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102 ガラスを作る場所

 色々あった末に、ようやく巡り会えたガラス職人さん。


 工房を再建するには燃料が安く大量に手に入る場所でないといけないという言葉に、俺は勢いよく顔を近付けて言葉を発する。


「燃料が安く大量に手に入る場所があったら、移住してガラスを作ってもらえますか!?」


 もちろんその燃料は、北の拠点の白い石油である。


「そ、そりゃあできるならやりたいが……。だが王都の工房はダメだぞ。あそこは昔からうちの競争相手だったんだ。今更傘下に入れるもんか」


 俺の勢いにちょっとひるんだ感じはあるが、それでも力強い返事。


 そして王都の……今となっては元王都の工房とはライバル関係にあったらしい。


「王都ではなく、別の場所です。遠いので次ここに戻ってくるのはいつになるか分かりませんが、道中と向こうでの安全は保証します。……あ、燃料ってまきじゃなくてもいいですか?」


「炉の温度が上がるならなんでもいい。実際王都の工房では、薪ではなく山から掘り出したという炭を使っていたしな。


 黒い煙が沢山出て、それがガラスに混じって質を悪くしていた」


 山から掘り出した炭……石炭とかだろうか? この世界の石油的なものは白かったけど、石炭的なものは黒いらしい。


「それなら大丈夫ですね。燃料の供給は保証します。


 衣食住完備で、給料は月に10万ダルナ。成果次第で追加という事で、移住を検討してもらえませんか? 設備は一から作る事になると思いますが……」


「設備は燃料さえあれば、レンガを焼いて炉を組み立て、坩堝るつぼも焼いて作れる。材料は砂と灰があればなんとかなる」


 灰……灰が出ないのが石油燃料の優秀な所なんだけど、ガラス作りに必要なのか。


 ……まぁ、流木はあるからあれを燃やせば灰になるだろう。海沿いだから砂は売るほどあるし。


「材料は揃うと思います。あとは同行者とかいませんか? 元同僚とか、家族とか。行き先は遠方で簡単には戻ってこられないので、本当に移住するくらいの覚悟をして貰う必要がありますが」


「……同僚も家族もいない。みんな戦いで死んじまった。またガラス作りができるならどこに行くのも構いやしないが、帝国だけは死んでも御免だぞ……それと、俺は戦いで足を怪我してな。歩けなくはないが、人より遅い。旅をするなら時間がかかるぞ」


「行き先は北で帝国じゃないですし、足の事も了解しました。いつ出発できますか?」


「今からでもいいぞ。取りに戻るような荷物も、別れを告げる相手もいないからな」


 おおう……言葉が重たいな……。


「了解しました。給料の前払いも可能ですが、今のうちにここで買っておきたい物や、お金を使いたい先とかはありませんか?


 移住先は辺鄙へんぴな所なので、お金があってもあまり使い道がありませんから」


 俺の言葉にガラス職人さんは少し考える表情をし、じっと俺の目を見ながら言葉を発する。


「可能な限りの額を欲しい。持って行きたい所がある」


「分かりました……じゃあ一年分。120万ダルナを前渡ししましょう」


 そう言って金貨一枚と、銀貨10枚の束二つを渡すと、職人さんは一瞬目を見開き、しばらくしたあとヨロヨロと立ち上がって、『これからよろしく頼む』と握手をしてくれた。


 どうやら胡散臭うさんくさい子供から、少しは信用が置けそうな相手にランクアップしたらしい。



 その後は杖を突いて歩く職人さんと一緒に、とりあえず宿を目指す。


 途中で寄りたい所があると言われたのでちょっと道を逸れると、半分壊れた建物に入り、中にいた老人に俺から受け取ったばかりの金貨と銀貨を丸々全部渡していた。


 ――そしてこの老人、どこかで見たような覚えがあるな……と思っていたら思い出した。たしか昨日たまご亭で商会長と会った時、隣にいたおじいさんだ。


 そして職人さんの『よろしく頼む』という言葉と、老人の『ありがとうございます。おこころざし、決して無駄にはいたしません……』という言葉から推測すると、これは商会への寄付だよね?


 そういえば商会長とも知り合いだったみたいだけど、商会が反帝国の地下活動をやっているのを知っていて、それへの寄付か。


 あるいは街の復興や住民の救済活動みたいな事もやっていて、それへの寄付かもしれないけど、どちらにしてもクレアさんの実家の活動資金になったようだ。


 将来的に俺からも資金提供する予定でいるけど、図らずも効率的な結果になったね。


 クレアさんの実家商会に対する街の人達の信頼度が高い事が確認できて、ちょっと明るい気持ちになりつつ宿まで戻り。


 その日は遅い時間だったので夕食を食べて眠り、翌朝早々に街を発つ。


 クレアさんは行きの移動で乗馬の感覚をかなり取り戻したらしく、職人さんと二人乗りもできたので、行程はかなり順調に進行した。


 とはいえさすがに二人乗りだと遅くなり、中州の拠点に帰還したのは四日目。


 そこにクレアさんと職人さんを残して俺とシーラで馬を返しにアルパの街へ行き、買い物と商会でお金の受け取りを済ませてトンボ返りで中州の拠点に戻り、翌日から山越えにかかる。


 職人さんは足が悪いとの事だったが、シーラが背負ってくれたのでわりと順調に進み、四日で山を越えて久しぶりの北の拠点に戻ってくる事ができた。


 これからガラス作り……の前にレンガを焼いて炉を作って、材料も探さないといけない。


 やる事が多いけど、女の人達が積極的に手伝ってくれたのでわりと順調に進んでいる。


 女の人達は身の上の都合から、男である職人さんとは一定の距離を置いているようだし、職人さんの方もなぜこんな所に女ばかりの村がと不思議そうだったが、それよりまたガラス作りができるのが嬉しいらしく。意識はそちらに集中しているようで、とりあえず問題は起きていない。


 職人さんは山の民の話を知らなかったようで、エルフのティアナさんを見ても驚いた様子ではあったけど嫌悪感とかは見せなかったので、なんとか上手くやっていけそうである。


 びんの生産までにはもう少しかかりそうだけど、とりあえず順調に事が進んでいる。


 ちなみに職人さんが持っていた杖。


 やたら細長いなと思っていたら、ガラス吹きに使う鉄パイプだった。


 唯一残った財産で愛着もあるので、ずっと持ち歩いていたらしい。


 ガラス細工に使うハサミやピンセットの親分みたいなのはアルパの街で買えたけど、長い鉄パイプはこの世界では他に用途がない珍しいものなので、あって助かった。


 おかげで思ったより早く。帰還後10日ほどで初めてのガラス作りに挑戦できるようになった。



 ガラスが量産できればメープルシロップ用の瓶以外にも用途があるので、上手くいくようにと祈りながら。俺はじっと作業を見守るのだった……。




帝国暦165年7月16日


現時点での帝国に対する影響度……0.0%


資産

・2439万ダルナ(+2246万)

・エリスに預けた冒険者養成所運営資金 2330万ダルナ@月末清算(現在5月分まで)


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×30


配下

シーラ(部下・C級冒険者)

メルツ(部下・反乱軍拠点訓練担当・E級冒険者)

メーア(部下・反乱軍拠点メンタル担当・E級冒険者)

エリス(協力者・反乱軍拠点運営担当)

ティアナ(エリスの協力者)

クレア(部下・中州の拠点管理担当 帝国暦169年5月分まで給料前借り中)

オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の運営担当)

元孤児の冒険者21人(部下・F級冒険者だけど実力はE級相当)

セファル(部下・拠点間輸送担当・C級冒険者)

ガラス職人(協力者)

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