111 東への冒険
冒険者の子10人を連れて北の拠点に戻った俺は、帝国との戦いに向けた新たな一手を模索する。
それは北の拠点から東への探検で、皇帝だった頃に一度だけ見た帝国の地図。
あの時脳に焼き付けた記憶によると、帝国の北部は広大な草原地帯で、北西には山脈が描かれていた。
その山脈が北の拠点とアルパの街を隔てている大山脈だとすると、東に向かえばやがて山脈が途切れ、帝国北部に繋がるルートが開拓できる可能性があるのだ。
それは帝国と戦う上で重要な要素になるし、現状山越えが必須で物資の輸送が難しい問題を解決する事ができるかもしれない。
特にこれから、人員が増えて塩の生産力がさらに上がれば、問題になるのは輸送力。そして販路の拡大なのだ。
それを見越して、差し当たり利用法がなかった白石油から灯油を取った残りの副産物。白アスファルトっぽいものを使って東への道を作っていた。
今回の目的はその更に先に進んで帝国北部へ。可能なら大山脈の東端を迂回してアルパの街に至るルートを開拓する事にある。
冒険者の子達10人を連れてきたのは、その探検の間北の拠点の警備を任せるためだ。
シーラは俺と一緒に探検に行くし、ティアナさんはエリスとの定期面会をかねて輸送任務に当たってもらわないといけないからね。
シーラによると、10人いれば多少凶暴な魔獣が現れても撃退できるだろうとの事だった。
……新人とはいえかなり過酷な訓練を積んでいるのに、それでもシーラ一人の穴を埋めるのに10人がかりとは、いかにシーラの実力が飛び抜けているかがよくわかる。
そしてそのシーラでさえ、『近距離の格闘戦以外では勝てない』と言うティアナさんは、本当に人間離れしているのだろう。
……まぁ、人間じゃなくてエルフだしね。
そんな事を考えながら、俺はシーラと二人。久しぶりに乗る馬のシルハくんの背に揺られて東へと向かう。
今までは白石油を北の拠点に運んで来たり、精製した副産物の白アスファルトを東に運んだりといった仕事で活躍していたので、今通っているこの道は通り慣れた道であるらしく、歩みはとても快調だ。
もしかしたら、久しぶりに主人であるシーラを乗せるのが嬉しいのかもしれない。颯爽と駆ける姿は気持ち良さそうだ……。
――シルハくんが快調に飛ばしてくれたおかげで道はすぐに終点を迎え、その先は未開の野になる。
とはいえ、所々に木が生えている草原。ちょっと海に寄れば砂浜なので、かなり進みやすい。
時々岩山があって迂回させられたり、小さい川があったりしたが、シルハくんが問題なく越えられる深さで、行程はおおむね順調だ。
……ただ、輸送路や連絡路として考えた場合は、川の存在は問題だね。
橋をかけるのは大変だし、今の所歩いて渡れる大きさの川しかないけど、いずれ大きな川にぶつかるかもしれない。
その時は筏を組むか、ボートを用意するかだろうか?
――いや待てよ。そもそもボートがあるなら海路を進めばいいのかな? 海狸族の人達によるとここは大きな内湾で、波は穏やかだと言っていた。
内湾であるせいで海水の塩分濃度が薄くて、塩作りに大量の燃料と時間がかかる問題はあったけど、船の航行を考えるならむしろありがたい。
船……造ってみるかな? ティアナさん木工得意だけど、山の民といわれるエルフだから、船とかそもそも存在自体知らないかもしれないね。
アルパの街も内陸だし……やはりクレアさんの故郷の街だろうか?
