表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/214

10 後宮脱出作戦

 一度宰相を見ておくという目的を果たした俺は、いよいよ逃亡計画を実行に移す。


 後宮ハーレムにあった絵本で読んだ『船』というものに乗ってみたいと駄々をこねると、わりとあっさり許可が降り。その日の午後には宮殿内の池で舟に乗せてもらう事ができた…………いや、ちゃうねん。


 俺としては宮殿を出て、先日地図で見た川へ行きたいのだ。


 なので舟をとても気に入った演技をし、もっと大きな船に乗りたいとわがままを重ねてみると、どこでどう検討されたのか。3日後には許可が出て川へ行ける事になった。


 なお、シーラを同行メンバーに加えるために同行者をクジで選ぶという企画を立ち上げ。思いっきり不正を行ってシーラを当選させた。必要悪なので許して欲しい。



 ……そんな訳で、川遊びの当日。


 宮殿の前庭には馬車が5台と、護衛の騎馬兵20人ほどが並んでいる。


 同行者は監視役でもある女官さんが4人と、シーラを含むきさき候補が10人。後は荷物を持ってくれたりするメイドさんポジションの人が5人で、俺を含めて20人。全部で40人の一行だ。


 もっと大規模になるかと思ったが、お飾りの子供皇帝が遊びに行くだけだから、こんなものだろう。


 逃亡を企てている俺としては、少人数の方が助かるしね。


 そんな訳で、俺は一番大きい馬車に揺られて宮殿を出発する……シーラとは違う馬車になった。


 せっかくの機会なので、街の様子なども見ておきたい……と思ったのだが、馬車は宮殿を出ると立派な建物が並んだ高級住宅地のような所を通り、そのまま街壁の門をくぐって外に出てしまった。


 どうやら宮殿の周りは貴族街で、街壁にも貴族専用の出入り口があるらしい。


 街の様子が見られなかったのは残念だが、仕方がない。



 ……帝都を出てしばらくは人通りが多く、道の端に寄って皇帝の馬車を見る人達が結構いたが、大体みんなせていて表情は暗く。皇帝の馬車を見て手を振ったり歓声かんせいを上げたりする人は一人もいなかったので、それだけで大体の雰囲気はつかめたと思う。


 宰相、少なくとも国民に優しい政治はやっていないようだ。


 ……憂鬱ゆううつな気分になりながら外を見ていると、景色はやがて一面の農地へと変わっていく。


 青々と広がる作物は……お米ではなさそうだけど、麦だろうか? そういえば後宮ハーレムで出ていた食事も、主食はパンだった。


 そんな事を思い出しながら、地平線まで続く広大な農地を眺める。


 そういえば地平線も、日本にいた頃は見た事なかったな……改めて、違う世界にいるのだと実感させられる……。



 ……雄大な景色は素晴らしいものだけど、さすがにずっと同じだと飽きてしまう。


 地図だと帝都のすぐそばを流れているように見えた川だけど、案外遠いのだろうか?


 だとしたらあの地図はかなり広い範囲をえがいていて、逃亡するのは大変になりそうだ……。


 そんな事を考えていると、護衛の一人が馬を寄せてきて『間もなく到着します』と教えてくれた。


 馬車の窓から身を乗り出すと、遠くにキラキラと太陽の光を反射する、大きな川が流れている……いよいよ目的地だ。



 馬車は船着場の前で停止し、早速降りてみると、目の前の川はかなりの大きさがある。


 向こう岸がずっと遠くに見え、太陽の光をいっぱいに浴びて、薄い青緑色をしたキレイな水が滔々(とうとう)と流れている光景は、まるで一枚の絵のようだ。スマホがあったら写真に収めておきたいくらいに美しい。


 だけど今はスマホなんてないし、それよりもっと重要な事がある。


 ここは街道かいどうが川とぶつかる場所らしいけど、川が大きすぎるのか、この世界の技術が未発達なのか。橋は架かっていなくて、渡し舟が使われているようだ。


 今日は俺達がその渡し舟と船着場を独占してしまうようで、申し訳ない気持ちになるが、許して欲しい。


 船着場には大小3隻の船が用意されていて、それぞれに4人から10人の漕ぎ手が準備を整えている。


 エンジンを積んだ動力船はないようで、やはり文明度は産業革命前っぽい。


 俺は監視の女官さん4人と、妃候補4人。メイドさん2人の計11人で、一番大きな船に乗り込んだ。


 シーラとはまた別の船になってしまったが、特に問題はない。俺が行動を起こせば、反応してくれるだろう。


 最初に俺達の船が川に漕ぎ出すと、他の2隻も後からついてくる。


 岸から見た川の流れはゆったりした感じだったけど、真ん中辺りまで進むとけっこう流れが速い……うん、いい感じだ。


 妃候補の一人が楽器を奏でて優雅な音楽を流してくれる中、俺は初めての船に興奮している子供らしく、テンション高く船上を駆け回り。勢いよく身を乗り出して川面かわもを覗き込む。


 ――女官さんと妃候補の人が同時に止めようとしたが、それより早く。


 バランスを崩した俺の体は、頭から真っ逆さまに川に落ちていく……。



 ……この国からの逃亡方法について。最初の話し合いの時にシーラは、馬を奪って逃げるのがいいと言っていた。


 シーラは武家の娘だから、乗馬に自信があるのだろう。


 でもそれだと、あからさまな逃亡になってしまう。


 当然追っ手が差し向けられるだろうし、シーラの技量次第では逃げ切れるかもしれないが、母親や妹を盾におどされたら、投降するしかなくなってしまう。そして宰相は、そういう事をする相手だ。


 なので明確に逃亡と分かる行動は避け、行方不明という形を目指す事にした。そしてその方法が、今回の川遊びなのである。



 ――水に落ちて、なんとか顔を上げると。船の上は大騒ぎになっている。


 長い棒が何本も差し出されるが、溺れる俺はそれを掴む事ができない……と言うか、あえて掴まない。


 この半月ほど観察した所では、俺は皇帝として大事にされているし、将来皇帝の妻になりたいので、今のうちから仲良くしておこうという妃候補は多い。


 だけどその一方で、いくらでも替えがいる使い捨ての皇帝だという認識も広く浸透している。


 だから普段は俺の歓心かんしんを買おうという人は多いけど、いざという時に命がけで助けようという人は誰もいないのだ……シーラを除いては。


 それは俺が熱病にかかって死にかけていた時。感染を恐れて誰も近寄ろうとせず、シーラ以外は看病をしてくれなかった事でも明らかだ。


 だから今のこの状況でも、棒を差し出すくらいの事はするけど、水に飛び込んでまで命がけで俺を助けようとする人はいない。


 護衛の中には命がけで皇帝を助けようとする人がいるかもしれないが。彼等は馬に乗って岸から俺達の様子を見守っている。今から飛び込んでも間に合わないだろう。


 だから誰にも邪魔されず、俺は川に流されて行方不明になれるのだ。


 そしてシーラは、唯一熱病の看病をしていた変わり者だ。あの時と同じ行動を取って行方不明になっても、誰もおかしいとは思わないだろう。


 川に落ちた俺をシーラが助けようとし、二人とも流されて行方不明。筋書きとしてはなにもおかしな所はないはずだ。



 ……わりと強い流れの中で、なんとか体を浮かせる努力をしていると。俺が乗っていたのと別の船から、人間が川に飛び込む水音が聞こえてくる。


 俺達の逃亡計画は、こうして第一歩を無事に踏み出したのだった……。




現時点での帝国に対する影響度……1.2%


資産

・宝石を散りばめた犬のぬいぐるみ


配下

シーラ(部下)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