147 情報工作
討伐隊を撃退した所で、俺達は一旦中州の拠点に引き上げる事にする。
次はもっと規模の大きな討伐隊が来るはずで、その編成には時間がかかるだろうから、その間に工作活動をするためだ。
兵士の子二人をクレアさんの実家商会に派遣してその旨を伝え、俺達は草原と森の境界付近を、街道から見えないように東へ移動する。
中州の拠点に着いたら、襲撃した輸送隊から奪った馬30頭。キサが面倒を見てくれていたそれを預けて、冒険者三期生の子達の訓練用に使ってもらう。
兵士の子達には休息を取ってもらいつつ後輩の指導もしてもらい、俺とシーラはアルパの街に行って、エリスと経費の清算。そしてエリスに中州の拠点に行ってもらうようにお願いする。
ティアナさんにエリス成分を補充してもらう貴重な機会だからね。
今はティアナさんによる塩の輸送は止まっているけど、春先にみんなで移動した時に運んだ大量の塩の在庫を順次放出しているので、その売上が9000万ダルナになっていた。
相変わらずすごい額だ。塩の在庫はまだあったので、もうしばらくはティアナさんに反乱軍補助任務をやってもらえる。
戦いと資金調達を両立するのは大変だね……。
そんな事を考えながら、セファルさんの護衛でエリスを中州の拠点に送り出し。街での仕事はセファルさんの弟くんに任せて、俺達はそのまま塩を卸している商会へ向かう。
ここからが情報工作で、俺の出番だ。
シーラが戦いで頑張ってくれたので、俺も頑張らないとね。
そう決意を新たにし。馴染みの支店長と会って情報収集用のメープルシロップ100本を渡し、情報を聞く。
北部での反乱軍の情報はすでに掴んでいるようで、『討伐軍が敗退し、司令官と参謀が戦死した』という最新情報も、『未確認ですが』と言って話してくれた。
さすがの情報収集能力だ、頼りになる。
……そして情報を集められるという事は、逆に流す事も可能という事だよね。
「反乱軍とは穏やかではないですね、行商人としては道が安全に通れないのは困り物です」
まずは無難な話から入り、出されたお茶などを飲みながら少し間を置いて、思い出したように言葉を発する。
「そういえば先日、北街道沿いで休んでいたら馬が逃げ出しましてね。探していたら森に入っていく騎兵の一団を見たのですが、もしかしてあれが反乱軍だったりしたんですかね?」
「――失礼ですが、場所をお訊きしても?」
「問題ないですよ、地図ありますか?」
「どうぞ」
「ああどうも。ええとたしか……そう、ここの小さい川を北に向かった辺りでした。40騎弱くらいだったかな?」
「なるほど……」
――うん、支店長さんの目が重要な情報を扱う時の商人の目になっている。いい感じだ。
支店長さんも元ジェルファ王国の人だから、帝国に反感があって反乱軍の味方をするかなと思ったけど、この様子なら上手く情報を伝えてくれそうだ。
帝国と繋がる事で勢力を伸ばしているから、完全に帝国側なんだろうね。それでいい、それでこそ帝国の情報を深い所まで取る事ができるし、こちらから望む情報を流す事ができるようにもなる。
そのためにメープルシロップを提供して関係を深めてもらっているのだし、今回の情報も見事反乱軍の拠点特定に繋がれば、さらに信頼を増す事になるだろう。
こちらも討伐隊を仮本拠に誘導したいので、一石二鳥だ。
そんな訳でここに来た目的は達した訳だけど、せっかくなのでもう一個種を蒔いておこう。
帰り際に思い出したように、言葉を発する。
「そういえば、護衛なしで森を抜けられるほど効果の高い魔獣よけについての情報はありませんか?」
「――いえ、聞かないですね」
「そうですか。西から来たという商人が話していたのですが、眉唾ですかね? 行商人としては本当にあると助かるのですが」
「確かにそうですね。こちらでも情報を集めてみて、なにか分かったらお知らせしましょう」
「よろしくお願いします。では今回はこれで」
そう言って商会を辞し、アルパの街に戻る。
魔獣は『草原<森<山』と行くほど強くなるので、反乱軍の拠点が森と山の境界付近。どちらかと言うと山寄りにある事が発覚すれば、魔獣よけの話に真実味が出るだろう。
そして『西から来た商人が話していた』という情報が合わされば、反乱軍の背後にロムス教皇国がいるのではないかという疑いが生じるはずだ。
作戦の次の段階が帝国軍をロムス教皇国に攻め込ませる事なので、それに一役買ってくれるといいなと思う。
……そんな感じで軍師の仕事を終え、アルパの街経由で中州の拠点に戻り。エリスを街に戻して、俺達は再び仮本拠へと向かう。
仮本拠に着いた後、みんなには戦いの準備をお願いして、俺はシーラと二人でクレアさんの故郷の街へと向かう。
状況報告の再開をお願いするのと、情報収集のためだ。
……久しぶりに来たクレアさんの故郷の街は、相変わらず帝国の圧政が続いているようで荒廃したままだったけど、住民の表情は少し明るくなったような気がした。
クレアさんの弟さんに会って状況報告の再開をお願いし、話を聞いてみると、どうやら反乱軍の活躍が住民達の希望になっているらしい。
帝国の侵攻に抵抗し、結果として敗れて街を破壊され、今も懲罰的な圧政下にあるこの街の住民にとって。帝国に反旗をひるがえし、討伐軍まで打ち破った反乱軍の情報は、まさに英雄が現れたように映っているのだそうだ。
