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140 気持ちの切り替え

 反乱軍の初戦は、シーラが一瞬のうちに敵隊長の首を飛ばし。それを見た敵が逃げ散った事でこちらの完全勝利になった。


 兵士のみんなは武器を振る事すらなかったので物足りないかもしれないけど、初戦はこのくらいで良かったと思う。


 初戦から激しく打ち合う乱戦になるとか先が思いやられるし、兵士のみんなにも少しずつ戦場に慣れていって欲しい。


 シーラもその辺分かっているので、一撃で指揮官の首を飛ばして一瞬で決着をつけたのだと思う。



 ……護衛兵達が逃げ散るのを見届けて、俺とキサと医療班の子は戦闘現場へと向かう。


 ティアナさんはあまり森から離れたくないそうなので、ここで待機してもらう事になった。


 戦闘が終わった現場の雰囲気はやはりみんなちょっと興奮状態にあるようで、ピリピリした感じだけど……シーラだけはちょっと様子が違う感じがする。なにかあったのだろうか?


「シーラ、お疲れ様」


 とりあえずそう声をかけると、シーラはハッとしたようにこちらを見て、少し弱々しい声で『はい』と答えた。


 その様子に違和感を強くしながら、さっきまでシーラが見つめていた視線の先に目を移すと。そこには地面に倒れ、逃げる護衛兵や御者ぎょしゃ達に踏みつけられた帝国の旗があった。


 ああなるほど……これは帝国軍人の家に生まれ育ったシーラにとって、色々思う所があるだろうね。


 幼い頃からこの旗の下で戦うのだと教えられ、そんな自分を夢に描いて育ってきたのだろう。


 シーラの父親は忠実な帝国軍人だったと聞いているし、そんな父親に育てられた幼いシーラ自身にとっても、この旗は誇りだったに違いない。


 ……だけど今は、敵の旗になってしまった。やいばを向けて戦わなければいけないし、地面に落ちて踏みつけられているのを見ても、拾い上げてよごれをはらう事も許されないのだ。


 かつて忠誠を捧げた旗だけに、心中複雑だろうね……。


「シーラ、気持ちは分かるつもりだけど、今の俺達は帝国と戦う立場だ。いつか帝国領に、帝国の街に、帝都に攻め込む日も来るかもしれない。

 その時に迷いが生じないように、今から少しずつでも気持ちを切り替えておいて」


「――はい」


 正直、さっきからなるべく指揮官の遺体を見ないようにしている俺の方こそ戦場モードに切り替えないといけないのだが、ここは自分の事を棚に上げてでもシーラをさとすのが参謀としての仕事だと思う。


 俺の言葉にさっきより強い『はい』を返して、シーラは顔を上げると兵士達に指示を飛ばす。


 戦闘は終わったけど、戦いはこれで終わりではなく、事後処理もあるのだ。


 指揮官の帝国兵が乗っていた馬は主が討たれてどこかに逃げ去ってしまったけど、荷馬車に繋がれた馬達はまだこの場に残っている。


 動揺している馬達をキサになだめてもらい、荷馬車から外す。


 そして兵士達はシーラの指示で、四周に散っていった。


 計画では輸送隊の少し後ろをクレアさんの実家商会の人達が付いてきているはずなので、その馬車に麦を積み替えるんだけど、その現場を見られたら困るからね。


 ここは主要な街道なので、帝国の輸送隊以外にも行き交う人はそこそこいる。


 近くにいた人達は襲撃を見て逃げ、逃げて来る人達からの情報で前後の人達も逃げるか、進むのをやめているはずだ。


 だけどもし構わずに進んで来る人がいたり、逃げた敵が様子をうかがおうと戻ってきたり、今回は大丈夫だろうけど二回目以降は敵の逆襲部隊がいて攻撃してくる可能性もある。


 なので荷物を積み替えている所を見られないように、それらに対する警戒が必要なのだ。


 兵士のみんなに警戒に当たってもらいつつ。俺はシーラと街道を西に向かい、望遠鏡を覗くと、こちらに向かって急ぐ荷馬車10台ほどの隊列が見えた。


 先頭の荷馬車に乗っている人は、頭に青色の布を巻いている。クレアさんと決めた、仲間である事の合図だ。


 ――馬車は身軽な空荷からにだし、護衛の人も騎乗なので結構な速さで走ってきて、俺とは軽く視線を交わしただけですぐに荷馬車に横付けすると、迅速に荷物の積み替えにかかる。


 これはあらかじめ打ち合わせてあった通りで、とにかく速さ重視なので一々挨拶あいさつとかしている時間はない。なにか連絡事項があれば別だけど、なにもないのは順調な印という事で、作業最優先だ。


