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匣庭

作者: 遠崎 由縁

匣庭


8/17/00:07


 俺は、何処にいる?

 此処は、何処だ?

 暗い、暗い、暗い……

 世界って、こんなに暗かったっけ?

 寒い。

 そうか、俺は一人なのか?

 何時から、俺は一人なのか?

 そうだ、深雪は?

 深雪は、何処にいるんだ?

「深雪……」

 俺が声を上げる。

 我ながら悲しげな声。

 暗い静寂に、声のみが渡る。

 反響と残響が響く。

 周りはただ、暗く、暗く暗く暗く…。

 目を開けているはずが、見えない。

 此処は何処だ。

 手探りで俺の周りを探索。

 大丈夫。目はそのうちなれてくるだろう。

 ふと、陶器のひんやりとした感覚が右手に伝わる。

 俺の部屋ではない。

 俺の部屋はこんな匂いはしないし、こんな時計の音もしないし、こんな人の気配もしない。

 此処は、何処だ?

「深雪……どこ?」

 俺は暗闇に声を出す。

 彼女は何処だ?

「っつ……痛っ」

 突如、俺の頭が痛み出した。

 こんな痛み、生まれて初めてかも。

 痛い。

 痛いよ。

 俺は、何でこんな痛みを体験しないといけない?

 俺は、何でここにいる?

 俺は……。

 俺は……。

 離れた回路がつながらない。

 俺の心が空っぽになっていったかのよう。

 俺の心、壊れたのかな?

 あっさりと、脆いものだ。

 俺って、こんな簡単に壊れるんだ。

 でも、何で?

 今まで普通の生活をしてきたはずなのに。

 何で? なんでだ?

 俺は……。

「くっ……」

 頭が痛む。

 考えるために血液を送ったからだろうか。痛みが鼓動のように、どく、どく、と突き刺さる。

「何だ? 俺は……」

 そこで俺ははっと気がつく。

「俺は……」

 そこが違和感だったのだ。

 何かがおかしかったのだった。

「俺は……誰だ?」

 俺に対して最近の記憶と呼べるものが無い。

 俺がいない。

 不在。虚構。

 それじゃあ、俺は……。

「……くそっ」

 先ほど触れた花瓶を持った。

 そして、そのまま自分の反対の小指に振り下ろす。

 がつ、といった感覚。

 そして数秒語に、痛み。

「……そうか……」

 夢ではないのか。

 現実でもないのか?

 ただ、この痛みがある、ということは俺は此処にいるわけであって。

「コギト・エルゴ・スムか…」

 俺はここにいることを、俺の心で感じ取れなかったが、この痛みからそれは事実だとわかった。まるでデカルトのよう。考える、故に我あり。のように。

「……ふう……」

 花瓶を元の場所に戻す。

「なんなんだよ……」

 俺は曲を思い出すことにした。

 俺は曲だけは些細な事、それこそベースラインからドラムの叩き方まで覚えれるし、自分の頭の仲でそれを再生することができた。ただし音楽限定。人の声でも何とかできる。

 ただ、その記憶。きっと寝る前に俺は何かを聞いているはずなのに……

 それが再生できない。

「……」

 そういえば深雪って誰だっけ?

「……」

 そういえば俺って誰だっけ?

「……」

 そういえばこの世界ってなんだったっけ?

「……」

 洪水のように俺から俺へ質問が飛び交っている。

 それに対して俺は全てにノーコメント。

 だってわからないんだもん。

 何もわからない。

 俺は何も知らない。

 まるで子供だ。

 そういえば俺は何歳だっけ?

 自分が自分で在る事の実感がわかない。

 ただ、この場所に存在しているだけ。

 先ほどから俺の頭の中でボレロが流れている。

 不安を煽るように。

 現実を突き放すように。

 周囲はひたすらに闇が広がる。

 目が未だに慣れない。

 そういえば、この周囲には街頭はないのだろうか?

 光源といったものが認識できないのだ。

「俺って……ずいぶん田舎に住んでいたっけ?」

 思い出せない。

 記憶が曖昧だ。

 何なんだろう。

 俺は……何者だ?

「貴方が…?」

 俺の耳に一人の少女の声。とてもか細い声。

「……誰?」

「そう……貴方だったの」

「君は……?」

 少女は俺を知っているようだった。が、俺は少女を知らない。俺すらも知らない。なんてアンフェアなんだ。

「……私?」

「ん」

「……そうね……」

「え?」

「……いや、何でも無いわ」

「君……俺のこと……知ってるの?」

「……知らないわ」

「そう……」

 俺の手がかりがつかめると思ったのに。

「あの……さ、もう夜だから寝なよ。疲れてるんじゃない?」

「うん……」

 言われて、俺は布団を手探りで被る。

 とうとう俺は何も思い出せなかったみたいだ。

「……それじゃあ、さようなら」

「あ、そうだ。待って?」

 俺は彼女を引き止める。

「何……?」

「名前……聞いても良い?」

「名前……? 私の……?」

「そう…名前……」

 何で俺は名前を聞くのだろうか?

