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107 不穏な情報

 北の拠点に戻って小瓶こびんが揃うのを待ち。約束の数が揃ってティアナさんも戻ってきたタイミングで、俺とシーラは今年最後になるだろう行商に出発する。


 ガラス職人さんには引き続き来年分の小瓶生産と、需要がある物や作りたい物があったらそれの生産をお願い……しようとしたら、『もうやってる』と言われてしまった。


 やる気満々なようでなによりである……。


 小瓶の量産中は品質を安定させるためにできなかったけど、原料となる砂と灰を色々試したり、配合の割合や添加物も研究してみたいらしい。


 工房の隅に山のようにサンプルが準備済みだった。


 まぁ、俺としてはガラスが量産されるなら何も問題ない。


 実験でもかしてみればガラスができる訳で、せっかく熔けたガラスなら練習も兼ねて何か作ってみるだろうから、それを実用品にしてもらえばいいだけだ。


 売る訳じゃないから、濁っているとか綺麗じゃないとかは問題ない。


 職人さんが気に入らない作品は叩き壊すタイプじゃなくてよかったね……あれって実在するのかな?


 まぁそんな事はどうでもいいけど、クレアさんのアドバイスで『職人さんと女の人達の関係には気をつけて』と言われているので、そこには対策を講じておいた。


 なにしろ女ばかりの閉ざされた空間に成人男性が一人だけだ。トラブルの予感しかしないよね。


 ただの色恋沙汰くらいなら気にしないけど、暴力事件とか、フラれた腹いせに過去の話……オークとゴブリンに捕まっていた話をぶっちゃける自爆アタックとかされたら大惨事だ。


 特にクレアさんは弟さんに正体を明かしたので、弟さんの知り合いらしい職人さんから情報が流れたりしたら、弟さんの中で話が繋がってしまう。


 そうなったらせっかく一芝居打ったのが台無しだし、なによりクレアさんが悲しむだろう。


 なので女の人達に集まってもらって、『暴力沙汰ざたは絶対禁止』『過去の案件は絶対内緒』『もし破ったら追放』と伝えておいた。


 追放にどれだけ抑止力があるかは分からないけど、皆ここがそれなりに気に入っているようだし、他に行く所がない人ばかりだ。一定の効果はあると思う。


 本来は全員が秘密にしたいと思っている案件だしね。


 ……それでもぶっちゃける人が出てきたら、その時は職人さんに口止めをしよう。


 最悪、北の拠点で軟禁状態になってもらう事になるかもしれない。


 大山脈はシーラかティアナさんの護衛なしでは越えられないから、本気出したらわりとガッツリ情報封鎖できると思う。


 そんな事にならないといいなと思いながら、俺は小瓶の一部を担いで山を越え、支店長さんの元を目指すのだった……。




 道中は特に大きなトラブルも起こらず。小瓶も割らずに運べたので、無事年内に80本の約束を果たす事ができた。


 メープルシロップの方も、元々5リットルくらいあった所から1リットル弱を取り分けて残りを全部渡したので、一瓶50ミリリットルくらいが80本でざっくり4リットル。ちょっと余るくらいだと思う。


 正確な計量器がないので、多少の誤差はしょうがない。



 そんな訳でメープルシロップの引渡しを終え、次は年内最後の情報収集タイムだ。この間に集まった情報を聞く。


 支店長さんはまだ暇らしく。時々こちらの反応をうかがうようにしながらあれこれ話してくれたが、情報量自体は多くて人脈作りと併せて頑張ってくれているみたいだけど、やはり地方の一商会。それも数か月ではいきなり機密に相当するような情報は取れないようだ。


 まぁそれはしょうがないので、将来に期待だね。


 そんな事を思いながらちょっと力を抜いて聞いていたら、最後に世間話のように情報が付け加えられる。


「そういえば、総督は新年の挨拶のために帝都に向かうようで、今年は領内視察を兼ねて北の街道を通るようですよ。


 この街は帝国に続く街道からは外れていますが、アルパでは一泊の予定があるそうで。関係する所はその準備に忙しいみたいです」


 ――ぶっ!