あそこは大きな湖に面していて漁が盛んだったから、船大工も優秀な人がいそうな気がする。
そんな計画を考えながらどんどん東に進み、大雑把にだけど地形図を描いていく。
魔獣も出現したけどそれはシーラが対応してくれ、狩られた魔獣は逆に俺達の食料になった。
そんなこんなで出発から5日目。今まで大山脈と平行に走っていた砂浜は、大きく北に歪曲する。
海狸族から聞いた、湾の最奥だろう。
そして同時に、今までなかった大きな川の河口にぶつかった。
対岸まで数百メートルはありそうで、流れは速くないと思うけど、渡るのは大変そうだ。
「どうしますか?」
シーラに問われて辺りを見回すと、大山脈は少し低くなった気はするものの、まだ東に向かって続いている。
一方で大河も東から流れてきていて、先は広大な森になっている。
……学生時代に習った地理の授業を思い出してみると、大河の河口付近には堆積物によって平地が形成される。多分、今俺達がいる所がそうだろう。
そして川の大きさを見るに、水源は見えている範囲の大山脈ではないと思う。
大山脈と海はかなり近いので、こんな大河を形成するほどの水を供給できるとは思えない。もっと大きな流域面積が必要だろう。
という事はこの川は、ずっと東に向かって伸びている事になる。
大山脈の端まで続いて山からの水を全部集めているか、あるいは東端を回り込んで、帝国領に繋がっているか。
昔宮殿で見た帝国の地図に川は描かれていなかったけど、一方で北西の山脈はあまり長く続いてはいなかった。
あれを信じるなら大山脈はこの先しばらくで途切れ、その先は帝国北部の草原地帯に繋がっているはずだ。
そしてそこまで川が続いているなら、この川は大きくて船も通れそうだから、かなり奥まで船で行けると思う。
もちろん予想に反して川が北に曲がっている可能性とかもあるけど、その時はその時だ。
「――川に沿って遡ってみよう」
シーラにそう返事をして、俺達は海岸を離れて森に足を踏み入れる。
森と言ってもジャングルみたいな感じではなく、北方であるせいか木と木の間隔が広い、明るい森だ。
おかげで体の大きいシルハくんも快調に進む事ができ、クマみたいな魔獣とかオオカミみたいな魔獣とか、川沿いなのでワニみたいな魔獣とか色々襲ってきたけど、全部シーラが撃退してくれた。
ホントに頼りになるね。
大河は大山脈と平行に東に延びていて、山からの小さい流れが幾つも合流していたけど、水量に大きな変化はない。
やはり相当の長さがあるようで、帝国領内に繋がっている期待が高まる。
……そして、北の拠点を出発してから11日目。南に見えていた大山脈は木々の影に隠れるくらい低くなり、大河は大きく南に曲がった。
どうやら大山脈の東端に到達したらしい。
ここは多分帝国領なので、慎重に。俺達は南に向かって歩みを進めるのだった……。
帝国暦166年4月24日
現時点での帝国に対する影響度……0.0%
資産
・2839万ダルナ
・エリスに預けた冒険者養成所運営資金 1805万ダルナ@月末清算(現在3月分まで)
・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)
・エルフの傷薬×57
配下
シーラ(部下・C級冒険者 月給なし)
メルツ(部下・反乱軍拠点訓練担当・E級冒険者 月給31万・内15万を上級傷薬代として返済中)
メーア(部下・反乱軍拠点メンタル担当・E級冒険者 月給31万・内15万を上級傷薬代として返済中)
エリス(協力者・反乱軍拠点運営担当 月30万を宿借り上げ代として支払い)
ティアナ(エリスの協力者 月給なし)
クレア(部下・中州の拠点管理担当 月給24万 帝国暦169年5月分まで給料前借り中)
オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の運営担当 日給4000で月24日仕事)
元孤児の冒険者21人(部下・F級冒険者だけど実力はE級相当 自分達の稼ぎから月収3万。残りは冒険者養成所運営資金に寄付)
セファル(部下・拠点間輸送担当・C級冒険者 月給30万)(弟も冒険者養成所会計補佐として雇用 月給5万)
ガラス職人(協力者・帝国暦166年6月分まで給料前払い 月給10万・衣食住保証)