迎賓館
ムゥハの建築物は日中、壁材に石灰が使われているので、目を細めたくなるほど白いのに、日が暮れると、灯火を反射してオレンジ色に染まる。
こうした風景の変化も、俺の旅愁を誘う。
ノルティの自宅は、俺の泊まる宿屋より大きな二階建て。
自宅では、酋長ヌガカと家族のほか、住込みで働く召使いが二十人ほど暮らしているらしい。
「ノルティ様、おかえりなさいませ」
ノルティは、頭を下げた女中に手を上げて応える。
「奥の応接室を使うので、しばらく人払いしてください」
「畏まりました」
高い壁に囲まれた敷地には、手入れの行き届いた庭があり、その中央に、水の豊富なムゥハを象徴するが如く噴水が置かれていた。
そして俺が通された一階の応接室には、額装された多くの人物画が飾られており、顔ぶれの中にノルティもいるのだから、そこに描かれているのは、ヤマド家の面々なのだろう。
天井を見上げれば、八灯式の蝋燭シャンデリア。
個人宅にしては、無駄に豪華で広い気がするが、酋長宅であれば、こんなものなのだろうか。
「ムゥハには、各地から要人が訪ねてくることがあります。母屋は、彼らの宿泊施設や、集落の議場を兼ねた公館なのです」
ノルティは、室内を見渡している俺に言った。
屋敷の母屋は、要人警護のための宿泊施設や、ムゥハ族の長老が集まる議場にもなっている。
そう言われて振り返れば、敷居を跨いでからここまで生活感に乏しく、迎賓館のようだった。
「ススムさんは、保有している魔力量で、レベルアップ可能な項目を知りたいのですね」
長いテーブルに向かい合ったノルティは、俺のステイタスを投影する水晶に手を翳す。
「サンドキングから水属性の魔力を吸収しているなら、【水属性付加】の魔法を覚えたいのだが、俺の魔力量で肉体と五感を各Lv20までアップできるか?」
「ススムさんの魔力量なら、十分に可能だと思います」
「そうか」
俺が吸収した魔力量は、身体能力だけならLv50までレベルアップ可能であり、水属性の魔法を取得するなら【水属性付加】と、【水の盾】か【水の加護】が覚えられる。
「ススムさんが火属性専門に討伐する冒険者になるつもりがないのなら、水属性の魔法取得はオススメしません」
「火属性専門の冒険者? 水属性の魔法を取得した場合も、他の属性魔法が覚えられるのだろう?」
「もちろんですが、別の属性魔法を取得するには、条件が厳しくなります」
属性魔法を覚える条件は、同じ属性の魔物から魔力を吸収すること、身体能力を肉体と五感を各Lv20以上にすることだ。
俺の計画では、水属性付加を利用してソンゴにいる火属性の魔物を狩り、火属性付加を覚える。
同じ要領で全ての属性付加を取得すれば、属性のある魔物に与えるダメージが1.5倍に強化できると考えた。
「その考え方は正解です。しかし二つ目の属性魔法を取得するには、肉体と五感を各Lv40、三つ目では各Lv80、火、水、土、風を全て揃えるには、各Lv160が必要になります」
「全ての属性魔法を覚えるなら、身体能力だけでLv320が必要になるのか」
「はい。それに加えて取得した属性魔法のレベルアップにも魔力を消費しますので、現実的ではありません」
「冒険者のレベルは、どれくらいまでアップできる?」
「ドラゴンがLv250〜300です。冒険者がLv300以上になれば、エクスフィアにいる全ての魔物が格下になるので、ドラゴンを倒しても、なかなかレベルアップできません」
Lv300でカンストするなら、確かに全属性を覚えることは不可能だ。
「それにススムさんの得物がボウガンや大弓なら、腕力をレベルアップした方が射程、威力、速射性が向上するので、吸収した魔力で身体能力に振分けた方が、属性付加より恩恵が大きいですよ」
