113 草原の村
草原で出会った少女に羊を一頭買いたいと申し出た所、父親に会わせてもらえる事になって村へと向かう。
道中話を聞いてみると、少女の名はキサと言って12歳。俺より歳下だ。
遊牧民の子供だけど、馬に乗るのが苦手なので村の近くで羊の番をしているのだと、ちょっと寂しそうに語ってくれた。
詳しく訊いてみると、どうも父親の訓練が厳し過ぎる気がしたので、優しく教えてみようと思い立ち。
シーラに訊いてみたら子供二人の三人乗りくらいは平気らしいので、一緒にシルハくんに乗せてシーラに抱きかかえてもらいながら、まずはゆっくり歩行。
しばらくしてちょっと早駆けしてもらったら、最初は怖がっていたけどすぐに目を輝かせ、『わぁ!』と歓声を上げてくれた。
やはり遊牧民の血が騒ぐのだろう。この様子なら、慣れれば普通に乗れるようになると思う。
……そんなこんなで到着したのは、遊牧民の村。
元の世界で言うモンゴルのゲルみたいな、移動式のテント形式の住居が10個くらいあるだけの、村と言うのかキャンプと言うのか微妙な規模である。
キサの話によると一族単位でまとまって暮らしていて、人数は3家族26人。家畜は馬が43頭、牛が30頭、羊が700頭くらいいるそうだ。ちなみにキサの担当は羊を50頭くらい。
想像していたよりかなり多い。これならオオカミに20頭か30頭襲われても、許容範囲なのだろう。
そして春は羊の出産時期だそうで、これからもっと増える予定らしい。
ただし羊は基本一回に一頭、一年に一回しか子供を産まないので、繁殖力はあまり高くないのだそうだ。
思わぬ所で羊にちょっと詳しくなってしまったが、それはともかくとして。
キサは囲いに羊を入れ、犬を柵に繋ぐと、近くを流れている小川で顔を洗う。やっぱり集落の近くには水場があるものだよね。
近くには馬や牛もいたので、俺達もシルハくんに水を飲ませる。
羊には水を飲ませなくていいのか訊いてみたら、冬の枯れ草を食べる時期には必要だけど、水分が多い新鮮な草を食べる時期にはほぼ必要ないのだそうだ。なので水場が少ない草原でも飼う事ができるらしい。
また一つ羊に詳しくなってしまった。
そんなこんなで順調に俺の羊知識が増える中、放牧の仕事を終えたキサに案内されてテントの一つに向かう。
そこはキサの家族九人が暮らしているテントだそうで、両親と祖母、兄二人に弟一人と妹二人がいるらしい。
兄二人は馬に乗って遠くまで放牧に行っているらしく、まだ帰っていなかったので、テントの中には料理を作る母親と裁縫をする祖母。そして皮細工をしている父親の三人がいた。弟と妹は外で遊んでいるのだろうか?
