128 集団移住
『もしかしてさっき聞いた以外にも保護している子がいたりします?』
俺の言葉に。クレアさんは流れるような動きで床に膝をついて頭を下げる。
「はい、実は孤児の子供達がいます……」
「……この子達も孤児の子供達でしょう?」
「確かにそうですが、もっと小さな。文字通りの子供達です」
「ああ、なるほど……」
考えてみれば、ここにいるのは帝国との戦いに参加した子達で、多分10歳以上。
冒険者見習いとして集めている子もそれくらいか、もうちょっと上くらいだ。
だけど両親を失った子がみんな10歳以上である訳はなく、実際アルパの街でも冒険者見習いに採用したのはある程度大きい子だけで、小さい子はそのまま孤児院で面倒を見てもらい、孤児院に資金援助をする形になっている。
だけどクレアさんの故郷では孤児院も機能しておらず、実家商会が面倒を見ていたそうだが、負担は大きくできる事は限られていたので、クレアさんが引き取ったのだそうだ。
――て言うか、相談してくれれば良かったのにね。
幼い子供達をこちらで引き取る事によってクレアさんの実家商会が反帝国活動に専念できるなら、こちらとしても願ったりだ。協力を惜しまなかったのに。
……改めてクレアさんを見ると、前より少しやつれた感じがする。
真面目なクレアさんの事だから、自分のわがままでやっている事に人を巻き込めない。冒険者見習いの子達の育成という本来の命令にこれ以上支障をきたす訳にはいかないと、自分一人で背負い込んで世話をしていたのだろう。
「なるほど、事情は分かりました。……その子達も北の拠点で引き取って面倒を見る選択肢もありますが、どうでしょうか?」
「……正直涙が出るほどありがたいお言葉ですが、やはり山越えが難しい子が多いですし。可能な子だけというのも、現状では引き離すのがかわいそうという気持ちがあります」
なるほど……となると東回りルートは難しいかな? 船を二隻同時に使っても、全員を一度に運ぶのは不可能だ。
そうなると……。
「ねぇシーラ、冒険者見習いの子って担架を使えば二人で一人を担いで大山脈を越えられると思う?」
「今は夏で一年を通して一番山越えがしやすい季節ですし、時間をかければ可能でしょう。ただ、あまり人数が多いと私一人では護衛と食料調達をやりきれないかもしれません。ティアナ殿の協力も仰ぐ必要があると思います」
「なるほど。クレアさん、担送が必要な人って何人になりますかね?」
「……最低でも27人。ある程度は歩けても最後までは無理で、助けが必要になるであろう者を加えると、最大50人前後になるかと思います。一つの担架で二人運べるだろう幼い子は一人として数えました」
50人という事は、二人で一つの担架を担ぐ訳だから運び手が100人いる計算になる。
現在冒険者見習いの子が48人、ここで講師をしている冒険者一期生が10人、二期生19人を加えても77人か……。しょうがない。
「クレアさん。北の拠点のみんなから了承を得られたらの話ですが、北の拠点にいる冒険者の子と女の人達、職人さんも連れてきますから、その手も借りて全員で山越えをしましょう。数的には50人担送できるはずです」
「――しかし、それでは北の拠点の業務が止まってしまいます。そこまでして頂く訳には……」
「短期的にはそうですけど、長い目で見れば人員が増える事で生産力が向上するはずです。それなら別に迷惑じゃないですし、むしろ助かるくらいですよ」
「ですが……本当によろしいのですか?」
「もちろんです。でもあくまでみんなの了解が得られたらですから、そこはご承知置きくださいね」
「はい……ありがとうございます……」
そう言って深々と頭を下げるクレアさん。まだ早いような気もするが、でも多分、反対はされないと思う。
冒険者の子達からすれば同じ境遇の孤児だし、職人さん達は同じ街の出身だ。女の人達はどうか分からないけど、基本反対はしないと思う。
子供と生き別れ状態な人もいるので、それを思い出して辛いとかがあったら、その人は配置を考慮するとかしよう。
そんな訳でエリス宛の手紙を書いて冒険者の子達の集合をお願いし。遊牧民から買ってきた馬二頭を預けて、北の拠点に向かう。
北の拠点に着いて事情を話すと、みんな思いの他好意的で、全員一致で受け入れに賛成してくれた。
