ベクターLM5
ソンゴの滞在は一週間。
俺は、限られた時間で弾薬を補給しなければならない。
俺が探しているヨーゼスという鍛冶屋は、王都エクスフィアの騎士団御用達の職人であり、この世界に銃器を持ち込んでいたザダール将軍とも面識があったらしい。
ザダール将軍が騎士団長であれば、騎士団御用達の鍛冶屋ヨーゼスに弾薬を作らせていた可能性がある。
「ヨーゼスさんは5年前、王都騎士団に伴って戻ってきたね。なんでも魔界侵攻作戦に備えて『ソンゴに補給基地を作る』と言っていたけれど、騎士団長が行方知れずになったせいで、話が立ち消えになっちゃってさ。ヨーゼスさんは今、何処で何をしているのやら」
宿屋の主にヨーゼスの所在について尋ねると、ザダール将軍が迷いの森で消えた五年前、彼に伴ってソンゴに帰郷したらしい。
ザダール将軍が、お抱えのガンスミスを手元に置きたくて、ヨーゼスをソンゴに呼び付けたのだろう。
「家族や親戚、ヨーゼスの所在を知る人物はいないか?」
「ヨーゼスさんは高齢の独り者だし、ソンゴに戻った後、隠居したと聞いてます……。あ、でも一人、王都から連れてきた弟子がいました」
「弟子?」
「王都からは、多くの武器職人がソンゴに来たのですが、補給基地の話がないと解って、ほとんどが王都に戻ったのです。ですが、ヨーゼスさんの連れてきた見習い鍛冶屋は、ソンゴに留まって修行を続けているはずです」
「名前は解るか?」
「名前は解りませんが、素材屋で尋ねれば解るでしょう。彼女は人族との混血なので、普通のドワーフ族より背が高いから、すぐに見つかりますよ」
「ヨーゼスの弟子は、長身の女ドワーフなんだな」
「はい」
ガンスミスのヨーゼスが引退しているなら、探しても無駄な気がするが、まだ彼が弟子を取っているなら、完全に火床の火を消したわけではないのだろう。
俺は、冒険者ギルドに登録しに行くシノたちを送り出してから、ダッフルバッグを背負って素材屋に向かった。
素材屋では、街道の魔物から剥いだ素材や、ヤハエからもらった素材を換金する予定があり、ヨーゼスの弟子が見つからなくても、無駄足にはならないだろう。
「こちらの素材は、金7本で買取りますが、鉄鎧鶏の羽は、鉄の取れるソンゴでは売物になりません。ソンゴには、鉄鉱石がそこら中にあるのです」
素材屋は、ヤハエのくれた素材のみ値を付けると、村周辺で狩猟した魔物の素材を突き返した。
しかし戻されたところで、使い道がなければ廃棄するのも面倒だから、引き取って欲しいと申し出る。
「その羽、無料でもらえるの?」
声の方に振り向けば、ドワーフより背が高く、人族としては小柄な女性が立っていた。
探しているヨーゼスの弟子が、人族とドワーフ族の混血なら、処分を頼んだ鉄鎧鶏の素材を物欲しそうに見ている彼女が、その人だと思った。
「ニーナ、そんな物もらって何に使うんだ?」
「ボクの作る弾は、地金から作るより、鉄鎧鶏の羽を加工して作る方が楽なんだよね。これから取りに行こうと思ってんだけれど、無料でもらえるなら助かる」
素材屋に『ニーナ』と呼ばれた女は、鉄鎧鶏から弾を作ると言った。
それにニーナが背負っている武器には、見覚えがある。
俺はニーナに自己紹介すると、ヨーゼスの弟子なのか尋ねて、鉄鎧鶏の羽から作る弾がどんなものか質問した。
「ヨーゼスは、ボクの師匠だ。弾は、こいつに装填する矢みたいなものだね」
そう言ったニーナは、ガンスリングを前に回して、背負っていたベクターLM5を正面に向けた。
ベクターLM5とは、ご存知のとおりイスラエルのイスラエル・ミリタリー・インダストリーズ|(IMI)が、アフトマート・カラシニコバ|(AK-47)を基に設計したガリルSARを、南アフリカ共和国がライセンス生産したアサルトライフルだ。
外国人傭兵部隊を裏切ったザダール将軍は、南アでライセンス生産されたベクターLM5をエクスフィアに持ち込んでいたらしい。
「ニーナの作る弾は、ベクターLM5の弾丸なんだな」
「ススムは、もしかして鉄砲のこと知っているの? この武器が作れるのは、ボクの師匠だけなんだけど」
「ヨーゼスは、ベクターシリーズを生産しているのか?」
「王都エクスフィアにいた頃は、騎士団長の依頼で作っていたらしいけれど、今は作ってないよ」
まさかザダール将軍は、弾薬だけじゃなくてアサルトライフルまで、エクスフィアの鍛冶屋に作らせていたのか。
しかしエクスフィアでは、銃器類の存在が確認できなければ、蔓延っている気配がない。
ザダール将軍は、ドワーフに作らせたLM5を流通させる気がなかったのだろうか。
それともヨーゼスがソンゴに戻った五年前、ここを補給基地としてアサルトライフルを騎士団に配備、魔界侵攻作戦を開始するつもりが、迷いの森で南ア密林地帯に帰還してしまった。
ザダール将軍が実戦配備する前にエクスフィアを離れてしまったので、アサルトライフルが市中に出回ることがなかったと考えれば、納得できる話ではある。
「弾を見せてくれないか?」
「いいよ」
22口径のベクターLM5、弾は5.56mm NATO弾。
ニーナの仕事は、見た目に完璧のようだ。
「銃も見せてくれるか?」
ニーナは少し悩んでから、弾倉を抜いてアサルトライフルを寄越した。
「見た目より軽いのは、素材の違いだな。剛性があれば、軽い方が取り回しが良い」
「ススムは、持ったことあるの?」
「俺がいた南アでは、メジャーなアサルトライフルだからな」
ベクターM5からフルオート機能を廃して作られたLM5は、LM4からバイボットが外されて、バレルも短縮されている。
集弾性を考慮した射程距離は300メートル程度で、典型的な強襲用のセミオートライフルだ。
試射してみなければ解らないが、見た目だけなら申し分ない。
「鉄鎧鶏の羽は、ニーナにくれてやる」
「本当に!?」
「ああ、その代わり俺の注文を聞いてくれ」
俺は、MK-15とベレッタ92の弾丸を取り出すと、ニーナに渡して同じ物を作ってくれるように依頼する。
ニーナは注文を受けるか、まず師匠であるヨーゼスに相談して決めるので、家まで着いてくるように言った。
ニーナのLM5は、木製ストックのショートバレルです。
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