違和感
俺をもてなす宴席は、屋敷一階の大広間、ノルティの家族のほか、集落の有力者を招いて執り行われた。
集落の有力者は、サンドキングを単独討伐した冒険者を一目見ようと、物見遊山で駆けつけたらしく、どうやって大型魔物を倒したのか、武器は何だったのか、根掘り葉掘り聞いてくる。
「ドラゴン討伐には、突火槍を使いました」
「突火槍と言うと、あの穂先に火薬を付けた槍ですか?」
「ええ、ドラゴンを引き付けてから、鼻先に刺突して爆破した」
「砂漠の王の外皮は、属性魔法の【土属性付加】で攻撃したのですか?」
サンドキングの外皮は、水の魔素を纏っており、腕力lvをアップするか、水属性に対して攻撃を強化する【土属性付加】を使用しなければ、ただの槍では貫くのが難しいと言う。
「俺の突火槍は、火薬の爆発力を利用して貫く特注品でね」
「ススムさんは、あんな大きなドラゴンと正面から槍で戦ったのですね! 襲ってくるドラゴンを、槍で突くなんて素晴らしい勇気だ」
実際には、スナイパーライフルMk15で成形炸薬弾を撃ち込んだのだが、とりあえず突火槍の威力だと嘯いて誤魔化した。
「ムゥハ族には、ドラゴンキラーの称号を持つ冒険者が多かったのですが、ここに安住の地を求めてからは、血気盛んな冒険者が現れません」
「ススムさんの話を聞くと、集落に引きこもり安穏と暮らす自分たちが情けない」
白髭の老人は、カップに酒を手酌しながら遠い目で呟いた。
「もっと、ススムさんの冒険譚を聞かせてください」
老人は酒を煽ると、俺のカップにも注いだので酌み交わす。
陶器のピッチャーから注がれた酒は、白濁しており、ヨーグルトのような甘味と酸味もある。
ムゥハの酒は、濁酒のような蒸留酒だろうか。
「お集まりの皆さん、質問詰めでは、ススムさんにムゥハ料理を召し上がってもらえません。話はそれくらいにして、そろそろ開放して差し上げましょう」
酋長ヌガカが声を掛けると、それぞれが隣席の客同士で談笑を始めたので、俺はテーブルに並んだ料理に手を伸ばす。
ヌガカが取り分けてくれた料理は、豆と野菜を煮込んだスープ、根菜をすり潰して蒸したパテ、甘いソースのかかった骨付きリブステーキ(食材は不明)、どれも塩味の効いた素朴な味付けである。
根菜のパテには、追塩が用意されていたので、少し摘んで舐めてみると、岩塩特有の微かな苦み、砂漠で暮らしていた頃から食べられていた料理だと紹介されると、ムゥハ族は汗で消費した塩分やミネラルを、料理から補給していたのだろうと思った。
「ムゥハ料理が口に合わなければ、集落で採れた果物もありますぞ」
「奥様の手料理には、疲れた体を癒やされます」
ヌガカの年頃は四十代前半、娘ノルティの歳の差を考慮すると、もしかすると一回り上の五十代かもしれないが、長身で筋骨隆々とした肉体は若々しく、老いを感じさせなかった。
またヌガカの容姿は、ペルカたちカルディラの人族より彫りが浅く、肌の色も黄色人種に近かった。
ノルティを見たときも、金髪碧眼のペルカより東洋人と似ていると感じたし、同じ人族でも、特徴に人種的な違いがあるのだろう。
「私は明日も仕事なので、先に休ませてもらいますね。皆さんは、ゆっくり楽しんでください」
ノルティは料理を食べ終えると、まだ酒宴の席が盛り上がっているのに、酒が呑めない下戸なので部屋に戻るらしい。
彼女と入れ違いに大広間に入ってきた女中は、まだ酒の残っているピッチャーを差し替えて、俺のカップに注いで頭を下げた。
「ノルティは、自分の連れてきた客人がいるのに、部屋に引きこもるなんて愛想のない娘でしょう?」
「そんなことはないと思いますが−−」
俺がカップを手に取ると、ヌガカが見ていたので、彼のカップにも酒を注いでやった。
ヌガカは、肩を落としてため息をつく。
「ノルティを次期酋長に指名したことが、重荷だったようなのです」
「ノルティが、次の酋長ですか?」
「はい。ムゥハ族の酋長は、満五十歳で嫡子に世襲して長老となる掟があるのです。ヤマド家には嫡出の長男がいないので、ノルティに世襲することを決めましたが、一族郎党の未来を託された娘が、私から引継ぐものは軽くありません」
「あなたから引継ぐもの?」
「冒険者ギルドの運営も、その一つです。ムゥハの冒険者ギルドは、カルディラに本部がありますが、いずれ行政区がカルディラから独立すれば、自主防衛のために冒険者ギルドの運営も独立する必要があります」
ムゥハ独立には、カルディラの息が掛からない冒険者、つまり自前の軍隊が必要なのだろう。
「なるほど、ノルティが冒険者ギルドで働いているのは、本部との交渉窓口を兼ねているからですね」
「そのとおりです。冒険者ギルドの自主運営は、ムゥハ独立の一歩になります」
ムゥハ族は、ドワーフ族の自治区であるソンゴのようにカルディラから独立したいのだが、中央政府は、人族のムゥハ族をカルディラの属領地に留めて置きたいらしい。
しかし自治を働きかけるムゥハ族のヤマド家は、次期当主となるノルティを冒険者ギルドに送り込んで周辺行政区に根回し、独立への機運を醸成している。
「ノルティの代で、カルディラからのムゥハ独立ですか。それは、確かに大役だ」
ヌガカは『誰かが支えになってくれれば−−』と、横目で顔色を窺っているので、面倒なことにならないように、早めに席を立つことにした。
◇◆◇
女中に案内された俺は、同じようなドアが続く長い廊下の突き当り、二階の個室を与えられる。
賓客をもてなすための部屋には、バルコニー付きの掃出し窓があり、庭木の向こう砂丘に浮かぶ満月が見えた。
「部屋には、シャワーとトイレがございます。こちらに飲み物も用意していますが、何かご入用なら呼んでください」
部屋の燭台に火を灯した女中は、ベッドサイドのテーブルに冠水瓶を置いた。
「いいや、下がってくれて問題ない」
「わかりました」
俺は女中がドアを閉めると、おかしなことを言うものだと思った。
主人公を悩ます違和感の正体に
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