 何でだ?

 声に惹かれたのかもしれない。あるいは雰囲気。

 わからないけど、理屈じゃないけど。知りたかった。

 俺が俺であるためかもしれない。

「……私の……名前……」

 彼女はすごく悲しそうな声だった。最後のほうは消え入りそうな声だ。

「あの……」

「あ……ごめんなさい。そうね……私の名前……また今度会ったら教えてあげるわ」

それじゃあ、おやすみなさい、と彼女。

 そして、靴の音が遠ざかっていった。

 それが俺の罪の始まり。


8/18/08:34


 今は……まだ夜か?

 ずいぶん眠っていた気がする。

 体が妙に重い。

 今何時かな?

まだ辺りは真っ暗だ。

何も見えない。

深遠。暗闇。

「……えっと」

 僕はとりあえず時計を探す。

 時計……時計……

 手探りで探していると、ひんやりとした感触。ガラスだろうか。

 昨日の……花瓶。

 昨日。

 そういえば、変な人にあったな。

 時計はいつも置いてあるところには無かった。いつもはベッドの下においてあるのに。

 まあ、いいや。

 まだ外が暗いなら、寝よう。

「おやすみなさい」

 僕はそういって、眠ることにした。


8/18/10:22


「……君。氷野君」

 俺の名前か……?

 呼ばれているのか?

 忘れてた。俺は……氷野だ。

 氷野当夜。

 変な名前だって馬鹿にされたな。

 そういえば、思い出してきた。

 大丈夫か。

「はい……」

「ああ、寝たままで結構。それで、私なのだが」

 こほん、と俺に話しかけている人は咳払い。

「私は、水谷啓吾というものだ。それで、だね。君のことについてなんだが……君の名前は?」

「氷野です。氷野当夜」

「ふむ……それで……君の両親は?」

「数年前になくなりました」

「そうか……それは辛かっただろう」

 さらさら、と何かが紙をなぞる音。きっとこの男がいろいろ書いているのだろう。もしかして、何かの検査だろうか。

「君は、何処に住んでるかな?」

「要市の駅前の藤アパート」

「誰か一緒に住んでいる人は」

「いません」

「近頃困っていた事は?」

「ありません」

「そうか。ふむ……大丈夫だ」

「さて……君は……本当のことと、嘘のこと……どっちが知りたい?」

「は?」

「いや、君のことだよ。君が今置かれている状況。本当のことと嘘の事。私はどちらでもいいのだがね」

「じゃあ、……嘘の事を教えてください」

「ほう……何故?」

「だって、本当のことが本当とは限らないから。どっちでもいいんですよ、結局」

 と俺が言うと、男は笑い出した。

「いやいや。失敬。君は、しかし、中々良い感性を持っている」

「ありがとうございます」

「いや。大事にしなさいよ」

「はい」

「それで……」

 再びこの男はこほん、と咳をする。

 いかにも役者がかっていて、わざとらしい咳。

「君は今何時だと思う?」

「時間ですか?」

「ああ、君、真っ暗ではないか。君は、この暗さは何時だと思う?」

「そういえば……」

 さっきから真っ暗だった。

 此処に来てからずっと真っ暗だ。

「深夜……ですか?」

 でも、深夜なら、この人が尋ねてきたのは非常識だ。

 では、今は……。

「午前十時四十分、と言われて、信じれるか?」

「なっ……!」

 今が十時四十分?

 おかしい。

 この暗さが……十時四十分?

 こんなに暗いのに。

 何も見えないほどに。

 ぼんやりとかすかしか見えないほどに……。

「これが、真実だ。氷野君。君は、交通事故に会ったのは覚えているかい?」

 交通事故?

 僕が?

 ありえない。

「……」

「そう、か。君は交通事故に会った。何でも車にはねられたそうだ。幸い、君に外傷は無かった。ただ、精神的なショックをね、……生憎、それで目が見えなくなってしまったみたいだ。だがまあ、大丈夫だよ。君の目は治らないわけではない」

「本当ですか?」

「ああ、大丈夫だ。安心したまえ。そもそも直らない患者にこんなこと言うわけ無いではないか。ただ、時間がかかるがな……」

「大丈夫です。その、俺、がんばりますから。目が見えるようになるように」

「そうか……良かったよ」

 ぼんやりと微笑んだような気がした。

「あ、そうそう。君は事故の時の記憶が無いようだけど、そのことについても問題ない。すぐに直るよ。結構良く起こることなんだ。そういったことって」

「そうなんですか?」

「そう。だから心配しなくてもいいよ?」

「はい」

「それじゃあ、お大事に。何かあったら声を出して? ナースコールは一応ベッドの柱のところにつけてあるけど、見えないと思うから」

「ありがとう……ございます」

「じゃあ、頑張っていこう」

「はい」

 そしてその男は去っていった。

 そうか。僕は事故に会ったのか。

 だから、こんなに目が見えなかったのか。

 だから……か。

 何か大事な事を忘れてないだろうか。

 僕は……?

