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110 帝国暦166年

 冬が終わって、今年も活動を開始する春がやってきた。


 この世界では年が変わると全員一つ歳をとるので、俺は14歳になったらしい。


 皇帝の平均寿命が15歳だったので、来年には死んでいてもおかしくなかった歳である。


 ……というかすでに俺の次の皇帝も死んでいるらしいので、本当はもっと早かったかもしれないが、俺の中では15歳は一つの区切りと認識している。


 具体的にどこまでできるかは分からないが、15歳になったら直接的な対帝国の行動を起こそうと思うので、今年はそのための地歩ちほを固める大事な一年になる。



 その一年の初め。北の拠点の訓練合宿からアルパの街に戻ってきて、商会の支店長から届いていた帝国の情報を読み、続いてエリスに冬の間の報告を聞く。


 帝国の情報には特段目新しい物はなく。エリスの報告でも大きな問題は起きていないようで、総督は街に一泊していったが、冒険者見習いの子達を含めて襲撃事件は発生せず。兵士の乱暴狼藉ろうぜきも、酒場で暴れた程度で大きな被害はなかったそうだ。


 ただ、総督の歓待かんたい並びに兵士達の滞在費は街の負担だったようで、臨時の徴税が行われた他、食品を中心に物価も高騰したらしい。


 登録は宿屋になっている冒険者養成所の他、隣の倉庫も徴税対象になったそうだけど、まぁそのくらいはしょうがない。


 ちなみに倉庫に50万ダルナ。宿も50万ダルナだったらしい。


 街全体で結構な額を集めていそうだけど、これ役人の懐に入っていたり、総督への賄賂わいろなんかにも使われているんだろうね。


 地元に迷惑をかける訪問は住民の反感を買う。……もし皇帝に復帰する事があったら覚えておこう。


 ちなみにエリスからは会計報告とは別に報告書が提出され、なんだろうと思ったら、帝国軍の戦力調査表だった。


 冒険者の子達と協力して調べたようで、それによると街に来たのは総督以下、馬に乗った立派な身なりの高級将校が12人。


 ちょっと豪華なよろい装備の部隊指揮官クラスが48人。


 兵士は騎兵が400、槍兵が600、盾装備の重歩兵が300、軽歩兵が1000、弓兵が300、馬車が100台で、総数は3000人近い部隊だったらしい。


 やりの長さや鎧のイラスト、盾の形状まで細かく書いてあって、とても参考になる。


 頼んだ訳でもないのに、的確に必要な情報を取ってくれる。エリスはホントに優秀だね。


 ……こんな物を持っているのが見つかったらまずいので、一枚ずつ丁寧に読んで俺とシーラの頭に叩き込み。申し訳ないけど紙の報告書は焼いてしまう。


 どれもとても有意義な情報で、西方新領には少なくとも、各街の警備兵力を別にして3000人の遠征兵力。おそらく常備軍の精鋭がいる事がわかる。


 装備は、重歩兵が金属板を繋ぎ合わせた金属鎧。軽歩兵と弓兵は革鎧、騎兵にも金属鎧を装備した重騎兵が100騎いる。


 槍兵は短槍兵400と長槍兵200で、短槍兵は普通の白兵戦に。長槍兵は隊列を組んで敵騎兵の突撃阻止に使うのだ。


 バランスの取れた実戦的な編成であり、道中で旧王国の残存勢力を威嚇いかくする気である事がよくわかる。


 ――もし反乱軍を起こすのなら、少なくともこの戦力に対抗できないといけない訳だ……。


 実際にはさらに、徴集した一般住民に武器を持たせた即席兵士が大勢加わる訳だけど、占領したばかりの新領で徴収兵を集めるのは難しいだろう。


 むりやり集める事はできても、士気は低いだろうし逃亡や裏切りの可能性もある。


 武器を持ってこちらに寝返ってくれると最高なんだけどね……。


 一応そういう工作をする計画も立てておくが、それはまだ先の事なので差し当たり今の事だ。


 エリスの報告書を丸暗記し、お礼……を言うよりめた方が喜んでくれる事を覚えたので、頭をでてあげると思いっきり嬉しそうな笑顔を見せてくれた。


 かわいいなぁ……。



 ちなみに他の報告としては、くる病に罹っていたセファルの弟は普通に歩ける所まで回復し。走ったりは無理だけど日常生活に問題はなくなったので、エリスに会計を教わって冒険者養成所の補助作業をしているそうだ。


 一時は寝たきりになってそのまま死んでしまうのではないかと思われていたようで、姉のセファルにはすごく感謝された。


 ……それにしても、部下になったので呼び捨てでいいと言われているが、年上を呼び捨てにするのはイマイチ慣れないね。


 シーラに関しては知り合ったのが皇帝時代だし、目指せ恋人だから親しい感じがする呼び捨てがいいけど、クレアさんなんて妙な風格があるから、思わずさん付けで呼んでしまう。


 まぁ、年上と言うならこの体的にはエリスも年上だし、上下をはっきりさせないといけない場面。あるいは上下を隠さなくてはいけない場面以外は臨機応変でいこう。



 そんな訳で分厚い報告書を読み終わり。冒険者の子達に運んでもらった塩を会計見習いであるセファル弟くんの記録。エリスの監督の元倉庫に運び込んで、大陸暦166年が本格的にスタートする。


