116 東回り交易ルートの完成
キサ母から許可を貰い、スープに塩を入れる。
大きな鍋でけっこう量があったので、軽く一掴み『バサッ』と入れたら、キサ父が目を丸くした。
軽く一混ぜして味をみたら、わりといい塩梅になったと思う。キサをはじめ、みんなにも大好評である。
……さりげない感じで、『交易が本格化すれば塩も今より安く提供できると思いますよ』と言ったら、キサ父をはじめ全員の目の色が変わった気がした。
やっぱり美味しいごはんの影響力は強いね。協力が順調に行きそうでなによりである。
……そんな訳で食事のあと一泊の宿を借り。翌朝は夜の残りを朝食として頂いた後、キサと一緒に放牧に出て、近くで乗馬の練習をした。
昨日、泊めてもらえるよう口添えをしてくれたお礼である。
――と言っても、教えるのはシーラで俺は見ているだけだけどね。
まだ鐙の発明前だったら、元の世界知識で……ってのができたかも知れないけど、この世界には普通にあるんだよね……。
まぁそれはともかく、聞いた所によると遊牧民の乗馬の練習は『とりあえず乗って覚える』方式で、子供なので馬の上に体を押し上げる所は手伝ってもらうが、あとは習うより慣れろ方式であるらしい。
そしてキサはその初回で強めに落馬してしまい、それ以降馬が怖くなったのだそうだ。
だから俺とシーラが一緒に乗り、抱きかかえる形で慣れさせたのはとても効果があったようだ。
シルハくんはシーラの言う事はとてもよく聞いて大人しいしから、練習にうってつけだしね。
……そんなこんなでしばらく訓練をし、いよいよ一人で馬に乗る事に挑戦する。
今までの二人乗りからシーラが地面に降り。手綱を取ってゆっくり歩く。
それに慣れたら次は手綱をキサに渡し、一人で乗る。
仕上げはシルハくん以外の馬に乗り、シーラが手綱を持った状態で歩いた後、慣れてきた所で手綱を渡すという丁寧な行程を踏んだ結果、キサは見事一人で馬に乗れるようになった。
たった半日でここまで上達したのは、やはり遊牧民の血だろうかと感心しきりだ。
シーラの教え方が上手かったのかもしれないけどね……て言うか、シーラの指導が思ったより優しくてちょっと意外だった。
冒険者の子達からは鬼教官みたいに恐れられていたのにね。
……まぁ、恐怖から馬に乗るのを怖がっている子に厳しくしても逆効果だろうから、その辺は空気を読んだのだろう。シーラは教官として成長しているのかもしれないね。
とりあえずこれで心残りもなくなったので、行動を再開する。
笑顔で手を振って見送ってくれるキサにこちらも手を振って別れ、南にあるという村に向かう。
キサ父によると馬を飛ばせば半日ほどとの事だったので、今日中に着けるだろう。
――草原を快調に走る事半日。キサ父が言っていた通り、川沿いに小さな村があった。
やっぱり人間が住む所は川沿いなんだね。
そんな所で感心しつつ。宿を取って一泊したが、ここは特に代わり映えのないごく普通の村だった。
キサ父に聞いた所ではこの辺り一帯に取引している村が三つあるそうだけど、どこも似たようなものらしい。
物価を調べようとしたら、村には市場はおろか常設の商店すらなく。村長の所に物資の備蓄があって、個別交渉で物を売ってもらう形式だった。
秋になると、遊牧民との交易目当てで行商人が大勢来て賑わうらしいけど、今はのどかな田舎の村という感じだ。
そんな訳で一泊して、大きな街道への道を訊く。
翌朝から更に南下したらわりと大きな街に出たけど、帝国領らしいので目立たないように迅速に進路を西に取り。以前の国境を越えて、四日目に懐かしのアルパの街に帰ってくる事ができた。
総行程18日で東回りの移動に成功して、一応地図を作り。交易路として使える可能性が開けた訳だけど、軽装で馬を駆っての移動だったので、荷物を運んでとなると何日かかるかは分からない。
大山脈の東端から大平原、村・街・アルパへの移動は今回より日数がかかるだろうけど、一番時間を取られた大山脈の北側を東進する行程は、船の速度次第で短縮も可能だと思う。
ともあれ移動できる事は判明したので、本格的に交易路として開発してみよう。
そのためにはまず船の確保だけど……。