 何だ? 違和感?

 僕は……?

「……だめだ」

 思い出せない。

 何だったのだろう。

 僕が思い出せない何か。

 僕は……。

「深雪……?」

 そうだ。深雪って誰だ?

 僕の中の記憶の欠片。

 深雪……?

 深雪……。

 思い出せない。

 深雪。

 僕の何者だ?

 両親ではないし、兄弟姉妹もいないはずだ。

 それじゃあ……?

「深雪……」

 君は誰だ?

 貴方は誰だ?

 深雪。

 深雪……。


8/18/16:40


 こん、こん。

 ノックの音がする。

「はい」

 確か記憶が正しければノックの音には「はい」と答えてあげるのが正しいはずだ。

「あの……」

 聞き覚えのある声だった。

 もしかして……。

「深雪……?」

「……入っても、いいですか?」

「ああ、はい」

 がらがら、とドアを開ける音。

 此処のドアは横開きのようだ。

 こつ、こつ、と軽やかな音が俺に近づいてくる。

「えっと……私のこと……覚えてます?」

 彼女は躊躇いがちに聞いてきた。

 聞き覚えのある声だった。

 それも、とても、聞き覚えのある……。

「……もしかして……深雪……?」

「え……あの……」

 一瞬、彼女は戸惑った。

 もしかして、深雪じゃないのか?

 こんなに聞き覚えのある声だったから……。てっきり彼女だと思ったのに……。

 しかし、僕の予想はあっていたようだ。

「覚えていて下さったのですね……うれしい……」

 彼女は涙声だった。

 僕のために泣いてくれているのか?

 僕が覚えていたからうれしくて泣くのか?

 何かワケがワカラナイ。

「深雪……で良いんだよね?」

「はい、その、私……ごめんなさい」

 支離滅裂な会話。仕舞に最後は謝った。

「何で謝るの?」

「でも……いえ、何でもありません」

「そう」

「あの……本当に……その……私が深雪だって覚えてくださったのですか?」

 その声は不安そうだった。

「うん。大丈夫。君は間違いなく深雪だ。その声が証拠だよ」

「えっと……その……目が、見えないんですよね?」

「あ……うん……」

 今は音だけの世界。

 僕としてはまだ理解し得ない外延世界。

「良かったら、その、私……あの……」

 この子ってこんなに歯切れが悪い喋り方をするっけ?

 あまり記憶が定かでは無いが。

「何?」

「あの……えっと、ですね……お手伝い……します。貴方の、生活の……」

「え?」

「だって、ほら、貴方は今は目が見えないわけで、それで、いろいろ困るじゃないですか。看護婦さんとか呼ぶにしても、いつもすぐ来てくれるわけではないですから。だから、その……。手伝います!」

「あ、う、うん」

 何となく強く押されてしまった感があるが。確かに生活に困る。

 日常生活を普通に送れなくなってしまうのは少々厳しい。

 それに、看護婦にだって頼みにくい事だって頼めるだろうし。

 買い物とか、いろいろ。

「お願い、しても良い?」

「はい。あの……何でも……言ってくださいね?」

「うん」

 深雪は僕の世話を買って出てくれた。

 でも、少しばかり気が引けるのは事実。

 自分の大切だった人に迷惑はかけたくない、ってのもあるし。

 大切な人……か。

「あのさ、目が、見えるようになったらどこか行こうよ?」

「え……」

「だって、僕が世話してもらっただけだと、やっぱり悪いよ。だから、半々ってことで」

「あ……はい……」

 彼女はどこか悲しそうだ。

「旅行は嫌い?」

「いや、そんなことはありません」

「じゃあ、何処に行きたい?」

「そうですね……考えときます」

「うん。考えておいて? 僕はできれば思いっきり遊べるところがいいな。沖縄とか、さ。体を動かしたいよ」

「そう、ですね」

「うん」

「それじゃあ、私。申し訳ありませんが、今日はこれで失礼させていただきます。当夜さん何か買っておくものとか、食べたいものとか、ありませんか?」

「いや、別にないよ」

「わかりました。それでは」

 と言って、彼女は行ってしまった。

 深雪の謎は意外とすんなりと解けた。

 良かった。僕は大切な人を忘れていないようだった。


8/22/14:43


 たとえば、世の中にはすでに忘れ去られてしまったものがある。しかし、一体それをどうやって取り戻そうと言うのか。忘れ去られてしまったものは思い出されることは無い。ただ、忘却の海に浮かぶ漂流物。それだけの話。そんなものを、引き上げようとすることはとても大きなエネルギーを使う。当たり前だ。失ったものを取り戻すなんて無いものからあるものを作るかのよう。まるで錬金術師だ。無から金を作り出すようなもの。そんなものはかなりの労力を要する。まあ、現実的に無理な話ではないが。理論上は何とかなるはずだ。なんて突然の科学の話。

