最悪の称号
勝負の内容はともかく、俺は冒険者に登録されて、念願のドッグタグが支給されることになった。
ドッグタグがあれば、ゴブリンから吸収した魔力を能力に振分けて、能力限界を押し上げてレベルアップできる。
「レベル2のススゥムが、レベル20前後のゴブリンを倒したのですから、レベル差で大幅なレベルアップが期待できますよ」
「それは楽しみだ」
ザンザと戦ってみて改めて思ったのは、遠距離攻撃を主体とする狙撃手の俺は、身体能力のスキルアップより、主に魔法取得に魔力を振り分けたいと考えた。
現地でのコミュニケーションのために万能翻訳魔法、敵の能力を見極める判定魔法は、絶対に欲しい魔法であり、それでも魔力に余裕があるなら、視力や集中力なんかも上げてみたい。
「これが、ススムさんの認識票になります」
レムから渡されたのは、何も表記されていないドッグタグだった。
ドッグタグは、首から下げて所有者を認識させると、名前と取得している能力の一覧が表記される。
またステイタスを可視化する場合は、ただ手に握りしめて念じれば良いらしく、可視化したステイタスは、第三者にも見えるので、公共の場では情報漏洩の観点から表示しない方が無難だと言われた。
「スキルアップするには、どうやれば良いんだ?」
ペルカの部屋に戻った俺は、さっそくドッグタグの使い方を聞いた。
「ステイタスを可視化した後、既に取得している能力を向上するときは、その項目を指でなぞると、更にレベルアップできる項目が表示されます」
物は試しに、俺はドッグタグを握りしめて、目の前に自分のステイタスを可視化した。
読めないかと思ったが、可視化されたステイタスは日本語で表示されていた。
ステイタスは、所有者の母国語が表示されるらしい。
俺が肉体Lv1を指でなぞると−−
肉体Lv1→基礎Lv1 −腕力Lv0
−脚力Lv0
−素早さLv0
−全身硬化Lv0
吸収した魔力でスキルアップできる能力が、スキルツリーのように展開するので、スキルアップしたい項目を指で追いかけて念じるだけで良いそうだ。
「魔法を取得したい場合は、取得魔法の項目に指を置くと、同じように取得可能な魔法が表示されます」
「取得したい魔法を指で追って念じれば、その魔法が使えるようになる?」
「はい、その通りです」
魔法の取得には、身体能力の強化よりも魔力を多く消費するらしい。
身体能力に限ってスキルアップした場合、俺のレベルは8アップしてレベル10になるが、万能翻訳魔法Lv2、判定魔法Lv1を取得すると、3アップしてレベル5止まりだった。
「万能翻訳魔法で会話だけでなく、文字を読むならLv2まで取得しないといけません。判定魔法はレベルアップに応じて、判定できる項目が増えるようですね」
「では初めてのレベルアップは、身体能力を後回しにして、万能翻訳と判定の魔法を取得しよう」
「私も、それが良いと思います」
俺が万能翻訳魔法Lv2、判定魔法Lv1の魔法を取得すると、なぜか固有能力の鷹の目がレベル1アップして、全体でレベル6になっていた。
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東堂進(Lv6)
称号:なし
身体能力:肉体Lv1/五感Lv1
取得魔法:万能翻訳魔法Lv2MAX※永続/判定魔法Lv1※レベル表示可能・個別能力の表示不可
固有能力:鷹の目Lv1※15メートルまでの弾道を可視化する
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「鷹の目の能力は、弾道の可視化だったのか。狙撃手の俺に、ぴったりの能力だ」
俺がベレッタ92をガンホルスターから取り出して構えると、まるでレーザーサイトのように発射される弾道が可視化された。
「鷹の目をレベルアップすれば、可視化される弾道が15メートルから伸びるのかな。次からは、固有能力に全振りしよう」
「固有能力は、残念ながら魔力を振り分けてスキルアップできないのです」
「そう言えば、鷹の目は勝手にスキルアップしたね」
「はい。固有能力は、魔力を振り分けて向上するのではなく、全体レベル5、10、20、40、80と倍にアップする毎にLv1ずつアップするのです」
先天的に持っている固有能力は、個人の資質に関連する能力が多く、簡単には上がらないらしい。
「弾道が15メートル可視化されるなら、拳銃を振り回すだけなら十分だ」
俺はこのとき、固有能力の鷹の目による弾道の可視化をレーザーサイトくらいの使い道しか気付いていなかった。
「ススゥムには、どんな称号が付くのでしょうね」
「どうせ『新人冒険者』だろう」
「新人冒険者の称号は、経験の浅い冒険者に付く称号です。ススムの場合、元の世界の行動が反映されるはずです」
「では称号は『魔弾のスナイパー(マジック バレット スナイパー)』かね」
「その称号、ちょーかっこいいじゃないですか!」
俺たちはこの後、浮かび上がった称号のせいで、冒険者ギルドを追放されて、カルディラを出ていくハメになる。
俺のドッグタグに浮かび上がった称号は、なぜか『エクスフィアの英雄殺し』だった。
称号の謎は、解る人には解るかなと
では、また明日!