142 舐めプレイ?
翌日、俺とシーラは草原に潜んで輸送隊が来るのを待つ。
辺りには腰の高さくらいの草が生えているので身を隠すにはもってこいだし、頭には草を束ねた帽子みたいなのを被っているので、遠目にはまず気付かれないはずだ。
視力がいいシーラとキサのお墨付きである。
ティアナさんだけは『シーラちゃんの黒髪が目立つからバレちゃうんじゃない?』と言っていたが、これはエルフの視力が文字通り人間離れしているからなので例外とし、髪を切ろうとするシーラを全力で押し留めた。
『武人に長い髪などそもそも必要ありません』と言われて一瞬納得しかけたけど、『戦うだけじゃなくて交渉の場に出る事もあるから、その時印象がいい方が話をしやすくなるからさ』と無理やりそれっぽい理屈を付けて、なんとか思い留まってもらった。
せっかく綺麗な髪なのに、切っちゃうのはあまりにもったいないもんね。
……そんなやり取りを思い出していたら、もう一つ大事な事を思い出した。
「そうだ。シーラ、初戦も終わって正式に部隊長になった訳だから、今月から役職手当て出す事にするね。月に50万ダルナでいいかな?」
「……いくらでも構いませんし、部隊に寄付します」
おおう……シーラはホントに宰相を討つ事以外に関心がないよね。
「今の所資金には困ってないから、シーラが使ってよ」
「――分かりました。不肖私なりに考えて、部隊の役に立つよう使わせて頂きます」
「う、うん……」
『シーラが使ってよ』の意味がちゃんと伝わっていない気もするが、貰った給料をどう使うかは本人の自由でもあるので、これ以上の無理強いはしない事にする。
装備の整備や部隊員の士気向上に使われて、結果として戦力が充実してシーラが満足するなら、それはそれでいい事だからね。
微妙な気持ちを抱えつつ街道の見張りを続けていると、まだ日が高くなる前に、荷馬車10頭の隊列が見えてきた。情報通りである。
望遠鏡を使って観察してみると、護衛兵は10人で、先頭に馬に乗った指揮官が一人。……一昨日と全く同じ編成だ。
指揮官の後ろを歩く兵士が帝国の旗を掲げていて、他の護衛兵は前に四人、後ろに五人で荷馬車を挟むように配置されている。
特別戦力が強化されているようには見えないし、俺達の前を通り過ぎるのを見送ってしばらく待ち。後に付いているクレアさんの実家商会の隊商も見送って更にしばらく待ったが、別働隊が同行している様子もない。
俺が見落としているのかと思ってシーラにも確認してみたが、やはり警備が強化されている様子は見えず。護衛の兵士達に緊張している様子は見られたが、特別な精鋭揃いという感じもしなかったそうだ。
これは……もしかして無策? 舐められてる?
