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109 冬季訓練

 訓練はすでに移動中から始まっていて、いつもは三日かかる山越えを二日半で歩いた。


 俺のヒザはガクガクだが、冒険者養成所のみんなはさすがに鍛えているからだろう。これくらいはわりと平気そうである。


 そして改めて、塩20袋約60キロを背負って、アルパの街よりちょっと遠い中州の拠点まで四日半で往復するティアナさんの凄さを実感するね……。


 ……そんな訳で北の拠点に到着し、そのティアナさんと顔を合わせる。


 初めて見る山の民にみんな驚いた様子だったが、まだ純粋な子供だからか。それともエリスとメルツとメーアの教育がいいおかげか、否定的な反応は出なかった。


 山の民を嫌うのなんて、大部分間違った伝承や集団意識のせいだからね。


 ティアナさんは弓の名手だから、弓を教われば戦力アップに繋がるだろう。なにしろあのシーラが教わっているくらいの腕前なのだ。


 さすがのティアナさんも荷物を担いで雪山を越えるのは危険なので、冬の間は拠点にいる。


 その間に指導をお願いしたらこころよく引き受けてくれたので、安心して次は女の人達も紹介する。


 当然オークの巣穴の件は内緒だ。子供達に意味が理解できるかは分からないけど、いつかは理解できるようになってしまうからね……。


 女の人達も思う所があるのが、ちょっとぎこちない対面が終わり。ガラス職人さんは工房に篭っているので存在だけ伝え、たまに来る海狸かいり族の人達は仲間だから攻撃しないようにと注意をしておく。


 最低限の伝達事項が終わったので、まずは荷物を置いてゆっくりしてもら……おうと思ったら、シーラの号令で早速整列させられていた。


 どうやら、周辺の地形や状況の把握はあくをかねて走りに行くらしい。


 出発前に、シーラがよく通る澄んだ声で短く訓辞をする。


「我々が敵とする帝国軍は強大であり、それに少数で立ち向かう諸君は一騎当千の戦士となる必要がある!


 古来より、訓練で流すバケツ一杯の汗が戦場で流す血を一滴減らすと言われているが、その精神で厳しく訓練するから覚悟しておくように!


 ――だが、いくら鍛えても体を壊してしまっては元も子もない。だから本当に辛い時は、正直に申し出て休みを取れ。


 諸君の体は戦場以外でそこねていいほど安い物ではないという事を、全員よく心に留めておけ! では出発!」


 シーラの言葉に全員大きな声で『はい!』と返事をし。元気よく走り込みに出発していく。


 ……とりあえず、シーラが厳しいだけの鬼教官ではない事が分かってちょっと安心した。



 ――結局その日帰ってきたのは辺りが薄暗くなってからだったので、相当厳しい訓練だったのは間違いない。


 だけど、みんなも確固たる目的があってここに来ているのだ。弱音を吐く子も文句を言う子も一人もいなかったし、むしろ望んで厳しい訓練に立ち向かっているように見えた。


 なんと言うか、頼もしいね……。




 そんなこんなで冬季訓練合宿がはじまったが、ここにいる間は『訓練生』と呼ぶ事にしたみんなは訓練以外に塩作りや白石油の精製も手伝ってくれるので、大いに助かる。


 特に、海水や精製した灯油、副産物で道路造りに使っている白アスファルトっぽいブロック、ガラスの原料になる砂など、重たいものを積極的に運んでくれるのがありがたい。


 体力作りの一環なんだろうけど、今まで女の人ばかりで作業していたので、男手は貴重だ。


 女の人達にも大いに好評で、浮いた時間を使って訓練生の子達に毛皮の防寒着や服を縫ってくれたり、食事に腕をふるってくれたりと、仲は極めて良好だ。


 女の人達の中にはさらわれる前に子供がいた人もいるので、そういう人は余計に世話を焼きたくなるものらしい。


 一方で訓練生の子達は元孤児なので、母親の面影を重ねてしまうのだろう。こちらもよく懐いている。


 厳しい訓練で一人前の冒険者に育っているけど、年齢的にはまだ10代前半の子供だからね……。



 そんな訳で北の拠点での訓練合宿は大きなトラブルもなく順調に進み。ティアナさんの弓術講義が『こう目標をグッと見て、弓をサッと構えて、鋭くパシッと撃つの!』みたいな天才肌の感覚派だった事には頭を抱えたが、なぜかシーラが通訳してくれて、実践的な訓練になっていた。


