オーシロ姉妹
カルディラで2日間、草原で3日間、ンラ砂漠では25日間、ラファトに到着するまで約1ヶ月が経過していた。
異世界転移初日の朝、迷いの森でゴブリンから助けてやった金髪碧眼のペルカに、エクスフィアでは、浴室とベッドで服を着ないのが常識だと聞いている。
そんな馬鹿げた習慣があるのかと疑っていた俺だが、カルディラの草原で出会ったタマーノ商会の隊商は、ンラ砂漠で寝起きする馬車で全裸になって寝ていた。
ペルカの話は、本当だったのである。
しかしガイドブックによると、魔物の跋扈する砂漠地帯で暮らすムゥハ族には、全裸で就寝する風習がないと書かれていた。
にも関わらず、にも関わらずだ。
ムゥハ族の娘ノルティは、俺にハニートラップを仕掛けて、部屋のベッドで服を脱いで待ち構えていた。
女の裸に興味がないわけではないが、たった1ヶ月なのに、出会った女の裸体を何度目にしたのだろうか。
「なぜ宿屋の主人が、俺のベッドで添い寝しているんだ?」
夜明けともに起床した俺は、身体に絡みつくように寝ている全裸のシノを見て、理解に苦しんでいる。
子供のクリルが慣習に従って全裸で寝るのと、ノルティがハニートラップで全裸で迫ってきたのは、百歩譲って理解できるものの、初対面のペルカやシノが、俺のベッドに全裸で潜り込むのは、どう考えても理解できない。
エクスフィアの男性諸氏が全員EDならばともかく、ペルカを慕っているザンザが、意中の人と全裸で添い寝しても、何もしないで我慢できるものだろうか。
いいや、できない。
しかし旧知の仲であるペルカとザンザが、そういった間違いを犯していないのであれば、彼らが外泊するような依頼をパーティーで受注していたとしても、全裸で添い寝していないことになる。
では、なぜペルカやシノは、俺のベッドに潜り込んでくるのか。
そこに恋愛感情が伴わないのであれば、どんな意味があって、二人は初対面の俺を悪戯に誘惑するのだろう。
「うん?」
二人に共通するのは、初対面である。
なるほど、これは通過儀礼なのだ。
きっとエクスフィアの男女は、初対面の相手と添い寝することで、お互いに信頼関係を築いているのであり、相手の信頼を裏切り婚前交渉があれば、死罪という重罰を課せられる。
もっともペルカの話では、婚前交渉が発覚しても婚姻してしまえば、死罪を免れることができるらしいので、双方合意であれば、必ずしも婚前交渉が不可能なわけではない。
「文化風習の違いとはいえ、初対面の男女が全裸で添い寝して信頼関係を築く文化には、奥深いものを感じる」
ただ初対面の男女が全裸で添い寝するのが、エクスフィアの文化だとしても、何処の馬の骨とわからない俺のベッドに、全裸で潜り込むのは、些か危険ではないだろうか。
俺は、初対面の男である。
もしも俺が強姦魔だったら、殺人鬼だったら、何かあっても仕方ない状況なのに、なぜ宿屋の女主人シノは、無防備に客のベッドで寝ているのか。
これら点を踏まえて考えられることは、エクスフィアの女たちは、じつは見せたがり、脱ぎたがり、危険な火遊びが好きなのではないだろうか。
「ススムさん、おはよう……ございます」
寝起きのシノは、猫のように手首を返して顔を洗うと、女性らしいボディラインをくねらせて豊満な乳房を押し付けてきた。
熱を帯びた視線を向けるシノは、女として俺を誘惑している。
「悪いが、離れてくれないか」
「昨夜は、あんなに可愛がってくれたのに、つれない態度なんですねぇ」
「俺が、シノを?」
「うん♪」
誓って断言できるが、俺は誰彼構わず女を抱く男ではない。