それならそうでこっちにも考えがあるので、仮本拠に戻ってその日のうちに前進拠点に進出し。一泊して翌日には戦闘準備を整えて街道に向かう。
前回よりは東寄りの地点で輸送隊を待ち伏せ、一気に襲いかかった……。
――戦いは前回同様一方的な展開に終わり、帝国兵一人を討ち取って護衛兵と御者は四散。奪った麦をクレアさんの実家商会の人に引き渡して、馬は俺達が回収と、危な気なく進んだ。
一応今回も検討会を開催したが、出た結論は敵がこちらを舐めている。特に指導者層が無策に過ぎるというものだった。
塩を卸している商会からの情報によると、西方新領の統治形態は、旧王都にいる総督であるグラファス将軍が絶対権力者で、軍の主力も手元に置いている。
各街には代官と言うか管理担当者みたいな人を派遣していて、旧ジェルファ王国兵を再雇用した警備隊がいるけど、数は王国時代よりもかなり少ない。
街は周辺の村を管轄していて、村の規模や場所によっては管理担当者と少数の警備兵がいるけど、基本放置で税金だけ取りに行く場所も多いそうだ。
酷い話な気もするけど、変な管理担当が来るよりマシと言われていた辺り、帝国の嫌われ具合がよく分かる。
……まぁ相手は帝国に限らず、変な役人ならいない方がいいというのは村人の本音なんだろうけどね。
俺が皇帝に復帰する時が来たら代官の人選には気をつけようと心に誓いつつ、差し当たり現状への対応に考えを戻す。
商会からの情報によると各街の戦力は多くないので、護衛を増やしたり討伐隊の編成が難しいのは分からなくもない。
だけどそれならそれで、しばらく輸送隊の出発を見合わせるとか、幾つかの街合同で大きな輸送隊を編成するとかの対応は取れるはずなので、それをやっていないのはやはり怠慢で舐めプレイだと言わざるを得ない。
想像するに各街の管理担当者は上からの命令を忠実に実行するだけで、横の連絡とかは取っていないのだろう。
完全な上意下達方式で、総督が軍人である事を考えるといかにもな感じがするけど、柔軟性には欠けるよね。
そしてこちらの対応としては、とりあえず今の状況が続く限りはこちらもそのまま。派遣されてくる輸送隊を順次撃破する方針でいく。
その内なにかしらの手を打ってくる可能性もあるから、油断せずにそれに備える事にして。『油断しない』の部分を強調してみんなに伝えた。
今まで得ている情報によると、西方新領の総督であるグラファス将軍は武力偏重のきらいはあるけど、戦いに関しては無能ではないはずだ。
むしろ攻撃的で、反乱軍なんて聞いたら積極的に討伐隊を出してくる印象である。
距離的に考えて、反乱軍の情報はまだ旧王都に届いていないはずなので、その報告が届いて総督が動き出してからが本当の勝負になるのかもしれない。
それに備えてこちらも心構えを整えつつ、警戒も怠らないようにする。
普通に考えれば、旧王都から討伐軍が出発してここへ向かうなら、途中でクレアさんの故郷の街を通るはずだ。
それならクレアさんの実家商会から連絡が来るはずで、歩兵を含んだ大軍なら動きが遅いので余裕を持って。騎兵だけの少数精鋭でも、少しは速く連絡が来ると思う。
なにかの事情で迂回ルートを通って来たらいきなり出くわす事になるけど、その時は一旦退却して体勢を立て直す事にする。
そう方針を定めて、俺達は翌日からも街道を見張り。輸送隊を襲撃しながら敵の反応を見るのだった……。
帝国暦167年7月20日
現時点での帝国に対する影響度……0.0101%(西方新領で反乱軍を名乗る勢力に輸送隊が襲われた)
資産
・5336万ダルナ
・エリスに預けた冒険者養成所運営資金 1384万ダルナ@月末清算(現在5月分まで)
・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)
・エルフの傷薬×1637
配下
シーラ(部下・反乱軍部隊長・C級冒険者 月給50万)
メルツ(部下・反乱軍拠点訓練担当・E級冒険者 月給35万・内15万を上級傷薬代として返済中)
メーア(部下・反乱軍拠点メンタル担当・E級冒険者 月給35万・内15万を上級傷薬代として返済中)
エリス(協力者・反乱軍拠点運営担当 月給10万と月30万を宿借り上げ代として支払い)
ティアナ(エリスの協力者 月給なし)
クレア(部下・中州の拠点管理担当 月給29万 内24万は帝国暦169年5月分まで前借り中)
オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の運営担当 月給12万)
元孤児の冒険者 一期生二期生合計40人(部下・部隊指揮官候補として教育中 月給3万)
三期生63人(月給3万)
セファル(部下・拠点間輸送担当・C級冒険者 月給30万)(弟も冒険者養成所会計補佐として雇用 月給10万)
ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)
船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証 帝国暦167年5月分まで10万ダルナ分前払い)
怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)
キサ(協力者・遊牧民傭兵 月給48万 帝国暦168年4月まで給料前払い)




