しばしの別れ
天気は快晴、砂漠の暑い一日が始まる。
「こんな子供騙しが、いつまでも通用するとは思えません」
ノルティが、人目を忍んで馬車に乗り込んだ俺に呟くと、先に乗車していたヒノとクリルが、言葉の意味を理解できずに顔を見合わせた。
「これ以上の犠牲が防げるなら、状況が改善しなくとも、俺が戻るまでの時間が稼げれば良い」
「選択の余地がなければ、ススムさんの手筈には従います。しかし人々を謀ってきたムゥハ族が信頼を取り戻すのは、容易なことではありません」
「その点は問題ない」
「なぜ断言できるのですか?」
「俺は、プロの戦争屋だ。俺の言った通り行動すれば、ムゥハ族の英雄史観が味方してくれる」
俺の乗車した馬車が走り出すと、ノルティはフードを目深に被り人相を隠す。
ヒノは、ノルティが見送りも早々に姿を消すので、つまらなそうな顔で荷台に腰を下ろした。
◇◆◇
俺がラファトに向けてムゥハを出立したのは、あの夜の出来事から二週間後、ヒノとクリルが手配してくれたラファトに戻る隊商に、同行が許されたときだ。
ムゥハからラファトまでは、五日間の予定であれば、タマーノ商会とは別の隊商なので、ヒノとクリルも仕事がなく、馬車に揺られるだけで手持ち無沙汰である。
「僕もノルティさんの屋敷に招かれたかったな〜」
ヒノがムゥハを名残り惜しむように呟くと、横に座っていたクリルは、俺に顔を寄せて耳打ちしてくる。
「お兄ちゃんは、ノルティさんの家に誘われたススムさんが妬ましいのです」
「ヒノの意中の人は、ムゥハ族のノルティだったのか?」
ヒノが横目で睨むので、クリルは『ノルティさんは美人ですよね』と、舌を出して話を誤魔化した。
「ススムさんも、ノルティさんを美人だと思うのですか?」
ヒノは不安な表情で、俺の顔を覗き込んだ。
獣人族の少年は、おそらく彼より歳上の人族ノルティが、同族の俺に掠め取られるのではないかと、心配しているのだろう。
「どうなのですか?」
「ノルティは美人だと思うけど、歳下の女には興味がない」
「そ、そうですか! ススムさんは、歳下の女の子に興味がないのですね。いや〜、それを聞いて安心しました」
あからさまに喜んだヒノは、ノルティへの恋心を隠すのを諦めたらしい。
しかしエクスフィアの恋愛事情に疎い俺でも、ノルティが次期酋長であれば、ヒノの恋が成就するのは、さすがに難しいのでないだろうかと思う。
「ススムさんは、歳下の女の子に興味がないのでしょうか?」
ヒノの機嫌が直ると、クリルが上目遣いで袖を引っ張った。
クリルは、自分が恋愛対象の外に置かれて拗ねたようだ。
「クリルは、十分に魅力的だ」
「本当ですか!?」
「もちろん」
俺に、その手の趣味があるなら−−と言いかけて、言葉を飲んだ。
年頃の少女は、俺に然して興味がないくせに、試すような言動が多くて気疲れする。
しかしペルカやノルティにしても、やけに懐かれたし、俺には、子供たちに好かれる母性ならぬ父性でもあるのだろうか。
「そんなことよりクリルには、確認してほしいことがある」
「はい。なんでも聞いてください」
俺はドッグタグを握ると、自分のステイタスを可視化した。
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東堂進(Lv49)
称号:砂漠の殺戮者
身体能力:肉体Lv22(基礎Lv2/腕力Lv5/脚力Lv5/素早さLv5/全身硬化Lv5MAX)/五感Lv21(基礎Lv1/視覚Lv10/聴覚Lv5/触覚Lv5/痛覚Lv-)
取得魔法:万能翻訳魔法Lv2MAX※永続/痛み緩和Lv1※永続/判定魔法Lv2※身体能力レベルと取得魔法の表示可能
固有能力:鷹の目Lv4※射程内の対象物は遮蔽物を透過して見える
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ノルティの見立てでは、身体能力だけならLv50までレベルアップできたらしいが、【判定魔法Lv2】にしたせいでLv49止まりだった。
やはり魔法を覚えるための魔力は、身体能力よりも多く必要なのだろう。