 閑話休題。とりあえず、失ったものはおいておくことにしよう。僕は僕で今できることを一つずつこなしていかなければならない。

 例えば、日々のリハビリとか。目が使えない今でも体を動かすことを忘れないためのリハビリだそうだ。幸い、最近はようやく一人でトイレに行くこともできるようになった。深雪をわずらわせなくて済む。僕にとってはこのことは大きな進歩だった。

「あのさ、そういえば、旅行の話」

 この日深雪が切り出してきた。

「ああ、どっか行きたいところ決まった?」

「雪が……見たいな、って」

 雪か。深雪だけに、なんて。まあ、良いんじゃないか、雪を見に行っても。

「北海道とか?」

「うん、北に行きたい」

「そっか。良いね」

 雪なら今住んでるこの町でも降らないことはないが、それでもやはりめったに振らない。せいぜい五年に一度ぐらいか。

 僕たちにとってそんな珍しさを持つ雪を見に行くのも悪くはないだろう。僕は寒いところは嫌いだが。

「雪って言えばさ、いつか前、僕と深雪と、誰だったっけ、とにかく何人かで雪合戦したの覚えてる?」

「雪合戦?」

「そうだよ、覚えてないの? 確かさ、小学校のころでさ、何年も前の話なんだけどね、とにかく、そんなことがあったじゃん。俺の妹とか、後は、そう、大輔とか、一緒に雪合戦して、覚えてない?」

 何秒かの沈黙。忘れてしまったのか?

「ああ、あったね、そんなこと。大丈夫、思い出した」

「何かさ、昔が懐かしいよ。今まで忙しくて昔のことなんて思い出す暇もないくらいだったから」

 俺の高校では先生は勉強勉強で、生徒は進学進学で、平日でも放課後は学校で居残り勉強で忙しかった。だから、今そういったことが懐かしく感じるのは、やはり時間があるからなのかな。

「何か、不思議だね。あのころは本当に楽しかった」

「当夜君はさ、今は楽しくないの?」

「あ、なんていうか」

 楽しくないわけではない。そこそこに高校生活も楽しんでいた。ただ、俺にはなんとなく居場所がないように感じた。それこそ太宰治の人間失格のように。主人公の気持ちは良くわかる。道化の自分。でも俺はそんなこと恥ずかしくは思わない。だって生きていくためには必要なことだから。

 相手をだますのも、当然必要。

 自分が生きていくために、自分のほしい物を得るためには、必要だ。

 俺は平穏がほしかった。だから仮面をかぶって道化になった。自分は楽しくないのにみんなと笑って、なんとなく恋をして、なんとなく失恋をして、なんとなく。

 そう、なんとなくだった。なんとなく生きてたのだ。

 そのことが楽しいわけではない。いや、そういった感慨は少しも覚えなかった。ただ単純に必要かどうか、ということだけ。楽しいかに関して僕の中の優先順位は低いようだ。必要性は一位。二位は?

「あの、当夜君?」

「あ、ごめん、考え事」

「何か、当夜君って子供のころから本当にぼうっとしてたよね。よくカレーライスこぼしたし」

「給食の話し?」

 学校ではそんな経験なかったはずだが。なぜなら学校では僕は張り詰めているから。毎回が発表会。演劇会。僕の舞台。そんなこと狙ってないとできないはずだが、あいにく普通の僕はそんなことはしない。僕は普通をこなすことに関して完璧にこなしていたはずだから。

「いや、給食のことじゃないよ。お家の話し」

「何で知ってるの?」

「あ、えっと……妹さんから聞いた」

「そう」

 何か嫌だな、あの妹。俺のことをネタにして。そういえば妹は元気かな? まあ、アイツのことだからそんなに問題はないだろうが。

 一応、僕には妹がいた。名を氷野萌香。ちなみに父は氷野獏夜。なんだか小説家のペンネームみたいな名前。

 何年か前に死んだけど。母と一緒に。交通事故だったはず。

「そういえば、深雪ってさ、萌香がどこにいるか知ってる? 事故以来会ってないんだけど」

「いや、ごめんなさい、知らないの」

「そっか」

 少しばかり心配にもなるが、今は自分のことに集中する。まずは目を治さなくてはだ。

「来週から目の治療、包帯をとって少しずつやるみたい」

 僕は医者に言われたことを反復する。

「そう」

「何か、うれしくないみたいだね?」

「そんなことないわ。うれしい。早く良くなってほしいもの」

「……何か悩み事?」

「そんなんじゃないよ」

「じゃあ、何かあった?」

「なんでも無い」

「そう」

 それにしては彼女の声は少しばかり暗かった。何か隠しているような、そんな感じ。深雪は前から隠し事が苦手だったから、嘘はすぐばれる。ただ俺は嘘と知っていてそれを掘り下げるほど無粋ではない。嘘はその人が真実を隠したいだけだから。