言われてみれば、同じ魔力量なら属性魔法を覚えなくても、身体能力をレベルアップした方が無属性の攻撃力がアップするのだから、ノルティの指摘は的を得ていた。
属性魔法を覚えるのは、その道の専門家になるか、派生する攻撃魔法を使う魔法使いに限って恩恵がある。
「俺の武器が大弓なら、腕力をレベルアップした方が良いな」
しかしノルティは、俺が遠距離攻撃を得意とすると、いったい誰に聞いたのだろうか。
ヤハエたちには、俺の武器について口止めしていれば、持ち歩いているダッフルバッグを見ても、中身が遠距離攻撃用の銃器だと知る由もない。
「そう言えば、ヒノから魔力を込めて放てる魔法武器があると聞いたが、それは属性魔法を覚えなくても使えるのか?」
武器に属性があるのなら、そいつを銃弾の製作に利用できないだろうか。
「魔法武器は、魔素を纏ったドラゴンの外皮を加工して作られる武器の総称です。武器そのものに属性があるので、使用者の魔力に属性が必要ありません」
魔法武器は、カラド地方の西にある王都エクスフィアの職人しか作れないらしい。
魔法武器には、全ての属性に対応する各種の武器があるものの、魔王軍から王都エクスフィアを守る王都騎士団と、高レベルの冒険者にのみ中央政府から与えられる特別な武器だと言う。
属性弾を作るのは難しいが、不可能ではなさそうだ。
「では属性魔法については、あまり考慮しなくて良さそうだ」
「属性魔法を覚えるのであれば、土属性の魔法を取得すると良いですよ」
「なぜ?」
「土属性の魔法なら、治癒魔法が取得できます。新人の冒険者は、まず土属性の魔物を狙って草原地帯のスライムを討伐しています」
「魔素を纏うのは、大型魔物だけじゃないのか?」
「草原の掃除屋スライムは、その大型魔物の遺体から魔素を食べて体内に蓄積しています。とくに土気色したスライムは、土属性の魔素を多く含んでいるのです」
カルディラの冒険者ザンザは、治癒魔法を使っていた。
草原地帯で狩猟しているザンザは、大型魔物を討伐するほどの実力者ではなかったものの、スライムが土属性の大型魔物から魔素を得ているのであれば、治癒魔法を覚えられても不思議ではない。
「スライムは弱小魔物ですが、体内に吸収する様々な属性の魔素により、体色が変化しています。だから魔法使いを目指す冒険者は、狙った魔素を食べているスライムばかり倒すのです」
またスライムがカラフルだったのは、食性により色んな魔素を吸収した結果らしい。
「ノルティ、俺はスライムを狩ったことがあるのだが、今の魔力で土属性の魔法を覚えられるか?」
水晶を覗き込んだノルティは『足りません』と、首を横に振った。
カルディラの草原地帯に戻る気もしないし、土属性の魔法を覚えるのであれば、ポーションを飲んで魔力を土属性に変える手がある。
「俺は、ノルティの意見を参考にしてレベルアップするとしよう。聞かなければ解らないことばかりで、ノルティに相談して良かった」
俺が席を立つと、ノルティが人払いを頼んだ女中が、家主のヌガカが、サンドキングを討伐した功労者に宴席を設けたと、面会を申し入れにきた。
「ススムさんが宜しければ、ぜひ私の父に会ってください」
「しかし俺が戻らなければ、ヒノたちに心配をかける」
「宿屋には、使いの者を出します。部屋ならいくらでも用意できるので、今夜は泊まっていくと良いでしょう」
ノルティが引き留めるので、俺は席に座り直す。
「せっかくのご厚意だし、ご相伴に預かるよ」
「はい」
集落の酋長が、俺のために宴席を設けたと言うなら、断るのも失礼だし、ノルティの言動にも、気になる点があったからだ。
次回、ちょっとした推理小説みたいな展開に
( ╹▽╹ )〈座して待て!




