捕虜
赤い瞳のシノたちは、魔族と獣人族の混血児だった。
しかし俺の気が緩んでいたとは言え、シノに客引きされたとき、魔族の特徴である赤い瞳を見落としたとは思えない。
「あたいらは、確かに魔族なんだけど、混血同士の両親から生まれたから、夜間は、虹彩の色が赤茶けて見えるのよ」
シノの瞳は昨晩、はっきりとした赤ではなく、茶系に見えたのは、魔族の血が薄いからだと言う。
「宿屋の照明が薄暗いのも、瞳の色を誤魔化すためだったのか?」
「太陽の下でなければ、瞳の色は目立たないよ。日が暮れた後なら、ラファトの市場に買い出しにも行けるもん」
「お前たちは、魔族のくせにラファトに出入りしているのか?」
「あたいらだって生活のためには、水や食料が必要なんだ。悪さしているわけじゃないんだし、べつに文句ないだろう」
「魔族は、エクスフィアの人々と戦争中だ。お前たちが村に出入りする目的は、いったいなんだ」
オーシロ姉妹が、テロ目的で敵地であるラファトに潜入しているなら、村の出入りを見逃せない。
シノが連れているミケーレとニウは、まだ年端のいかない子供だが、俺の世界には、子供に爆弾を括り付けて、敵地に潜入させて自爆させるテロリストがいる。
シノが魔王ギラマノイズに心酔するテロリストならば、ミケーレとニウを使って、ラファトを混乱に陥れるのが目的かもしれない。
「だから目的は、日用品の買い物だって……あたいは、ミケーレとニウを連れて魔王軍を脱走したのさ」
「脱走?」
「そう」
「魔王ギラマノイズは、魔族が魔物を操るように、魔族の絶対的な支配者だと聞いている。お前たちが混血種ならば、悪魔(純血の魔族)の精神支配下にあるのに、なぜ魔族の精神支配を逃れて脱走兵になった?」
魔王軍の支配構造は、魔王ギラマノイズを頂点として悪魔四大将軍がおり、将軍直属の配下に3,000人の悪魔と、純血派と呼ばれる混血の魔族がいる。
魔物を操れる魔族だが、魔族自身も序列に従って精神支配されており、一般の魔族は悪魔に、悪魔は将軍に、将軍は魔王の絶対服従から逃れられない。
これはンラ砂漠でタマーノ商会の隊商に同行したとき、ヤハエから聞いた話である。
「魔族の総人口が10万人と言われていますので、悪魔は、僅か0.03%に過ぎないのです。魔界に暮らしているのは、ほとんどが、私たちのような混血同士の両親から生まれる魔族なのです」
ニウの話では、人口比0.03%の悪魔が、10万人の魔族全員と血縁関係になるのが難しく、混血同士の婚姻がなければ人口を維持できない。
「しかしニウも魔族である以上、上位の魔族に精神支配されているんだろう?」
「私とミケーレは、悪魔に命令されれば従っていましたが、それは魔界の出身者だからです。魔界で生まれ育った私たちは、魔族以外の種族が敵だと教育されていました。私たちの世代の精神支配は、洗脳教育の賜物かと思います」
ヤハエの説明では、混血の魔族は序列が最下位、魔王だけでなく、悪魔にも絶対服従だったが、どうやら混血の世代交代により、魔族の血脈から遠ざかるらしい。
「つまり三人は、魔王軍から脱走したものの、魔族だからラファトに亡命できない。それが美人局みたいな真似で、俺に金銭を要求した理由なんだな?」
「ススムさんには、本当に申し訳ないけど、そうでもしなきゃ、この子たちを養っていけなかったのさ。あたいは、魔王軍に従軍していた給仕なんだけど、この瞳のせいでラファトの調理場で働けないからね」
シノは、ミケーレとニウの頭を引き寄せて抱いた。
彼女たちは、オーシロ姉妹を名乗っているが、母親代わりのシノが、ミケーレとニウを面倒見てきたのだろう。
事情を聞けば、世代交代を重ねた混血種は、魔族の精神支配が絶対ではなく、シノはカラド地方攻略作戦のために、ンラ砂漠に派兵されたミケーレとニウを連れて、魔王軍から脱走した。
その後、三人は、ラファトの街道沿いの空き家に住み着いて、夜間の村に出入りして魔物の素材を換金するなどして、生活していたらしい。
しかし素材屋に、魔物の素材を毎日のように持ち込む彼女たちが、ベテラン冒険者と同等な実力を持ちながら、冒険者ギルドに入団しないことを不審に思われて、収入源だった素材の換金が困難になってきた。
そこでシノは、住処にしていた空き家を宿屋に改装して、冒険者の呼込みを開始したものの、なかなか客が集められなかった。
なぜなら陽光が差して魔族だと、客である冒険者にバレれば一戦交えることになり、せっかく見つけた住処を出て行くことになるからだ。
「死罪になる美人局で金銭を巻上げるなら、冒険者も迂闊に通報できないと考えたのか」
三人は、俺の顔を覗き込んで頷く。
俺はオーシロ姉妹の存在を、どうしたものかと困っている。
彼女たちの目的が、ラファトへのテロ行為だったなら、三人を殺して惨事を未然に防いだものの、魔王軍の脱走兵なら保護すべき対象だ。
ただしエクスフィアでは、同族の混血種であっても魔族は絶対の敵であり、寝返ることを否定されている。
俺がオーシロ姉妹の事情をラファトの統治者に説明しても、亡命が受入れられる可能性が低く、最悪の場合は処刑されるだろう。
「流れ者の俺には、お前たちにできることが少ない」
そもそも俺自身が、エクスフィアの人間でなければ、敵に懐柔されて利用されたと疑われれば、窮地に陥る可能性だって否定できない。
「俺は、ラファトで馬車をチャーターして、ドワーフの自治区ソンゴに移動するつもりだった。お前たちが良ければ、馬車を手に入れるから旅に同行しろ」
ドワーフの自治区ソンゴは、陽光の差さない地下都市だと聞いている。
夜間であればラファトに出入りできるシノたちが、ソンゴでならば真っ当な仕事につける可能性があった。
これは、乗りかかった船である。
「ススムさんが、あたいらの面倒を見てくれるの?」
「いいや、お前たちがテロリストの可能性がゼロではない限り、このままラファトに放置できない。しばらくの間は、俺の監視下にいてもらう」
「本当なの!?」
「地下都市ソンゴなら、お前たちが暮らしていけるかもしれない。お前たちの亡命先が見つかるまでは、捕虜として面倒をみてやるよ」
「あたいらは、衣食住に困らないなら、ススムさんに着いていくよぉ」
「うちも!」
「私も!」
シノたちは、頭を床に擦るように土下座した。
「ソンゴまでの馬車をチャーターするつもりだったが、馬車を購入するとなると、手持ちの棒貨で足りるか−−」
「お兄ちゃんッ、うちら馬車なら持っているぜ!」
「はいッ、私たちが魔王軍から脱走するとき、隊商に偽装した馬車に乗ってきました!」
ミケーレとニウは、宿屋の裏手に馬車を隠していると言う。
シノたちは、その日のうちにラファトの住処を引払うと、俺と一緒にソンゴに向かうことを決める。
ラファトには、たった一日の滞在だったものの、ソンゴに向かう馬車と、三人の部下を手に入れたのだから、先を急がず立寄って良かった。
パーティーを手に入れた藤堂進は翌朝、
新メンバー3人に囲まれて目を覚ます……
(≧▽≦)〈面白かったらブクマしてね♪




