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魔弾のスナイパーは、敵の射程圏外から無双する。  作者: 幸一
■ドワーフ自治区ソンゴ村
43/47

誤算

 ドワーフ自治区ソンゴ村に到着したのは、三日目の夕方だった。

 大渓谷の岩肌をくり抜いて作られた大きな横穴が、地下都市ソンゴの入口なのだが、日中は鉄の扉で守られており、村に出入りすることが出来なかった。

 地下暮らしのドワーフは、強い陽射しが苦手らしく、村の出入りを夜間のみに限っており、彼らの一日も、開門時間に合わせて始まるらしい。


「ソンゴなら、お前たちにも普通の生活が送れそうだな」


 俺は、荷台で日が暮れるのを待っているシノたちに振り返った。


「あたいらがソンゴで暮らすなら、ドワーフ料理を覚えないと駄目よね。ドワーフ族は、石や土も食べるから料理の幅を広げなくちゃ」

「ソンゴの狩猟区『逆さ火山』は、ソンゴ内にあるので、私とミケーレちゃんも仕事が見つけられると思います」


 シノとニウは、新生活を夢見て嬉々としているが、ミケーレは顎に手を当てて難しい顔をしている。


「どうしたミケーレ、ソンゴを定住先に決めるのが不満なのか?」

「そーじゃねえけど、うちは、もっとお兄ちゃんの役に立ちたかったぜ」

「俺も、しばらくソンゴに滞在する予定だ。俺の役に立ちたいなら、いくらでも仕事を手伝ってもらう」

「本当か! なんでも手伝うぜ!」


 オーシロ姉妹の末っ子ミケーレは、新生活の期待よりも、俺との別れを惜しむ気持ちが勝っているようだ。

 鼻っ柱が強いミケーレだが、こうして懐かれてみると、()()()()()みたいで可愛らしい。


「そろそろ開門だ」


 ソンゴの大門に松明が掲げられた。

 陽光で魔族とバレるシノたちだが、陽光を避けて生活するソンゴのドワーフとならば、瞳の色を気にせず、暮らしていけるのではないだろうか。

 そう考えて、ラファトの街道沿いから彼女たちを連れ出したのは、正解だったと思っていた。

 しかし−−


「ソンゴを開門するので、冒険者の方々は手形(ドッグタグ)を用意して、民間人の入村希望者は、配布する書類に必要事項を記入してください」


 ずんぐりむっくりした体型の小男が、大門の潜戸から出てくると、列をなしていた馬車に向かって声を張り上げている。

 

「ギルドを追放された俺のドッグタグでも冒険者扱いになるが、サンドキング討伐の情報が漏れるのは避けたい」


 冒険者ギルド所属の有無に関わらず、冒険者ギルドの入団テストに合格してドッグタグをもらえば、冒険者を名乗ることが可能だった。

 入団テストは、冒険者としての力量に足る人材か確かめられるものであり、一度合格してしまえば即日、別の冒険者ギルドに移籍することもできる。


 しかしムゥハで死んだことになっている俺が、サンドキングを倒した冒険者だと明かせば、二重スパイに送り込んだノルティが危険にさらされるので、ドワーフの役人から書類を受けとった。

 

「民間人の滞在許可は、一週間までになります。在留期限を過ぎて無許可で滞在した場合、ソンゴの冒険者ギルドから手配されることになるので注意してください」

「民間人の滞在許可は、一週間なのか?」


「魔物討伐にくる冒険者や、仕事でくる隊商はともかく、ここはドワーフ族の自治区だからね。物見遊山で訪れる観光客や、ドワーフ相手に商売する他種族に長居されても困るんだ」


 ドワーフの役人に言われてみれば、ドワーフ自治区ソンゴ村は、ドワーフ族の居留地なのだから、他種族であるシノたちが定住できる村ではなかった。

 役人は荷台の幌を捲くると、聞き耳を立てていた三人を指折り数える。


「ソンゴを出ていくときは、全員揃って出てくださいね。あなた方の誰か一人でも欠けている場合、残った方々が連帯責任で処罰されます」

「わかった」


 書類の記入や人数の確認は、形式だけのものだろう。

 ドワーフ族しかいないソンゴに在留期限を超えて滞在したところで、仕事にありつけるわけでもなければ、異質な容姿の他種族が隠れ住むことも不可能だ。


 ◇◆◇


「ぬか喜びさせて、すまなかった」


 宿屋を見つけて馬車を預けた俺は、ヤハエから聞いたヨーゼスという鍛冶屋を訪ねたかったものの、期待を裏切ってしまったシノたちを市街に誘って、食事を奢ることにした。


「ススムさん、気にしなくて良いですよ。ソンゴにいる間は、人目を気にせず出歩けるから、あたいらの良い気晴らしになりますもん」

「シノに万能翻訳魔法を覚えさせたのが、無駄になってしまったな」


「ドワーフ語の看板が読めるのは、けっこう便利ですよ」

「シノが、そう言ってくれるなら助かる」


「ところでススムさん、その焼肉を食べないなら、あたいがもらっても良いですか?」


 シノは、俺の箸をつけないドワーフ料理を狙っているらしい。

 地下に流れるマグマを利用したドワーフ料理は、火山活動が激しい魔界の料理にも通じる調理法で、彼女にとって郷愁を誘う味だとか。


「ああ、やるよ」


 俺は、エクスフィアに来てから料理にハズレなしだと絶賛してきたが、テーブルに並んだマグマ焼きというのが苦手だ。

 鼻に抜ける硫黄臭が、俺の苦手な発酵食くさやを彷彿とさせるからだ。


「これから何処に向かうのか知らないけど、こんな御馳走まで食べさせてくれるんだから、ススムさんの捕虜になって良かったよねぇ〜」

「お兄ちゃんの捕虜、最高っす!」

「私もそう思います!」


 ソンゴの定住が不可能だと知った彼女だが、むしろ俺との旅が続くと解って、なぜかイキイキして見える。


「俺は、明日から人探しに出掛けるが、お前たちは、どうするつもりだ?」

「私たちは、ソンゴの冒険者ギルドで冒険者登録するつもりです。ソンゴの冒険者ギルドには、ドワーフ族しか入団できませんが、冒険者登録は可能だと聞きました」


「ニウたちは冒険者になるのか」

「私たちが冒険者だったら、ソンゴの滞在期間も融通が効いたでしょう。これからもススム様と旅を続けるのなら、私たちも冒険者に登録した方がよろしいかと、みんなで決めました」


「確かに冒険者のドッグタグがあれば、倒した魔物の報奨金がもらえるし、新たな身分証にもなる。良い考えだと思う」

「ありがとうございます!」


 異世界人の俺でも冒険者になれたのだから、冒険者になるのに身元保証が必須ではない。

 それにシノも登録条件のレベル15をクリアしていれば、申請するだけで冒険者の資格がもらえる。


「俺は、先に宿屋に戻るから、あとは好きにして良いぞ」

「もう酔ったのですか?」

「さすがに疲れた」


 昨晩の深夜はシノと狩り、仮眠した後はソンゴまで馬車を操舵していた。

 昼夜逆転の地下都市ソンゴに到着してから、時間感覚がズレており、時差ボケのような状態で眠気に襲われる。


「おやすみなさいませ」


 ニウが背中に声を掛けるので、俺は振り返らずに手を煽った。

ソンゴでは閉門時間に街灯が消されて、開門と同時に点灯されます。


( ╹▽╹ )〈お仕事、勉強がんばってね!

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