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145 一騎討ち

 街道の北に広がる草原。そこで俺達反乱軍と、ドイド将軍率いる帝国の討伐軍とが対峙たいじする。


 討伐軍の陣形がおおむね完成し、いよいよ動き出そうかという瞬間。シーラが馬をって前に進み出ると、大声を張り上げる。


悪辣あくらつなる帝国の侵略者達よ! 私は反乱軍の部隊長、サラである! 貴様らの隊長との一騎討ちを所望しょもうする!」


 俺が教えた元の世界式の腹式呼吸発声練習を熱心にやっていたので、よく通るいい声だ。


 騒々しい戦場で部下に指示を出すために鍛えてたんだろうけど、意外な所で役に立ったね。


 帝国兵達も、うるわしいお姫様のような美少女が出てきた事に。そしてその美少女が反乱軍の部隊長を名乗り、男勝りの勇ましい声で一騎討ちを申し込んできた事に相当驚いているようだ。


 ちなみにサラと言うのはシーラの偽名だ。さすがに本名を明かすと身元が特定されてしまう危険があるからね。


 本当は顔も見せたくなかったけど、仮面をつけたり布で顔を覆ったりは視界をせばめる事になるので、命をかけた一騎討ちをやるに当たって負うべきリスクではない。なので隠さない事になった。


 シーラは一目見たら印象に残るレベルの美少女だけど、写真とかないこの世界で早々特定される事はないと思う。一応死んだ事になってるしね。


 そんな訳で顔は隠さない事になったのだが、反乱軍の部隊長が若い女だというのは意外と衝撃らしく、敵陣がざわついているのが伝わってくる。


 敵の各隊指揮官が戸惑って、指示を仰ぐように後方の本陣に視線を送っている間に、シーラは続けて声を発する。


「どうした、帝国の将軍は女と武器を交える事もできない臆病者か! そんな様子では、武勇で名を馳せたとかいう総督も評判倒れの腰抜けなのではないか? さっさと帝国に逃げ帰って、母親のスカートの中にでも隠れているのがお似合いだぞ!」


 ――本来シーラはこんな風に相手を煽るタイプではなく、むしろ敵であっても敬意を払おうとするタイプなのだが、今回は俺が書いた台本を読んでもらっている。


 ちょっと考えればあからさまな挑発だと分かるだろうだけど、勇猛さを誇りにしている将軍が臆病者だと馬鹿にされ、尊敬している上官を悪く言われたら、黙っていられないと思う。


 むしろこれで冷静でいるようなら、ドイド将軍の評価と戦い方を改めないといけなくなる。


 さてどうなるか……と望遠鏡で見守っていると、敵陣の中央後方。多分本陣であろう場所から怒声が聞こえてきて、止めようとしたのだろう騎兵が一人、馬から叩き落されるのが見えた。


 副官なのか参謀なのか、短気な上司を持つと大変だなと元の世界のサラリーマン生活を思い出してしまうが、そんな所に意識を飛ばしている場合ではなく。なにやら派手な鎧を着た大男が一騎、すごい勢いでこちらに向かってくる。


 ……多分あれがドイド将軍なんだろうけど、俺のイメージでは一騎討ちって少し離れて向かい合い。名前を名乗ったりしてから戦いに入るものなんだけど、ドイド将軍はよほど頭に血が上っているのか。少しも勢いを緩めないまま、『小娘こむすめがあぁぁぁぁ!』と叫んで、すごい勢いで突っ込んでくる。


 その形相ぎょうそうはまるで鬼のようで、目が血走っていてすごい迫力だ。


 望遠鏡で覗いている俺が思わず後退あとずさりしてしまいそうになるが、シーラは冷静そのもの。シーラを乗せているシルハくんも全くひるんだ様子はない。


 こちらが少し高い位置にいるので、駆け上がってくる形になるドイド将軍は少し勢いを殺されているだろう。


 だけどそんな影響を全く感じさせない勢いで、手にした槍と斧が合体したようなイカツイ武器を振りかざし、なにを言っているのか分からない奇声を上げながら突っ込んでくる姿は、ほぼモンスターだ。


