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14 初めての街

 変装して門番を出し抜こう作戦は、結論から言うとあっさり成功した。


 やはり手配は回っていたらしく、『若い女』に該当するシーラが一瞬止められたけど、今は見た目上『女の子供』である俺との姉妹旅だと説明すると、あっさりと通過を許された。


 探している、『男の子供か若い女、もしくはその二人組』に該当しなくなったからだろう。


 門を通過した俺達は無事街に入る事ができ、早速旅の装備の調達にかか……ろうとしたのだが、まずは銅貨15枚だけになってしまった所持金の補充が先だ。


 幸い資金源はあるので、街をざっと見て回って、一番大きな商店に入る。


 犬のぬいぐるみにビッシリと縫い付けられた宝石が、ついに本領を発揮する時がやってきた。


 ……とは言えいきなり全解放するのも危ないので、色々な宝石がついている中からとりあえずルビーっぽい赤い石を一粒外して店員に見せると、奥に案内されて交渉がはじまった。


 まずはわりと入念な鑑定の後、ハンカチの時もあった盗品じゃないかの確認。もしくは難癖なんくせ付け。


 そしてそれが終わると、10万ダルナという値段を提示された。


 ダルナというのはこの国の通貨単位らしく、例によってどのくらいの価値か分からないけど、とりあえず子供だと思ってナメられている空気を感じたので、強気で押す事にした。まさか王宮にあった宝石が偽物って事もないだろうしね。


『そんな値段ではとても手放せない』『目が曇っているのではないか?』『他所の店に持って行ってここで10万だと言われたと話して再鑑定してもらう』とか言ってみた所、最終的に200万ダルナになった。


 20倍とか、最初の値段ぼったくり過ぎだと思う。


 これでも相場的にどうか分からないが、『実はもう一粒あるのだが』と言って同じような石を見せたら即座に同じ値段で買い取ってくれたので、向こうにとってかなり美味しい取引だったのだろう。


 ……まぁ、今は急ぎでお金が必要なので仕方がない。


 400万ダルナという事で金貨4枚を渡されたが、1枚を崩してくれと言った所、金貨3枚と半金貨1枚、銀貨49枚と半銀貨1枚に、銅貨50枚になった。


 どうやら金貨が100万ダルナの価値で、銀貨が1万、銅貨が100ダルナらしい。


 壁外市で売ったハンカチは銀貨1枚と銅貨30枚だったので、1万3000ダルナという事になる。


 銅貨銀貨金貨と100枚刻みで、それぞれのコインを半分に割った物が半分の価値として使われているようだけど、8000ダルナとかめんどくさそうだね。


 間を埋める1000や10万ダルナコインもあればいいのに、この国の王はなにをしていたのだろうか……って、俺か。


 そんな皇帝ジョークが浮かぶくらいには余裕が出てきたので、やはり懐が暖かくなると心にもゆとりが生まれるのだろう。


 とりあえず金貨1枚をシーラに持っていてもらい、残りを使って旅の装備を整える。


 街には店や屋台が沢山あったが、街の中でも字が読める人は多くないのか。文字はほとんどなくて看板には絵が描いてある。


 食堂ならお皿、酒場はビン、武器屋は剣で、宿屋はベッドといった具合だ。


 一般のお店ではダルナという単位もほとんど使われておらず、基本値札もない。パンが1個で銅貨1枚とか、串焼きが銅貨3枚とか店員が叫んで売っていて、それ以外は直接訊くしかない感じだ。


 計算をするにも、桁が少ない方がやりやすいからだろうか?


 ちなみにパンと串焼きを買って食べたが、串焼きの肉はゴムのように硬いし、パンは砂が混じっているらしく、ジャリジャリした食感だった。


 改めて、後宮ハーレムで食べていた料理は上等なものだったんだなと痛感させられる……シーラもちょっと微妙な顔をしていたけど、貴族のお嬢様だもんね。


 そんな風に街の空気を感じながら、お店を回って必要なものを買い揃えていく。


 旅の装備はシーラが詳しかったので、品の選定は任せてまずは服と靴、予備の下着。大きな背負い袋と小さなカバン。天幕を2枚と毛布。ナイフと火打石に調味料。水筒代わりの皮袋に、その他の雑品と薬。剣と弓矢も買った。


