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13 壁外市

 街へ入れなさそうな気がする俺は、街壁の外側。道から少し離れた場所に集まっている人達に近付いていく……。


(……市場? フリーマーケットみたいな感じかな?)


 そこでは街壁を背に、10人くらいがゴザを敷いた上に座って物を売っていた。


 そして客なのか冷やかしなのか微妙なラインの人達が、5・6人ほどウロウロしている。


 ざっと一巡ひとめぐりしてみた所、売られているのは野菜や果物の他、ゴザやカゴなどの簡単な細工物がほとんどだ。旅の役に立ちそうな物はあまりない


 とりあえず長い時間歩いてのどが渇いているから果物は欲しいけど、残念ながらお金がない。


 犬のぬいぐるみにいっぱいついている宝石はあるけど、買い取ってもらえそうな気配もしないね……。


 雰囲気自体はシーラの見立て通りで、不穏な感じはしない。だけど活気がある訳でもなく、高価な品を扱いそうな気配は全くない。本当にフリーマーケットだ。


 だけど喉は渇いている訳で……あ、そうだ。


 一つ思いついた俺は服の下を探り、ぬいぐるみの首に巻いてある布を外す。


 忠誠の証しとしてもらった、シーラの血で印章が描かれている布。それを隠すために後宮ハーレムで確保した、多分ハンカチだ。


 王宮で使われていた品なのでそれなりに高級だろうけど、宝石ほどではないと思う。


 俺はそれを、唯一雑貨を扱っている初老の男性の所へ持っていく。


「これを買い取って欲しいのだが」


 そう言ってハンカチを渡すと、男は一瞬俺を胡散臭うさんくさそうに見た後、ハンカチをじっくりと眺める。


「……うちは盗品は扱わない事にしてるんだが」


 お、そうきたか。


 でもそうだよね、高級な品なら街中のちゃんとした店に持ち込むのが普通だろうから、訳ありを疑うのは当然だろう。


 本当にまっとうな商売をしているのか、足元を見て安く買い叩こうとしているのかは分からないけど、とりあえず買う姿勢を見せてくれただけでもありがたい。


 護衛として半歩後ろにいるシーラがちょっと怖い空気を放っているが、俺が泥棒呼ばわりされた事に怒ってくれたのだろうか? 真面目そうだもんね。


 とりあえず手でシーラを制止しながら、交渉を続ける。


「盗品ではないよ。…………実は、親ともめて家出してきてな。手の者が探しに来ているかもしれんから、街には入りたくないのだ。


 おまけに川を渡る時に水に落ちて財布をなくしてしまったから、当座の金が必要でな」


 大体嘘だけど、一部本当に寄せた話をでっち上げる。


 わりといい服を着ている割にシーラが裸足はだしだったり、荷物を持っていない事が話の信憑性しんぴょうせいを増して、怪しさを消してくれるだろう。


 人間は納得できる理由さえあれば、それが事実かどうかはあまり気にしないというのが、前の世界で40年くらい生きた俺の実感だ。


 実際店主の男は得心とくしんのいった表情を浮かべ、銀貨1枚を提示してくる。……どれくらいの価値なんだろうね?


 そういえばこっちの世界に来てから、お金を見た記憶がない。


 だけどこういう場合の定番として、とりあえず一旦拒否して値段交渉をしてみたら、最終的に銀貨1枚と銅貨30枚になった。


 銅貨100枚で銀貨1枚らしいという事以外、相変わらず価値はよく分からない。


 だけどとりあえずお金をゲットできたので、念願の果物を買う事にする。


 字の読み書きができない人が多いのか、値札はおろか商品名も掲示されていないので、スイカを小ぶりにしたようなものに狙いを定めて値段を聞くと、銅貨5枚と言われた。


 小ぶりスイカが安いのかハンカチが高かったのか不明だが、銅貨1枚値切ってもあまり変わらない気がしたので言い値で買って、食べやすいように切ってもらう。


 中身は色こそ黄色だったけどおおむねスイカで、シーラと二人で分けて食べたら、たっぷりの水分が渇いた喉に染み込んで最高に美味しかった。


 欲を言えば冷たかったら最高だったけど、後宮ハーレムにもなかったくらいだから、この世界に冷蔵庫はなさそうだ。


 ちなみにこの実は水分が多いので、旅人が水筒代わりに持って行く事もあるそうだ。


 ある意味旅アイテムだけど、今は追加購入は見送る事にする。


 それよりも、スイカを食べながら店主のお婆ちゃんと雑談をして、多少の情報を得る事ができた。


 ここは壁外市へきがいいちと呼ばれる場所で、周辺の村に住む人達が作った物を持って来て、主に街の住民に売る場所らしい。


 今は閑散としているが、夕方になればそれなりの人数で賑わうのだそうだ。


 そしてどうしてこの場所かと言うと、街に入るには市民税を納めている事を証明する住民証か、通行料として一人銅貨50枚を払わなければいけないらしい。


 そんなに払ったら多少の野菜やゴザやカゴなんかを売るだけでは利益が出ないどころか、赤字まである。


 だから街の外で市を開いて、住民証を持った街の住民が外まで買いに来る構図になっているらしい。


 俺が遠目に見たの、通行証じゃなくて住民証だったんだね。


 そして、お金でも通れるというのはありがたい情報だ。あの時はお金もなかったけど、今はある。


 一人銅貨50枚は高いけど、二人で銀貨1枚ならギリギリ足りる。雑貨屋の人と買い取り価格交渉しなかったら危なかったね。


 これで後は手配が回っている気がする問題を何とかすれば、街に入る事ができそうだ……。


「よしシーラ、変装するぞ」


「――はい?」


 戸惑った様子のシーラを他所よそに、俺は銅貨10枚で細いひもを購入する。


 この世界は多分写真とかないし、コロコロ変わる皇帝の顔なんて一般の人は知らないだろう。


『男の子供と若い女、もしくはその二人連れ』みたいな大雑把おおざっぱな情報しか伝わっていないだろうから、その枠から外れるのはわりと簡単だ。


 俺はシーラに頼んで、髪を頭の横で二つ結びにしてもらう。自分で言うのもなんだが、この体はかわいい系のショタだし声変わりもまだなので、髪型一つで女の子に見えてしまう……と思う。


 シーラも一応髪をポニーテールに束ねてもらったら、元々凛々しい系の顔立ちなので、首から上だけなら美青年に見えなくもない。


 でも体の方は明らかに女性だし、ここでは服は手に入らないようなので、諦めよう。


 わりと雑な変装だけど、向こうは川に落ちた俺達が助けを求めて辿り着く。その時はしっかり保護する……みたいな対応を考えているはずで、姿を偽って逃げようとしているとは思わないだろうから、わりとなんとかなると思う……。あの門番の二人、あんまりやる気なさそうだったしね。


 ある意味賭けではあるけど、勝率はかなり高いはずだ。



 そんな事を考えて。俺は意を決して門番に挑むのだった……。




現時点での帝国に対する影響度……0.0%


資産

・銀貨1枚 銅貨15枚

・宝石を散りばめた犬のぬいぐるみ


配下

シーラ(部下)

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