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119 東方交易(前)

 アルパの街で大量の布とロープ、くぎやその他物品を調達して北の拠点に戻ると、木材はすっかり加工済みで、あとは組み立てを待つばかりになっていた。


 話を聞いてみると、ティアナさんの他に海狸かいり族の人達も来て手伝ってくれたそうで、船大工の人達は初めて見る獣人に最初戸惑ったそうだけど、今はすっかり仲良くなっている。


 同業者……ではないけど、同じ木材を扱う者同士、通じ合う所があったようだ。


 そんな訳で早速双胴船製作に取りかかり、帆は女の人達が布を縫い合わせてくれ、大きいのが一枚と、補助の三角帆が一枚完成した。


 出来上がった船をテストしてみると、安定性は上々。一人ずつ乗ってみたら、船大工さん達の判定で10人は大丈夫との事だったので、操船に必要な三人を除いて、荷物を350キロくらい積める計算になる。


 50キロは乗員の水や食料、補修部品や生活雑貨なんかに宛てるとして、実質輸送量は300キロくらいだろうか。中々の量だと思う。


 冒険者の子達に交代で操船の訓練をしてもらい。海狸族の人達にも手伝ってもらって、白アスファルトで作ったブロックを使って埠頭ふとう造りもはじめる。


 操船訓練は船大工さん達に指導してもらうが、帆の角度やかじを上手に使う事で、ジグザグ走行で風上にも進めるのだそうだ。


 いざとなれば帆を畳んで手漕ぎでの走行も可能なので、荒天時以外は前に進めるらしい。頼もしいね。


 道中魔獣に襲われる心配もしたけど、海狸族の皆さんからの情報によると、この辺りの海に出る魔獣はサメタイプ。川だとワニタイプであるらしく、船の上なら基本安全だろうとの事だった。


 西の外洋に行くと大きなイカ、クラーケンみたいなのが出るから船でも危ないけど、この辺りより東では見た事がないそうなので、多分大丈夫だろうとの事。


 一応自衛用に弓ややりも積むけど、大きなクラーケン相手にどこまで戦えるかは疑問だからね……。



 そんなこんなで冒険者の子達に一通りの操作を覚えてもらった所で、実習を兼ねて初航海に出る事にする。


 とりあえず初回は成績優秀だった乗員三人の他に船大工さんにも乗ってもらい、荷物を減らして安全航行でいく。


 東の拠点予定地まで陸路で11日かかったけど、海路だとどのくらいだろう?


 風の加減とかでズレる気もするので、10日後に出発してもらう事にして。俺とシーラは一旦大山脈を越えてアルパの街に向かい、陸路で先回りを目指す。


 一応地図を渡すけど俺が作った大雑把なものなので、先に着いて待っているのが確実だろうし、帰りの荷物も用意しておきたいからね。


 ちなみに冒険者の子達は順調に成長しているらしく、七人でも拠点の護衛は大丈夫だろうとのシーラの判断で、護衛は冒険者の子達に任せて、ティアナさんには山を越えての塩輸送任務に戻ってもらう。


 冬の間エリスに会えなかった分、今のうちにエリス成分を補給しておかないと情緒不安定になっちゃうからね。


 エリスの方も六日に一度中州の拠点に通ってもらっているので、ティアナさんがいない日ばかりだと無駄足になってしまうから、この方がいい。



 ――そんな訳で俺達は中州の拠点でシルハくんを仲間に加え。アルパの街に寄ってエリスと話をした後、一路東を目指す。


 エリスと会った時に経費の清算をしたけど、船の材料費だけで100万ダルナ近くかかったし、北の拠点のみんなに五月分の給料を払ったのに、ティアナさんの塩輸送一回分の利益で大幅黒字になるのはすごいね。