しかし【判定魔法Lv2】は、全体のレベルだけではなく、敵の身体能力と取得魔法を表示できるので、対峙した敵の行動予測に役立つ。
敵の攻撃が物理攻撃なのか、魔法攻撃が主体なのか解かれば、対処しやすくなるから身体能力の向上よりも、判定魔法のレベルアップを優先した。
そしてレベル40を超えて自動的にレベルアップした【鷹の目Lv4】は、物陰に潜む敵でも、射程内であれば位置を把握できるらしい。
跳弾の可視化と組み合わせれば、見えない敵を射殺することが可能であり、鷹の目はガンナーの俺に、うってつけの固有能力である。
「俺のレベルは、カルディラの冒険者ザンザを超えたわけだが、この能力限界の振分けについて、クリルの意見を聞かせてくれるか?」
またザンザLv45は、カルディラの冒険者ギルドでもベテランクラスであり、ムゥハから駆け付けてくれた『ベテラン冒険者』も、ほとんどがレベル50前後だった。
つまりサンドキングと悪魔バラクバラーダから魔力吸収した俺は、たった一夜にしてベテラン冒険者の域に達したことになる。
エクスフィアに銃器を持ち込んだ俺は、異世界転移して数週間で、既にベテラン冒険者と肩を並べたのだから、世界の調和を乱しかねない掟破りの存在、エルフのギルド長ハイムが危惧するのも理解できた。
「そうですね……シューターとしては、典型的なレベル配分だと思います。【視力Lv10】を超えているから、取得魔法の項目に【夜目】と【標的】が追加されるので、どちらか覚えても良いかもしれません」
「【標的】は、矢の軌道が見える魔法なのか?」
「いいえ。【標的】の魔法は、矢の射抜く先が予測できるだけです。相手との距離が離れていたり、レベルが低かったりすれば、矢を外すこともありますが、レベルアップすることで、精度が向上して実用性が増します」
「では【標的】の魔法は、【鷹の目】で補完できそうだから、次の機会には【夜目】を覚えるよ」
クリルLv22は、腕力と視力に特化してレベルアップしており、【標的Lv3】を覚えているらしい。
双子のヒノLv28とは、レベル差があると思っていたが、どうやら大太刀と大弓、扱う武器の違いで、能力を覚えるのに使用する魔力に差があるからだ。
【夜目の】や【標的】の魔法を覚えている敵は、クリルのように遠距離攻撃の大弓やボウガンを得意とするし、魔法を覚えず身体能力が高い敵は、ヒノように近接攻撃を得意とする。
せっかく覚えた【判定魔法Lv】を活用するなら、クリルに意見を聞いて、損のない情報だった。
「ススムさん、あれを見てください」
ヒノが指差した先には、討伐依頼を終えてムゥハに戻る冒険者パーティーがいた。
冒険者パーティーの馬車には、大きな爪痕が残されていれば、荷台に腰を下ろす冒険者たちも満身創痍だったので、きっと大型魔物と派手な戦闘を繰り広げろてきたのであろう。
しかし馬車の積荷が空であれば、魔物討伐を諦めて命からがら逃げてきた様子だった。
「ドラゴンには、冒険者パーティーでも勝てません。ススムさんがいなければ、タマーノ商会の隊商は全滅していたでしょうね」
ヒノとクリルは『犠牲者に安寧を』と、すれ違った冒険者パーティーに棺桶が積まれているのに気付いて、胸の前で指を組んで祈っている。
ノルティに聞いていたとおり、ソーシャという魔族は、俺の身柄を差し出すまで、ムゥハの冒険者をドラゴンで襲い続けるらしい。
「ンラ砂漠では、最近になってドラゴンの活動が活発になっているらしいです。ススムさんが倒したサンドキングは、悪魔に操られていましたし、魔王軍の大規模な侵攻作戦が近々始まるとの噂があります……僕は、ノルティさんが心配です」
ヒノが不安を口にするので、俺は肩を抱いてやった。
「俺の計画が上手く行けば、しばらくは今までどおりに事が進むはずだ」
「ススムさんの計画?」
「俺はノルティやムゥハ族の皆を助けるために、必ずムゥハに戻ってくる」
俺は馬車の荷台で寝転ぶと、ムゥハ族に助力を約束した、あの夜の出来事を振り返った。
東堂進の計画とは?
( ╹▽╹ )〈明日も更新するよ!




