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126 新商会

 塩の袋を担いで、オオカミ達が待つ丘を登っていく。


 キサがわりと冷たい声で、『お兄ちゃん、なんでいるの?』と言葉を発し、キサ兄が目を泳がせて『その、馬が勝手に……』と言い訳していたが、ちょっと苦しすぎると思う。


 まぁ、場が和んだので善しとしておこう。



 そんな訳で丘の上に着くと、オオカミさん達も気を使ってくれたのか、ちょっと下がって一定の距離を維持してくれる。


 地面の上には塩の袋が三つあって、二つは未開封、一つは破れて半分ほど減っていた。


 東に向かう船には毎回一袋の提供をお願いしているから、日数を考えるともう一袋か二袋あっても良さそうなものだが、空になったのは食べてしまったのだろうか?


 元が魚の胃袋なので、食べられない事はないと思う。


 辺りの地面をよく見ると、オオカミの他に色んな動物の足跡があるので、相変わらず共通の塩分補給場所として機能しているらしい。


 一際大きい足跡は、遠目に見たマンモスみたいな魔獣のものだろう。むしろオオカミより怖いかもしれない。


 そんな事を考えながらとりあえず追加で塩一袋を置き、オオカミ達を見ると、じっとこちらを見ているだけで特に敵意とかは感じられない……と思う。


 数は五匹だ。もっと大きい群れだったと思うので、主力は狩りに出かけていてこの子達は留守番だろうか? ……よく見たら、後ろの地面では小さいオオカミが何匹か、穴から顔を出してこちらを覗いている。


 どうやら子育てをしているらしい。


 子育てしている場所を俺が塩置き場にしたのか、安全な場所だからここで子育てする事にしたのかは分からないけど、上手くいっているなら気にしない事にしよう。


 特に意味はないけど、オオカミ達との親密さをアピールするためにガッツポーズをキメてから、丘を降りる。


 オオカミ達の(なにやってんだコイツ?)みたいな視線が痛かったけど、キサとキサ兄にオオカミ達との友好関係っぽいものを見せられたならそれでいい。


 そんな訳で、キサ兄に『通るだけなら問題ない。狩りをしたり羊を放牧したりは縄張りを侵害する事になるからダメ。オオカミ達と面識がない人が通るのも危ないかも』とそれっぽい事を伝え、キサの輸送任務に理解を貰った。


 正直、オオカミ達が安全を保証してくれるなら、この辺りは街中より安全なくらいだと思う。



 キサ兄の納得を頂いた所でその晩は倉庫に泊まり。翌朝、馬に塩を積んで遊牧民の集落へと戻る。


 積む量はキサの判断に任せたけど、馬二頭に30袋ずつ。合計で60袋180キロほどになった。


 船で運ぶのが一回100袋である事を考えると、二回で全量を運び出せる。


 船の往復が12日目安である事を考えると、六日に一回くらいのペースで来てもらえばいい計算だ。


 集落から東の拠点までが往復二日。集落から南の村までが往復一日なので、キサの時間の半分を輸送任務に当ててもらう事になる。


 集落に帰還後、キサ兄も交えて正式にその契約を行い。報酬は一回ごとに塩一袋となった。


 俺達が使っている塩一袋は遊牧民が買っていた値段的には羊10頭に相当するので、キサが恐縮するくらいの高額である。


 ……まぁ、それは村で買う塩の値段が高過ぎた疑惑もあるけどね。


 輸送量が増えたら塩の量が多過ぎてキサの一族だけでは消費しきれなくなるかもだけど、その時は違う遊牧民に売って馬や羊に交換するなり、村に運んで穀物と交換するなりしてもらえばいい。


 実際前回馬繁殖所の維持費を塩払いした時はそうしたみたいだしね。



 そんな訳で、今回は集落のテントに塩を仮置きさせてもらい。翌朝キサに別れを告げて、入手した馬四頭を連れて南の村に向かう。


 計画ではここまでキサに運んでもらって、ここから先は新商会の人に運んでもらう予定だ。


 なのでここに倉庫と、管理と警備を兼ねた常駐の人材が欲しいよね。南から来る北の拠点向けの荷物もあるし……新商会長の右腕さんに相談してみよう。


 そんな算段を立て、街まで南下する。


 六日ぶりに戻ってきた街で右腕さんと合流すると、早速進捗しんちょくを報告してくれる。


 情報収集をメインに動いてくれていて、その報告によるとこの街の名前は『ファラ』と言うらしい。


 何回か来ているけど初めて知った。帝国領という事もあって長居しないようにしていたし、街の住民とも最低限の接触しか持たなかったからね。


 ファラの街は帝国北西部にあり、位置的にはわりと辺境。


 だけど周囲には広大な麦畑が広がっていて、食糧生産が多い豊かな土地であるらしい。


 領主は伯爵家で、経済力を背景に影響力は強い方。領都はここから南東に行った街で、ここは領内第二の都市。


 領主がどんな人かといった情報まではまだ把握できていないらしいけど、他にも街の有力者や特産品に関する情報なども仕入れていて、有力者の何人かとはすでに渡りをつけてきたそうだ。


