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12 西へ

 服が乾くのを待つ間、一つシーラと話しておかなくてはいけない事がある。


「シーラ、この先余は……俺は皇帝ではなくなるし、出自しゅつじも隠さなくてはいけなくなる。だから人前でも不審に思われない関係と、呼び方を決めておきたい」


「なるほど……関係はお忍びで旅をしている貴族の子供と、その護衛兼世話係でよいと思います。呼び方は……アムルサール様ですから、『サール様』とかでしょうか?」


 うーん……本当は姉と弟とかがよかったけど、ここはシーラの希望に従おう。


 関係を大きく変えると慣れるのに時間がかかるだろうから、今は逃亡に集中するべきだろう。


 そして呼び方は……元の世界の言葉的に、『サル』って言われているように聞こえるよね。


 シーラにサル呼ばわりとか、正直ちょっと興奮しないでもないが。そういうのは別の機会に取って置くとして、今はシリアスモードでいこう。


「もうちょっと違う名前がいいかな」


「――では、『アムルサール』の最初と中と最後を取って、『アルル』はいかがでしょうか?」


『ばよえー……』一瞬なにかが脳裏をよぎったが、なんか女の子のイメージがある名前だし、連鎖とか得意そうだよね。


「一字多く取って『アルサル』にしてくれない?」


「承知しました」


「うん……シーラの名前はそのままで大丈夫?」


「さして珍しい名前でもありませんから、問題ないでしょう。……ではそろそろ出発しましょうか」


「わかった。改めてよろしくね、シーラ」


「はい、アルサル様」



 そんな遣り取りを交わし、俺達は服を着て本格的な逃避行とうひこうに入る。


 下着は乾いていたけど、厚さのあるズボンはまだ生乾きだ……まぁ、この天気なら歩いている内に乾くだろう。


 まずはどこかの街で、旅の装備を整えたいね。


 俺はしっかりした服を着ているけど、シーラは元々薄着だった上に、川に飛び込む時に身軽にしたのだろう。ほとんど下着みたいな布しか身につけていない。


 一応俺の上着を貸したけどシーラの方が背が高いので、これはこれでエロイ感じになってしまっている。


 くつも履いていなくて裸足はだしだし、護身用の武器もいるだろう。


 食料や水、できれば馬も欲しいよね。俺は乗れないけど。


 そんな事を考えながら歩いていると、周囲は背の高い草むらから草原に変わり、しばらくして道に出た。


 舗装ほそうはされていない土の道で、馬車一台は通れそうだけどすれ違うのは大変そうな、そんなサイズの道だ。人通りは……見える範囲では誰もいない。


 とりあえず歩きやすくなるのは助かるし、道を辿っていけば街に着くだろう。


 俺達は早速、進路を西にとって歩き出す……。



 若い体というのは素晴らしいもので、ヒザが痛くないし、持久力も段違いだ。


 だけど体力的にはシーラに敵わないようで、付いて行くだけで精一杯。むしろちょっと気を使って、ゆっくりめに歩いてくれている気がする。


 ――と、不意にシーラが足を止めて後ろを振り返り。『アルサル様、こちらへ』と言って、俺を近くの岩陰へ引っ張り込む。


 何事かと思っていると、しばらくしてかすかに地面が揺れるのが感じられ、ややあってひづめの音と共に、騎馬兵3騎が駆け抜けていった。


 見覚えのあるよろいなので、皇帝に同行していた護衛だろう。川のこっち側に渡ってきて、俺達を探しているらしい。


「……一人しか武器を持っていませんでしたね。身軽にして速度を優先させたのでしょう。捜索であって追跡ではないという事です。少なくとも逃亡したとは感付かれていないようですね」


 シーラが冷静な分析をしてくれる……将軍の娘だけあって、この手の事には詳しいのだろう。


 いち早く騎兵の気配を察知した事といい、すごく頼りになる。



 ……騎兵をやり過ごした俺達は歩くのを再開するが、この状況はよくないかもしれない。この先の街に、俺達の捜索依頼的なものが回っている可能性がある。


 どうしようかなと思いながら一時間ほど歩いていたら、遠くにレンガでできた壁のようなものが見えてきた……どうやら街らしい。


「――シーラ、ちょっと止まって」


 真っ直ぐ街に向かおうとするシーラを止め、様子を観察する。


 壁の高さは2メートルくらいだろうか? あまり厳重という感じはしない。


 ここに来るまで何人かとすれ違ったが、一人旅の人も多かった。


 さすがに帝都の近くだけあって治安は良好で、盗賊とかは出ないのだろう。


 川には魔獣とか出るみたいだし、道中シーラに訊いたら街道に出る事もあるみたいだけど、危険度としてはそう高くないようだ。


 元の世界で言うと、たまにくまが出るくらいのイメージだろうか……めっちゃ危険度高くない?


 いやまぁ、日本でも街中に熊が出てニュースになる事はあったけどさ……。


 ――それはともかく、問題は入口にいる警備の兵士だ。


 あまり気を張っている様子はないが、俺達を追い抜いて行った護衛の騎兵から捜索依頼が行っている可能性は高い。


 そして、出入りする人の通行証みたいな物をチェックしているようにも見える。通行証かぁ……。


「ねぇシーラ、通行証的な物って持ってたりする?」


「残念ながら、今持ち合わせているのはこの体と宰相への復讐心だけです」


 ……ちょっとカッコイイけど、宰相への復讐心じゃ街に入れないよね……体の方はワンチャンあるかもしれないけど、それは却下だ。


 どうしようかと悩みながら観察を続けていると、門から少し離れた所。外壁の影に隠れるように人の集団がいるのに気が付いた。


「……シーラ、あれなんだか分かる?」


「分かりませんが、不穏な気配は感じません」


「そっか……」


 こんな遠くからでも気配が分かるのかなと思うが、シーラが言うなら信用できる気がする。


 ……ちょっと不安だけど、このままここにいてもしょうがないので、とりあえずあそこに行ってみるか。



 俺はちょっとビビりながら、少し道を外れて人だかりに接触を図るのだった……。




現時点での帝国に対する影響度……0.0%


資産

・宝石を散りばめた犬のぬいぐるみ


配下

シーラ(部下)

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