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135 訓練本番

 帝国暦166年も年の瀬を迎え。北の拠点の周りには雪が積もり、冷たい北風が吹きつける冬を迎えている。


 だけど冒険者と冒険者見習いの子達の訓練は熱を帯びていて、吹雪の中でも汗だらけになるくらいの激しさだ。


 シーラの訓練方針は、『よく動き』『よく食べ』『よく眠る』という王道パターンで、自分も先頭に立って訓練に参加し、部下を引っ張っていくタイプだ。


 そして訓練生達もよくそれにこたえ、体力・技能の向上と同時に、一体感と団結力も育っているのが横から見ていてもわかる。


 ……個人的には体育会系のノリはちょっと苦手だけど、兵士としては理想の姿なのだろう。



 訓練の後は女の人達が塩を炊く釜を使って大量にお湯を沸かしてくれるので、お風呂に入ってついでに洗濯もして、晩御飯を食べたら座学タイムになる。


 俺が戦術の講義をしたり、ティアナさんの武器作り教室。そしてクレアさんに若干医術の心得があったので、その講義だ。


 ティアナさんには弓矢作りだけ習う予定だったけど、木工全般得意なので、やりを削って穂先をつけるやり方なんかも教えてもらう事になった。


 作れるって事は修理もできるって事だから、武器が破損した時や、敵から奪った武器がちょっと壊れてた時でも直して使えるので、役に立つ技能だと思う。


 そしてそれと平行して、体が壊れないように10日に一度の休みを取ってもらい。その時は拠点内での仕事に触れてもらっている。


 船の操縦、木工、ガラス作り、塩作り、調理、裁縫さいほうなんかだ。


 自分で戦闘要員として集めておいてなんだけど、もしなにか興味がある事が見つかったら、兵士ではなくそっちの道に進んでもらうのもアリだと思っている。


 これは最初に孤児院から冒険者見習いの子を集める時、エリスと『最終的に帝国と戦うかどうかは本人の希望を尊重する』と約束した事への責任であり、俺自身への言い訳でもある。


 いくら家族のかたきとはいえ、元の世界で言えば中学生くらいの子供達を帝国との戦いに向かわせる訳だからね。


『絶対に、帝国と戦って仇を討つ以外の未来なんて考えられない』というくらいの強い決意じゃないなら、説得して違う道を選ばせたいと思っている。


 訓練と職場体験がある程度進んだタイミングで、一人一人と話をして意思を確認する予定だ……。




 そんなこんなで時間が過ぎていき、年が変わって帝国暦167年を迎え。俺は15歳に、シーラは18歳になった。


 15歳と言えば、近年における皇帝の平均寿命だった歳である。


 もしこの体が熱病で死にかけて、俺の魂が乗り移る事がなかったら。


 そのせいで後宮ハーレムから逃げ出さなかったら、そろそろ宰相に殺されていた頃なのだろう。


 俺にとってはこの体に転生したのが第二の人生だけど、この先はこの体にとっても第二の人生と言えるのかもしれない。


 俺が第二の人生を生きる目的は、好きになった女の子であるシーラの望みを叶える事。父親のかたきである宰相を討ち、宰相の元に囚われている母親と妹を助け出す手助けをする事だ。


 そして俺の中にある皇帝の記憶が母親に会いたがっているので、同じく宰相の元に囚われている元皇帝の母親を助け出すのも目標である。



 そんな目的に向かって本格的に行動を開始する運命の年明けを、女の人達が作ってくれたちょっと豪華な料理で祝い。


 この日ばかりは訓練も職業体験も休みにして、家族の団欒だんらんのような、穏やかな時間を過ごす。


 女の人達が母親役。数は少ないけどガラス職人さんと船大工さんが父親役をやってくれ、つかの間の家族っぽい時間を、大半の子が楽しそうに過ごしてくれた。


 ここにいる子は、全員が帝国の侵攻のせいで家族をなくした子供達だからね……。


 そして楽しそうではなかった一部の子は、まだ家族を亡くしたトラウマが圧倒的に強い子達だ。


 もちろん他の子だってトラウマがえた訳ではないだろうけど、この子達は思い出すだけでも耐えられないほどに、心に大きくて深い傷として残っているのだろう……。


 そういう子達は自然とシーラの元に集まり、望んで休日返上の訓練に打ち込んでいた。


 そしてシーラも気持ちがわかるのだろう。自分の休み返上で訓練をつけてやっている。


 団欒を楽しんでいる子達の邪魔にならないよう、離れた森の中でという配慮つきだ。


 優しい子達なのになと、見ているのが辛い光景だった……。



 ――そして一日だけの完全休息日も終わり、翌日からは猛訓練が再開される。


 そろそろ基礎の体力作りを終えて、実戦的な戦闘技術や格闘術、グループに分かれての模擬戦なんかもやりはじめる。


 そこでちょっと俺の意見も取り入れてもらい、運動しながら頭も使う平行訓練もやってもらう事になった。


 一般の兵士ならただ我武者羅がむしゃらに目の前の敵と戦い、倒す戦闘技術を磨くだけでいいけど。部隊指揮官をやってもらうには、戦いながらでも考える事ができないといけない。


 元の世界で言うマルチタスクに近い感じだ。


 慣れがいるし適性もあると思うけど、とりあえず適性を見るためにも実践してみてもらう。


 具体的には走りながら計算を解いてもらうんだけど、これが案外難しい。


 椅子いすに座ってなら簡単に解ける二桁の足し算でも無理な人には解けなかったり、計算に集中して走るのがおろそかになり、転んだり木にぶつかったりする人が出るのだ。


 シーラはその点さすがで、すぐに要領を理解して先頭を走りながら出題までこなすようになったけど、訓練生の子達にはかなり苦戦している子もいる。


 得手不得手えてふえてがある事なので、できる子だけできるようになってもらえばそれでいい。


 軍隊には色んな配置があるから、指揮官に向かないなら精鋭突撃部隊の隊員になってもらう選択肢もあるし、他の配置でもいい。


 最前線で直接武器を交えるだけが戦いじゃないからね。


 そんな事を考えながら訓練を眺め。俺の方も参謀として知識を復習したり、グループ分けした模擬戦で指揮をったりして、経験を積んでいく。



 そして平地では雪に雨が混じるようになり、春の気配を感じはじめる頃。俺は訓練生の子を一人ずつ個室に呼び、一対一で話をする機会を設けてもらうのだった……。




帝国暦167年3月10日


現時点での帝国に対する影響度……0.0001%(帝国領での塩販売開始)


資産

・1億139万ダルナ(-2259万)

・エリスに預けた冒険者養成所運営資金 2636万ダルナ@月末清算(現在10月分まで)


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×1437


配下

シーラ(部下・C級冒険者 月給なし)

メルツ(部下・反乱軍拠点訓練担当・E級冒険者 月給35万・内15万を上級傷薬代として返済中)

メーア(部下・反乱軍拠点メンタル担当・E級冒険者 月給35万・内15万を上級傷薬代として返済中)

エリス(協力者・反乱軍拠点運営担当 月30万を宿借り上げ代として支払い)

ティアナ(エリスの協力者 月給なし)

クレア(部下・中州の拠点管理担当 月給29万 内24万は帝国暦169年5月分まで前借り中)

オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の運営担当 月給12万)

元孤児の冒険者 一期生二期生合計40人(部下・部隊指揮官候補として教育中 月給3万)

セファル(部下・拠点間輸送担当・C級冒険者 月給30万)(弟も冒険者養成所会計補佐として雇用 月給5万)

ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)

船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証 帝国暦167年5月分まで10万ダルナ分前払い)

怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)

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