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短編集・散文集

待ち合わせ

作者: Berthe

 待ち合わせ駅の壁に身をもたせていると、日曜の昼間ながら背広姿の会社員に自分もついこの頃まではそうだった学生や、男女二人連れらがあるいはゆっくりとあるいはそそくさと歩いて行く。


 今日の自分はどういう身分だろうと思うと共に(しゅん)(すけ)のことが胸にあふれ、詩央里(しおり)はぎゅっとハンドバッグの肩紐をにぎりしめて瞼をとじ、漏れだす微笑に口元をゆるめるうちふと心づいて今一度携帯電話に時間をみると、少しばかり約束を過ぎている。


 待ちきれないともなお待っていたいともつかない思いにどきどき胸を鳴らした時、ふと背後から肩へ手が置かれ、だしぬけの出来事に詩央里はびくりと肩をそびやかして身をふるわせる間もなく俊輔に相違ないと合点してほっと安堵するままにしかし恐る恐るふりむきつつ窺ってみると、伸びた指先が詩央里の頬をついた。


「え?」と覚えず漏らした言葉につづいて、「ちょっと」と微笑みながら身を離すと、俊輔は早くも真面目な顔になって、


「待った?」と何事もないように問い掛ける。


 詩央里は思わず吹き出しかけたものの、待ちわびたような心が吹き飛んでゆくのを覚えて首を横に振り、ぽっとなりながらその顔を見上げて小首をかしげるうち、


「行こう」と言うなり人波のまばらな方へと踏みだした俊輔にならって、男の早足に置いて行かれぬようすっとその後ろへ付き従いながら、しばしは大人しくしていたものの、未だじんじんするほっぺの出来事が蘇ってふわふわと胸のはずむまま、二三歩駆けてついジャケットの背中を摘まみかけたところへ、その背が急に反り身にふりかえって立ち止まり、危うくぶつかりそうになるまま、


「どうした?」とこちらを見下ろしながら肩へ手を置いた。


 触れられて詩央里はきゅっと身に熱を覚えながら、それでも、


「ううん」と上目づかいに首を横に振り、しばしその目に見入られ吸い込まれそうな気がするうち、にわかに胸がどきどき鳴り出して耐えられなくなるままにそっとその手から逃れでて歩み出す間もなく、足長の俊輔はすたすた隣を追い抜いて行く。


 覚えず足を緩めた詩央里をよそに、そのまま振り返ることもなくずんずん進んで行きたちまち店先へつくと、初めてこちらを見返り手真似で呼び寄せた。


 店に背をむけ腕を組んだまま思案に耽りはじめたような俊輔の横顔を盗み見ながら、ふわふわと浮かれゆく足元にその身をまかせるうち、詩央里はいつしか涼しい春の日の穏やかな風をほころぶ顔に受けながら、すたすた足早になってゆくのに心づいた。

読んでいただきありがとうございました。

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