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魔弾のスナイパーは、敵の射程圏外から無双する。  作者: 幸一
■冒険者の集まる村カルディラ
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模擬戦

 俺の冒険者登録試験は、カルディラの闘技場で行われることになった。

 闘技場はテニスコートほどの広さで、足元は砂地、ところどころに身を隠す板が遮蔽物として置かれている。

 俺の得物は本来、飛び道具であり、ペルカは模擬戦用の矢尻を使えば、弓やボウガンを装備しても良いと言うのだが、さすがに銃器を持ち込むわけにいかないので、木刀の短剣を用意してもらった。


「それにしても冒険者登録の模擬戦なのに、やけに立会人が多くないか?」

「観客席にいるほとんどは、村人なのです。これから冒険者になるススゥムに、どれほどの実力があるのか見に来ているのでしょう」

「見世物ってわけか」

「闘技場での模擬戦は、ギルドの収入にもなっています」


 闘技場では普段、賭けの対象として冒険者同士が模擬戦を繰り広げており、村人の娯楽となっているらしい。


「今日のエキシビションマッチは、酒場のペルカちゃんが迷いの森で見つけた男が、ビレッジガーディアンのザンザさんと戦うんだってさ」

「ザンザさんを相手に、素人が勝てるわけがない。今日は、賭けにならんな」


 俺の相手は、ザンザのようだ。

 ザンザはレベル45、本気の勝負なら俺に勝ち目がない。


「ススム、俺はレベル15までの能力しか解放しないから安心しろ」


 後ろから現れたザンザは、俺の肩に手を置いた。

 取得した能力は、その場に応じてレベル調整が可能であり、ザンザのレベル45は全ての能力を解放したときのレベルで、俺との模擬戦では、レベル15までしか発動しないと言う。


「レムちゃん、ススムに俺のレベルを判定魔法で開示してやれ」


 闘技場の中央に立ったザンザは、水晶を手にしたレムに声を掛ける。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ザンザ・ラフト(Lv15)

