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魔弾のスナイパーは、敵の射程圏外から無双する。  作者: 幸一
■冒険者の集まる村カルディラ
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霧に消えた英雄

 カルディラは、草原の真ん中にぽっかり空いた直径10キロの縦坑に作られた村であり、村の入口は東西南北4か所に設けられた外周に沿った坂道、そして100メートル下の底部外周には田畑、中心部に向かって市場、村役場、冒険者ギルドなどが建ち並んでいた。

 村人の住居は、村の入口から底部に下る坂道の途中、横穴に作られており、縦坑の外周約30キロ(4か所の坂道は重ならない)に5,000戸、総人口は13,000人である。

 またカルディラの周囲には、北東にゴブリンなど小型魔物が生息する密林地帯『迷いの森』、西南にドラゴンなど大型魔物の縄張り砂漠地帯『ンラ砂漠』があり、それぞれに遺跡やダンジョンも多いので、魔物討伐依頼、調査依頼を請負う冒険者が多く集まってくる村だった。


「カルディラが『冒険者の集まる村』と呼ばれる所以ですね。エクスフィアについて知りたいことがあるなら、私が教えて差し上げますよ」


 万能翻訳魔法Lv2を覚えた俺が、カルディラを紹介する冊子に目を通していると、横から覗き込んだペルカは、退屈そうな顔で話しかけてきた。

 吸収した魔力を能力に振分けられるドッグタグを入手した俺は、ペルカの通訳がなくても、村人から情報収集が可能になったものの、土地勘があり、文化風習に明るい彼女の案内は必要である。

 エクスフィアは、俺にとって未開の地なのだ。


「そうだな、ベルカに聞きたいことなら山ほどある」

「何でしょう?」

「エクスフィアの武器には、拳銃やライフルのような銃器があるのか?」

「ケンジュー、ライフルゥ、ジュウキィ? どんな武器ですか?」

「うん、無いことは解った」


 万能翻訳魔法で伝わらない名称は、エクスフィアに存在しない。

 銃器が存在しないから、ペルカの聞き直した拳銃、ライフルなどの単語が、彼女の発したイントネーションのまま聞こえた。

 しかし銃器が存在しないとなると、ベレッタ92やMk15は、手持ちの残弾を撃ち終えたら鉄屑同然になる。

 パラベラム弾とライフル弾は、現地調達したいところだ。


「この村には、腕の立つ鍛冶屋がないか?」

「カルディラに鍛冶屋はありませんが、武器屋ならあります。もしかして、新しい短剣をご所望ですか。それでしたら、私も調査依頼のクエスト報酬が出るので、一緒に行きますね」


「コンバットナイフを新調する気もなければ、そもそもエクスフィアの金銭を所持していない」

「お金なら昨日、ゴブリンを一匹退治した懸賞金がもらえると思います。未払いの懸賞金は、認識票に記録されているはずです」


「魔物を倒せば、クエストを受注しなくても稼ぎになるんだな」

「武器や防具の素材になる魔物の部位を持ち帰れば、素材屋で買取りもしてくれます。ゴブリンの場合は、身に付けている武器が換金できますね」


「あの錆びたナイフが?」

「鉄は貴重な資源なので」


 ペルカは、俺が倒したゴブリンから錆びたナイフを取り上げていた。

 ちゃっかりしている。


「今から調査報告書をギルドに提出して報酬をもらいますから、その後に武器屋に行きませんか?」


 ペルカに聞けば、カルディラの武器屋は、よその街から武器を仕入れているらしい。

 銃器のないエクスフィアで、銃弾を現地調達するなら、鉄を打つ鍛冶屋を見つけるのが先決だろう。

 村を闇雲に探し回るより、武器を仕入れている武器屋の店主から、話を聞くのが早そうだ。

 ペルカの誘いに応じた俺は、ベレッタ92をガンホルスターに差して立上がった。


 ◇◆◇


 ペルカは冒険者ギルド一階、精算窓口で迷いの森調査依頼のクエスト報酬を受取ると、俺にもゴブリン一匹分の懸賞金を精算するように言った。

 懸賞金の受取りは本来、ある程度溜まってから換金するのが常識らしく、ゴブリン一匹で換金する俺から、ドッグタグを渡されたギルド職員は、あからさまに嫌そうな顔をしている。


