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118 船大工

 海狸かいり族の皆さんのおかげで丸木舟は完成したが、動力と操縦性向上のため、船の専門家を探しに行く。


 大山脈を越えて中州の拠点に向かい、クレアさんに会うと、すでに二人の男性が俺達を待っていた。


 紹介によると、クレアさんの故郷の街で船大工をやっていた人で、腕は確か。


 戦いの時は船で怪我人や子供達を退避させる任務に当たっていたので、怪我もしていない。


 今すぐにでも十全の仕事ができるし、家族もいないから何年も街を離れても問題ない。道具も一通り揃っている。


 そして帝国に対する恨みも強く、帝国と戦うためならなんでもやるという強い決意を秘めているのだそうだ。


 ――まさに最適な人材だ。さすがクレアさん、任せて安心だね。



 こちらも簡単な自己紹介をし、何年も帰れないけど大丈夫かと再確認したら、帝国と戦う役に立てるなら問題ないとの事だった。


 一応待遇の話もして、衣食住全支給で月給10万ダルナ。一年分前借り可能と話したら、二人共全額前借り、故郷の街への送金を希望した。


 ガラス職人さんと同じ対応だね……そして送り先は、街を占領している帝国軍への反抗を企てているクレアさんの実家商会。


 家族の仇討ちと街の解放が悲願というのも同じらしい。



 雇用契約はすぐにまとまって、シーラがちょっとだけシルハくんをでに行った後、とんぼ返りで北の拠点に戻る。


 船大工さん達は足腰も頑健がんけんで山越えも問題なく、順調に北の拠点に到着できた。


 みんなに紹介すると、ガラス職人さんとは顔見知りだったらしく、懐かしそうに肩を叩いて再会を喜び合っていた。


 船大工さん達は私物でお酒を持ってきていて、『落ち着いたらみんなで一杯やろう』と楽しそうに話している……そういえばここ、お酒ないね。


 自分が飲まないから気付かなかったけど、仕入れた方がいいかもしれない。


 重量物なので山越えはしんどいけど、船で東回りルートなら運べると思う。


 ここは穀物が採れないのが難点で、女の人達が給料から注文しているが、運べる量はごく僅かだ。


 それも運んでくれば食生活が豊かになるし、穀物からはお酒も作れる。


 俺は作り方を知らないけど……またクレアさんに訊いてみようかな。


 そんな事を考えながら、とりあえず丸木舟を見てもらう。


「――ほう、こいつは大したもんだ……」


 船大工さん達は、海狸族製作の丸木舟を見て感嘆の声を上げた。


 どうやら本職が見てもいい出来らしい。波が穏やかな場所なら十分実用になるとお墨付きを頂いた。


 ……とはいえ小さな船なので、強い波を受けたら転覆してしまう可能性は高いらしい。


 運航場所は内湾と川なので極端に荒れる事は少ないと思うけど、できるだけ安全を確保したいよね……。


「安定性を増すにはどうしたらいいですか?」


「横に棒を張り出しておもり兼浮きになる浮き舟を取り付けるか、二隻を繋いだ双胴船そうどうせんにするかだな」


 なるほど……ちょうど四隻あるし、人手が少ない事を考えると、二隻まとめて運行できる方が都合がいい気がするね。


「双胴船はなにか不都合や不利な点はありますか?」


「幅が広くなるから安定性が増す代わりに、小回りが利かなくなる。それと図体ずうたいが大きくなる分、気軽に一人二人で漕いで進むような用途には使いにくいな。


 あとは普通の船二隻よりも作るのに手間と材料が必要だから、値段が高くなる」


「なるほど……」


 小回りに関しては拠点間の輸送に使う予定で、東の拠点になる場所も十分な川幅があったので、特に問題はないと思う。


 なにかを追いかけたり、逃げ回ったりする訳じゃないからね。


 気軽なちょっと使いがしにくくなるのも、まとまった輸送目的なので問題ない。


 手間とコストに関しては、それで船の安定性が上がって輸送量も増えるなら、十分妥協できる……。


「わかりました、では双胴船にしてください。なにが必要ですか?」


 そう伝えて、とりあえず丸木舟二隻で一隻の双胴船を作ってもらう事になった。


 かじや帆、二隻の丸木舟を繋ぐ棒や板などが必要だそうで、木材は豊富にあるけど、帆を作る用の大きな布や大量のロープ。くぎなんかは買ってこなくてはいけない。


 とりあえず一隻分の材料を聞き取った所、とても俺とシーラで運べる量ではなかったので、ティアナさんに拠点の護衛をお願いし。冒険者の子達10人を連れて買い出しに行く事になった。


