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魔弾のスナイパーは、敵の射程圏外から無双する。  作者: 幸一
■ドワーフ自治区ソンゴ村
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深夜の考察

 ラファトを出発してから二日目の深夜。

 俺たちを乗せた馬車は、深い森を抜けると、ドワーフ自治区ソンゴ村の入口がある大峡谷に差し掛かった。

 ここは、既にソンゴの勢力圏である。

 これより先の街道は、岩肌を侵食して大峡谷を作った川沿いに進むので、水棲魔物の襲撃に注意が必要だ。


「今夜の食料調達には、シノを連れていく」

「あたいは、足手まといになるだけだよ?」


 俺は砂馬を休ませる時間を利用して、レベルの低いシノを、草地で寝静まっている魔物の狩猟に同伴することにした。

 厨房勤務だったシノのスキルは、味覚と嗅覚に特化しており、魔物どころか、そこいらの一般人と戦っても勝てないだろう。


「シノは、護身用にレベルを上げておけ」

「あたいの仕事は給仕だし、べつに強くならなくて良いよぉ」

「では食材を自前で調達できれば、生きていくのに困らない。つべこべ言わずに、さっさと用意しろ」

「はーい」


 シノは、しぶしぶ馬車の側面にあるトランクから洋弓銃(クロスボウ)を取り出すと、弦を引いて鉄矢をセットした。

 馬車のトランクには、他にも太刀や大弓があったものの、非戦闘員のシノが武器を選ぶのなら、狙い定めてトリガーを引くだけの洋弓銃が向いている。


「狩猟経験は?」

「あたいは魔物の巣窟、魔界育ちだよ。子供の頃は、日がな一日魔物を狩っていたさ。主にスライ厶だったけどね」

「魔族にとって魔物は、狩猟対象にもなるのだな」

「当たり前でしょう」


 犬や猫がペットでも、牛や豚は家畜であり、魔族に従う魔物だからといって、全ての魔物が庇護下にあるとは限らない。

 では幼少期に狩猟経験があるシノが、なぜ狩りに誘われて乗り気ではないのか。

 彼女の夢は、レストランの料理人として働くことだったので、魔力吸収して能力限界の閾値を超えたとき、調理系のスキルにばかり極フリした結果、現在のレベルで頭打ちになってしまったらしい。

 高レベルになるほど、レベルアップするには、自分より格上の魔物を狩る必要があるのだから、肉体レベルにも魔力を振分ける必要があった。

 シノは以前、『学がなくて計算できない』と言っていたが、自己評価として正しいのかもしれない。

 

「お兄ちゃん、うちらはどーすれば良いんすか?」


 焚き火にあたっているミケーレが、狩りに出掛ける俺を呼び止めた。

 

「ミケーレとニウは、交代で周囲を警戒しながら仮眠していろ。俺たちが戻ったら、ソンゴに向けて出発する」

「わかったよ、お兄ちゃん」


 しかし余談だが、ミケーレは当初、チンピラのような口調で『お兄ちゃんよぉ!』と、俺を呼んでいたが、今は韓流ドラマのヒロインのような口調で『お兄ちゃん』と、そのニュアンスが変化している。

