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121 東の拠点の安全性

 シーラと二人、陸路でアルパの街に戻って塩を倉庫に預け、エリスと経費の精算をして追加の運営費2000万ダルナを渡し、シルハ君と新しい馬を中洲の拠点に預けて、北の拠点に戻る。


 北の拠点に着くと、持ち帰られた部材で二隻目の双胴船の建造が始められていて、ほぼ完成状態にあった。


 仕事が速くてとても助かる。


 往復航海の成功に二隻目の完成祝いも兼ねた宴会を開く事になり、運んで来たお酒の半量を提供して、ガラス職人さんや船大工さん達はもちろん、女の人達にも飲んでもらう。


 もちろん希望者だけだけどね。


 残りの半量は販売に回して、給料から買ってもらう予定だ。


 ガラス職人さんの給料前借が6月で終わるので、支給後の使い道としていいと思う。女の人達の中にも買いそうな人がいるしね。


 一部は海狸かいり族にもおすそ分けに行こう。


 ちなみにティアナさんとは入れ違いになったようで、留守だったので宴会に参加できなかったけど、後日謝ったら『え? 私はエリスと幸せな時間を過ごしていたからなにも問題ないよ』と、極めて真剣な目で言われてしまった。


 全力で構いに行くティアナさんと、ちょっと迷惑そうなエリスの映像が浮かんできて、微笑ほほえましい気持ちになる……エリスには頑張って欲しい。



 そんな感じで一回目の航海が無事に終わった所で、二回目の航海に出る事にする。


 今回は船二隻で、一隻は冒険者の子三人で操船。荷物は定量の塩100袋300キロ相当。


 もう一隻は船大工の人達二人と、シーラの操船。荷物は俺と、東の拠点整備用の木材だ。


 東の拠点には現状簡素な小屋しかないので、倉庫になる建物を作るのである。



 そんな訳で、俺は大人しく荷物として運ばれる事六日。船は海を東進して川に入り、大山脈を回り込むようにして南に進路を向けた。


 この辺りが東の拠点のはず……と思っていたら、シーラが目印の小屋を発見したようで、近くの良さげな場所を見つけて上陸……するのかと思ったら、なにか様子がおかしい。


 シーラは厳しい表情をして船を止めさせ、じっと一点を見ながら言葉を発する。


「オオカミがいます」


 その言葉に俺も目を凝らすと、なるほど小屋の近くに灰色をした獣が20頭ほど群れている。遊牧民の人達が恐れていた、オオカミの群れなのだろう。


 ――どうしよう? まさか泳いで襲ってはこないだろうから、このまま川の上でどこかに行くのを待つか? いくらシーラが強くても、冒険者の子達と四人で20頭を相手にするのは分が悪いだろうし……。


 そう考えながら見ていると、なにか様子がおかしな事に気付く。


 オオカミが集まっている場所に30頭ほどのシカの群れがやってきて、オオカミに混じって草を食べはじめたのだ。


 シカにとってオオカミは天敵のはずなのに、二つの群れが混じり合って草を食べるなんて事があるのだろうか?


 て言うかよく考えたら、オオカミが草を食べているのもおかしいよね?


 ……だけど俺の目に映るのは、20頭ほどのオオカミと30頭ほどのシカが、顔を寄せ合うようにして一か所の草を集中的に食べている光景である…………あ。


 俺はふと、一つの事に思い当たった。


 あの場所。小屋からちょっと南に行った場所に心当たりがあったのだ。


 あそこは前回ここに来た時、塩の積み込み作業中に俺が一袋ぶちまけてしまった場所じゃないだろうか?


 そういえば野生動物。特に内陸に生きる野生動物にとっては、塩分はとても貴重な栄養素だと聞いた気がする。土を食べて塩分を摂取する動物の映像を観た記憶がよみがえってきた。


 ――という事はつまり、あの場所は俺がうっかり塩をぶちまけてしまったせいで、この辺り一帯の野生生物にとって貴重な塩分補給の場所になってしまったらしい。


 オオカミとシカは一緒に草を食べている訳ではなく、一緒に土をめているのだろう。


 どうしてオオカミがシカを襲わないのかは分からないけど、単にお腹がいっぱいなのか。あるいは重要な場所なのでみんなで共有しようみたいな、暗黙の了解ができたのだろうか?


 ……だったら俺にもワンチャンある気がするよね。


「シーラ、船を岸につけて」


 そう言葉を発すると、同じく戸惑いの表情を浮かべていたシーラは一瞬驚いた様子だったが、俺の事をそれなりに信頼してくれているからか、『はい』と返事をして帆を操作し、船大工の人もそれを見てかじを取ってくれた。



 ……ゆっくり、じりじりと船は岸に近付き、オオカミ達もこちらに気付いたようで、何頭かが耳をピンと立ててこちらを見る。


 シーラが緊張して武器を取るが、それを制し。塩の袋一つを持って船から降り、少し進んだ所で一掴みを地面に盛って、ゆっくりと船に戻る。


 船上から様子を観察すると、オオカミの中から一際大きな一頭が歩み出てきて、こちらを警戒するようにじっと見ながら前に進み。塩の前まで来ると、そっと慎重に一舐めした。


 ――それを合図にするように他のオオカミ達もやってきて、シカの群れもそれに続く。


 これは仲良くなれそう……だろうか?