 本当は人だけ連れてきて荷馬車ごと乗っ取れると楽だったんだけど、クレアさんによると馬車には一台ずつ個性みたいなのがあって、特に使い込まれた物は見る人が見たら『あの馬車この前襲われた奴だ』とバレてしまいかねないので、荷物だけ奪い取るのが安全なのだそうだ。


 荷馬車は事前にキサが馬をなだめ、道の端に寄せてあるので、ピッタリ横付けしての積み替え作業はかなり早い。


 一袋が重い麦袋だけに大変そうだけど、そこはクレーンもフォークリフトもないこの世界で普段からやり慣れている人達だからだろう。護衛の人も加わって二人一組で流れるように麦袋が積み替えられていく。



 ……時間にして、襲撃開始から30分ちょっとだろうか? 荷物の積み替えを終えた商会の人達は荷台にカバーをかけ、なにくわぬ顔で東へと去って行った。


 書類上は出発した時から麦を積んでいる事になっているらしいので、この先は任せて安心だと思う。


 俺達の方はキサが荷馬車の馬10頭をまとめて手綱たづなで繋ぎ、ティアナさんの所まで戻って、その先はティアナさんの護衛で前進拠点まで運んでくれる。


 これで現場に残るのは指揮官の遺体と空になった荷馬車だけで、襲撃者は自分達の馬と奪った馬に麦袋を積み込んで、どこかに消えたという設定だ。


 ちなみに空になった荷馬車は焼き払う案も出たけど、そのままにしておく事にした。


 クレアさん経由の情報によると、この荷馬車は元々民間の物をタダ同然の値段で借り上げたものだそうで、焼いてもダメージを受けるのは帝国の占領軍ではなく、元の持ち主なのだ。


 占領軍が荷馬車の代金を弁償するなんて思えないしね。


 それにこの世界で荷馬車は貴重で重要なものなので、数が減ったら住民の生活に支障が出るという問題もある。


 それは本意ではないし、荷馬車不足で麦の輸送がとどこおったら俺達の襲撃機会も減る訳で、それはそれでよろしくない。


 このまま放置しておけば馬を連れて回収に来るだろうし。盗まれてしまったら、それはまぁその時だ。


 本来の持ち主には申し訳ないけど、消える訳ではないのでこの辺りの輸送能力が減る事はないだろう。



 ――そんな訳で、襲撃現場には空になった荷馬車と指揮官だった帝国兵の遺体を残し。俺は首から下げていた撤退の合図を伝える笛を吹いて、戻ってきた兵士達と前進拠点に引き上げる。


 ……ちなみにこの笛。『任務終了で撤収』と『危険が迫っているので全力で退却』とで吹き方が違うんだけど、俺が間違えたせいでちょっとした騒ぎになってしまった。


 前進拠点に戻ってから『圧勝で緊張感が緩まないための訓練だった』と言って誤魔化したけど、シーラにはバレていたと思う。


 シーラの方も、帝国の旗を見てちょっとほうけていたのを申し訳なく思っていたようで、お互いちょっと気まずい感じでその事には触れず。とりあえず初戦の勝利に安堵して、前進拠点を経由して仮本拠へと戻る。



 初戦はとりあえず、全体としてはおおむね満点に近い出来だったという事でいいと思う……。




帝国暦167年7月16日


現時点での帝国に対する影響度……0.0101%(西方新領で反乱軍を名乗る勢力に輸送隊が襲われた)


資産

・5336万ダルナ

・エリスに預けた冒険者養成所運営資金 1384万ダルナ@月末清算(現在5月分まで)


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×1637


配下

シーラ(部下・C級冒険者 月給なし)

メルツ(部下・反乱軍拠点訓練担当・E級冒険者 月給35万・内15万を上級傷薬代として返済中)

メーア(部下・反乱軍拠点メンタル担当・E級冒険者 月給35万・内15万を上級傷薬代として返済中)

エリス(協力者・反乱軍拠点運営担当 月給10万と月30万を宿借り上げ代として支払い)

ティアナ(エリスの協力者 月給なし)

クレア(部下・中州の拠点管理担当 月給29万 内24万は帝国暦169年5月分まで前借り中)

オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の運営担当 月給12万)

元孤児の冒険者 一期生二期生合計40人(部下・部隊指揮官候補として教育中 月給3万)

三期生63人(月給3万)

セファル(部下・拠点間輸送担当・C級冒険者 月給30万)(弟も冒険者養成所会計補佐として雇用 月給10万)

ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)

船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証 帝国暦167年5月分まで10万ダルナ分前払い)

怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)

キサ(協力者・遊牧民傭兵 月給48万 帝国暦168年4月まで給料前払い)

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