ガンスミス
ニーナに連れて来られたのは、ソンゴの管理狩猟区『逆さ火山』の入口付近、ヨーゼスの家は逆さ火山の勾配にある横穴式住居だった。
俺は暑さ対策として触覚Lv5にレベルアップしているものの、それでもマグマの流れる火口から吹き上げる熱風には、額から汗が流れる。
「ヨーゼスは、こんなところに住んでいるのか?」
「え、なんですか?」
「ヨーゼスは、こんな暑くて煩いところで暮らしているのか!」
それに聴覚Lv5に上げているせいなのか、マグマの流れる音や地鳴りが煩くて、声を張らないと、ニーナと会話が出来ない。
五感が鋭いことが、かえって邪魔になることもある。
「伝統的な鍛冶屋は、逆さ火山の外周に暮らしているのです。横穴から火口に流れ込むマグマを使って、鉄を加工していた頃の名残ですね」
「狩猟区からは、魔物が襲ってこないのか?」
逆さ火山は、すり鉢状のクレーターの中心に煮えたぎるマグマが流れており、魔物の生息地にも関わらず、ソンゴの地下都市と繋がっていた。
「火口付近には、人型の魔物マグマンがいるのですが、連中は身体が冷えると固まってしまうので、ここまで上ってきません」
しかし逆さ火山の魔物は、ほとんどがモグラのように穴に潜っていれば、地表を歩き回る魔物は、火口付近にしか生息していないらしい。
「ソンゴに魔物討伐にくる冒険者は、そいつらを狩っているのか?」
「いいえ。マグマンはLv100〜130、高レベルの火属性魔法攻撃を仕掛けてくるので、よほどベテラン冒険者でも獲物にしませんね」
ニーナが逆さ火山の螺旋に下りる坂を指差すと、そこには横穴がいくつも空いている。
「ソンゴにくる冒険者は、あの穴から魔物が掘った迷宮に入ります。穴の一つ一つが、天然のダンジョンになっています」
「なるほど。ソンゴを訪ねる冒険者は、ダンジョン攻略が目的なのだな」
「ええ。ダンジョンには、土属性と火属性の魔物がいます。治癒魔法が覚えられる土属性の魔物討伐は、駆け出しの冒険者に人気があるので、みんな冒険者ギルドでパーティーを探して潜るみたいですよ」
ニーナが一通り説明が終わると、ヨーゼスの居宅兼作業場の扉を解錠する。
玄関の傘立てに傘のようにアサルトライフルを差したニーナは、師匠であるヨーゼスと同居しているようだ。
俺が後手に重い扉を閉めれば、外界と隔絶された室内が静まり返る。
それに彼らの家は、逆さ火山の外縁部にも関わらず涼しくて快適だった。
「下層にある作業場は、火床を絶やさないので暑いですが、ここは住居スペースなので快適でしょう」
ソファに案内してくれたニーナは、袖で額を拭った俺の心を見透かしたようだ。
ニーナは『師匠を呼んでくるね』と、部屋の奥にある階段を下りた。
それから数分後、足が不自由なのか、杖をついた隻眼のドワーフが現れる。
頭が禿げ上がって白髭を蓄えたドワーフ族の不敵な面構えは、只者ではないオーラを放っており、それがザダール将軍が王都エクスフィアより連れてきた古老のガンスミスだと一目で解った。
「おめぇさんが、ニーナに銃弾の制作を依頼した男か? ワシは、てっきり騎士団長がエクスフィアに戻ったのかと思ったわい」
ヨーゼスは、ザダール将軍が異世界人だと知っている。
そうでなければ、エクスフィアに戻ったとは言わないからだ。
「俺は、東堂進だ。ザダール将軍とは、同じ世界の住人だ」
「そうだろうな。そうでなければ、ニーナの武器が『アサルトライフル』だと見抜けまい。おめぇさんが、アルマハ・ザダールの名前を知っているのなら、騎士団長は、あちらの世界に戻られたようだな」
「ああ、そうだ」
「騎士団長は、いつエクスフィアに戻って来られるのか? 騎士団長は、迷いの森に戦局を大きく変える兵器があると言っておられたが」
「ザダール将軍は、もう二度とエクスフィアに戻れない。彼は、あちらの世界で戦死した」
「一騎当千の騎士団長が!? エクスフィアで向かうところ敵なしだったのに、戦死なさったのか!?」