 危うくむせてお茶を吹きかけた。


 ……そういえば皇帝の記憶でも、毎年新年に大勢集まって挨拶みたいなのをやっていたな。あれがそうか。


 情報のレベルとしては機密度は高くないし、むしろ半公開情報だけど。ネットもテレビもないこの世界では、公開されている情報を得る事さえ難しい。


 根拠不確かな噂話が、ほとんどの人の主たる情報源なのだ。


 そんな中、いち早くこの情報を掴めたのは大きい。メープルシロップとガラス瓶を提供した値打ちがあるというものだ。


「なるほど……商売の匂いがしますね」


「残念ながら、まだ総督に直接接触できるほどの人脈は構築できていませんけれどね」


「それは来年以降に期待しましょう……日時とかは分かりますか?」


「正確には聞いていませんが、新年の挨拶に出向くのですから相応の時期かと思います。引き続き情報を集めておきます」


「よろしくお願いします。……あ、これから来られる頻度が減るかもしれませんので、アルパの街の支店宛に定期的に。重要な情報があったら急ぎで届けてもらえませんか?


 隣の宿屋にいるエリスって子は小さいですけどしっかり者で信用できるので、封をして彼女に預けておいてください」


 そう言うと、支店長がちょっと微妙な表情を浮かべた。


 あれ、なんかミスったかな?


 集めている情報は表向き商売のためだし、情報収集なんてどこの商会でもやっている事だ。怪しまれる要素はないと思うけど……と考えてピンときた。


 なるほど。見た目13歳の俺が『小さいですけど』なんて言ったら、そらこんな顔になるわ。年齢一桁を想像したかもしれない。


 一応『俺よりは年上ですけど』とフォローを入れると、安心した顔になった。


 いかんな、普段から難しい事ばかり考えているせいで、アラフォーの感覚が抜けない。


 かといって色々責任を背負ってしまった今、13歳の子供気分でいる事もできないので、この辺の加減は難しいね。



 そんな事を思いながら支店長の元を辞し、アルパの街へと戻る。


 エリスに『情報を記した手紙が送られてくるので、そのまま保管しておいて』と伝えないといけないし、総督の案件もある。


 総督が来るという事は当然それなりの数の兵士も来る訳で、さすがに侵攻の時みたいな無茶はしないだろうけど、全員に紳士的な振る舞いを期待するのも無理というものだろう。


 そして人が動くという事は物も動く訳で、食べ物を中心に物価が上がりそうな気がする。


 物価についてはエリスに伝えて事前に買い溜めをしてもらうとして、兵士はどうしようかな?


 ララク達元孤児のみんな、帝国軍の侵攻時を思い出す光景を見て冷静でいられるだろうか?


 ……今、馬上で俺を抱えてくれているシーラさんがさっきから一言も言葉を発さず。ずっと怖い顔をしているのを見ると難しい気がするね。


「ねぇシーラ、今回は自重してね。上手くいけば総督を討つ事はできるかもしれないけど、それをやったらそこで終わりになっちゃう。


 俺達の力じゃまだ宰相までは届かないから、いつかその力を蓄えるまでは潜伏しないといけない。辛抱してね」


「分かっています……頭では」


 おおう……これは本当に分かっているのだろうか?


 やっぱり見せない方がいいかなぁ……。



 俺は色々考えを巡らせながら、シーラの腕の中でちょっと心地よく馬上の旅を続けるのだった……。




帝国暦165年11月26日


現時点での帝国に対する影響度……0.0%


資産

・7468万ダルナ(+2211万)

・エリスに預けた冒険者養成所運営資金 1355万ダルナ(-423万)@月末清算(現在10月分まで)


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×57


配下

シーラ(部下・C級冒険者)

メルツ(部下・反乱軍拠点訓練担当・E級冒険者)

メーア(部下・反乱軍拠点メンタル担当・E級冒険者)

エリス(協力者・反乱軍拠点運営担当)

ティアナ(エリスの協力者)

クレア(部下・中州の拠点管理担当 帝国暦169年5月分まで給料前借り中)

オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の運営担当)

元孤児の冒険者21人(部下・F級冒険者だけど実力はE級相当)

セファル(部下・拠点間輸送担当・C級冒険者)

ガラス職人(協力者・帝国暦166年6月分まで給料前払い)

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