 ……ちなみにセファル弟くんは、一人四袋担いできた塩の袋が合計96袋で3000万ダルナ近い値段になると聞いて、表情を引きらせて文字を書く手が震え。何度も何度も、四回くらい袋の数を確認していた。


 まぁ、お姉ちゃんと同じC級冒険者の平均年収が300万ダルナくらいらしいので、その10年分となると無理もないのかもしれない。確か俺の一つ上で、エリスと同じ15歳だもんね。


 まだ子供と言ってもいい歳なので、大金を扱うのは怖いのだろう。


 ……そう考えると、やっぱりエリスは逸材だよね。


 改めて感心しつつ、次はメルツとメーアの元に向かう。


 二人は現在冒険者養成所二期生の子達を教えてくれているけど、もう半年以上教えて基礎はできたようなので、一期生の子達とセファルに引き継いでもらい。クレアさんの故郷の街へ行ってもらうようにお願いする。


 あそこは戦いで荒れてしまっていて、アルパの街よりはるかに多くの孤児がいる。


 戦いから二年近くが経っているけど、まだ復興は進んでいないし、住民はその日暮らし生活。特に孤児達の状況は悪い。


 なのでクレアさんの実家商会と協力して孤児達を保護して、冒険者見習いとしての教育を施す。……そして望む子には、帝国と戦う戦士になってもらうのだ。


 戦う事を望むかどうかはあくまで任意だし、この冬の経験で北の拠点にもっと人手があるといいなと思ったので、そっちで働くのでもいい。


 クレアさんの実家商会の協力があれば、読み書き計算を教える人員は確保できるだろう。


 そのための費用として、とりあえず一年分を目安に3000万ダルナを預け、一緒に中州の拠点まで行ってクレアさんとも相談をし、意見を貰った上で手紙も書いてもらう。


 クレアさんの手紙さえあれば弟の商会長さんからの信用は絶大だし、積極的に協力してくれると思う。


 向こうでも街の状況には心を痛めている様子だったしね……。


 そして孤児達を保護して教育を施す場所だけど、クレアさんの故郷の街は絶対妨害が入ると思うし、何十人。もしかしたら100人越えの数となるとアルパの街でも目立ち過ぎる。


 なのでクレアさんの提案で、この中州の拠点で行う事になった。


 ……と言うか、一緒に街に行った時からそのつもりで準備を進めていたらしく、住居になる建物が増設されていた。


 そうしたいというのが、クレアさんの希望でもあったんだろうね……。


 人数が増えると運び込まないといけない食料も増えるので、冒険者の子達から必要数を輸送担当としてセファルの補助に付ける事にする。


 具体的な人数は集まる孤児の数次第だ。


 彼等も元孤児だから、同じ境遇にある子同士感情を共有できると思う。



 そんな段取りを決めて、大変な仕事になると思うのでメルツとメーアの給料を月10万ダルナずつ上げる事にして二人を送り出し、俺はアルパの街に戻ってこちら側の段取りを整えた後、合宿に参加した冒険者の子から10人を選抜して、一緒に北の拠点へと戻る事にする。


 ちなみに塩は早速引き取りに来たらしく、2880万ダルナの取引をセファル弟くんがやったのだそうだ。


 一応エリスも見ていたし、値段もほぼ固定だ。額が大きいだけで取引自体は単純だったので問題なくこなせたようだが、精神的にかなり疲れたらしく。ちょっとやつれていた。


 心の中で(がんばれ……)と応援しながら、その内1000万ダルナを冒険者養成所運営資金として預け。弟くんも正式に会計補佐として雇う事にした。


 まだ見習いなので、月給5万ダルナだ。


 それだけでは生活が厳しい額だけど、お姉ちゃんがいるし住み込みなので食住は完備だからね。


 病気で起き上がる事もできなかった子が、普通に歩けるようになって働いてお金を稼げるようになったのはとてもいい事だと思う。


 セファルも弟くんもすごく嬉しそうだったし、喜ぶ姿を見ると俺も嬉しい。



 心配事や難しい話、重たい話が多い中で少し明るい気持ちになりつつ、俺は北の拠点へと旅立つのだった……。




帝国暦166年4月9日


現時点での帝国に対する影響度……0.0%


資産

・2839万ダルナ(-1143万)

・エリスに預けた冒険者養成所運営資金 1805万ダルナ(-1132万)@月末清算(現在3月分まで)


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×57


配下

シーラ(部下・C級冒険者 月給なし)

メルツ(部下・反乱軍拠点訓練担当・E級冒険者 月給31万・内15万を上級傷薬代として返済中)

メーア(部下・反乱軍拠点メンタル担当・E級冒険者 月給31万・内15万を上級傷薬代として返済中)

エリス(協力者・反乱軍拠点運営担当 月30万を宿借り上げ代として支払い)

ティアナ(エリスの協力者 月給なし)

クレア(部下・中州の拠点管理担当 月給24万 帝国暦169年5月分まで給料前借り中)

オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の運営担当 日給4000で月24日仕事)

元孤児の冒険者21人(部下・F級冒険者だけど実力はE級相当 自分達の稼ぎから月収3万。残りは冒険者養成所運営資金に寄付)

セファル(部下・拠点間輸送担当・C級冒険者 月給30万)(弟も冒険者養成所会計補佐として雇用 月給5万)

ガラス職人(協力者・帝国暦166年6月分まで給料前払い 月給10万・衣食住保証)

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