒険者 月給35万・内15万を上級傷薬代として返済中)
メーア(部下・反乱軍拠点メンタル担当・E級冒険者 月給35万・内15万を上級傷薬代として返済中)
エリス(協力者・反乱軍拠点運営担当 月給10万と月30万を宿借り上げ代として支払い)
ティアナ(エリスの協力者 月給なし)
クレア(部下・中州の拠点管理担当 月給29万 内24万は帝国暦169年5月分まで前借り中)
オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の運営担当 月給12万)
元孤児の冒険者 一期生二期生合計40人(部下・部隊指揮官候補として教育中 月給3万)
三期生63人(月給3万)
セファル(部下・拠点間輸送担当・C級冒険者 月給30万)(弟も冒険者養成所会計補佐として雇用 月給10万)
ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)
船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証 帝国暦167年5月分まで10万ダルナ分前払い)
怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)
キサ(協力者・遊牧民傭兵 月給48万 帝国暦168年4月まで給料前払い)