「冒険者の旦那、魔物討伐の懸賞金は、まとめて月一くらいにしてくださいよ」


 俺はギルド職員から、銅の棒貨を3本渡された。

 銅の棒貨にどれほど価値があるのか解らないが、職員の態度を見れば、たいした金額では無さそうだ。

 そんなことより気になったのは、俺のドッグタグを手にした職員が−−


「エクスフィアの英雄殺し? けったいな称号だな」


 と、俺の知らぬ間にドッグタグに浮かび上がった称号を、訝しげに読み上げたことだ。

 称号は、身に付けた冒険者の行動で決まるのなら、俺の称号『エクスフィアの英雄殺し』とは、どんな行動で浮かび上がった称号なのか。


「ススゥムの称号は、確かに変ですよね。だってススゥムが殺したのは、私を襲ったゴブリンだけじゃないですか」

「俺の倒したゴブリンが、じつはエクスフィアの英雄だった?」

「それは有り得ません」


 俺たちは会話しながら、冒険者ギルドから武器屋のある市場を目指している。

 ペルカの言うとおり、いくらなんでも迷いの森で倒したゴブリンが、エクスフィアの英雄ではないのなら、俺が過去に狙撃した人物に、エクスフィアの英雄がいたのだろうか。

 しかし俺が狙撃した人物は、エクスフィアの住人ではなく、テロリストやゲリラであり、英雄と呼ばれる高潔な人間なんて一人もいなかった。


「ススゥム、ここがカルディラ唯一の武器屋『ダイアンの店』です」


 ペルカの案内してくれたダイアンの店は、時代劇に出てくるような和風の店構えなのに、店頭に並んでいるのは、中世ヨーロッパで使われていたようなロングソード、ロックハンマー、ボウガン、アーチェリーなど、どこかミスマッチの品揃えである。

 建物は和風、村人の服装や冒険者の携帯している武器は西洋風なのは、カルディラの特徴なのか、それともエクスフィア全域が、このような作りなのか。


「こちらは、この店の主人クレベール・ダイアンさんです。クレベールさん、ススゥムは、迷いの森からやってきた新人の冒険者なのです」

「森からやってきた冒険者?」

「はい、ススゥムは森から現れて、ゴブリンに襲われていた私を助けてくれたのです」


 武器屋のクレベールは、今ひとつピンと来ないようだ。

 ペルカの紹介は嘘ではないが、新人冒険者と紹介すれば、説明の面倒がなくて良い。


「クレベール、一つ聞いても良いか」


 俺は、ペルカが武器を物色している間、クレベールに腕の立つ鍛冶屋がいないか、と聞いてみた。

 クレベールは武器の仕入れ先が、ンラ砂漠を越えたドワーフの村ソンゴであり、腕の立つ鍛冶屋を探すなら、ソンゴのドワーフを訪ねると良いと教えてくれた。

 ドワーフは鉱物加工が得意で手先が起用な職人も多く、武器や防具だけではなく、装飾品などの生産加工を行っている。

 彫金技術に長けているドワーフならば、銃弾を作ることも可能だろう。


「ンラ砂漠と言うと、迷いの森とは正反対にある砂漠地帯だな」

「はい。カルディラからソンゴまでは、獣人族の行商人に同行させてもらって一週間ですね」

「獣人族の隊商キャラバンに同行?」

「案内人なしで砂漠地帯を渡るのは、自殺行為です」


 霧のドームがいつ発生するのか解らなければ、迷いの森から離れるのは得策ではない。


「なるほど、覚えておこう」


 しかし当たり前にドワーフやら獣人族が会話に登場しても、当然のように受け入れている俺の環境適応能力には、我ながら驚かされた。


「ススゥム、鍛冶屋の居場所は解りましたか?」

「ああ、手掛かりは見つかった」

「それは良かったです。鍛冶屋には、今から向かいますか?」


 俺は、銃弾を現地調達するためにソンゴに向かうか、それともカルディラに留まり、霧のドームの発生を待つか迷っている。


「ペルカこそ、目当ての品はあったのか」

「それが気に入った長剣があるのですが、お値段的に足りなくて」

「いくら足りない? 銅の棒貨3本で足りるなら、すぐに貸せるぞ」

「ええと……銅8本です」

「ゴブリン一匹が銅の棒貨3本なら、あのとき逃した二匹も倒しておけば買えたな」


 ペルカは『そうですね』と、赤い舌を出して笑っている。


「そう言えば、ススムさんは森からきた冒険者だと言いましたよね」


 クレベールは、店を出ようとする俺たちを呼び止めた。


「もしかしてススムは、森で消えた英雄と関係がありませんか?」

「森で消えた英雄?」

「はい。迷いの森には『霧の塔』と呼ばれる遺跡があるのですが、5年前に王都エクスフィアの英雄が、遺跡の調査に向かったきり、戻ってこなかったのです」


 霧の塔、森から戻らなかった英雄、俺は嫌な予感がした。

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