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101 ガラス職人

「ガラス工房で生き残った職人さんをご存知ありませんか?」


 俺の問いに、商会長は記憶を辿るように視線を上げ、すぐに口を開く。


「たまご亭から北東に行った所に川が湖に流れ込んでいる場所があって、そこで朝から昼過ぎまで釣りをしている男が元ガラス職人です。姉さんが顔を見れば分かると思います」


 おお、さすが街最大の商会長、顔が広い。


「今から行っても会えますかね?」


「時間的に厳しいかと。釣った魚を夕方の市に出すために、早めに切り上げているようですから」


「なるほど、じゃあ明日訪ねてみる事にします。……そうだ、せっかくなんで今晩泊まっていきません? クレアさんと話したい事もあるでしょう?」


 俺の提案に商会長の瞳に一瞬喜色が宿ったが、すぐに首を振る。


「そういう訳にはいきません。商会の者達に夜までには帰ると言い置いてきました」


「商会の人達ならここまで付いてきているみたいですから、ちょっと外に出て断り入れればいいんじゃないですか? あ、俺が元皇帝である事は話していいですけど、クレアさんの事は秘密でお願いします」


 そう言うと商会長は一瞬頭を抱えたが、『まぁ、そりゃ付いて来ますよね……』と言って顔を上げる。


「分かりました、ちょっと話してきます。少し時間がかかるかもしれませんが、お待ちください」


 そう言って一階に降りていくのを見送り、俺はその間にクレアさんに話を向ける。


「弟さんと二人きりの方がいいですよね? もう一つ部屋を取ってきます」


「――お待ちください」


 部屋を出かけた所を呼び止められ。振り返ると、クレアさんは床にひざまずいて頭を下げていた。


「アルサル様のおかげで、再び弟と会う事ができました。もう一生叶わないと、二度と会えないと諦めていたのに……ありがとうございます……」


「あ、はい……」


 頭を下げているので顔は見えないが、声は思いっきり涙声だ。


 さっきまでは落ち着いた感じだったのに、あれは感情を抑えていたらしい。


 俗に言うポーカーフェイス。感情のコントロールが上手いというのは商人にとって必須のスキルなんだろうけど、ここまで一瞬で切り替わるとなんか情緒不安定な人みたいだね。


 そんな風にちょっと失礼な事を考えながらクレアさんをなだめようとすると、床にヒザを付いたままでもう一度頭を下げる。


「シーラ様に命を助けて頂いた事と合わせて、このご恩は生涯をかけてお返し致します。


 今までは雇い雇われるだけの関係でしたが、これより先は身命しんめいを尽くしてお仕えし、忠誠を捧げますので、どうかよろしくお願い致します……」


「はい……」


 なんかよく分からないけど、クレアさんが部下になったらしい。


 優秀な人なのでありがたいけど、将来帝国と戦う事を想定している以上、『身命を尽くして』というのは単なる儀礼的な言葉ではなく、文字通りの意味となる。


 ……覚悟の重さが伝わってきて、俺も身が引き締まる思いだ。


 とはいえそれはもうちょっと先の事になる予定である。弟さんの協力を得られて勢力が拡大したとはいえ、帝国と戦うにはまだ全然足りないからね。


 弟さんにはそのうちメルツ達とも会ってもらう事になるだろうけど、連絡に関しては基本クレアさん経由で手紙を送ってもらう事にする。


 一緒に私信も遣り取りできるからね。


 ……そんな訳で、戻ってきた商会長と一緒にちょっと早めの夕食を食べ。好物だという魚の燻製。朝クレアさんが作っていたあれを幸せそうに食べる姿を見てほほえましい気持ちになったりしながら、穏やかな時間を過ごす。


