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残念な俺と彼女の同棲生活。  作者: 祐樹朋葉
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予期せぬ再会は缶ビール片手に訪れる。

「ああ。もう内定は貰ったから、後は安心して仕送りだけに注力しろって伝えておいてくれ」


 あまり似合っていないピシッとしたスーツ姿のまま、俺は電話の向こうにいる相手にそう告げる。


『別にそれは良いけど、喜ばしい連絡の後ろにお金の話されたらお父さんもお母さんもうぇってなると思うよ?』


「何言ってんだ、こちとらまだ一応学生なんだからな。学業を修め卒業するまでは親の庇護下ひごかにあるんだし、それ相応に甘やかされる権利はあるだろ」


『お兄ちゃんってほんとに図々しいというか、狡猾こうかつというか……妹はお兄ちゃんの味方なので別に良いとは思いますけどね?』


 電話の相手は我が妹・御影みかげ透華とうか。三か月前に高校三年生となった、賞味期限間近のJKである。


『でも、どうしてわたしに電話してきたの? 直接二人に連絡してあげたら良かったのに。なんだかんだ言いながらもきっと喜んでくれたと思うよ?』


「別に良いんだよこれで。二十歳にもなって両親にわざわざ直で言うことでもないだろ。こういうのはお前を経由して伝えるくらいが丁度良いんだ」


 透華の問いに、俺は間髪入れずに答える。

 もう二十歳にもなった男が逐一ちくいち両親に何かを報告するというのは、どうにも格好がつかない。


「兄ちゃんだって一人で生きていけるようになったってことなんだよ。二人には言っといてくれ、子は爆速で巣立っていくもんなんだってな」


『ああ、それなら大丈夫。お父さんもお母さんも、お兄ちゃんが一人暮らし始めたくらいから「清々したわぁ~」とか言ってたからー』


 ふざけんなよアホ親どもめ。こうなったら庇護下にある内に徹底的に搾り取ってやる。年金暮らしが待ち受けていると思うなよ、貯蓄全て崩させてやるからな。


「まあそんな感じだから。お前ももう高三なんだし、志望校絞ってさっさと勉強しろよ」


『えっ!? お兄ちゃんが他人の心配するなんて珍しい! なに、全然会えてない妹に対して遂にデレを見せる時が来――』


 ポチリ。


「ふう。これで親への報告も問題ないだろ」


 問答無用で通話終了ボタンをタッチし、俺は大きく伸びをした。


 一年前――大学受験に大失敗して専門学校へと流れ着いた俺。

 初めての一人暮らし&都会進出ということだったが、全く予想していなかった方向への進学に戸惑い、この一年間はそれに付いて行くだけで精一杯だった。


 しかも専門で一年が経過してしまえば、そこからはすぐに就職活動が始まってしまうという。何とも遊びたい盛りの学生に容赦のないカリキュラム。

 過密も過密なスケジュールだと思うし、せめて透華にはそんな思いはして欲しくないと思う自分がいた。


「何とかなるっちゃ何とかなるけどな」


 俺は四月から就活を始め、それから三か月たった現在・七月にようやく内定を貰えた人種である。ちなみに受けたのは一社だけ。それなのに四回も面接をすることになった。


「四回ってなんだよ、こっちは二回って聞いてた気がすんだけど」


 当初の予定ではスパッと就活を終え、今頃は友人たちと学生生活最後の夏ということで、思い出旅行に勤しんでいたというのに。


 陽が傾き始める夕方五時頃、気付けば俺は海の見える公園までやって来ていた。

 緩やかに揺れる波を呆然と眺めながら、思う。


「……何やってんだろうな、俺」


 この一年を振り返っても、そしてこれから先の日々に思いを馳せても、何だか空虚な思いが込み上げてくる。


 それなりに充実した日々を過ごしてきた方だと思うし、それはこれからもそうだと言えるだろう。

 なんせ俺は周囲に流されない超絶マイペースを貫ける人間。自分の機嫌を取ることに関してはもはや右に出る者はいない。


 それなのに、何故か心のどこかに満たされていない気持ちがあるような気がするのだ。


「就活もひと段落したし、何か新しいこと始めて見るのもアリだけどな」


 代わり映えのない生活を彩るには新しいことに挑戦してみるのが手っ取り早いが、生憎あいにく俺は面倒くさがり屋でもある。ピンと来たものでなければ行動を起こす気にもなれない。