 さすが新商会長さんが右腕と言うだけあって、相当優秀らしい。


 すでに新商会の本店を構える候補も決まっているそうで、翌日見に行ったけど、立派ではないものの倉庫が大きくて、実用本位のいい物件だった。


 当面はここを借りて本店とし、商売が上手くいったら正式に買うか建てるかするそうだ。


 そうだよね、新商会はまだお試し期間なのだ。上手くいかなかったら撤退もある訳で、ちゃんと利益が出せるようにしないといけないね。


 とりあえず本店候補はここでいいので早速契約してもらい、遊牧民から買ってきた馬の内、年配の二頭を輸送用に提供する。


 若い二頭は中州の拠点に連れ帰って、冒険者の子達の訓練と実戦用にするのだ。


 街で馬車を借りて馬を繋ぎ、すぐに調達できた穀物とお酒と布を積み込んで、遊牧民の集落との中継地になる村へと向かう。


 そこに倉庫と人員を確保する事をお願いし、遊牧民の集落までキサを呼びに行って顔合わせをしておく。


 キサは馬二頭を連れて塩59袋を運んでくれたので、輸送第一便として馬車に積み込んでファラの街に持ち帰り、逆に俺達が積んできた荷物を東の拠点に運んでもらう。


 倉庫に入れておけば、船便の子達が回収して持って帰るだろう。



 そして受け取った塩は、右腕さんに任せてさばいてもらう事にする。


 今回の売り上げは新商会設立の初期経費にするのだ。


 帝国領内は関所が少ないのか、塩の値段は25万ダルナくらい。なので市場を占有するために22万くらいで売る事にして、俺が卸す値段は10万と決まった。


 アルパの街に持ち込んだ時の三分の一だけど、市場価格からの逆算だからしょうがない。量でカバーしよう。


 天気もあるからフル稼働は無理としても、船の稼働率80パーセントなら月に200袋運べる訳で、オオカミへの上納じょうのうが二袋、キサへの報酬が四袋で計算しても、月に194袋で1940万ダルナの売り上げとなる。


 それだけの量の塩を生産できるかは別にして、今までは在庫が積み上がっていたから、当面は問題ないだろう。


 北の航路は冬になると使えないから、また備蓄期間になるしね。


 むしろ問題は新商会がそんな量を売り切れるかだけど、どうなんだろうね?


 他の街にも売る事になるだろうけど、海に近い南に行くほど値段が下がるはずなので、収益とのバランスを考えてどこまで売れるかは未知数だ。


 急に新参商会が大量の塩を売り始めたら目立って目をつけられるだろう問題への対処も含めて、右腕さんに頑張ってもらうしかない。


 そのうちメープルシロップも運ばれてくるはずなので、それも駆使して偉い人と関係を築いて、上手い事乗り越えて欲しい。


 そして、偉い人の情報を俺にも流してくれたら言う事なしだ。



 新しい商会の運営が上手くいくように祈りながら。右腕さんから預かった新商会長さん宛の手紙を胸に。俺は馬二頭を連れて西へと戻るのだった……。




帝国暦166年9月7日


現時点での帝国に対する影響度……0.0%


資産

・5594万ダルナ(-9万)

・エリスに預けた冒険者養成所運営資金 2455万ダルナ@月末清算(現在6月分まで)


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×237


配下

シーラ(部下・C級冒険者 月給なし)

メルツ(部下・反乱軍拠点訓練担当・E級冒険者 月給31万・内15万を上級傷薬代として返済中)

メーア(部下・反乱軍拠点メンタル担当・E級冒険者 月給31万・内15万を上級傷薬代として返済中)

エリス(協力者・反乱軍拠点運営担当 月30万を宿借り上げ代として支払い)

ティアナ(エリスの協力者 月給なし)

クレア(部下・中州の拠点管理担当 月給24万 帝国暦169年5月分まで給料前借り中)

オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の運営担当 日給4000で月24日仕事)

元孤児の冒険者21人(部下・F級冒険者だけど実力はE級相当 自分達の稼ぎから月収3万。残りは冒険者養成所運営資金に寄付)

セファル(部下・拠点間輸送担当・C級冒険者 月給30万)(弟も冒険者養成所会計補佐として雇用 月給5万)

ガラス職人(協力者 月給10万・衣食住保証)

船大工二人(協力者・帝国暦167年5月分まで給料前払い 月給10万・衣食住保証)

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