称号:ビレッジガーディアン

身体能力:肉体Lv10(基礎Lv1/腕力Lv3/逆力Lv3/素早さLv3)/五感Lv1

取得魔法:万能翻訳魔法Lv1※永続/痛み緩和Lv3MAX※永続

固有能力:なし

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 ザンザの能力は、ペルカが確認して伝えてくれた。


「ザンザさんは、腕力、脚力、素早さの能力限界を三段階向上して、魔法は万能翻訳魔法、それに痛覚緩和をレベルMAXにしていますね」

「ザンザの身体能力が向上していると言われても、どれほど強化されているのか解らないから、聞いても意味がないな」

「ザンザさんは武器を装備していないので、殴り合いで勝負したいのでしょう」


 ペルカの言うとおり、ザンザは両手にバンテージを巻き付けると、大きなボクシンググローブを嵌めた。


「ススムさんがギブアップしないで、ザンザさんに短剣を3度当てたら模擬戦を終了します」


 レムが模擬戦のルールを説明すると、観客席の村人から賭け金を徴収するギルド職員が、オッズを公表した。


 ザンザ・ラフト 1.7倍

 東堂進     5.8倍


 冒険者ギルドの連中は、オッズを見る限り、俺の負けを予想しているようだ。


「ススゥム、冒険者登録の試験は、試合内容で決まりますので、無理だと思ったらギブアップしてくださいね」

「なるほど、レベル15の冒険者に善戦すれば、負けたところで冒険者になれるんだな」

「はい。試験は、ススゥムの実力を確認するだけです」

「了解した」


 俺が闘技場の中央に向かうと、両手に嵌めたボクシンググローブを叩き付けたザンザが、ファイティングポーズを決める。


「しかし俺を組み伏せたススムが、まさかレベル2の無能者だったとは、さすがに驚いたぜ」

「俺は、冒険者じゃないと言ったはずだ」

「おっと、俺は馬鹿にしたんじゃあないんだ。俺を組み伏せたときの動きが、能力限界を超えていないなら驚嘆に値するってことだ」

「ザンザだって、能力を使っていなかったんだろう?」

「俺だけが能力を発揮していたら、そいつは不公平だからな。しかし俺はあのとき、ススムと同じ条件なら勝てないと理解したし、実力も十分に把握した」

「では、どうして模擬戦を?」


 レムが試合開始を告げると、ザンザが、間髪入れず右ストレートを繰り出したので、俺はバックステップで飛び退いた。

 しかし俺の体はパンチの風圧に負けて、尻もちをつかされる。

 腕力Lv3の威力は、ヘビー級ボクサーのパンチ力と同等以上に感じた。


「決まってるじゃねえか、俺だってペルカちゃんに良いところを見せたいんだよ!」

「やっぱり嫉妬なのかよ!」


 ザンザは脇を締めると、足場の悪い砂地を物ともせずに距離を詰めてくる。

 これも脚力Lv3の為せる技なのだろう。

 上から振り下ろされる拳を警戒した俺は、横に倒れて転がったものの、ザンザは躊躇いなく俺を蹴り上げた。


「ぐはッ!」


 ザンザはボクシンググローブを嵌めているが、これはボクシングの試合ではなく、実戦を模した戦闘である。


「どうしたススム、これで終わりじゃないよな?」


 ザンザに蹴り上げられた俺は、空中で体勢を立て直して、地面に片膝ついてから立上がった。


「1タッチ!」

「なんだと!?」


 レムの言葉に、ザンザが動揺している。

 俺は横に転がりながら逆手に持ち替えた木刀で、ザンザの脚を斬りつけていた。


「あと2回当てれば、俺の勝ちだな」

「おのれ、俺の死角にナイフを隠したな」

「これが実戦なら、お前のフットワークは使い物にならないぞ」

「くッ」


 まずザンザの脚力を削いだ俺は、激情に駆られて突貫してきたザンザに、握っていた砂をぶつけて視界を封じる。


「目が!」


 目に砂の入ったザンザが、顔を手で拭うので、俺は右腕を木刀で斬り上げた。


「2タッチ!」

 

 レムの判定に、観客席の村人が落胆の声を上げる。

 ほとんどの村人は、ビレッジガーディアンのザンザの勝ちに賭けていたのだろう。


「これでは、右ストレートも使えないな」

「痛覚緩和の永続魔法を発動しているんだから、実戦でも問題なく動けるぜ!」


 これは模擬戦なので、実際に斬りつけていないのだから、ザンザは軽いフットワークで近付いて、容赦なく右ストレートを打ち抜いてくる。


「猪突猛進しか芸がないのか?」

「ススムッ、逃げるだけじゃあ勝てねえぞ!」


 ザンザは、大きく飛び退った俺を挑発しているが、俺だって、ただ木刀をザンザに当てるだけなら、いくらでもやりようがある。


「3タッチ! ザンザさん、そこまでです」

「え?」


 最後の一太刀は、逃げるときに投げつけておいた。

 勝敗は、ザンザに木刀を3回当てれば良いのだから、そこで試合終了となる最後の一回は、投げつけてポイントを取れば良い。


「レベルだけが戦闘力を測る指標じゃないと言ったのは、ザンザだったよな」

「ああ、俺の完敗だ」


 試合の終わった俺とザンザは、お互いの健闘を称えて闘技場の中央で拳を合わせた。


「ふっ、さすが俺の親友だ。ススムなら、試験に合格するとわかっていたぜ」


 ザンザは、肩を竦めながら負けを認めると、友情ごっこに浸っているが、やはり一方的にやられても、友情が芽生えるものなのだろうか。


「ビレッジガーディアン! 負けてもかっこいいぞ!」

「卑怯な真似で勝つなんて、ススムとかいう奴はきたねー野郎だな!」

「ススム、俺の金返せ!」


 村人は地元のザンザが負けたことより、新参者の俺が勝ったことが面白くないようだ。

 罵声の内容は理解できなくても、村人に向けられる冷たい視線を見れば、おおよそ何を言われているのか予想がつく。

 観客席から罵声を浴びせられた俺は、番狂わせで勝った競馬馬の気分である。

評価よりブクマが欲しいのです……

( ;∀;)〈マジでマジで

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