 塩を一舐めした後じっとこちらを見ているオオカミのリーダーらしき個体と目と目で会話を試みる……が、正直よく分からない。


 だけどキサ父がとても賢いと言っていたから、ここで俺を殺して今ある塩を奪うより、仲良くして継続的に塩を手に入れた方がお得……と気付いてくれないないだろうか?


 そんな事を考えながら見ていると、十分塩分を補給し終わったのかシカの群れは北の方に去っていき、オオカミ達はリーダーの元に集まっていく。


 ……俺はシーラに『ここで待ってて。危なそうだったら声かけてね』と言って再び船から降り。塩の袋を抱えて北西方向。ちょっと小高い丘へと向かう。


 時々振り返ると、オオカミ達は一定の距離を取って、付かず離れず俺の後をついて来ていた。


 最悪の場合は塩の袋を放り出して逃げれば、みんな袋の方に行ってくれないかなと思っているけど、どうなんだろうね?



 ――適当な所まで歩き、そこに塩の袋を置いてその場を離れると、オオカミ達は袋の周りに集まって臭いを嗅いだりし始めた。ちょっと犬っぽい。


 袋のままだからかなりの防水性があって雨にも強いし、ちょっと噛み破って少しずつ舐めれば、かなり長持ちすると思う。


 シカをはじめ他の動物達と仲良く食べてくれて、代わりに俺達を襲わないでくれると大変ありがたいんだけど……。


 そう思いながらしばらく見ていると、オオカミ達は袋の端をちょっと噛み破り、中身が出てきたのを確認すると、丘の上にずらりと並んで俺達を眺め始めた。


 ……見守ってくれているのか、襲おうとして隊形を組んでいるのか微妙な所だけど、あまり敵意を感じないので前者だろうか? だといいなぁ……。


 シーラの所に戻って『敵意感じる?』と訊いてみたら、『いえ、むしろ友好的な気配さえ感じます』という返事だった。


 気配察知には定評があるシーラさんの見立てなので、俺の感覚よりだいぶ信用できると思う。


「よし、じゃあ上陸して倉庫作ろうか」


 そう言うと、冒険者の子達はちょっとおびえた顔をしたけど、シーラが『はい』と返事をして先頭に立って木材を運び始めると、すぐにそれに続いて動き出した。


 シーラはホントに信頼されてるね。背中で部下を引っ張る、優秀な現場指揮官だ。


 船大工さん達はあまりにも脅えて顔を青褪めさせていたので、二隻の船に一人ずつ残って番をしてもらう事にし、俺達だけで倉庫を作っていく。



 ……北の拠点で部材を削り出し、あとは組み立てるだけだった倉庫はみるみるうちに形になり、塩を運び込むと、その日はそこで一泊する事にする。


 船大工さん達は本人の強い希望で船で眠り、冒険者の子達と俺、シーラの五人は倉庫の中で夜営用の寝袋に入る。


 その晩はオオカミ達の事が気になって満足に眠れない……という事もなく。わりとぐっすり眠って起きてみると、俺が最後でみんなもう朝食の準備をしてくれていた。


 慌てて手伝い、船にいる船大工さん達にも運ぶが、その時にはもうオオカミ達の姿は消えていたので、船大工さん達も倉庫に呼んで一緒に朝食を食べる。


 とりあえずこれで今回の目的は果たされた。今回は帰りの荷物はないので、そのまま帰還だ。


 船に乗り込んで出航すると、まるでどこかで見ていてタイミングを計っていたように、また丘の上にずらりとオオカミ達が姿を現した……。


 と言うか、多分どこかで見てたんだろうね。シーラが時々遠くの方に視線を向けていたし。


 敵意は……今回も感じないかな。見送ってくれている感じだ。


 これは、友好関係を結ぶ事ができたという事でいいのだろうか?



 そうだといいなと思いながら、俺は丘の上からこちらを見下ろすオオカミのリーダの姿をじっと見つめ、ちょっと手を振ってみたりするのだった……。




帝国暦166年7月20日


現時点での帝国に対する影響度……0.0%


資産

・6957万ダルナ(+3880万)

・エリスに預けた冒険者養成所運営資金 2455万ダルナ(+1551万)@月末清算(現在6月分まで)


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×237


配下

シーラ(部下・C級冒険者 月給なし)

メルツ(部下・反乱軍拠点訓練担当・E級冒険者 月給31万・内15万を上級傷薬代として返済中)

メーア(部下・反乱軍拠点メンタル担当・E級冒険者 月給31万・内15万を上級傷薬代として返済中)

エリス(協力者・反乱軍拠点運営担当 月30万を宿借り上げ代として支払い)

ティアナ(エリスの協力者 月給なし)

クレア(部下・中州の拠点管理担当 月給24万 帝国暦169年5月分まで給料前借り中)

オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の運営担当 日給4000で月24日仕事)

元孤児の冒険者21人(部下・F級冒険者だけど実力はE級相当 自分達の稼ぎから月収3万。残りは冒険者養成所運営資金に寄付)

セファル(部下・拠点間輸送担当・C級冒険者 月給30万)(弟も冒険者養成所会計補佐として雇用 月給5万)

ガラス職人(協力者・帝国暦166年6月分まで給料前払い 月給10万・衣食住保証)

船大工二人(協力者・帝国暦167年5月分まで給料前払い 月給10万・衣食住保証)

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