「エクスフィアでは、婚前交渉が重罪なのに、俺がシノを抱くなんて有り得ない−−」
「男は、みんなそう言うわ」
「そうじゃない」
「大丈夫よ。あたいは、もらうもの貰えば口が堅いからね」
指で輪っかを作るシノは、俺との肉体関係を既成事実化しようと企んでいる。
ウインクしたシノは、事実無根の既成事実で金銭を要求してきた。
やばい。
このパターンは、ドアを蹴破って男が乗り込んでくるやつだ。
いわゆる美人局ってやつだ。
ラファトに到着して気が緩んたのか、昨夜から迂闊過ぎる自分に腹が立つ。
「俺には、やるべき事がある。こんなくだらないことには、付き合っている暇がない」
「有り金を全部置いて行かないなら、ススムさんはお尋ね者だよ?」
「ボッタクリ宿を経営する美人局が、警察に駆け込める身分なのか」
「う……」
「好きにしろ」
ダッフルバッグを手に取った俺は、睨むような流し目のシノに吐き捨てた。
「オラッ、うちの姐さんに手を出しておいて、無傷で帰れると思うなよ!」
「そうです、思わないでください!」
お約束どおり、ドアを蹴破って部屋に乗り込んできた獣人族の二人は、両手を広げて、部屋を出ていこうとする俺の前に立ち塞がる。
意外なことに美人局の仲間は、二人とも年端のいかない少女だった。
「お兄ちゃんが、どんなにベテラン冒険者かしらねえけど、うちらオーシロ姉妹の末っ子ミケーレ様の剣技には、敵わねえぞ!」
威勢の良い少女ミケーレLv45(身体能力:Lv43/取得魔法:万能翻訳Lv2)は、典型的な物理攻撃特化型の剣士のようだ。
「え、ええと……私の魔法で焼き尽くされたくなければ、お金を恵んでください」
たどたどしい言葉遣いで俺を脅してくる少女は、ニウLv51(身体能力:Lv40/取得魔法:万能翻訳Lv2/痛み緩和Lv3/土魔法付加Lv1/治癒魔法Lv5/解毒魔法Lv1)であり、焼き尽くすと言っているが、治癒魔法に特化した土属性の魔法使いだ。
しかしニウがミケーレより高レベルなら、痛覚Lvを上げてレベルアップする【痛み緩和Lv3】なので、それなりの場数を踏んでいる魔法使いなのだろう。
「動くんじゃねえ!」
ミケーレは、俺がガンホルスターに手を伸ばすと、切っ先を向けて怒鳴った。
「動かなければ、棒貨が出せないじゃないか?」
「お、おうっ、そういうことなら動いても良いぞ」
剣士ミケーレは、あまり頭が良くないらしい。
「ミケーレちゃん、騙されないでください! この男、何か狙ってます!」
「そうなのか!? きたねー野郎だ、やっぱ男はきたねーよ!」
ミケーレは床を踏み鳴らしながら、俺を睨みつけているのだが、男にトラウマでもあるのか。
「ススムさん、森暮らしのミケーレとニウは強いわよ。あたいだって、そこそこ腕が立つし、3対1では勝ち目なし」
「いいや、シノLv20は、身体能力のみレベルアップしているし、冒険者ってわけでもなさそうだ。お前は戦力外だ」
「ススムさん、判定魔法が使えるのね。除き見なんて、やらしい魔法を覚えているのね」
「やっぱ男はやらしーぜ!」
しかし、どうしたものか。
金銭が目的なら、俺の寝込みを襲って奪えば良いのに、わざわざ美人局なんて手の込んだ真似して、素人丸出しの手口である。
「みんな、あたいらオーシロ姉妹(ユニット)の初仕事だ。気合いを入れて頑張るよ!」
「おう!」
「はい!」
彼女たちが初犯ならば、ここで痛い目に合った方が良さそうだ。
健全だったでしょう?
( ╹▽╹ )〈次回も読んでね♪