 改めて感心しながら馬を駆り、元の国境を越えて帝国本領に入るが、今は国境がなくなったおかげで入国審査的なものがなく、スムーズに通れるのは利点かもしれない。


 ……代わりに旧ジェルファ王国内には関所がいっぱい作られて、毎回通行料を取られるので、トータルではデメリットの方がはるかに大きいけどね。



 帝国に搾取さくしゅされながら遊牧民の集落から一番近い街に着き、船の帰り便に積む商品を仕入れる。


 もう一隻双胴船を作る用の布やロープやくぎ。穀物、お酒などだ。


 買った物は遊牧民の集落との間にある村に届けてもらうように手配し、俺達は先行して遊牧民の村まで進む。


 ――遊牧民の大半はもうどこかに移動してしまったらしく。少数のテントがあるだけだったが、契約通り馬の繁殖をしてくれているようで、若い男の人が四人働いていた。


 一人は確か、キサのお兄ちゃんだったと思う。


 他の三人に見覚えはなかったけど、向こうは俺の事を知っているようで、友好的に迎えてくれた。


「南の村に荷物が届く予定なんですけど、馬を三頭連れて引き取りに行って頂けませんか?」


 荷物の量的に、多分三頭いれば足りると思う。そうお願いすると、キサ兄がすぐに了解の返事をしてくれ、別の男の人に指示を出すと、一人が馬を三頭を連れてやってきた。


 さすが遊牧民。一人で三頭扱えるんだね。


 ちょっと感心しながら契約書と商品代金の半分を渡すと、男の人はすぐに馬を駆って走り出す。


 ここと村の距離は馬で半日ほどだから、今日中に着けるだろう。


 商品代金はこの手の取引で一般的な方法で、契約時に半分を。商品の引渡し時にもう半分を払う事になっている。


 売る方は空注文ではないか、買う方はちゃんと商品が引き渡される事が保証されるいい方法だと思う。


 遊牧民の人に取りに行ってもらえば、遊牧民からの注文だと思われて俺が目立たないので、その意味でもいい方法だ。



 荷物が届くまで今夜はここで一泊をお願いし、近況を聞く。


 キサ父は俺との契約通りにここを固定の集落にしてくれたそうで、次男を代表に五人を常駐させて、馬の繁殖に当たってくれているそうだ。


「……五人? もう一人はお出かけ中ですか?」


「羊の放牧に出ています。馬の繁殖が主で食料を買うお金を頂いているとはいえ、日常の食事は自前で調達したほうが効率がいいですから」


 なるほど、それはもっともだ。


 遊牧民は一箇所の草を食べ尽くしたら移動するらしいけど、家畜が少数ならずっと同じ場所に留まれるだろうしね。


 ……ちなみに馬は春が出産の時期だそうで、可愛らしい子馬が沢山いた。


 そして子馬の成長は早く、人間と違って産まれて数時間で立って歩けるようになるので、夏の間に調教を行い、秋には人間を乗せて走る事ができるようになっているらしい。


 その頃には乳離ちばなれもして、一人前の馬となる。まだ子馬だとはいえ、大人の七・八割くらいの力が出せるのだそうだ。


 遊牧民の人達が使う分もあるから全部売ってくれる訳じゃないと思うけど、来年までには結構な戦力強化が期待できそうだ。



 馬知識を聞きながら子馬をで。シーラが普段見せないような優しい表情をしているのを見て、(やっぱり馬が好きなんだね、穏やかな表情可愛いなぁ……)と癒されていると、突然『アルサルさん!』と聞き覚えのある声が響いてきた。


 声の方に視線を向けると、そこには馬の背に乗って嬉しそうに手を振るキサの姿。五人目はキサだったらしい。


 キサは俺達の前まで来て巧みに馬を止めると、ヒラリと地面に降りる。カッコイイな。


「久しぶり、すっかり乗馬が上手くなったね」


「アルサルさんが教えてくれたおかげです!」


「いや、教えたのはシーラであって俺じゃないけどね……」



 そんなやり取りを交わし。兄に怒られて羊を囲いに入れに行くキサの背中を見ながら、俺は子供の成長を喜ぶ親の気持ちがちょっとだけ分かったような気になるのであった……。




帝国暦166年6月23日


現時点での帝国に対する影響度……0.0%


資産

・3077万ダルナ(+157万)

・エリスに預けた冒険者養成所運営資金 904万ダルナ(-451)@月末清算(現在5月分まで)


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×237


配下

シーラ(部下・C級冒険者 月給なし)

メルツ(部下・反乱軍拠点訓練担当・E級冒険者 月給31万・内15万を上級傷薬代として返済中)

メーア(部下・反乱軍拠点メンタル担当・E級冒険者 月給31万・内15万を上級傷薬代として返済中)

エリス(協力者・反乱軍拠点運営担当 月30万を宿借り上げ代として支払い)

ティアナ(エリスの協力者 月給なし)

クレア(部下・中州の拠点管理担当 月給24万 帝国暦169年5月分まで給料前借り中)

オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の運営担当 日給4000で月24日仕事)

元孤児の冒険者21人(部下・F級冒険者だけど実力はE級相当 自分達の稼ぎから月収3万。残りは冒険者養成所運営資金に寄付)

セファル(部下・拠点間輸送担当・C級冒険者 月給30万)(弟も冒険者養成所会計補佐として雇用 月給5万)

ガラス職人(協力者・帝国暦166年6月分まで給料前払い 月給10万・衣食住保証)

船大工二人(協力者・帝国暦167年5月分まで給料前払い 月給10万・衣食住保証)

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