 シーラも天才肌だけど理詰めの訓練もするので、感覚で理解した事を言葉にできるらしい。とても助かる。


 もっとも、ティアナさんの弓は見本として見るだけでも十分過ぎるほど参考になるらしく、お手本としてはこれ以上ないほど役に立っているらしい。


 俺の本知識も、二組に分かれた紅白戦の指揮や対魔獣の戦闘を経て実践的な生きた知識へと昇華されていき、軍師としてのレベルがかなり上がったと思う。


 ただ、戦力5:1のハンデ戦で俺が5を指揮した時は、1を指揮するシーラの隊を教科書通りに包囲したのだが、一点突破の反転攻勢に出られて包囲を突破され、俺が首を取られて終了となった。


 教科書通りはあくまで基本であって、基本は大切だけど戦場というのは基本通りにはいかない事もあると痛感させられた……けど、いい経験になったと思う。


 同時に、シーラはやはり少人数を率いての精鋭部隊長が適任な気がした。


 俺が少数側を指揮した事もあったけど、その時は順当に戦力差で負けたとはいえわりと善戦したから、シーラは後方で兵を指揮するよりも、自分が先頭に立って敵に突っ込む方が性に合ってるし、適性もあるのだろう。



 そんな知見も得ながら訓練合宿の日々は過ぎていき、女の人達が訓練生の子達の面倒をよく見てくれたので、元孤児である子達は久しぶりに家庭で過ごすような感覚を味わえて、その分訓練の能率も上がったと思う。


 春が来てアルパの街に戻る時には、お互い涙ぐんで別れを惜しむくらいの関係になっていた。


 そして訓練の成果も大いに挙がったようで、みんな精悍せいかんな顔つきになったし、体も一回り大きくなった。


 今回は総督から引き離すためだったけど、定期的に訓練合宿に来るのはアリかも知れないね。


 ……一方、年明け早々に今回の合宿理由。ジェルファ王国を侵略した将軍でもある総督が街に来るので、暴発を避けるために距離をとったという話をすると、全員の目が一瞬で鋭くなった。


 最近は笑顔も見せてくれるようになり。女の人達と穏やかに接してはいても、やはり心の中には強い感情が。帝国への恨みと、家族の仇をとるという強い思いが渦巻いているのだ。


 総督の姿を見たら我を忘れて襲いかかってしまっただろう自覚は全員にあるようで。さすがエリスの見立てだと感心する一方、改めて冷静さを促し、話してさとす。


 いつか正攻法で帝国と戦えるようにするから、それまで自重して欲しい。


 下手な暴発は自分の命を危険に晒すばかりか、仲間や街の人達にも迷惑をかけてしまう。暗殺だけでは自己満足以上の結果は得られないから、いつか正面から帝国軍を打ち破って街や国を解放できるようにするべきだと。ちょっと長めに話して聞かせたら全員気まずそうな表情を浮かべていたので、多分分かってくれたと思う。


 一緒に聞いていたシーラも気まずそうだったのは、まあそういう事なのだろう……。



 そんな訳で、精神的にも肉体的にも成長した訓練生達は、春の雪融けと共にアルパの街へと帰還する。


 女の人達には時機を見てメープルシロップの生産をお願いし、冬の間に大量に作り溜めした塩を担いで、俺達は早春の大山脈を越えるのだった……。




帝国暦166年4月1日


現時点での帝国に対する影響度……0.0%


資産

・3982万ダルナ(-1440万)

・エリスに預けた冒険者養成所運営資金 2937万ダルナ@月末清算(現在11月分まで)


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×57


配下

シーラ(部下・C級冒険者)

メルツ(部下・反乱軍拠点訓練担当・E級冒険者)

メーア(部下・反乱軍拠点メンタル担当・E級冒険者)

エリス(協力者・反乱軍拠点運営担当)

ティアナ(エリスの協力者)

クレア(部下・中州の拠点管理担当 帝国暦169年5月分まで給料前借り中)

オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の運営担当)

元孤児の冒険者21人(部下・F級冒険者だけど実力はE級相当)

セファル(部下・拠点間輸送担当・C級冒険者)

ガラス職人(協力者・帝国暦166年6月分まで給料前払い)

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