なんかプレッシャーだね……。
ちなみに、『自分達も反乱軍に加わろう』という人がかなりの数いたらしいけど、そこは事前にお願いしておいた通り、上手く押さえてくれているらしい。
今の反乱軍は一回負けちゃう予定だからね……。
そして住民の表情が明るくなっている理由はもう一つ。食糧事情がちょっと良くなっている事も大きいのだそうだ。
これは俺達が帝国の輸送隊を襲撃した後、運んでいた麦をクレアさんの実家商会が回収して、一部を街の住民に還元しているかららしい。
俺達のおかげだとお礼を言われたので、『タイミングを合わせて回収したのはそちらの働きですよ』と謙遜しつつ、『これからも協力よろしくお願いしますね』と、ちゃっかりこちらを売り込んでおいた。
そんな感じで友好を深めつつ、最重要案件である帝国軍の動向についても訊く。
現在クレアさんの実家商会が掴んでいる情報によると、
・前回より更に大規模な討伐隊を準備している
・グラファス総督自ら率いるという噂もあるが、現状未確認
・討伐隊の出動準備と平行して、反乱軍の情報収集も行われている
・元ジェルファ王国民は基本帝国が嫌いなので、情報収集は上手くいっていない
・特にこの街は反乱軍との関係が疑われているけど、反乱軍らしい兵士の動きはないし、怪しい物資を送り出している様子もないので、帝国は反乱軍の情報を掴めないでいる
――という事らしい。
そういえば街の入口で、ちょっと厳しめの検査があった。
シーラは顔を明かした都合上、念の為男装してきたのでわりとあっさり通る事ができたけど、素顔だと危なかったかな?
……て言うかシーラ、元々中性的な凛々しい顔立ちなので、男装がすっごく似合う。
この格好で社交界とかに出たら、女の人達が大騒ぎ間違いなしだ。門番の人も疑う事なく通してくれたもんね。
改めて惚れ直してしまうが、今はシーラに見惚れている場合ではないので、気を取り直す。
とりあえず情報を総合すると、帝国軍は大きな討伐軍を準備しているけど、反乱軍の情報を掴めてはいないらしい。
せっかく大きな軍を用意しても、攻める所が不明では使いようがないから困っているだろう。
前回みたいな野戦は、あまりにも戦力差があると相手が出てこない可能性が高いからね。
……という事は、塩を卸している商会経由で流した情報に食いついてくる可能性はかなり高いと思う。
俺達の戦う準備はほぼ完了しているから、このまま待たされても時間の浪費になるだけだし、そこそこの緊張感が張り詰めているので、疲れてしまう。
準備が整ったら、戦いは早い方がありがたいのだ。
そんな訳で、クレアさんの弟さんには近々帝国軍が俺達の仮本拠の場所を突き止めて攻めて来るだろうから、動向報告のお願いと、最終的には一旦負ける予定なので、動揺しないようにと再確認しておく。
一応基本的な計画は共有してあるけど、念のためだ。
そうしてクレアさんの弟さんとの打ち合わせを終えた俺は、仮本拠へと戻る。
俺の仕事は大体これで全部なので、後は戦闘要員の方々に引き継ぎだ。
その戦闘要員の代表格であるシーラに抱えられるようにしてシルハくんに二人乗りしながら、俺達は仮本拠への道を走るのだった……。
帝国暦167年9月1日
現時点での帝国に対する影響度……0.1121%(±0)
資産
・7284万ダルナ(+4974万)
・エリスに預けた冒険者養成所運営資金 2754万ダルナ(+2370万)@月末清算(現在7月分まで)
・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)
・エルフの傷薬×1637
配下
シーラ(部下・反乱軍部隊長・C級冒険者 月給50万)
メルツ(部下・反乱軍拠点訓練担当・E級冒険者 月給35万・内15万を上級傷薬代として返済中)
メーア(部下・反乱軍拠点メンタル担当・E級冒険者 月給35万・内15万を上級傷薬代として返済中)
エリス(協力者・反乱軍拠点運営担当 月給10万と月30万を宿借り上げ代として支払い)
ティアナ(エリスの協力者 月給なし)
クレア(部下・中州の拠点管理担当 月給29万 内24万は帝国暦169年5月分まで前借り中)
オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の運営担当 月給12万)
元孤児の冒険者 一期生二期生合計40人(部下・部隊指揮官候補として教育中 月給3万)
三期生63人(月給3万)
セファル(部下・拠点間輸送担当・C級冒険者 月給30万)(弟も冒険者養成所会計補佐として雇用 月給10万)
ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)
船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証 帝国暦167年5月分まで10万ダルナ分前払い)
怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)
キサ(協力者・遊牧民傭兵 月給48万 帝国暦168年4月まで給料前払い)




