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122 西方の商人

 二回目の航海から帰り、今後の予定を立てる。


 人員の都合上も船の整備面からも、二隻を常にフル稼働させるのは難しいとの事なので、冒険者の子達から特に船員適性があった三人を専属にして、二隻を交互に使って定期往復してもらう事になった。


 塩の生産量的にも、さすがに全力稼動させるだけの生産はできないと思うしね。


 船大工さん達には船の整備改修の他、将来的にまとまった人員を輸送する時に備えて、船の追加建造をお願いしておく。


 後は木材の扱い全般得意みたいなので、建物の増築や修理も必要に応じて担当してもらう事になった。



 そんな訳で北方航路と東回り交易路の開拓は無事に成功した訳だけど、二回目の航海の後から、冒険者の子達や船大工さん達が俺を見る目がちょっと変わった気がする。


 今までは単なるスポンサー的な、お金持ちの商人みたいな見られ方をしていた気がするし、冒険者の子達からは特に、シーラのオマケみたいな目で見られていたと思う。


 それは別段間違いでもないし、皇帝の身分を隠している都合上、隠蔽が上手くいっているという事なのでいいんだけど。それがなにか、一目置かれだしたような気がするのだ。


 理由を考えてみると、多分東の拠点に行った時。オオカミの群れを手懐けようとした行動が影響している気がする。


 俺としては多分安全だと思ったんだけど、冒険者の子達にはシーラでさえ強く警戒した相手に、単身立ち向かったように見えたのだろうか?


 ……まぁ、将来的に反帝国軍で参謀職をやるなら一目置かれていた方がいい気はするので、問題ないけどね。



 という事で北方航路で順次塩を運んでもらいつつ。東の拠点に行くたびに塩一袋を丘の上にお供えするようにお願いしておく。


 一方で俺は春の間に女の人達が集めてくれていたメープルシロップを持って、街へと向かう。


 二年目という事もあって十分な準備をしていたおかげか、今年の収量は小ぶりなたるに四本と大量になったようで、頑張ってくれたお礼に一樽をみんなで食べてもらう用にして、ガラス職人さんが作ってくれたびんに小分けして全員に配った。


 ちなみに今回もティアナさんに勧めてみたけど、やはり『樹液……』と言って口にしようとしなかった。


 相変わらず虫の食べ物だという認識が強いらしい。それでいいのか山の民……。


 それはともかく、とりあえず残りの三樽は街に運んで、去年同様帝国関係者から情報を取るための贈答品として利用する。


 小ぶりとはいえ一樽5リットルくらい入っているのを専用のガラス容器に移し替え、割れないように気をつけて山を越える。


 一回に運べるのは一樽分ずつだ。


 中州の拠点を経由してシルハくんを連れ出し、馬に乗って南東にある商会支店長さんの元へと向かう。



 ――支店の門をくぐると、中庭になにやら見かけない服装の一団がいた。


 この世界の服装は、今まで見てきた帝国も旧ジェルファ王国も、わりとゆったりした簡素なものだが、支店の中庭にいる人達は袖口が搾られた、元の世界の洋服。それもちょっと古い時代の洋服っぽい服装をしている。