 もしかすると、俺が負担になっているのかな。単純な思考だが、ありえるか。

 そう思うと自己嫌悪。嫌だな、そんなこと考えながら相手に世話させるのって。

「そろそろ遅くなってきたし、帰ったら?」

 俺が切り出す。たまには早めに帰ってほしい。深雪もやることがあるだろうし。いつもは面会時間ぎりぎりまでいる深雪だが、彼女にとってこの日課は相当の負担になっているだろう。

「あ、でも、面会時間はまだ……」

「まあ、たまにはね。少し一人で考えたいことがあるし」

 これは嘘。

 そういえば僕って嘘をつくのは得意だったっけ?

「そうね……わかったわ。それじゃあ、また」

 深雪はそういって病室を出て行った。

 残された俺はとりあえずやることもなく、何かやることを探してみた。

「あ、そういえば」

 彼女に頼みがあったんだ。

「プリン、買ってきてって頼めばよかったかな」

 この前病院食で出た変なヨーグルト、まずかったんだもん。たまにはおいしい甘いものを食べたいものだ。


8/23/23:57


 暗い日常。どこまでも深遠。僕はどこにいるかわからなくなる。不安。感情。いつまでも、僕は……

「このままなのかな」

 医師は俺の目は簡単に治るって言ってたけど、本当なのか。結局そんなもの嘘なのかも知れないし。ただ、あの医師は本当のことを教えると言った。でも、

「本当が本当かなんて誰にもわからない」

 そうだ。この本当が嘘なのかも知れない。どこにも本当なんてないかもしれない。それでも今は何とか生きていくしかないのか。

「死にたい?」

 突然、声が聞こえる。

 か細い、女の子のような声。

 靴音も聞こえなかった。突然、声だけがそこに現れたかのようだ。

「貴方は……死にたいの?」

 彼女は俺の思考を読んでいるかのような、妙に的を射た質問。

「わかんないけど……」

「何で…死にたいの?」

 彼女は質問を続ける。

「何で……ね。死にたいわけじゃないんだけどさ、ただ、そう、不安なんだ。何もかも。不安。俺がどこにいるかわからないから、だから。あのさ、君の目の前に、僕は、いる?」

 これが俺が今までずっと感じてきた疑問。本当に俺はそこにいるのか。まるで存在自体が希釈されていくかのような感覚。自分の肉体を感じられない。精神だけがそこにあるかのようで、不安で、不安で……。

怖かった。誰でも良いから、俺を証明してほしかった。一人で居たくなかった。孤独で居たくなかった。

 ふと、胸が温かい。

 これは……手?

「貴方が居るって、私が証明してあげる……大丈夫。ここに、居るよ?」

 その手は何もかもを救うメシアの手のようで。僕はその暖かさに現実を覚えた。そう、俺はここに居る。

「ありがとう……」

「どういたしまして」

 か細い声。優しい声。俺を証明してくれる、そんな声。

「そういえば……」

 この声に僕は聞き覚えがあった。何日も前の話かもしれないし、何年か前の話かもしれない。ともかく、妙に聞いたことのあるような声。郷愁を誘う声色。

「君って……俺にあったことある?」

 何か変な日本語。もう少しうまい日本語は使えないかと我ながら悲しくなる。

「貴方に会ったこと……そうね」

 声はいっそうか細くなる。何かを我慢しているような、そんな声。

「以前、貴方にあったわ。少し前だけど、貴方がこの病院に来て間もないころ。貴方がもっとあやふやだったころ」

「あの時……」

「覚えていてくれたの……」

「……そうだ、名前。あの時、聞けなかったから」

「名前……ごめんなさい。名前、忘れたの」

 彼女ははぐらかすように言った。

「今度までに思い出しておくから」

「そうか……ありがとう」

 名前を教えたくないのだろうか? 