 万能翻訳魔法が発動しているので、口の動きと発声に微妙なズレがあり、それが余計にアテレコされたヒロインと重なる。


「ススム様、お気をつけてくださいね」

「ニウ、留守を頼んだぞ」

「はい、いってらっしゃいませ」


 これも余談だが、3人の中で最も従順に振舞うニウは、いつか俺を『ご主人様』と、呼ぶような気がしてならない。

 いいや、そのような目で俺がミケーレやニウを見ているから、深層心理が反映されて、そのように万能翻訳魔法が通訳しているに過ぎない。

 きっとシノの一人称が『あたい』なのも、擦れっ枯らしの第一印象が影響しているのであろう。


「あたいは、今のところ欲しいスキルが、とくにないのよね」


 シノは現状に満足しているようだが、カラド地方で生活するなら、それこそ万能翻訳魔法の取得が必須だ。


「シノは、俺の書いた宿帳が読めなかったよな。俺の万能翻訳魔法がなければ、この会話だって成立しないんだ」

「でも冒険者は、みんな万能翻訳魔法を覚えているから、冒険者相手の商売なら問題なくない?」

「ソンゴの公用語は、ドワーフ語らしい。シノが万能翻訳魔法を取得しなければ、生活していくのに不都合があるだろう」

「あ〜、確かに」


 ある疑問が、脳裏に過る。

 万能翻訳魔法は、その関係性において術者の深層心理が反映されて、言葉のニュアンスが変更される。

 つまり術者の俺は、シノの印象から言回しを無意識に選択しているのだが、術者ではないシノには、俺の言回しが、どのように伝わっているのだろうか。


「ススムさんの言葉遣い? そうだな、ススムさんの言葉遣いは、オレ様系かな。下働きだったあたいは、そういう上から目線に免疫あるから気にならないけど、ニウちゃんと、ミケーレちゃんは、キュンキュンしちゃうかもね。あの子たちは、まだお子様だからさ」

「俺は、そんな言回ししていない」

「だって宿屋で『俺についてこい、後悔させない』って、言ってたよね? あのセリフで、二人ともイチコロだったのよ」


 シノに聞いてみれば、俺の言回しは、オレ様系のドSセリフに聞こえるらしい。

 困った。

 術者ではないシノに、俺の言葉がオレ様系の言回しに聞こえる理由は、術者の俺が、オレ様系の言回しを選択して伝えていると言うことだ。


「シノには、やはり万能翻訳魔法を取得してもらう」

「まあ、そのつもりだけど」


 ミケーレとニウが、俺の言回しを勝手に解釈してもらう分には構わないが、術者でないシノには、俺の深層心理が露骨に伝わってしまうらしい。

 冷静沈着を売りにした俺が、じつは人を見下した俺様なんて思われるのは御免だ。


「パーティーを組まないの?」


 シノは、魔物が寝転がっている草地に到着すると、パーティー契約を結ばないのかと聞いてきた。

 狩猟前にお互いのドックタグを握り、パーティー契約を済ませば、俺が倒した魔物の魔力吸収をシノにも配分できる。

 しかしパーティー契約による魔力吸収は、レベル差で配分されるために、レベルの低いシノに配分される魔力が目減りする。


「俺が獲物を弱らせるから、シノは洋弓銃で、とどめだけ刺せば良い」

「それじゃあさ、なんか横取りするみたいで申し訳ないよぉ」

「俺にとっては、街道沿いの雑魚から吸収できる魔力なんて微々たるものだ。今夜の狩猟で得る魔力は、シノに全部くれてやるよ」

「もしかして今夜の狩りは、あたいのレベルアップだけが目的で誘ってくれたの? あたいは、ススムさんから金銭を巻き上げようとした女なのに、どうしてそこまでしてくれるの?」


 顔を覗き込んだシノには、俺が向けた優しさを理解できないようだ。

 俺の目的は当面、ソンゴで装備を整えた後、ノルティと約束したカラド地方での反攻作戦に加勢して、迷いの森から原隊復帰することにある。

 いつまでもシノの側にいてやれないのだから、俺がいなくなっても、魔族の三人がカラド地方で暮らしていける力を授けたい。

 できるうちに、できることをしておく、それを怠って最善を尽くさなかった俺は、きっと後悔することになる。


「足手まといが困るだけだ」


 シノは『ありがとう』と、視線を逸して頬を赤らめている。

 他者から向けられる善意は、ときとして照れくさいものなのか、シノは火照った頬を手で仰ぎながら、俺を横目でチラチラ見ていた。

そういう態度がオレ様系なんだけど……


(・∀・)〈ブクマしても良いんだぜ!

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