 そして後は二人でゆっくり過ごして貰う事にして、俺とシーラは隣に取った部屋へと引っ込むのだった……。




 翌朝。


 夜通し語り明かしたのかクレアさんと商会長は眠そうだったが、大丈夫との事だったのでガラス職人さんを探しに出かける。


 通り道なのでたまご亭まで商会長を送り届けたけど、クレアさんは仮面をつけているし、二人は距離をとって歩き、道中一言も言葉を交わさなかった。


 さすが商人、秘密保持が徹底している。この様子だけ見たら、誰も二人が姉弟だなんて思わないだろう。



 たまご亭の前で商会長と別れ。湖沿いに北東に進むと言われた通りに大きな川が見えてきて、小柄な男性が一人、川と湖の境目辺りに釣り糸を垂れている。


「クレアさん、あの人で合ってます?」


 そう訊くと、クレアさんは黙って頷く。この街で商人をやっていた頃からの、馴染なじみの職人さんらしい。


 という訳で声をかけるのだが、古来より釣りをしている人への第一声といったら決まっている。


「釣れますか?」


 なるべく愛想よく、親しげに声をかける……が、ガラス職人さんはこちらに顔さえ向けず、じっと竿先を見つめたまま返事もしない。


 ……よく見ると、なにやら表情がすごく真剣だ。


 そういえば、釣った魚を市場で売っていると聞いた気がする。


 つまりこの釣りは趣味や道楽ではなく、ガラス工房が焼けて仕事がなくなってしまったこの人が生活の糧を得る、大切な手段なのだろう。


 なるほど、そりゃ気楽な感じで声をかけてくる子供なんて相手にしている場合じゃないわな。


 初動でコケたのを反省しつつ、改めて声をかける。


「商会の人に紹介されて来たんですけど、細工物のガラスびんが欲しいのです。作って頂けませんか?」


 そう言うとようやく視線を向けてくれたが、相変わらずあまり好意的な感じはしない。


「街の様子を見てこなかったのか? 工房は全焼しちまって、瓶を作るどころじゃねぇよ」


「見てきましたけど、復興計画とかないんですか?」


「最初はあったさ。だが帝国のならず者共が、少し再建が進むと税金だと言って金をたかりに来やがる。


 一度払ったら次の日には違う奴が来て、払えなくなったら建物を壊していくんだ。そんなだから工房以外も、街全体でどこも復興が進まない。だから諦めな」


 おおう……そういえばここ、帝国軍の中でも問題ある人ばかりが送られてくるって話だったね。


「他の街に移動して再興の計画とかはないんですか?」


「ガラス作りってのはどこでもできるもんじゃねぇ。燃料を沢山使うから、まきが安く大量に手に入る所じゃないとできないんだ。


 この街の主要な産品の一つは木材で、山から湖に注ぐ川が沢山あるから、上流で切った木を川に流して湖で回収して、陸揚げして乾燥させる事で大量の木材を取り扱っていた。


 だから薪も安く大量に手に入って、ガラス工房をやるには最適な場所だったんだ。


 他所に移ると言っても、そうそういい場所がある訳じゃないんだよ」


 なるほど。ガラスは高温で融かす訳だから、そりゃ大量の燃料がいるよね…………燃料?


 なんかすごく心当たりがある響きだな。



 俺はいい事思いついたテンションで、勢いよく職人さんに話を向けるのだった……。




帝国暦165年6月25日


現時点での帝国に対する影響度……0.0%


資産

・193万ダルナ(-1万)追加で1600万入る予定 ※800万ダルナは馬4頭を借りた預かり金で、返却時に大半は返還される予定

・エリスに預けた冒険者養成所運営資金 2330万ダルナ@月末清算(現在5月分まで)


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×30


配下

シーラ(部下・C級冒険者)

メルツ(部下・反乱軍拠点訓練担当・E級冒険者)

メーア(部下・反乱軍拠点メンタル担当・E級冒険者)

エリス(協力者・反乱軍拠点運営担当)

ティアナ(エリスの協力者)

クレア(部下・中州の拠点管理担当 帝国暦169年5月分まで給料前借り中)

オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の運営担当)

元孤児の冒険者21人(部下・F級冒険者だけど実力はE級相当)

セファル(部下・拠点間輸送担当・C級冒険者)

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