 去るときも、靴音は聞こえなかった。


8/24/09:17


「当夜君、起きてる?」

 声がして、気分が現実に弾きもどされる。「当夜君……?」

「今、起きたところ」

「あ、そう……ごめんなさい」

 歯切れの悪い謝り方だった。この声は深雪か。

「当夜君……大丈夫? もし……その、なんていうか、いやだったらって言うか……まだ寝ててもいいよ」

「いや、大丈夫」

 実は看護婦に起こされたのだが、その後再び寝てしまったのだ。二度寝というやつだ。

「今日、いろいろとやら無いといけなくてね」

「そう、あの、無理……しないでね?」

「ああ、ごめん。ありがとう」

 なんとなく、今日は歯切れが悪い。

「当夜君……えっと、ね、旅行のこと、何だけど」

「ああ、北海道の話?」

「うん。でも、当夜君、沖縄のほうが……良いって言ってたから、やっぱり沖縄が、良いかなって」

「ああ、あれはなんていうか、まあ、口からでまかせみたいなものだから。そんなに気にしなくても良いよ」

「そう……」

 声がまた少し暗くなる。本当に、一体どうしたというのだろうか。今日は、何か、あっただろうか。

「ごめん、今日って、深雪、調子悪い?」

「いや、大丈夫……少し、寝不足なだけ」

「そう……」

「昨日、少し本読みすぎちゃって……」

「あ、そうなんだ」

「うん。でも、大丈夫……だから。当夜君は、心配しなくても良いからね」

「ああ、ありがとう」

 その後、沈黙。ちなみに、今、何時なのだろうかと深雪に問うと、九時過ぎだそうだ。リハビリの開始は今日は十一時。まだ、それなりに時間がある。

「あのさ、深雪」

「ん?」

「何か、飲み物、無い?」

「あ、ごめん……気が利かなくて……」

「いや、そんな謝ることでもないから」

「うん……でも、ごめんなさい」

「良いよ、別に」

 そういいながら、深雪は僕の手にコップを渡してくれた。「離すよ?」という声はどこか弱弱しい。飲んでみると液体はアイスティーのようであった。

 しばらく、深雪と他愛の無い話をした。

 昔のこと。其れこそ、俺が小学生だったときのこととか。なんとなく、気恥ずかしい気持ちになってしまった。昔話は往々にして、気恥ずかしくなったりしてしまうものだ。

「深雪、そういえば今日って何日?」

「八月の……二十四日」

「そう……夏休みはまだ、続いてるんだ」

「うん。ただ……お医者さんは……もしかしたら目が見えるのは夏休みの後かもしれないって言ってる」

「そうか。それじゃあ、深雪がこれる日はもうあんまり無いんだな」

「……そうだね」

「まあ、しょうがないさ。宿題、やったのか?」

「……あんまり終わってない……」

「そうか。まあ、毎年手伝ってやったもんな」

「毎年手伝ってたのは……私のほうだよ……昔は、当夜君の絵日記まで、書いてあげた……覚えてない?」

「……ごめん、あんまり、覚えて無い」

 そんなこと、あっただろうか? ほとんど記憶にない。

「でも深雪って良く俺の事覚えてるな。その記憶力に関心だよ。少しばかり尊敬する」

「……そんなこと、無いよ」

「だってさ、俺の妹とか、家のことまで覚えてるじゃん。何気にすごいよ」

「いっつも……一緒にいたから」

「まあ、腐れ縁だからな」

「……うん」

 何て下らない話をしているうちに、あっという間に十一時前。何となしに話過ぎてしまったようだ。

「……それじゃあ、またね」

「ああ、またな」

「リハビリ……がんばって。旅行、期待してる」

「ああ、任せとけ。あ、あと一つだけ、お願い」

「何?」

「プリン、買ってきてくれないかな、今度で良いから」

「……わかった」

 とプリンの件を依頼して、深雪は出て行ってしまった。代わりに、看護婦が呼びに来た。かなりいいタイミングだ。

「仲よさそうで、うらやましいですね」

 看護婦が穏やかな口調で話しかけてきた。

「そんなこと無いですよ」

「私のところは、最近喧嘩しちゃって」

「そうなんですか」

 何て下らない情報も聞かされながら、俺は看護婦に手を引かれてリハビリ室に向かった。


8/26/12:52


 二日後、再び深雪に会った。

「ごめんなさい……昨日は、少し用事、あって」

 深雪は半分涙声になっている。ここが個室の病室でよかったと今、つくづく思う。多人数の部屋であれば、何を言われるか分かったものではないからだ。

「別に怒っているわけじゃないから」

 できるだけ俺はやんわりと応えた。

「……ごめんなさい」

「そもそも、俺が深雪にいろいろしてもらっているんだから、深雪が謝る筋合いも道理も無いだろう? 俺より自分の都合を優先してくれれば、別に問題ないから」

「……うん……」

 といつもよりも弱弱しい。というか、最近会うたびに弱弱しくなっていく。

「当夜君……その……目の調子……良くなってるの?」

 いつもの他愛の無い話をしていたら、深雪が聞いてきた。

「ああ、目ね。何か、もう二三日で一応は見えるかもって言ってたけど…でもまだ見るって言っても視力が回復するわけじゃないって。完全に物が認識できるまではまだ時間かかるってさ」

