133 武器の調達先とジェルファ王国再興について
武器の調達先について、一計を案じた俺はメルツの元を訪れる。
「ねぇメルツ、前にロムス教皇国に偵察に行ってもらったじゃない。もう一回行って欲しいんだけど」
「私はアルサル様に雇われていますし、大恩ある身ですから、命じられればどこへなりと参ります」
そう返事をしつつ、メルツの視線がチラリと横に。メーアの方に泳いだ。
離れたくないんだろうね、相変わらず仲がいいようでなによりだ。
「メルツがいいなら二人一緒にでいいよ。それで、今回の用件は教国で武器を買ってきて欲しいんだ」
俺の言葉に一瞬照れたように顔を赤らめたメルツだが、すぐに表情を厳しくする。
「……それは特殊な武器のご注文ですか?」
「いや、普通に街の武器屋で売っているようなものでいいよ。槍の穂先と、弓矢の鏃だけでいい。木の部分はこっちで取り付けるし、弓もこっちで作るから」
鉄の入手は難しいけど木は山にいくらでも生えているし、すでに切って乾燥中の物もある。
弓作りはエルフのティアナさんが得意中の得意なので、教われば相当いい物ができるだろう。
なので必要なのは鉄の部分だけなのだが、メルツはまた隣のメーアにチラリと視線を向けた。
――今度のは、危険な任務に同行させるかどうかを迷っている視線だろう。
武器を買うだけならともかく、警戒が厳しいらしい国境を越えて武器を運ぶのは危険だからね。
「実行可能かどうかの判断はメルツに任せるよ。俺は国境警備の厳しさを実際に見ていないから、メルツが無理だと思ったら中止にしてくれていい。
実行する場合でもできるだけ安全に。旧ジェルファ王国からの亡命勢力とかと協力してやって欲しい。
そのための資金は多めに用意するから」
……これ、『協力』と聞こえのいい言葉を使ったけど、実際は『利用して』と言っているようなものだ。
だけど俺にとってはメルツの安全が優先だし、亡命勢力は教国からも迫害を受けているらしいので、活動資金は喉から手が出るほど欲しいはずだ。
危険があるとはいえ、一応双方に利益がある取引だと思う。
俺の依頼にメルツはじっと考え込み、なにか言葉を発しようとしたが、その瞬間メーアがグッとメルツの袖を引いたせいで、言葉を飲み込んでまた考え込む。
そしてしばらくの後、『分かりました、お引き受けします。メーアと二人で必ずやり遂げてきます』と力強く言い切ってくれた。
瞬間、それまで不安気だったメーアの顔にもパッと光が射す。
危険な任務である事は承知だけど、それでもメルツと離れたくはなかったのだろう。
メルツの方も、迷っていたのは任務を引き受けるかどうかではなく、メーアを同行させるかどうかだったと思う。
一旦置いていくと決めかけて、メーアの抗議で考えを変えた。そんな感じがする。
愛の形って難しいね……。
それはともかく危険な任務には違いないので、『くれぐれも慎重に。無理っぽかったら本当に無理でいいから』と念を押して、資金は多目の金貨20枚。2000万ダルナを渡しておく。
メルツはそれを受け取ってじっと見つめていたが、しばらくして俺に視線を戻して口を開いた。
「これは、作戦の第二段階とおっしゃっていた案件。帝国と教国を争わせる作戦に関わりますか?」
お、さすがメルツ。鋭い。
「うん。同じ槍先や鏃でも教国製はちょっと特徴があると思うから、それを使えば反乱軍の背後には教国がいると思わせる事ができる。
さらに国境付近で旧王国の亡命勢力が活動すれば、それも帝国を刺激すると思うんだよね。
そしてそれは、帝国に教国への侵攻を決意させる一助になる。
戦争を起こす謀略みたいで嫌かもしれないけど……」
「いえ、かの国に行って見てきた実感としては。帝国討つべし、邪教徒討つべしの声は相当強まっていました。緩衝地帯としてのジェルファ王国がなくなった今、遅かれ早かれ戦いは避けられないでしょう。
帝国から仕掛けるか、教国から仕掛けるか。
教国内が戦場になるか、元のジェルファ王国が戦場になるかの違いしかないのであれば、身勝手ですがジェルファ王国民としては前者の方がいいに決まっています。
ましてそれが、国の再独立に繋がるのであればなおさらです。独善的かもしれませんが、私としても帝国がロムス教皇国へ攻め込むよう誘導するのは賛成です。
この任務、元男爵家子息としての責任からも、必ず全うしてまいります」
力強い口調でそう言い切るメルツ。
「うん、でも無理はしないでね。時間はゆっくりでいいけど、俺達も行動を起こす来年の初夏までには帰ってきてくれるとありがたい……メーア、メルツが危ない事をしようとしたら止めてあげてね」
「はい」
固い決意を瞳に宿すメルツを頼もしく思う一方、ちょっと心配なのでメーアにブレーキ役をお願いしておく。
……そういえば、もし計画がジェルファ王国解放まで成功したら、誰が新王国の王になるのか問題も出てくるんだよね。
亡命勢力の代表が王になるのか、旧王家の生き残りを探してくるのか、あるいは他の適任者がなるのか……。俺としては、メルツがなってくれるとありがたい。
俺の独断でどうこうできる事ではないと思うけど、可能な限りそうなるように立ち回ってみよう。
密かにそんな事を考えながら。俺は出発していくメルツとメーアを見送るのだった……。
帝国暦166年11月17日
現時点での帝国に対する影響度……0.0001%(帝国領での塩販売開始)
資産
・1億3310万ダルナ(-2000万)
・エリスに預けた冒険者養成所運営資金 2636万ダルナ@月末清算(現在10月分まで)
・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)
・エルフの傷薬×1437
配下
シーラ(部下・C級冒険者 月給なし)
メルツ(部下・反乱軍拠点訓練担当・E級冒険者 月給31万・内15万を上級傷薬代として返済中)
メーア(部下・反乱軍拠点メンタル担当・E級冒険者 月給31万・内15万を上級傷薬代として返済中)
エリス(協力者・反乱軍拠点運営担当 月30万を宿借り上げ代として支払い)
ティアナ(エリスの協力者 月給なし)
クレア(部下・中州の拠点管理担当 月給24万 帝国暦169年5月分まで給料前借り中)
オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の運営担当 日給4000で月24日仕事)
元孤児の冒険者21人(部下・F級冒険者だけど実力はE級相当 自分達の稼ぎから月収3万。残りは冒険者養成所運営資金に寄付)
セファル(部下・拠点間輸送担当・C級冒険者 月給30万)(弟も冒険者養成所会計補佐として雇用 月給5万)
ガラス職人(協力者 月給10万・衣食住保証)
船大工二人(協力者・帝国暦167年5月分まで給料前払い 月給10万・衣食住保証)