「お父さん、この人達は探検家? のアルサルさんと護衛のシーラさん。食料として羊を一頭売って欲しいんだって」
キサが俺達を紹介し、用件を伝えてくれる。……やっぱり探検家は疑問形なんだね。
かなり筋肉質で体の大きい父親は、胡散臭そうに俺達をジロリと見て口を開く。
「二人だけか?」
「はい。身軽な方がいいもので、二人と馬一頭で旅をしています」
俺の答えに、父親は視線をキサに向ける。
本当かどうか。他に仲間がいないかを確認しているのだろう。
キサが黙って頷くと、視線を俺に戻した。
「今の時期は売れる大きさの子羊はいないから、大人だけだ。オス一頭で銀貨10枚。解体して肉だけでいいなら7枚だ」
銀貨10枚は10万ダルナ……高いのか安いのか分からないから、吹っかけられているのかも分からない。
……とりあえず今は友好関係を築きたいから、印象をよくしておこう。
「分かりました、肉だけでお願いします」
そう言って、銀貨7枚を渡す。
貨幣は帝国と王国で共通だったくらいなので、ここでも問題なく通用するようだ。
「……羊を選びに行くぞ。キサ、一緒に来い」
父親はそう言って立ち上がる……表情を見るに、俺が銀貨7枚を出したのは意外だったようだ。
吹っかけられていたっぽいけど、これはこれで悪くない。
ただの世間知らずだと思われるのは困るけど、分かっていて高いお金を払ったのなら、交渉材料にできる。
そんな計算をしながら表に出て、さっきまでキサが放牧していた羊の囲いに向かう。
……好きなのを選んでいいらしいけど、キサが世話をしている羊達だ。本人の前で選びにくいな。
だけど『やっぱりいいです』とも言えないし、羊の良し悪しもよく分からない。
「オススメはどれですか?」
「……若いのがいいならそこの。大きさで選ぶならあいつだな」
若いの……若い羊肉がラムで大人がマトンだっけ? ラムの方がクセがなくて柔らかいとかだった記憶がある。
「じゃあ若い方でお願いします」
「分かった」
そう言うと父親は柵に入り、一頭の羊を抱きかかえて戻ってくる。
――そのまま少し離れた所に運ぶと、あっという間に〆られて解体がはじまる……さすが遊牧民、見事な手際だ。
キサは自分が面倒を見ていた羊なので辛いかなと思ったら、普通に解体を手伝っている。
しかもかなり手馴れた様子だ……よく考えたら羊は遊牧民の主食なので、これは日常の光景なんだろうね。
気付いたら他のテントからも人が集まってきて、解体現場はちょっとしたお祭り騒ぎの様相になっていた。
遊牧民にとって羊を解体するのは、実際お祭りなんだろうね。美味しい食べ物にありつける訳だし。
テントで料理や裁縫をしていたキサ母や祖母も参戦し、大人数で手際よく解体が進められていく。
作業をしながらキサが説明してくれた所によると、大人の羊一頭で26人いるこの集落の三日分の食事になるそうだ。飼っている犬の分も含めてとの事。
今回は俺が肉を持っていくけど、内臓や血も食べるし骨からはスープを作る。皮や毛は服やテントの材料、馬具や交易品になるそうで、全身無駄なく利用されるらしい。
……解体作業はまだ続いているが、人手は足りていそうなので俺はキサの父親に声をかける。
「少しお話があるのですがいいですか?」
「……さっきのテントでいいか?」
「はい」
そうして俺とシーラ、キサ父だけが現場を離れ、テントに戻る。
密談……というほどでもないけど、話し合いの時間だ……。
帝国暦166年4月25日
現時点での帝国に対する影響度……0.0%
資産
・2839万ダルナ
・エリスに預けた冒険者養成所運営資金 1805万ダルナ@月末清算(現在3月分まで)
・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)
・エルフの傷薬×57
配下
シーラ(部下・C級冒険者 月給なし)
メルツ(部下・反乱軍拠点訓練担当・E級冒険者 月給31万・内15万を上級傷薬代として返済中)
メーア(部下・反乱軍拠点メンタル担当・E級冒険者 月給31万・内15万を上級傷薬代として返済中)
エリス(協力者・反乱軍拠点運営担当 月30万を宿借り上げ代として支払い)
ティアナ(エリスの協力者 月給なし)
クレア(部下・中州の拠点管理担当 月給24万 帝国暦169年5月分まで給料前借り中)
オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の運営担当 日給4000で月24日仕事)
元孤児の冒険者21人(部下・F級冒険者だけど実力はE級相当 自分達の稼ぎから月収3万。残りは冒険者養成所運営資金に寄付)
セファル(部下・拠点間輸送担当・C級冒険者 月給30万)(弟も冒険者養成所会計補佐として雇用 月給5万)
ガラス職人(協力者・帝国暦166年6月分まで給料前払い 月給10万・衣食住保証)