 ――全員が息を飲んで見守る中、シーラはその場を動く事なく将軍を迎え撃ち、突撃の勢いが乗った強力な一撃を愛用の槍で受け止めた……いや違う、受け流した。


 シーラは強いけど、体格や力ではドイド将軍相手に勝ち目はない。だから攻撃を真っ向から受け止める事はせず、斜めに槍を当てる事で力の向きをずらしたのだ。


 ドイド将軍が振り下ろした武器の斧部分は、真っ直ぐシーラの頭に向かっていたのが向きを変えられ、シーラの体とシルハくんをかすめるように、盛大に空を切った。


 勢いそのままにシーラの横を走り抜けた将軍は、馬を返すとまたシーラに向かってくる。


 今度はシーラも馬を走らせ、すれ違いざまに双方の武器がぶつかり、鋭い金属音と火花が散るのが見える。


 ……シーラは退く様子を見せないので、とりあえず勝てないという判断はしなかったらしい。


 だけどたやすく勝てる相手でもないようで、何度も馬を返しては武器をぶつけ合い。時に並走し、時に追う形追われる形になっての戦いが続く。


 一撃でもまともに受けたら、シーラの体はもちろんシルハくんごと真っ二つにされてしまいそうな、強力な攻撃。


 だけどシーラはそれを巧みにかわし、反撃を続ける。


 一瞬馬から滑り落ちたのかと思ったほど体を倒し、横薙ぎの攻撃を避けたかと思うと、次の瞬間には態勢を立て直して槍を突き出す。


 将軍の荒々しさと、シーラの舞踏のような。時に曲芸に近い動きさえ見せる戦いの対比は一種芸術のようで、舞台を見ているような感覚にさせられる。


 双方の兵士達も誰一人言葉を発する事なく。ただ食い入るように、ある種魅了されるように二人の闘いに目を奪われていた……。



 戦いが始まってかなりの時間が経った頃。それまで互角に見えた戦いに変化が見えてきた。


 シーラの方は今までと変わらないが、将軍の方は息が上がり。攻撃は大振りになっているし、手数も減ってきている感じがする。


 何回かシーラの攻撃が体をかすめ、血も流れている。


 それでも一撃当たればそれで決着がつく威力の攻撃を繰り出してくるので、油断はできないが、戦いはシーラ有利に傾いてきていると思う。


 ……なので俺は視線をずらし、敵陣へと注意を向ける。


 戦いが不利と見て、妨害してくるやからがいないか見張るためだ。


 将軍はプライドが高いらしいからそんな事は許さないだろうけど、部下が勝手にやる事は十分ありえる。


 特に副官や参謀辺りは要注意だ。危険があったら笛を吹いて知らせる算段になっている。


 ……警戒8の観戦2くらいで注意を払っていると、誰も動く者がいない敵陣の中で、身を潜めるように前方へと移動する人影が見えた。


 いい鎧を着ているから、多分上位の幹部だろう。そして手には弓……。


 男は隊列の前方まで来ると、弓に矢をつがえて戦う二人に向かって狙いをつける――。


 次の瞬間、俺は全力で笛を吹いた。


 耳を貫くような甲高い音が辺りに響き、シーラは弾かれたように将軍から距離を取ると、視線を巡らせる。



 ほとんど同時に、シーラに向けて矢が放たれた……。




帝国暦167年8月15日


現時点での帝国に対する影響度……0.0121%(±0)※西方新領北部の反乱軍に討伐部隊を派遣


資産

・5336万ダルナ

・エリスに預けた冒険者養成所運営資金 1384万ダルナ@月末清算(現在5月分まで)


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×1637


配下

シーラ(部下・反乱軍部隊長・C級冒険者 月給50万)

メルツ(部下・反乱軍拠点訓練担当・E級冒険者 月給35万・内15万を上級傷薬代として返済中)

メーア(部下・反乱軍拠点メンタル担当・E級冒険者 月給35万・内15万を上級傷薬代として返済中)

エリス(協力者・反乱軍拠点運営担当 月給10万と月30万を宿借り上げ代として支払い)

ティアナ(エリスの協力者 月給なし)

クレア(部下・中州の拠点管理担当 月給29万 内24万は帝国暦169年5月分まで前借り中)

オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の運営担当 月給12万)

元孤児の冒険者 一期生二期生合計40人(部下・部隊指揮官候補として教育中 月給3万)

三期生63人(月給3万)

セファル(部下・拠点間輸送担当・C級冒険者 月給30万)(弟も冒険者養成所会計補佐として雇用 月給10万)

ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)

船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証 帝国暦167年5月分まで10万ダルナ分前払い)

怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)

キサ(協力者・遊牧民傭兵 月給48万 帝国暦168年4月まで給料前払い)

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