冒険者ギルドの酒場
ペルカのドッグタグは、現地の言語で書かれており、どんな内容が表記されているのか理解できなかった。
「認識票には名前と称号、ステイタスを呼び出すための文様が刻まれています。所有スキルの確認や更新は、ステイタスを可視化して行ないます」
「ステイタスを呼び出す?」
「ススゥムが認識票をもらったとき、詳しく説明してあげますね」
ペルカは冒険者ギルド一階にある酒場のテーブルで、俺と向かい合って座っている。
日が暮れていれば、俺の冒険者登録は明朝ということになった。
「では称号とは、冒険者に与えられる階級のことなのか?」
「いいえ。駆け出しの冒険者の称号は『新人冒険者』となりますが、その後は所有者の行動により、調査クエストが得意な冒険者には『リサーチマスター』、魔物討伐の依頼ばかり受注している冒険者には『バーサーカー』、ドラゴンを討伐すると『ドラゴンキラー』などの称号が自動で表記されるのです」
「なんの為に?」
「クエスト管理するギルド職員が、冒険者の称号を確認してクエストを発注するか否かを判断しています」
「迷いの森を調査していたペルカの称号は、リサーチマスターなのか?」
「調査や発掘は比較的、安全なクエストなので、必ずしも称号が必要とは限りませんん」
称号は、あくまで目安ということらしい。
「ペルカの称号は、いったいなんだ」
「ええと……私の称号は、お恥ずかしながら『マスコットガール』なのです」
「え?」
「マスコットガールです」
「なんだそのふざけた称号は!? マスコットガールって、冒険者の称号なのか」
「クエストを放置して酒場でアルバイトばかりしていたら、称号がマスコットガールになっていたのです! 私だって恥ずかしいから称号を変えたくて、迷いの森の調査依頼を受注したのですよ!」
「ああ、なるほど」
頬を膨らませたペルカは、メニューを投げて寄越すと、どれでも好きな料理を注文しろと言った。
とはいえ、俺にエクスフィアの文字が読めるはずがなければ、メニューを見ても、どの料理を注文して良いのか解らないので、口に入るものなら何でも良いと、注文をペルカに任せた。
「万能翻訳魔法を覚えれば、文字も読めるようになるのか?」
「エクスフィアに現存する文字なら、ほとんどが認識できます。でも迷いの森で見つかる用途不明の遺物、失われてしまった古代言語などは認識できませんね」
「日常生活に支障なさそうだな」
それほど便利な万能翻訳魔法は、さぞ大勢の人間が習得しているだろう。
会話の相手が習得しているなら、俺が覚えなくてもコミュニケーションできると思ったが−−
「万能翻訳魔法を取得している人間は、他種族と交流する冒険者くらいです。ほとんどの人間は、生まれ育った町や村から出ないで、同族のコミュニティで生活しています。魔物と戦って魔力吸収できない一般人は、貴重な魔力を万能翻訳魔法に振り分けません」
「原隊復帰の手掛かりを探すには、やはり万能翻訳魔法を優先するしかないか」
「ススゥムには、スキルアップしたい能力があるのですか?」
「いや、他に有益な能力があるならと思ったが、スキルアップで取得できる能力や魔法に、どんなものがあるのか解らない」
奇を衒った能力が欲しいわけじゃないものの、少しでも役立つ能力があるなら、それを優先して取得したい。
「そうですね。スキルアップできる能力の項目は、通常のものでも多岐にわたりますし、全ての項目を口頭で伝えるのは困難です」
「通常のものと言うなら、通常ではない能力もあるのか」
「はい。その人が先天的に獲得している固有能力を含めると、スキルアップできる能力は、千項目を超えると言われています」
「そんなにあるのか」
俺がため息をついたとき、ペルカの注文した料理が運ばれてきた。
カルディラの底部には、木造平屋の店や住居、水車小屋、水田などがあり、日本農村の原風景を彷彿とさせたが、大皿にもられた料理は、炒飯、焼豚、エビチリ、フカヒレのスープ、そこはかとなく中華だった。
料理名は、あくまで見た目の印象であり、原材料について、豚なのか、エビなのか、サメのフカヒレなのか、解っているわけではない。
「虫は、食べられますよね」
料理を取り分けてくれたペルカが、エビチリを手渡して言った。
どうやらエビチリの材料は、エビではないようだ。
「問題ない。軍ではサバイバル訓練として、昆虫食を体験している」
俺はエビのような、エビにしか見えない料理を一口食べると、味もエビそのものだった。
焼豚やフカヒレも食べてみたが、見た目通りの味で一先ず安心した。
「今日のメニューは、奮発してエルフ風の虫料理コースを選んでみました」
ペルカの説明では、中華風の虫料理に使用する虫は高級食材で、俺を接待するために注文したらしい。
「エクスフィアには、エルフもいるのか」
「エルフなら、そこにいますよ」
ペルカが目配せした先には、テーブルに大弓を立て掛けて食事している耳の長いエルフがいた。
「ゴブリンに出会っていれば、エルフがいても驚かないが、情報量が多すぎて理解が追いつかない」
「今日は、いろいろあって疲れているのでしょう。私は報告書をまとめるので、ススゥムは部屋で休んでください」
「そうさせてもらうよ」
ペルカから部屋番号を聞いた俺は、冒険者ギルド二階にある宿泊施設に向かった。
◇◆◇
部屋は表通りに面しており、窓から酒場に出入りする冒険者が見える。
備え付けの家具は、壁際にベッドが一つ、その足元にハンガーラック、机と椅子が並んでおり、室内は狭く軍の宿舎と然程変わらない。
フリッツヘルメットを脱いだ俺は、タクティカルジャケットと一緒にハンガーラックに掛けた。
「寝る前に手持ちの装備を確かめておこう」
ベッドに腰掛けた俺は、ダッフルバックを前に置いて中身を整理した。
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スナイパーライフル:Mk15カスタム/テレコスピックサイト(高倍率スコープ)/サーマルスコープ/50口径ライフル弾✕13
サイドアーム:ベレッタ92/9✕19mmパラベラム弾✕30
その他:コンバットナイフ/ツールナイフ/トランシーバー✕2/ECM作動確認端末/ボイスレコーダー機能付きMP3プレイヤー/ソーラーチャージャ/衣類/ファーストエイドキット/野戦食✕3
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ここが南ア密林地帯でなければ、ペルカという現地の協力者がいる。
それに冒険者ギルドに登録して、安定した収入を確保できれば、当面の衣食住に不自由することはないだろう。
「冒険者登録には試験があるようだし、明日に備えて寝るか」
迷彩服を脱いでシャツと下着だけになった俺は、数日ぶりにベッドの上で横になった。
普段なら寝付きの悪い俺だが、暖かな布団を被ると、すぐに眠りについて日が昇るまで目を覚まさなかったのである。
次回、お約束の追放展開です୧(^ 〰 ^)୨
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