「じゃあ……事故の時の記憶は?」

「其れは全然。駄目だ。まったく思い出せない」

「そう…」

 ふう、とため息が聞こえた。

「疲れてないか? 深雪?」

「……そんなこと無い……」

 どこか疲れたような感覚。雰囲気ではあるが。

「本当に? 何か、嫌なことでもあったのか?」

「……当夜君、わかんない?」

「は?」

「ごめんなさい……何でもない……」

「……」

 そして、沈黙。彼女の腕時計の音だけが聞こえる。ただ、粛々と時を刻む、機械。

「ごめん、今日、もう行かないと……」

「そうか……」

「……またね」

「ああ」

 気まずさを感じたのか、彼女は今日は早々に帰って行ってしまった。

「……ふう」

 ぼんやりとため息を吐く。何か、最近彼女の様子がおかしい。何故だろうか。まあ、俺が詮索してもきっと彼女は話してくれないだろうし、彼女が話してくれるほど俺は彼女に信頼されていないのだろう。

「当夜君には……わかんない、か」

 俺にはわからない。その通りだ。悔しいが、俺には何もわからない。欠落した記憶と、欠陥した視力。どちらも持たない俺にとって、彼女の気持ちはわかるはずは無い。

 俺は今、一般とはかけ離れている。自分、が何か違うのだ。そんな者に、一般の人間の気持ちなどわかるものか。

 もしかすると、記憶そのものと同時に、感情も消してしまったのではないだろうか。など下らないことをぼんやりと考えてしまう。

「氷野君、元気?」

 ふと声がした。男の、少し若めの声。水谷先生だ。

「まあ、元気っすよ」

「それは何よりだ。だが、其れは本当かな?」

「……あんまし詮索しないでください」

「手厳しいね」

「そういうもんなんですよ」

「そうか」

 こつ、こつ、こつと革靴の乾いた音が近づく。続いて、どす、とパイプ椅子に重いものがのしかかった音。そして、かちん、という妙な金属音と、じじじ、という焦げる音。その後、独特の匂いがした。

「この病院は禁煙じゃないんですか?」

「まあ、硬いことは言わないでくれ」

「いいですけど。怒られても知りませんよ」

「平気だ」

「そうっすか」

 そういえば。彼は一番最初に真実と嘘を俺に選ばせた。結果は、どうなっているのだろう。彼は、真実かどうかを教えてくれなかった。俺の選択どおりの回答を、この目の前の男はしていなかった。