頭の中で計画を立て、まずは中州の拠点に向かってクレアさんに手紙を書いてもらう。
クレアさんの故郷の街には大きな湖があったので、そこで働いていた船大工がいないか弟さんの商会に探してもらうのだ。
今は定期的にメルツ達が往復しているのでその案件を任せ。シルハくんは山越え辛いので、ここに預けていく。
クレアさんの故郷の街から孤児達を大勢受け入れるので、食糧などの荷物輸送とか、冒険者としての乗馬訓練とか。活躍の機会は多いだろう。
シルハくんはちょっと気難しい馬だけど、シーラがよく言い聞かせてくれたので大丈夫だと信じたい……。
そんな訳で、俺達は大山脈を越えて北の拠点へと戻る。
ちょうどティアナさんも帰って来た所だったので、木工が得意なのを見込んで話を振ってみる。
「ねぇティアナさん、船って作れますか?」
「ふね?」
お、やっぱり船知らないか……何百年と生きていてもずっと山暮らしだもんね。
「細長いお椀みたいな形で、水に浮かべて人や物を運ぶものなんですけど」
「うーん、さすがに知らないものは作れないかな。見本とかないの?」
「見本はないですね……。じゃあ、木を切って板を沢山作ってくれませんか? 船の材料に使うので」
「それは別にいいけど、厚さとか長さとか決まってる?」
「…………」
長さは切ったり継いだりである程度なんとかなる気がするけど、厚さは分からないな…………あ、そうだ!
「ティアナさん、丸木舟っていうのがあってですね。できるだけ大きな木を横倒しにして上からくり抜いて、人や物を積めるようにした物なんですけど……って説明で分かります?」
「なんとなく……橇みたいなもの?」
「あ、そんな感じです。それをなるべく大きくして、雪の上じゃなくて水の上を移動する感じで。……て言うか、橇は使うんですね」
「雪が積もった時に子供が遊んだりするね。でも大体分かった……けど、それ作るなら私より適任がいる気がするよ」
「え、誰です?」
「海狸族だよ。木を削る事に関しては私より上手い」
「――ああ、なるほど!」
ビーバーみたいなあの種族なら、確かに木を削るのは得意そうだ。
そういえば船ではないけど、堰き止めた池で筏みたいな物を使っていた記憶もある。
「それはいいですね! ありがとうございます、訊いてみます」
「うん。大きい木ならいっぱい生えてる場所知ってるから、教えてあげる」
「助かります」
そう返事をして、北の拠点の護衛をティアナさんに任せ。
俺はシーラと冒険者の子10人を連れて、まずは海狸族の集落に向かう。
人間関係……人間でははないけど、関係というのは繋いでおくものだね。思わぬ所で役に立つ……。
帝国暦166年5月9日
現時点での帝国に対する影響度……0.0%
資産
・3160万ダルナ(+1321万)
・エリスに預けた冒険者養成所運営資金 1355万ダルナ(-450万)@月末清算(現在4月分まで)
・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)
・エルフの傷薬×57
配下
シーラ(部下・C級冒険者 月給なし)
メルツ(部下・反乱軍拠点訓練担当・E級冒険者 月給31万・内15万を上級傷薬代として返済中)
メーア(部下・反乱軍拠点メンタル担当・E級冒険者 月給31万・内15万を上級傷薬代として返済中)
エリス(協力者・反乱軍拠点運営担当 月30万を宿借り上げ代として支払い)
ティアナ(エリスの協力者 月給なし)
クレア(部下・中州の拠点管理担当 月給24万 帝国暦169年5月分まで給料前借り中)
オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の運営担当 日給4000で月24日仕事)
元孤児の冒険者21人(部下・F級冒険者だけど実力はE級相当 自分達の稼ぎから月収3万。残りは冒険者養成所運営資金に寄付)
セファル(部下・拠点間輸送担当・C級冒険者 月給30万)(弟も冒険者養成所会計補佐として雇用 月給5万)
ガラス職人(協力者・帝国暦166年6月分まで給料前払い 月給10万・衣食住保証)