辛い思いをしてきた人達だけに、同じく辛い目に遭っている子供達に共感性があるのだろう。
……女の人達に関しては、子供達には当然男の子もいる訳で、男女比が圧倒的に女性寄りなここで逆光源氏計画を狙っている……とかの可能性もちょっと頭をよぎる。
――まぁそうならそうで、本人達が幸せならそれでいいけどね。
そんな訳でティアナさんとも合流して事情を説明し、全員で山越えをする。
シーラも言っていたけど、今は夏で山越えをしやすい季節だし。女の人達もすっかり健康と体力を回復しているので、足取りも軽い。
順調に四日間で大山脈を越えて中州の拠点に到着し。女の人達はクレアさんや中州勤務組の女の人達と旧交を温めた後、一泊して翌朝早速の出発となる。
担架はクレアさんと中州の拠点にいた冒険者の子達が予備も含めて55個用意してくれたので、まずは最初から担送の27人を乗せ、体力のある先輩冒険者の子達に担いでもら……おうとしたら、見習いの子達が強く希望したので、その子達に任せる事になった。
同じ街の子達なので思い入れがあるのだろう。本当にクレアさんの故郷の街は郷土愛が強いね。
帝国軍に攻撃されて焼け野原になり、その後も圧政下にあってみんな苦しい生活をしているのに、重傷を負ったり幼い孤児達が曲がりなりにも生きてこられたのは、この団結力あってこそなのだろう。
クレアさんも一緒に行きたそうにしていたが、中州の拠点での仕事があるので我慢してもらい。総勢150人を越える大集団になった俺達は大山脈へと踏み込んでいく。
……大人数での移動というのはやはり大変なもので、隊列が長く伸びるので全体の把握が大変だし、一か所でトラブルが起きると全体が止まってしまい、数が多いのでトラブルの頻度も高めと、進行は遅々として進まない。
一方で食料と水の確保も大変で、シーラとティアナさんが大きい魔獣を狩ってくれるのでなんとかなっているけど、二人がいなかったらどうにもならなかっただろう。
水も手空きの子が水筒を持てるだけ持ってくれているけど、わりとギリギリだ。
自力歩行が困難な子が増えるにつれて担送に人手が取られるし、中々辛い。
だけど将来大軍を動かす時の勉強として、とても参考になる気もする。
数自体は軍隊に比べたらはるかに少ないけど、人員構成から来るトラブルの多さと、山越えという困難な地形を進む難易度も考えると、経験としてはとても貴重なものだと思う。
そんなこんなで軍師としての経験を積みながら。
トラブルが起きてから停止するのではなく、こまめに長めの休憩を取ってトラブルを防ぐ方がトータルの効率がいい事などを学習しつつ。前に後ろに忙しく動きながら、七日間をかけて山を越えたのだった……。
帝国暦166年9月29日
現時点での帝国に対する影響度……0.0%
資産
・1億3378万ダルナ
・エリスに預けた冒険者養成所運営資金 1549万ダルナ@月末清算(現在8月分まで)
・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)
・エルフの傷薬×237
配下
シーラ(部下・C級冒険者 月給なし)
メルツ(部下・反乱軍拠点訓練担当・E級冒険者 月給31万・内15万を上級傷薬代として返済中)
メーア(部下・反乱軍拠点メンタル担当・E級冒険者 月給31万・内15万を上級傷薬代として返済中)
エリス(協力者・反乱軍拠点運営担当 月30万を宿借り上げ代として支払い)
ティアナ(エリスの協力者 月給なし)
クレア(部下・中州の拠点管理担当 月給24万 帝国暦169年5月分まで給料前借り中)
オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の運営担当 日給4000で月24日仕事)
元孤児の冒険者21人(部下・F級冒険者だけど実力はE級相当 自分達の稼ぎから月収3万。残りは冒険者養成所運営資金に寄付)
セファル(部下・拠点間輸送担当・C級冒険者 月給30万)(弟も冒険者養成所会計補佐として雇用 月給5万)
ガラス職人(協力者 月給10万・衣食住保証)
船大工二人(協力者・帝国暦167年5月分まで給料前払い 月給10万・衣食住保証)