 俺はその一団に強い興味を引かれ、店内に案内されると商談もそこそこに、支店長さんに話を向けた。


「表にいた変わった格好の方々は誰ですか?」


「変わった……ああ、西の国から来た行商人達です。帝国の侵攻……解放戦争以降姿を見せなかったのですが、最近また来るようになりました」


 帝国は侵略を解放と呼ばせているのか……まぁ、自分で侵略とは呼ばないよね。


 ――それはともかく、今は西の話だ。


「あの人達に話を聞いてみたいんですけど、仲介をお願いできませんか?」


「商談ですか?」


「商談……もするかもしれませんが、違う国の話を聞きたいのです」


「……そういう事であれば、今夜にでも宴席を設けましょうか? 彼等はお酒が大好きです。どれだけ話を聞けるかは提供するお酒の質と量によると思いますが」


 おお、さすが支店長。話が早いし的確だ。


「ではこれでしかるべき席を用意してください」


 そう言って、銀貨の10枚差しを二つテーブルに置く。


 価値にして20万ダルナ。10人くらいで宴席を設けるには十分な額のはずだ。支店長さんへの手間賃も込みで足りると思う。


 支店長さんは満足そうに笑顔を浮かべると、『今からでもよろしいですか?』と訊いてくる。


 外を見るとまだ明るくて、個人的にお酒を飲むのは夜のイメージだけど、電気のないこの世界ではわりと明るいうちに夕食を摂るし、飲む人は飲み始める。

 そして暗くなったら寝てしまうのだ。


 照明の油やロウソクは高価だし、夜道は危ないからね……。



 そんな訳で了承の返事をすると、支店長さんは西方の人達に話をしに行ってくれ、そのまま近くのお店へと向かう。


 メンバーは俺とシーラ。西方の人達が六人、支店長さんを加えた九人だ。


 支店長さんも来てくれるのはちょっと意外だった。


 言葉の問題で通訳とかいるのかなと思ったけど、ちょっとなまりはあるものの基本同じ言葉なので、意思の疎通に問題はない。


 ……支店長さん、俺がどんな話をするのか興味あるのだろうか?


 とりあえず情報収集をするだけだから、別にいいけどね。



 そんな事を考えながら、支店の近くのちょっと高級そうな店に到着する。


 この店は支店長の馴染なじみなのか、すぐに奥の個室に案内された。


 間もなく最初の料理とお酒が運ばれてきて、まずは乾杯なのだが、俺は子供の体だからお酒を飲まないし、シーラも護衛の任務中は基本飲まない。


 なので俺達二人は果実ジュースでの乾杯だ。


 西の人達はワインのような果実酒が好みらしく、一人一本瓶が並べられている。支店長さんも同じものを飲むようだ。


 これは、相手に合わせて好感度を稼ぐ手法だろうか? 勉強になるね。


 そんな事を考えながら簡単に自己紹介をし、俺は若手の行商人と名乗って、西方の情報を聞き出していく。


 合間合間に商品の話や行商の話を挟んで誤魔化しつつ、本命の国や政治状況についての話を聞く。


 ……初めは少し警戒する様子を見せていた西方の人達だったが、お酒が回るにつれてどんどん饒舌じょうぜつになっていき、銀貨を追加して更にお酒を提供すると、ほぼなんでも話してくれるようになった。


 女性の話や単なる自慢話など不必要な情報もあったけど、その辺はサラリーマン時代の飲み会で鍛えられているので適当に流しつつ、存分に情報収集をする事ができた。


 最後には全員酔い潰れてテーブルで眠ってしまったが、この店は上の階が宿になっているらしく、店員さんが手際よく酔い潰れた人達を運んでいく。



 俺は追加で宿代を払い、支店長さんの『ずいぶん熱心に訊き込んでいましたね』という探りを入れてくるような言葉に『西方での商売も考えていまして』と無難な返事を返しつつ、記憶が鮮明なうちに急いで宿に戻り、聞いた話を紙に書き出してまとめるのだった……。




帝国暦166年8月5日


現時点での帝国に対する影響度……0.0%


資産

・6906万ダルナ(-51万)

・エリスに預けた冒険者養成所運営資金 2455万ダルナ@月末清算(現在6月分まで)


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×237


配下

シーラ(部下・C級冒険者 月給なし)

メルツ(部下・反乱軍拠点訓練担当・E級冒険者 月給31万・内15万を上級傷薬代として返済中)

メーア(部下・反乱軍拠点メンタル担当・E級冒険者 月給31万・内15万を上級傷薬代として返済中)

エリス(協力者・反乱軍拠点運営担当 月30万を宿借り上げ代として支払い)

ティアナ(エリスの協力者 月給なし)

クレア(部下・中州の拠点管理担当 月給24万 帝国暦169年5月分まで給料前借り中)

オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の運営担当 日給4000で月24日仕事)

元孤児の冒険者21人(部下・F級冒険者だけど実力はE級相当 自分達の稼ぎから月収3万。残りは冒険者養成所運営資金に寄付)

セファル(部下・拠点間輸送担当・C級冒険者 月給30万)(弟も冒険者養成所会計補佐として雇用 月給5万)

ガラス職人(協力者 月給10万・衣食住保証)

船大工二人(協力者・帝国暦167年5月分まで給料前払い 月給10万・衣食住保証)

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