ヨーゼスは、よろけながら俺の向かいに置かれたソファに腰を降ろした。
ヨーゼスは、ザダール将軍が持ち帰る兵器とやらに、よほど期待していたのだろう。
「俺たちの戦場では、全員が銃を装備している。ザダール将軍は、銃のないエクスフィアの戦場で平和ボケしちまったんだろうぜ」
ヨーゼスは『そういうことか』と、寂しげに俯いた。
ヨーゼスには申し訳ないが、俺がザダール将軍を狙撃していれば、将軍は、エクスフィアの戦局を大きく変える兵器を持ち帰ることは永久にない。
「さっそくで悪いが、ニーナに渡した物を量産できるか?」
ヨーゼスは黙ったまま、テーブルに9x21mm IMI弾に酷似した銃弾の詰まった木箱を置いた。
どうやらザダール将軍は、アサルトライフルだけでなく、俺のベレッタ92と同口径の拳銃も所持していたらしい。
しかしヨーゼスがテーブルに並べたのが9x21mm IMI弾を模倣しているのは、やはりベースにしたのが、南アの後ろ盾となっていたイスラエル製の銃弾だったからだろう。
ベレッタ92でも発射可能だが、できれば9mm パラベム弾が欲しい。
「俺の持ち込んだ弾丸と、同じものは作れるか?」
ヨーゼスは『愛弟子ならば』と、ニーナの気配を感じて振り返る。
ニーナは階段を上ると、親指を立てた。
「俺はソンゴを立つまでに、出来るだけ多くの銃弾を補給しておきたい。その後も、タマーノ商会を通じて定期的な購入を検討している」
ニーナは『毎度あり!』と、手揉みしているが、ヨーゼスは訝しげな表情で手を上げて制止した。
「ちょっとまて。銃弾の制作を請負う前に、二つだけ確かめせてくれるか。おめぇさんは、こいつを使って何をする? 話し次第では、銃弾の制作を請負えないが、おめぇさんが騎士団長の志を引継ぐつもりなら、銃弾に属性を付加することも可能だぞ」
「俺がザダール将軍の意思を引継ぐ?」
ザダール将軍の意志とは、俺が魔王軍との戦争に加勢して、魔族や魔物と戦うことだろうか。
俺が暗殺したザダール将軍は、南ア密林地帯から西側諸国との紛争を指揮していた独善的な指導者だった。
そいつの意思を引継いで、魔王軍に引き金を引くなんて、どんな運命の悪戯なのか。
「俺は、エクスフィアでのザダール将軍を知らなければ、彼が何を目指していたのか知る由もない。だから俺は、彼の代わりにはなれないだろう」
それに俺の目的は、原隊復帰である。
ノルティとの約束を果たした後、エクスフィアに残り魔王軍と一線交えるつもりがない。
だから今、ヨーゼスに約束できることは−−
「しかし銃弾の補給が出来るなら、カラド地方に進軍する魔王軍を撃退してやる。もちろん、銃口をエクスフィアの人々に向けることもしない」
「うむ」
ヨーゼスは、難しい顔で腕を組んだ。
カルディラの冒険者ギルドでは、野心家のザダール将軍が、政敵にも銃口を向けていたと聞いていれば、必ずしも善人だったわけではない。
力を乱用しない点は、俺とザダール将軍が一線を画すところだ。
「まあ魔王軍と戦うつもりなら、今はそれで良かろう」
「あと一つはなんだ?」
「おめぇさんが、騎士団長と同じ力を持つに値する人間か、ニーナを連れて逆さ火山で狩猟してきてくれ」
「ヨーゼスは、俺の腕前を確かめたいのだな」
頷いたヨーゼスは、逆さ火山での狩猟用だと、俺にザダール将軍のために作った9x21mm IMI弾を渡してくれた。
「ニーナは、こやつとパーティーを組んで6階層下のダンジョンに潜るのだ」
「6階層下のダンジョンには、大型魔物の大食いミミズが出没するじゃないですか!?」
「ダフトビッグマウスを狩れとは言わんが、大食らいの空けた穴は、他のダンジョンより広いからのお。射撃の腕を確かめるのなら、6階層下のダンジョンが適当だろう」
ヨーゼスは『それにニーナも−−』と、思わせぶりな言葉を添えたものの、そこで言葉を飲み込んだ。
それにニーナも、この男の力量を見たいだろう?
なぜ?
( ╹▽╹ )〈You ブクマしちゃいなYO




