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103 ガラス作り

 メープルシロップを入れるためのガラスびん作りは順調に準備が進み、ついに試作をする日がやってきた。


 娯楽の少ない北の拠点であるせいか、あるいはガラス職人さんがここで唯一の成人男性であるせいか。女の人達も大勢が見学に来て、ちょっとしたお祭り騒ぎの様相である。


 だけどそんな喧騒けんそうを他所に、職人さんは真剣そのもの。レンガで造った炉に坩堝るつぼを入れ、そこにガラスの材料になる砂と灰を詰めて加熱をはじめる。


 燃料の灯油モドキは、液体であるせいで逆に使いにくかったりもしたけど、用途に合わせておがくずと混ぜて固体化したり、燃やし方を色々工夫したおかげで炉の燃料としても使えるようになった。


 とりあえず元の世界知識で、『液体が直接燃える訳ではなく、加熱されて気体になって、それが空気と混じって燃える』というのを元に。


 炉の底に穴を作ってあらかじめ灯油を入れておき、最初は普通に火を燃やす事で灯油の気化が進んで強く燃え、炉の温度を上げるという構造に落ち着いた。


 灯油の補充ができないのが難点だけど、どのみちガラスの原料も補充できないので、一回ごとに再整備だ。


 さすがに元の世界の工場みたいに、連続稼動は無理だよね。


 炉や坩堝も何回か使ったら壊れてしまうので作り直すそうだし、生産効率はよくない……と言うか、かなり悪い。


 でもこれはどこのガラス工房も同じらしいので、この世界でガラスが高価な原因なのだろう。


 元の世界の大量生産大量消費だって、産業革命以降の200年ほど。なんなら生産と流通が効率化された最近数十年の事だった訳だからね



 ……そんな記憶を思い出している間に作業は順調に進んでいるようで、炉に鉄パイプが差し込まれ、オレンジ色に焼けたガラスが巻き取られてくる。


 職人さんがパイプを通して息を吹き込むと、柔らかい飴のようなガラスがちょっと膨らみ、中に空洞ができる。


 これがガラス容器の原型で、こまめに回転させて形を崩さないようにしながら、何度か息を吹き込んだり、少し炉に入れて再加熱したりしながら形を整えていき、底を作って別の棒に付け替え。パイプを切り離して口を作る。


 棒を回転させながら口を徐々に広げていくと、だんだん見慣れたコップの形になり。さらにそこからヘラを当ててくびれをつけたり、口をすぼめたり、底の方を角ばった形にしたりと、職人さんの手先で自在に形を変えていく。


 ――思わず見惚みとれてしまっている間に、ガラスの小瓶こびんは形を整え終わり。棒から切り離されて、炉にくっつけて造った温室に入れてゆっくりと冷却される。


 最後に磨けば一応完成で。これは一番基本の小瓶らしいけど、用途によっては取っ手や台座をつけたり、装飾を施したり、蓋を作ったりするのだそうだ。


 職人さんは炉に火が入っている間に次々と、色んな形の小ビンを完成させていく。さすがの手際だ。



 ……作業が終わった所で職人さんに感想を訊いてみると、『ガラスが固かった。材料を吟味ぎんみする必要があるな』と難しい表情だったが、とりあえずガラスを作れた事にはとても満足した様子で、ゴキゲンだった。



 ――ガラスは一晩かけてゆっくりと冷却し、翌朝取り出してみると、薄緑色がかかった綺麗な小瓶が完成していた。


 ……のだが、職人さんはそれを見たとたん、思いっきり表情を険しくする。


「なにかが混ざったな。砂か灰か、調べてみないといかん」


 俺にとっては薄緑色がかったガラスも綺麗だと思うけど、どうやらガラスは無色透明に近いほど価値が高いという考えがあるらしい。


 色ガラスはベースに無色透明なガラスがあって、それにいろどりを添える存在として価値がある……という感覚みたいだ。


 それでもとりあえずガラスが作れる事が分かったので、後の研究は職人さんにお任せする。


 来年の春、二回目のメープルシロップを収穫する頃までにできてくれたらそれでいい。


 それまでは満足いかない品質のガラスでもいいので、ここで使うコップや瓶を製作してもらう。


 今年作ったメープルシロップを保管するのも瓶の方がいいだろうし、売り物ではなく日常使いをするなら、芸術性は重要じゃないからね。


 そんな訳で研究は任せ、俺は見回りや狩りに行くシーラに同行して、あちこちで砂のサンプルや草木を集めてくる。


 いろんな砂と灰の調合を試す気が遠くなる作業だけど、職人さんには頑張って欲しい。



 ……とそんな事を考えていたら、試作成功の時は思ったより早く。20日ほどでやってきた。


 どうやら問題は砂に混ぜる灰の方にあったらしく、海岸にいっぱい流れ着く海藻を川で洗って乾かし、焼いて灰にしたものを使ったら、綺麗な無色透明のガラスができたらしい。


 砂の方も洗った方がいいみたいだけど、海岸から採取してきて工房近くに積んでおけば勝手に雨で洗われるので、特に問題はなさそうだ。


 無色透明のガラス瓶を作り上げた時の職人さんは本当に嬉しそうで、見ている俺まで笑顔になってしまうくらいだった……。



 ――そんな訳で、透明なガラス瓶に装飾を施し、蓋も付けた見事な小瓶第一号が完成した。


 容量は50ミリリットルくらいにしてもらい、メープルシロップが5リットルくらいあったと思うので、100本を発注する。


 細工物なので時間がかかるみたいだけど、材料は近所で揃うので女の人達にお願いし。炉や坩堝るつぼの再生産も手伝う条件で『三か月以内に揃えてやる』という頼もしい言葉を頂いた。


 一応『慌てなくていいですよ』と言っておいたが、止めても聞かないだろうなと思うくらいにやる気満々だったよね……。



 一方、俺の方は完成品をアルパの街に運んで商会の人に見てもらうべく、街に向かう事にする。


 その前に女の人達の給料を計算し。8月10日分までで合計732万ダルナを支給した。


 一人当たり40万ダルナ近くなので、また欲しい品の注文を受け。


 それとサンプルとして小瓶を三つ。シーラは塩の袋10個を持って、中州の拠点へ向かう。


 シーラが持った塩はエルフの村との交易用と、エリスへのお土産だ。



 そんな訳で、俺はいよいよ偉い人達と。帝国に繋がる人達との接触を持つべく動き出すのだった……。




帝国暦165年8月10日


現時点での帝国に対する影響度……0.0%


資産

・1707万ダルナ(-732万)

・エリスに預けた冒険者養成所運営資金 2330万ダルナ@月末清算(現在5月分まで)


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×30


配下

シーラ(部下・C級冒険者)

メルツ(部下・反乱軍拠点訓練担当・E級冒険者)

メーア(部下・反乱軍拠点メンタル担当・E級冒険者)

エリス(協力者・反乱軍拠点運営担当)

ティアナ(エリスの協力者)

クレア(部下・中州の拠点管理担当 帝国暦169年5月分まで給料前借り中)

オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の運営担当)

元孤児の冒険者21人(部下・F級冒険者だけど実力はE級相当)

セファル(部下・拠点間輸送担当・C級冒険者)

ガラス職人(協力者・帝国暦166年6月分まで給料前払い)

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