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125 東の交易ルート完成へ

 支店長さん改め新商会長さんが右腕だと言っていた部下の人を加え、三人になった俺達は一路東に向かう。


 右腕の人は馬を上手に乗りこなせたので、俺と二人乗りのシーラのペースに遅れる事なく、順調に新商会を置く予定の街に着いた。


 そこで一旦別れ。右腕さんが情報収集や商会を構える建物の選定、北の村との輸送便の手配などをしている間、俺とシーラは北上して遊牧民の集落に向かう。


 街から村まで馬で一日。馬車だと二日か三日だろうか?


 村から遊牧民の集落までは馬で半日。荷物を積んだ馬でも一日あれば移動できるだろう。


 そんな風に輸送路の確認をしながら進み、遊牧民の集落に着くと、なにやら馬が沢山いた。


 世話をしていたキサ兄に訊いてみると、キサ父が他の遊牧民から買い集めてくれたらしい。仕事きっちりで実に頼もしい。


 手付金として500万ダルナを払ってあるので、その分は連れて行ってもいいと言われた。


 値段を訊いてみると、若くていい馬なら150万、歳をとった馬や体が小さい馬なら100万だそうだ。ざっくりだけど、街で買う時の半値くらいだと思う。


 歳をとった馬と言っても弱っている訳ではなく、最高速度や持久力で若い馬に敵わないだけで、十分馬としての働きはできるとの事。


 ……という訳で、若い馬と年配の馬を二頭ずつ受け取る事にした。


 キサ兄は『150が二頭と100が二頭で、丁度500ですね』と、一瞬で計算してみせる。


 どうやらキサから算数を伝授されたらしい。心強いね。


 馬には手綱たづなくらあぶみといった馬具も必要で、牛や羊の皮を使ってそれらを作るのは遊牧民の得意分野。在庫もあるとの事だったので、四頭分を20万ダルナで購入した。これも街より安い。


 そうして馬を入手した所で、オオカミを手懐てなずけた気がするので東の拠点までの物資輸送に協力願えませんかと言ってみた所、ものすごく胡散臭うさんくさい目で見られてしまった。


 ……まぁ、そりゃそうだよね。野生のオオカミと仲良くなったなんて話、俺でも疑うもん。


 一応説得を試みてみたが全然効果がなく、諦めかけた所に、キサが羊の放牧から戻ってきた。


『何を話してるんですか?』と訊かれたので大雑把に事情を説明する……。


「なるほど……わかりました、じゃあ私がその輸送任務を請け負いますよ」


 わりとあっさり放たれたその言葉に、慌てた様子なのはキサ兄である。


「キサ、ちょと待て。丘の向こうはオオカミの縄張りだぞ」


「でもアルサルさんが仲良くなったって言ってるじゃない」


「そんなの信用できるか。相手はオオカミだぞ」


「私はアルサルさんを信用します」


 おおう……なんかキサがあつい信頼を寄せてくれているみたいだけど、そんなに好感度上がるような事したっけな?


 乗馬を教えた件だろうか? でもあれ、実質教えたのはシーラだと思うんだけど……。


 キサ兄も戸惑っている様子だが、キサの決意は固いようで。俺が横から『初回は俺達が同行しますし、いざとなったら荷物は捨てて単騎で逃げていいから、試しに一回行ってみるのはどうでしょう?』と言葉を挟むと、キサ兄も渋い顔をしながら折れてくれた。


