144 猛将の対処法
討伐軍への対応について。俺は武器の手入れをしているシーラの所に相談に行く。
「シーラ、ちょっと時間いい?」
「はい、なんでしょうか?」
「今こっちに向かっている討伐軍についてなんだけど、敵将と一騎討ちするってなったらどう思う?」
――俺の言葉に、シーラは愛用の槍を磨いていた手を止め。ギラリと視線を鋭くする。
「相手の強さが分からないので確実に勝てるとは言えませんが、やってみたいです」
「相手についての情報はシーラも読んだと思うけど、商会からもらった資料しかない。実際に本人を見たら強さって分かるもの?」
「相対してみれば八割方は分かりますし、一合打ち合えば九割方は分かります。
さすがに持久力などは分かりませんが」
おお、それはすごい。達人の領域というやつだろうか?
「じゃあもし、相対したり一つ打ち合って勝てないと思ったら、逃げる事は可能?」
「それは……よほどの実力差がなければ、恥も外聞も捨て去れば可能ではあります。最後まで逃げ切れるかは状況によりますが」
「なるほど……恥も外聞も捨てられる?」
「必要とあれば」
「……本当に?」
「はい。以前の私であればそんな不名誉な事はできないと言ったでしょうが、アルサル様に教えを受けて考えが変わりました。最後の目的を果たすまでは何度負けようと、無様に地を這い、泥水を啜ってでも生きる覚悟です」
おお……頼もしいね。
「じゃあ対峙したら一騎討ちを申し込む方向でいこう。情報を見る限り敵将は武闘派だから、『臆病者』とでも煽れば乗ってきそうだし、仮に乗ってこなくてもこちらに損はない。その時は迅速に仮本拠まで退いて、篭城戦しよう」
「はい」
シーラの目が鋭い……やる気満々だね。
「勝てないと思ったら退く事だけは忘れないでね。先は長いのにこんな所でシーラを失う訳にはいかないし、俺達は現状反乱軍なので、逃げたとか評判が広まっても別に問題ないから」
「承知しております」
「うん」
そんな感じで話をまとめ。逃げる事になった場合と、勝った場合の想定を話し合う。
勝った場合は、それで相手が退けば問題なし。
将軍の仇討ちとばかりに向かってきたら、負けた場合と同じく仮本拠まで退く。真正面からの野戦はやらない方向だ。
そう作戦を定めて兵士のみんなとも共有し、後は敵がやって来るまでの数日間、森の中に罠を作って過ごす。
罠は色々検討した結果、昔映画で観た丸太を高い木の枝から吊り下げて、それを振り子の原理で突入させる奴にした。
落とし穴とかはメインの移動経路になる川沿いを俺達も使う都合上、設置しにくいからね。
丸太振り子は手動で繋いであるロープを切れば発動だから、味方が間違って引っかかる可能性が低いし、進路が狭い小川沿いなので狙って仕掛けやすい。
丸太に尖らせた枝を無数に取り付けておけば殺傷力も増すし、見た目のインパクトもある。
罠を警戒して小川を離れ、森に入ってきたら、それはそれでティアナさん直伝の弓の餌食だ。
三人一組で身軽に行動して、数本射掛けてすぐに逃げるを繰り返し、敵を消耗させる作戦だ。そのための訓練もしてきたし、矢の予備も沢山作った。
あとは最後の大物として、小川を堰き止めたダムを作っておいて、一気に流すやつも準備しておく。
海狸族のダム作りを見たのが参考になった。世の中どこで知識が生きるか分からないね。
そんな感じで罠の準備を進め、試しに発動させてみて高さを調整したりと改良を加えながら、戦いの時を待つ。
――そしてクレアさんの実家商会から『討伐隊が最寄の街を出発した』という情報を受け取り、俺達も仮本拠を出発する。
戦いの場所は、いざという時に逃げやすい仮本拠真南の小川沿いか、もうしばらく仮本拠の場所を秘匿するために違う場所か迷ったけど、シーラの一騎討ちの成功率が結構高い気がしているので、違う場所を選定した。
敵は輸送隊を伴ってゆっくりと街道を東に進んでいるので、こちらの好きな場所とタイミングで攻撃を仕掛ける事ができる。
情報を多く持っているこちらの有利な点だ。
その利点を活かさない手はないので、北側が少し高くなっていて、こちらから相手がよく見渡せる場所を選定した。
今回はここにあらかじめ陣取っておいて、敵に見つけてもらう。
いくら奇襲に近い攻撃ができるからと言って、37人で200人の隊列に突っ込むのはあまりに無謀だからね。
そんな訳で一足速く布陣を終えて、旗も掲げておく。
街道を行く商人が俺達に気付いたけど、帝国軍しか襲わないという情報が広まっているおかげか、慌てて逃げる人はいなかったし、むしろ好意的に手を振ってくれる人さえいた。
計画が上手くいっているようでなによりである。
さすがにこちらに来ようとした人は警告して帰ってもらったけどね。
帝国の手先である可能性もあるし、違うなら違うで、俺達と親しくしている所を見られるのはまずい。
もうすぐここは戦場になるのだ。
――そうして待つことしばらく。大きな隊列が見えたなと思ったら、向こうもこちらに気付いたのだろう。隊列を解いて陣形を作り始めた。
本来なら攻撃のチャンスなんだろうけど、今回はじっと見守る。……他と比較した事がないから分からないけど、結構展開速いと思う。
警戒していたけど、待ち構えている相手に不利な体勢からいきなり突撃してきたりはしないようだ。ドイド将軍、部隊指揮官としては優秀なのだろう。
もっともこの場合は、いきなり突撃が一番困る対応だったんだけどね……。
包囲されないように気をつけてこちらも横に広がり、正対する感じで陣を構えつつ。敵の展開が終わって次の行動に移ろうとする直前。シーラが単騎で前に出る。
さて将軍、どう出るだろうか……。
帝国暦167年8月15日
現時点での帝国に対する影響度……0.0121%(±0)※西方新領北部の反乱軍に討伐部隊を派遣
資産
・5336万ダルナ
・エリスに預けた冒険者養成所運営資金 1384万ダルナ@月末清算(現在5月分まで)
・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)
・エルフの傷薬×1637
配下
シーラ(部下・反乱軍部隊長・C級冒険者 月給50万)
メルツ(部下・反乱軍拠点訓練担当・E級冒険者 月給35万・内15万を上級傷薬代として返済中)
メーア(部下・反乱軍拠点メンタル担当・E級冒険者 月給35万・内15万を上級傷薬代として返済中)
エリス(協力者・反乱軍拠点運営担当 月給10万と月30万を宿借り上げ代として支払い)
ティアナ(エリスの協力者 月給なし)
クレア(部下・中州の拠点管理担当 月給29万 内24万は帝国暦169年5月分まで前借り中)
オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の運営担当 月給12万)
元孤児の冒険者 一期生二期生合計40人(部下・部隊指揮官候補として教育中 月給3万)
三期生63人(月給3万)
セファル(部下・拠点間輸送担当・C級冒険者 月給30万)(弟も冒険者養成所会計補佐として雇用 月給10万)
ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)
船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証 帝国暦167年5月分まで10万ダルナ分前払い)
怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)
キサ(協力者・遊牧民傭兵 月給48万 帝国暦168年4月まで給料前払い)