「なあ、水谷先生」

「なんだ」

「これって、真実?」

「何のことだ」

「いや、先生さ、俺と会ったとき、真実と嘘を選べとか何とか言って、俺は真実って応えたけど、俺が真実を聞かされたなんて保障できないじゃないですか」

「まあ、な」

「それでさ、これって真実なんですか?」

「真実だ」

「そうか」

「あと、この言葉そのものが嘘という可能性もあるが、まあ、其れは低いと考えてもよい。私が保証しよう」

「ありがとうございます」

「いえいえ」

 どこか彼はおどけた調子で答えた。

「不安なの?」

「そういうわけじゃないんですけどね」

「まあ、記憶も視覚も無いんじゃ不安なのは当たり前の事だ」

 ふう、と煙を吐く音。

「氷野君、人というものは記憶を積み重ねて生きていく。そして、その記憶は大部分が視覚的な、ヴィジュアルな映像によって保存されている」

「視覚が優勢感覚ってヤツですか」

「そうだ。その二つを失った君は、精神的に混乱をきたすのは、まあ、平常だと思う。ただ、ね……」

 と、ここで一瞬言葉を濁した。

「何なんですか?」

「いや、ここでさ、目が見えなくなってから、また見えるようになると、この世界の醜さを直接的に受け止めなくてはいけないんだ」

「何か、哲学的ですね」

「もともと、僕哲学専攻だし」

「其れは真実なんですか?」

 ふふ、と彼は笑う。

「真っ赤な嘘だ」

「……ていうか、話をしに来たんですか、先生」

「いや、本題は、君の目の事だ。君の目、思ったよりも回復が早いみたいでね、視力は戻らないまでも、ぼんやりとなら、もう見えるはずだよ」

「本当ですか?」

「ああ、ただ、そこまでは見えないがね。というわけで、包帯を外しに来たんだ。流石に包帯の上から透視するわけにも行くまい」

 そういって、彼は俺の目の包帯をいとも簡単に取った。なんとなく、目の前に光があるような感覚がする。

「さあ、目を開けてごらん」

「……っ」

 薄らと、ゆっくりと、俺は目を開けた。

 目の前は、ぼんやりとだが、白い視覚が広がっている。そこに、じわりと、色々な色彩が滲んでいるようであった。少し芸術的な、絵のようであった。

「……見えるってほど……見えませんね」

「君は感動しないのかい?」

「まあ、感動って言うほど見えるわけでもありませんし」

「冷たい人だね、君は」

 ぎし、とパイプ椅子がきしむ音。水谷先生が立ち上がったようだ。左手になんとなく白い塊がこちらを向いているような気がした。

「というわけで、僕はこれで帰らせてもらうよ。何か問題があれば、看護婦にでも言って」

 それじゃあ、とあっさりと帰ってしまった。

 俺は、目の前の感覚をぼんやりと掴んでいる。この、妙な感覚。視覚、なのか? これは。はっきりしない。記憶にすらならない。だから、感動を覚えないのだろう。もっと言えば、世界につながった感覚が無いのだ。今までは、音だけの世界で、事故の前の世界と離れた世界にいるような感覚があった。今は、其れとさほど変わらない。

「……」

 俺は、何処にいるのだろう。この世界に、戻ってきたのだろうか。

 やめよう。とりあえず、目を休めよう。

 そう思って、俺は少し午睡を貪ることにした。


8/26/18:59


 なんとなく視線を感じて俺は目を覚ました。そこには、目を開けると、薄らと見える、女の影。ロングヘア、太い縁の眼鏡、赤いカーディガンをかけた女だった。

「……お前は……」

 記憶の糸を手繰る。そう、この女は、俺の妹だ。

「……萌香か」

「……目が、さめたの?」

「見えるようなった。ただぼんやりだけどな。久しぶりだな」

「そう……久しぶり……なんて……冷たい言葉何だろうね」

 ぼそっと萌香は口走った。

「ああ……見舞いにはあんまり来なかったけど……」

「大変だったのよ、何か、色々とね」

「そういえば、あのさ、萌香……」

「……」

 この目の前の萌香に僕は違和感を覚える。否、妙な親近感とでも言うべきか。ただ、その感覚は確証の持てるものではないし、しかもその感覚を感じた瞬間に馬鹿馬鹿しい仮定が命題へと変わるので黙っていることにした。

「萌香、あのさ、深雪見なかった?」

「さあ」

「そっか」

「……ごめんね、私、帰らないと。目が見えるようになって良かった」

 それじゃあ、と萌香は帰ろうとした。

「そういえばさ、萌香、頼んでも良い?」

「何?」

「今度来るとき、プリン、買ってきてくれないかな。深雪に頼んだんだけどさ、なかなか買ってきてくれなくて」

 我ながらどうでも良い依頼だと思ったが、これぐらいの我儘許してもらえるだろうと思った。

「……冷蔵庫……」

「え、冷蔵庫?」

 俺は聞き返したが彼女は行ってしまう。

 何か、不用意な事でも言ったのだろうか。俺は少し思い返してみるが心あたりも無く、まあ、良いや、と思ってしまった。

 それにしてもだ、最近は異性のことを知らず知らずのうちに傷つけてしまうことが多いようである。これからは気をつけなくては。


8/24/17:42


 と久々に昔のことを思い出していた。

 昔のこと。大事件といえば、大事件なのだが。あれ以来、俺は深雪と会っていない。

 後から聞いた話なのであるが、深雪はあの後、北海道へ引っ越したらしい。なんでも実家が実は北海道にあるらしく、訳があってこっちの方に来ていたそうだ。それが急な用事で帰る、との事。まあ、萌香から聞いた話だが。ともかく、病院の一件以来、何も音沙汰は無くなった。

 何故か、二年も前のことを思い出して、少々気恥ずかしい思いをしてしまったのだが、これも年を取ったからなのかな、と少々自虐的なことを考えてしまう。一応はまだ十代なのだが、十代の一年というものは四十代の一年と比べ物にならない気がする。

 あと、この二年間で変わったことといえば。萌香がここから少し離れた私立高校に通っている、ということだ。昔は結構慕ってくれたので少々寂しい思いはする。勿論この感情は純粋な意味であって決してシスコンとか、そういった類のものではないので、そこのところはしっかりと言及しておこう。

 斯く言う自分はというと、この春、晴れて大学生になり、少し大人に近づいたといえばその通りなのだが、自分としてはうれしくは無かった。やはり大人なんてものになりたいとは思わない。俺は、子供のままでいたい。いろいろと社会とかが面倒だし、自分には向いてないのだ、集団生活が。其れこそ、何と無しに二年前のように誰かを傷つけることがあるかも知れないからだ。

 とこの程度のことが二年間のうちに起こった。

 そうそう、目のほうは完全回復はした。ただ、記憶の方はどうやら曖昧なまま、回復することはこの先も無いみたいだ。水谷先生曰く、

「いや、珍しい。大変貴重だ」

 と少し喜んでいた、というのも余談の一つである。

 このような感じで、俺の入院生活は幕を下ろした。別に、何も無く、ただ平凡なままで。

 世は事も無し、と言ったところか。


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