 その間に二隻を繋ぐ部材を用意し、舵とか帆柱とかを作ってもらうので、木工が得意なティアナさんがいてくれるのは丁度いい。



 ――そんな訳で、せっかくの大人数での移動だし。冬の間に作り溜めた塩が大量にあるので、持てるだけ持ってエルフの集落に寄っていく事にした。


 最近は俺達が通ってもスルーしてくれているけど、適当な所で止まって大声で呼んでみると、音もなく人影が姿を現す。


 冒険者の子達は全然気配を感じ取れていなかったようで、動揺しているのが昔のシーラを見ているようでちょっと懐かしい。


 まぁ俺も適当な場所で呼んだだけで、気配なんて欠片も感じ取れてないけどね。


「お久しぶりです。今日は塩を沢山持って来たのですが、以前お願いした傷薬の量産は進んでいますか?」


「うむ、ついてこい」


 人影ことエルフの男性。ティアナさんの弟さんは俺達一行の荷物を見て、森の奥へと案内してくれる。


 前にも行った倉庫かなと思っていたら、そことは違う場所。森の中にポツンとある小屋に案内された。


 中を覗いてみると、山積みされた箱にギッシリ薬ビンが詰まっている……なるほど、薬の取引専用の場所を作ってくれたのか。


『たくさん』と注文したから、取引にも大勢で来る事を予想したのだろう。


 その大勢を村に近付けないために、わざわざこの場所を作ったのだ。


 エルフ族の人間嫌いは徹底しているね……。


 いっそちょっと感心しながら、運んできた塩を確認してもらい、代わりの傷薬を受け取る。



 ……取引の結果、塩60袋で傷薬180本という取引になった。業者かな? まぁ業者みたいなものだけどさ。


「ちなみに塩の需要ってまだあります?」


「以前にも言ったが、腐るものでもないからあればあるだけ買い取るぞ」


 おお、さすがだ。


 不足していた貴重品が大量に手に入るようになったら、買い溜めしたくなる気持ち。分からなくもない。


「ではまた持ってきますので、薬の量産お願いしますね」


「わかった」


 相変わらず無愛想なティアナ弟さんに握手を求めてスルーされ。お姉ちゃんはあんなに人懐っこいのに、姉弟でずいぶん違うなと思いながら、塩を薬ビンに持ち替えて山を下っていく。


 重さ的にはかなり軽くなったので、足取りも快調だ。



 ……そんな訳で中州の拠点に到着し、戦いに備えて傷薬を備蓄しておく。


 戦争になったら、いくらあっても足りないだろうからね。



 そうして身軽になった俺達は、船の材料を求めてアルパの街へと向かうのだった……。




帝国暦166年5月29日


現時点での帝国に対する影響度……0.0%


資産

・2920万ダルナ(-240万)

・エリスに預けた冒険者養成所運営資金 1355万ダルナ@月末清算(現在4月分まで)


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×237(+180)


配下

シーラ(部下・C級冒険者 月給なし)

メルツ(部下・反乱軍拠点訓練担当・E級冒険者 月給31万・内15万を上級傷薬代として返済中)

メーア(部下・反乱軍拠点メンタル担当・E級冒険者 月給31万・内15万を上級傷薬代として返済中)

エリス(協力者・反乱軍拠点運営担当 月30万を宿借り上げ代として支払い)

ティアナ(エリスの協力者 月給なし)

クレア(部下・中州の拠点管理担当 月給24万 帝国暦169年5月分まで給料前借り中)

オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の運営担当 日給4000で月24日仕事)

元孤児の冒険者21人(部下・F級冒険者だけど実力はE級相当 自分達の稼ぎから月収3万。残りは冒険者養成所運営資金に寄付)

セファル(部下・拠点間輸送担当・C級冒険者 月給30万)(弟も冒険者養成所会計補佐として雇用 月給5万)

ガラス職人(協力者・帝国暦166年6月分まで給料前払い 月給10万・衣食住保証)

船大工二人(協力者・帝国暦167年5月分まで給料前払い 月給10万・衣食住保証)

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