 ――という訳で、翌朝から初回輸送をやってみる事になったが、今回はこちらから運ぶ物はないので馬だけを連れて行き、東の拠点から荷物を運んでくる。



『扱いやすい範囲で』と言って準備をお願いしたら、翌朝キサは馬二頭を連れて現れた。


 自分が乗っているのも合わせて三頭だ。乗馬上手になったんだね……。


 ちょっと感動しつつ、集落を出て北に向かう。


 しばらく走ると、俺を後ろから抱えるようにして二人乗りしてくれているシーラが、小さく声を発した。


「後をつけられているようです」


「――誰か分かる?」


「おそらく最初に話した男。キサ殿の兄でしょう」


「ああなるほど……敵意とか感じる?」


「いえ、そういった感覚はありません」


 一瞬焦ったけど、キサの事が心配で付いて来たのだろう。いいお兄さんだね。


 心配ないと思うので放置する事にし。オオカミのナワバリとの境界だという丘の稜線りょうせんを越え、特になにもなく、日没前に東の拠点に到着した。


 倉庫の前で馬を止めると、シーラがキサに声をかける。


「かなり飛ばしましたがよく付いて来ましたね」


「――はい! 教えていただいたおかげです!」


 満面の笑みを浮かべて、嬉しそうに答えるキサ。


 なんかペース速いなと思っていたが、どうやらシーラはキサを試していたらしい。


 そして結果は上出来らしく、シーラに褒められたキサは本当に嬉しそうで、はにかむ笑顔がとてもかわいい。


 癒されるいい光景だなぁ……。



 ――そんな事を考えて和んでいたら、突然。乱暴に馬を駆る荒々しいひづめの音が聞こえてくる。


「オオカミだ! 囲まれているぞ!」


 そう叫びながら突進してくるのは、キサのお兄さん……そういえば付いて来てたんだったね。


 言われて辺りを見回してみると、北の小高い丘の上に数匹のオオカミが並んでこちらを見ている。


 ……他も見回してみるが、それ以外にオオカミの姿はない。囲まれて……いるかな?


 オオカミは賢い動物らしいので、襲撃する時は当然群れで行動するだろう。


 その前提で、一部が堂々と姿を見せるのはすでに包囲が完了しているからという見立てなのだろうか?


 ……でも、俺としては前に来た時にも見た光景なんだよね。


 慌てた様子で俺達の元にやってきたキサ兄に、俺は落ち着いた調子で声をかける。


「落ち着いてください、多分大丈夫だと思いますよ」


「――な、そんな悠長な事を言っている場合か! すでに高所を取られて、こちらの動きは筒抜けなんだぞ!」


 おお、なんか戦術的な話が出てきた。


 そうだよね、元の世界の三国志馬謖ばしょくさんみたいに、山の上に陣を構えたせいで負けて泣いて斬られた例もあるけど、基本高い所は有利だよね。


 前世のぼんやりした知識でもそんなイメージがあるし、こっちの世界で読んだ兵法書にもそう書いてあった。


 高い所は見通しが効くし、弓矢は撃ち下ろす方が強い。突撃をかける時だって、駆け下りると勢いが乗る。高さは速度に、勢いに換えられるのだ。


 キサ兄は広い草原を走り回っているから、感覚的にその事を知っているのだろう。


 ……だけど今回に限っては、俺達を攻撃するために高所に陣取っている訳じゃないと思うんだよね。


「今からオオカミさん達に挨拶に行くので、お兄さんも一緒に行きます?」


 馬から降りてそう言葉を発し。倉庫に入って塩一袋を担ぎ出しながら言うと、キサ兄は『は?』の一言と共に目を見開いて固まってしまった。


 そして一方のキサは、連れてきた馬三頭を川縁かわべりに繋ぎ、すでに一緒に行く来満々である。ホント信頼が篤いよね。


 ――妹が行くのに兄が行かない訳にはいかないのか。キサ兄は顔色を悪くしながらも馬を降りる。


 だが手綱たづなを持ったまま、『馬に乗ったままではいけませんか?』と訊いてきた……どうなんだろうね?


「ダメではないと思いますけど、相手を警戒させてもなにもいい事ないですし、そもそもオオカミの群れの中に入るとか、馬が嫌がるんじゃないでしょうか?」


「それは……確かにそうですが……」


 俺の言葉にキサ兄は反論の言葉が見つからなかったのか、自分の馬を繋いで、歩いていく決心を固めたようだった。



 そうして俺達四人は、オオカミ達が見守る中を小高い丘へ向かって歩いて行く……。




帝国暦166年9月3日


現時点での帝国に対する影響度……0.0%


資産

・5603万ダルナ(-26万)

・エリスに預けた冒険者養成所運営資金 2455万ダルナ@月末清算(現在6月分まで)


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×237


配下

シーラ(部下・C級冒険者 月給なし)

メルツ(部下・反乱軍拠点訓練担当・E級冒険者 月給31万・内15万を上級傷薬代として返済中)

メーア(部下・反乱軍拠点メンタル担当・E級冒険者 月給31万・内15万を上級傷薬代として返済中)

エリス(協力者・反乱軍拠点運営担当 月30万を宿借り上げ代として支払い)

ティアナ(エリスの協力者 月給なし)

クレア(部下・中州の拠点管理担当 月給24万 帝国暦169年5月分まで給料前借り中)

オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の運営担当 日給4000で月24日仕事)

元孤児の冒険者21人(部下・F級冒険者だけど実力はE級相当 自分達の稼ぎから月収3万。残りは冒険者養成所運営資金に寄付)

セファル(部下・拠点間輸送担当・C級冒険者 月給30万)(弟も冒険者養成所会計補佐として雇用 月給5万)

ガラス職人(協力者 月給10万・衣食住保証)

船大工二人(協力者・帝国暦167年5月分まで給料前払い 月給10万・衣食住保証)

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