 我ながら難儀な性格だと思うものの、だからと言ってそれらを改善しようと思えるほど俺はできた人間ではない。


「結局、今年一年もほどほどの毎日を送ることになるのか」


 落下防止の手すりに沿うように歩を進め、どこか座れる場所を探して公園内を彷徨う。


 先のことを考えたら何だか色々と面倒になってきた。今日の夕飯を作ることさえ面倒臭い。もう今日は適当に牛丼屋で済ませてしまおう――そんなことを考えていた時だった。


 ようやく見つけたベンチにだらしなく座るアバズレが一匹。

 手には缶ビールを持っており、そしてその傍らにはキャリーケースと散在するビールの亡骸なきがら数本。

 その姿は誰がどう見ても“ダメな人間”そのものであった。


 いやいや、流石すぎるだろ都会。こんな完全に陽が落ちない時間から既に酔い潰れてる女が公園にいるとか。どうなってんだよ治安。


 穏やかで何もない田舎で育った俺からすれば有り得ない光景。それ故に、ああいう人種には嫌悪感を抱いてしまうのが正直なところ。

 しかし抱くだけで終わらせるのが俺の良いところでもある。他人の価値観を簡単に踏みにじるほど不躾ぶしつけではない。ここは冷静に、舌打ちしながら通り過ぎるのが正解。


 そう考えた俺は、女に舌打ちがギリギリ聞こえる範囲まで、接近を試みる。

 さあ、酒クズ女のご尊顔を横目で拝んでやろうじゃないか――!

 ある程度近づき舌打ちの準備も整えた俺は、チラリと視線を女の方へ向けた。


 ……正直見た目は悪くないと思う。酒のせいで耳まで真っ赤、口元は緩んでてだらしないし見た感じの印象は最悪に近いが、持っているもの自体は中々と言えるだろう。

 それに何故かはわからないが着ている服は結構乱れており、スルリと垂れた肩紐が白くて綺麗な肩のエロさをこれでもかと言うくらいに強調していて――。


 ……ごくり。


 用意していた舌打ちが、無意識の内に唾を飲み込む行為へと変わっていた。


 ヤバい。目的が変わってしまっているぞ、御影みかげ利一りいち。俺はこの都会に巣食うアバズレに舌打ちを浴びせてやるはずじゃなかったのか。

 しかし、そんな思いが割かれてしまうほど――ぶっちゃけエロかった。


「……ちょっと、何よあんた。そんなところに突っ立ってさ。チラチラこっち見てんの気付いてんだからね」


 俺が小さな劣情を抱いていると、そんな言葉が女の方から飛んできた。

 そこで自分の状況がどういうものか、ようやく気付く。

 流し見をしながら通り過ぎるつもりだったはずが、どうやら女の目の前で足を止め、ただただ横目でその様子をチラリと盗み見る不審者になっていたらしい。


「いや、何よって言われても。俺は俺だとしか言いようがないんですが」


「そういうことを聞いてるんじゃないわよ脳味噌足りてる? あんたはそこで立ち止まって、どーして私の方をチラチラ見てたのかって聞いてんのよぉ!」


 しかもマズいぞ。この女、どう見ても絡み酒じゃねえか。

 地元にいた頃、親父の知り合いで酒に酔うとよく絡んでくるおっさんがいたので、その面倒さは身に染みて理解しているのだが。


 女の絡み酒はぶっちゃけその数倍はタチが悪い。ヒステリックになるしすぐ手が出るようになるし、それで対峙したらしたで被害者ぶって泣き出すし。

 くそ、嫌な奴に捕まったかもしれん。ここは舌打ちをかましたら即逃げよう。


 作戦は一撃離脱、それで行く。アヴァランチの精神を持てばこれしきのこと、どうということはない。

 俺は潔く女が正面に来るよう向き直り、渾身の舌打ちを――。


「……は? お前、もしかして紀伊咲きのさきか?」


 浴びせる前に、女の顔に見覚えがあることに気付く。


「そうだけど、あんたどおして私の名前を……あんた、まさか……みかげ……御影利一っ!?」


 俺が紀伊咲と呼んだ女は不思議そうに頷きつつも、呂律の回っていない状態でこちらの名字を口にすると――そこから一転、まるで鳩が豆鉄砲を食ったような表情を浮かべ俺の名を呼んだ。


 ベンチに座っていたアバズレの名は、紀伊咲きのさき紫苑しおん

 高校時代に数回ほど言葉を交わしたことのある、かつての同級生だった。

 

 

恐らく作者の身に何もなければ毎日二十時更新になるかもです。でも何もないという保証はしません。

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