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11 逃亡生活のはじまり

 川へ飛び込んだ感想としては、『意外と浮くな』だった。


 小脇に抱えた宝石犬のぬいぐるみが重くて沈むかと思ったが、空気を含んでいるおかげでむしろちょっとした浮き代わりになってくれる。


 カナヅチではないが水泳得意という訳でもない俺にとっては、ありがたい事この上ない。


 運にも助けられて、俺は水面みなもを漂う。船は前にしか進めないらしく、回頭している間にかなりの距離が開いてしまった。


 そしてその間に、水に飛び込んだシーラが勢いのある泳ぎで俺の所まで来てくれる。


「皇帝陛下のお覚悟、確かに拝見しました……少し潜りますがよろしいですか?」


「うん」


 川に飛び込んだ事を、シーラはずいぶんと高く評価してくれたらしい。


 耳元でささやかれ、ちょっとドキドキしながら返事をすると、シーラは俺を抱えて水に潜る。


 命を預ける覚悟で、邪魔にならないようじっとしていると。数回の息継ぎを経て、水面を流れる木の枝にたどり着いた。


 枝は2メートルくらいある大きなもので、葉っぱもついていて姿を隠のに丁度いい。


 二人が掴まれるほどの浮力はなく、俺一人が足をバタバタさせながらでギリギリくらいだが、シーラの負担は軽くなるだろう。


 そんな事を考えながら身を潜めていると、川の真ん中を木箱が流れていき、しばらくして3隻の船がそれを追いかけていく。


「あの箱の影に隠れようと思って投げ込んだのですが、運良く別の隠れ場所があって助かりました。木箱はちょうどいいおとりになってくれましたね」


 と、シーラが教えてくれる。どうやら俺達の逃亡計画は、今の所幸運に恵まれているらしい。


 シーラは話をしながらも立ち泳ぎを続け、木の枝を対岸に引っ張っていくが、しばらくしてじれったくなったのか。


 箱を追って行った船がかなり離れたのを見ると枝を離れ、俺を抱えて泳ぎだす。


 今度は潜らないので、ただシーラに体を預けていればいい。俺も足をバタバタさせて協力しようとしたが、じっとしていた方が泳ぎやすいとの事で、完全なお荷物状態だ。



 ……シーラは水泳も得意らしく、泳ぎは力強いし、軽快である。


 数百メートルはあったと思う距離を一気に泳ぎきり、帝都とは反対側の岸に上陸すると、い茂った草むらに身を隠す。


 今は植物が元気な季節らしく、俺達の身長を優に超える草が伸び放題なので、川から発見される心配はまずないないだろう。


 俺達の逃亡計画第一段階は、上々の成果を挙げたようだ……。



「皇帝陛下、服を乾かしますのでお脱ぎください」


 草むらに姿を隠して、ホッと一息ついてすぐ。シーラが俺の服に手をかけてくる。


「――ちょ、ちょっと待って。大丈夫、自分でやるから!」


 そう言って慌てて距離を取り、少し離れて服を脱いで、丈夫そうな植物に引っ掛ける。


 慌てる俺にシーラは不思議そうな表情をしていたが、無理もないだろう。


 後宮ハーレムでは着替えは全部、傍仕そばづかえの女官さんときさき候補がやってくれていた。


 皇帝にとっては服を脱がされるのも裸を見られるのも、日常の事だったのだ。


 俺も最初は動揺したけど、平静を保つように努力したら一週間くらいである程度慣れた……はずだったのだが、なぜだろう? シーラと二人っきりでとなると、とたんに恥ずかしくなったのだ。


 とりあえず下着を中心に服と犬のぬいぐるみを干し。上着を腰に巻いてシーラの所に戻ると、シーラも濡れた服をしぼって乾かしている所だった……。


「――わ、ごめん!」


 慌てて謝り、目を逸らす……が、これってどうなんだろうね?


 シーラは元々後宮ハーレムの妃候補で、俺は後宮ハーレムあるじだった。


 本来裸を見たり見られたりするのは当たり前の関係だった訳で、恥ずかしがる様子がないのを見ると、シーラの中でもそういう認識なのだろう。


 むしろ復讐と母親を助け出すために、皇帝の子供を産む覚悟を決めていたんだもんね……。


 俺としても、お風呂では毎回裸の妃候補数人と一緒だったので、女の人の裸は見慣れていたが、シーラの裸だと顔が熱くなり、心臓が高鳴ってしまう……。


 ――だけどこのまま他所よそを向いている訳にもいかないので、視線を少し戻して言葉を発する。


「これからどうする? 余としては国外への脱出を目指すに当たり、西へ向かうのが良いと思うのだが」


 その言葉に、シーラは難しい表情を浮かべて考え込む。


 ……裸で考え込むシーラの姿は、なんかこんな裸婦らふ画とかありそうだなと思うくらいの美しさだ。


 健康的な褐色の肌に、濡れてつややかな黒髪、そして澄んだ青い目。


 引き締まった筋肉質でありながら、しっかり凹凸のある体に。スラリと長い足……完璧な芸術作品だとさえ思う。


「……そうですね、西へ向かうのは一番街道が整備されていますから、最速で国外へ抜けられるでしょう。追跡もされやすいですが、追っ手がかからないのであれば最善であると思います……どうされました?」


「――あ、うんなんでもない。じゃあまずは西を目指そうか。もう少し休んでから出発しよう。シーラは俺を抱えて泳いでくれたから、疲れてるでしょ」


 思わず見惚みとれてしまっていたのをなんとか誤魔化し、真面目な表情を作る。


「ご心配には及びません。父が存命だった頃は、よく気を失うまで鍛錬をしていました。『戦場で敵が、疲れたと言えば休憩させてくれると思うのか!』と言ってね……」


 おおう……子供相手にそれは鍛錬か虐待か際どい所だと思うが、父親との思い出を語るシーラは嬉しそうで、誇らし気でもある。


 きっと自慢の父親で、シーラにとっては楽しい思い出なんだろうね……。


「わかった、では服が乾き次第出発するか」


「それが良いと思います。川沿いには魔獣も出ますから」


 ……まじゅう?


 そういえばこの世界にはそういうのがいるんだったね。シーラが川に飛び込んだ俺を大げさに褒めてくれたの、そういう事だったのか……。


 元の世界でも、行く所に行けばワニとか普通にいたけど、あんなイメージだろうか?


 そりゃワニのいる川に飛び込むのは覚悟いるよね……。


 思わぬ所で計画に見落としが発覚し、正直冷や汗が止まらないが、せっかく高まった評価だからこのままにしておこう。


 そしてそんな危険な行動だったのなら、宰相の側でも計画的な逃亡ではなく事故だとの判断が強くなるだろう。


 追跡の可能性が減って結果オーライ……という事にしておこう。



 俺は顔色が悪くなっているのを悟られないよう、服が乾いているかを確認しに、シーラの前を離れる。


 今日はいい天気で空気も乾いているから、濡れた服が乾くのも速いだろう……。




現時点での帝国に対する影響度……0.0%(-1.2)


資産

・宝石を散りばめた犬のぬいぐるみ


配下

シーラ(部下)

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