 シーラはそれらをコンパクトにまとめ、一人で持ち歩けるようにしてしまう。実に手際がよく、とても頼りになる。


 なんでも軍人にとって行軍の訓練はとても重要で、基本でもあるらしい。


 俺は値段交渉くらいしか役に立たなくて肩身が狭いが、せめて荷物持ちをと思ったら、シーラに遠慮されてしまった。


 皇帝ではなくなっても、俺はシーラにとって主人であるので、そんな事はさせられないらしい。



 ……そんなこんなで大方の買い物を済ませ、最後に大物を。馬を買いにいく。


 この世界では馬が主要な移動手段で、直接乗るほかに荷車や馬車を引かせたりもする。迅速に国外に逃げるには必須のアイテムだ。


 俺は馬に乗れないので馬車がいいかなと思ったが、シーラは乗馬が得意らしく。速さは直接乗る方が断然速いとの事で、シーラに馬一頭を選んでもらう事になった。


 シーラは馬が好きらしく、初めて見る嬉しそうな表情で一頭ずつでていき、一際大きい馬を選び出した。


「……大丈夫? こんな大きいの乗りこなせる?」


「お任せください。乗馬には自信がありますし、これは間違いなく良い馬です」


 そう言って胸を張るシーラ……ゆったりした服に着替えても分かる膨らみが……ってじゃなくて。うん、自信があるらしいので任せる事にしよう。


 値段を吹っかけられそうな気がするから、買う前からあまり良い馬ですとか言わないで欲しいと思ったが、この馬は気性が荒くて持て余し気味だったらしく。交渉したらわりとあっさり売ってもらえた。値段も他の馬より安いくらいだ。


 一方のシーラはホントにこの馬を気に入ったらしく、見た事ない笑顔を浮かべて撫でている姿は、すごくかわいい。


 いつかホントに、ずっと笑顔でいられる日が来るといいね……。


 そんな事を考えてちょっと切ない気持ちになったが、馬はシーラには懐いて鼻を寄せたりしているものの、俺が近付いたら、なんか威嚇するような声を出された。


 シーラがなだめてくれたので近寄れたけど、乗せてくれるかどうか心配になる。


 ……まぁそれは明日考えるとして、あちこち回ったら陽が暮れる時間になったので、今日はこの街で宿を取る事にする。


 お金はあるけど、この先を考えると贅沢はできない。


 かといって安宿は治安とか衛生面とか心配になるので、真ん中くらいのランクの宿に部屋を取った。馬も別料金で預かってくれるらしい。


 最初二部屋にしようとしたのだが、シーラに『別室では護衛の任務に支障をきたします』と言われて、同室になった。


 後宮ハーレムでは沢山の女の人達と一緒にいたけど、シーラと二人きりはなんか緊張するね……。


 シーラの方は特に気にした様子もないけど、意識してしまうのは俺だけなのだろうか?


 落ち着かない気持ちで部屋に荷物を置き、夕食を食べる。


 屋台で食べたパンと串焼きよりはマシだったけど、やっぱりパンはジャリジャリするし、お肉は硬い。そして、味が薄い。


 そういえば今日の買い物の中でも、調味料はかなり高かった気がする。


 塩でさえ、小袋1つで半銀貨1枚の5000ダルナだった。


 今日の宿が食事つき二人部屋で8000ダルナなので、そりゃ贅沢に塩は使えないよね……。


 せめて食事だけでもいいお店にするべきだったかなと後悔したが、明日以降の課題にしよう。


 そんな訳で食事を終え。別料金でお湯を買って体を拭き、洗濯もする。当然2杯買って、部屋をシーツで仕切って別々にだ。


 洗濯はシーラが『私がやります』と言ってくれたけど、さすがに下着を洗ってもらうのは恥ずかしかったので、自分でやった。


 手洗いなんて初めてだし、洗剤もないのでどれだけ綺麗になったかは分からないけど、やらないよりはいいだろう。


 洗ったものを部屋に吊っておけば朝までには乾いているという寸法で、シーラの下着も並んで干されている光景はちょっと落ち着かなかったが、これは慣れるしかないだろう。


 そんなこんなで落ち着かないまま逃亡生活初日の夜を迎えたのだが、寝る前にシーラがなにやら真面目な表情で。真剣な空気をまとって俺に話かけてくる。


「……失礼を承知でお訊きしますが、皇帝陛下は本当に皇帝陛下ですか?」



 ――おおう……。


 ガッツリ核心を突いてくるその質問に、俺は冷や汗が噴き出すのを感じながら、どう答えたものかと必死に頭を巡らせるのだった……。




現時点での帝国に対する影響度……0.0%


資産

・171万3600ダルナ

・宝石を散りばめた犬のぬいぐるみ


配下

シーラ(部下)

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