オアシス
オアシスの集落ムゥハには、大小様々なため池が作られており、町中で見かける小さな池で25mプール程度、集落を囲むように作られたドーナツ状の大きな池になると、人造湖レベルの貯水量がある。
ムゥハは豊富に確保した水量により、乾いた土地を緑地に変えており、ここが砂漠の真ん中だと忘れてしまいそうだ。
「ススムさん、次の隊商がムゥハを訪れるのは二週間後、慣れない土地で不便がないように、子供たちを残していきます」
ヤハエは、集落に留め置かれた俺のために、土地勘があり、砂漠の民ムゥハ族にも詳しいヒノとクリルを預けると申し出た。
クリルから借りた本で、カラド地方の種族や部族のマナーやタブーについて学んだものの、双子が現地の調整役で残ってくれるのは有難い。
「ソンゴに直接向かう方法がなければ、ぜひお願いしたい」
もしもムゥハからソンゴに行けるなら、ヒノとクリルの子供だけで、ラファトに送り返すことになる。
俺のために双子を残してくれるのに、子供たちを置いて先に進むのは、ヤハエに不義理だと思った。
「ムゥハを経由する隊商のルートは、カルディラからラファトに戻る西回り、ラファトからカルディラに向かう東回りしかありません。タマーノ商会もソンゴからラファトに向かうときは、西にある別のオアシスを経由しているのです」
「なるほど、砂漠の集落はムゥハだけではないのだな」
つまりカラド地方を行商する隊商のルートは、ラファト↔ソンゴ↔【別のオアシス】↔カルディラ↔【ムゥハ】↔ラファトであり、ムゥハからはカルディラかラファトに向かうしかなく、ソンゴに直接向かう隊商がいない。
「それに今の季節は、カルディラからソンゴに向かう隊商がいません」
「なぜだ?」
「収穫期であれば、カルディラで農産物を安く仕入れて、ソンゴやラファトで売りますが、閑散期はソンゴで仕入れた武器や農具をカルディラで売ります」
「カルディラは、農畜産業が盛んな村だったな」
「はい」
「今は閑散期なので、農産物の仕入れ価格が高く、量も少ないから、ラファトに帰郷するときに立ち寄るのか」
それに俺が倒したサンドキングやオークから得た素材は、ラファトにあるタマーノ商会本店が全て買取ってくれる。
ソンゴで銃弾の作れるドワーフが見つかっても、先立つものがなければ商談にならない。
どの道、ムゥハを解放されたら、ラファトで素材買取りの代金を受取るしかないのである。
「そうだな。次の隊商と交渉するとき、双子がいれば心強い」
「ヒノとクリルは、生まれたときから隊商で砂漠を渡っています。それに隊商の獣人族は、気難しいムゥハ族とも気が置けない仲なので、きっとお役に立てると思います」
気難しいムゥハ族。
酋長の娘ノルティは、ペルカやザンザと同じ人族でありながら、毛皮を鞣して作られた民族衣装を纏っており、頬にアメリカ先住民のようなペイントをしていた。
ムゥハ族という部族には、俺を迎え入れてくれたカルディラの人族とは、明らかに違う雰囲気がある。
ノルティの排他的な雰囲気は、俺を冒険者ギルドから追放したギルド長のハイム、少数種族のエルフ族に似ている気がした。
◇◆◇
俺と双子は、ラファトに戻る隊商を見送った後、ムゥハの中心にある市街地に向かった。
双子が寝起きしていた荷馬車がなくなったので、宿屋を探す必要があるからだ。
夜のうちは気付かなかったが、集落の中心には石造りの家が建ち並んでおり、広く整備された道には、多くの露天商が品々を並べて商売している。
集落で収穫した果物、首飾りなどの宝飾品、複雑な文様を浮かべる絨毯、露天に並べられた品々は、どれもムゥハの特産品だと、クリルが教えてくれた。
「ムゥハの市街地は、モロッコに風景が似ている」
ただしノルティのように日焼けした肌の露天商は、呼込みが蛋白で活気に乏しく、モロッコのフナ市場のような賑やかさがない。
「ムゥハは夏になると、湖水浴客で賑わうのですが、いまは冬ですからね」
「湖水浴?」
「ムゥハは、湖水浴ができる避暑地として有名なのですよ。集落を囲む広い人工湖、湖に面した白い砂浜、南国リゾートを楽しむ観光客が集まって、毎日がお祭り騒ぎになります」
「今は、シーズンオフなのか」
「ああ、早く夏にならないかな〜、ことしの夏も、ムゥハビーチで踊り明かしたい!」
ヒノが興奮気味に語ると、クリルが口元に拳を当てて笑っている。
「私たちは夏になると、ムゥハに長期滞在するのですが、その目的と言うのがですね−−」
「あーっ、クリル! そのことは秘密だと言っただろう!?」
「ススムには、話しても良いでしょう? パパたちに、ススムとムゥハに残ると提案した理由だって−−」
「ダメダメっ、絶対に話したらダメ!」
ヒノには、ムゥハに残りたい理由があるらしい。
どんな理由なのか、全く興味がないのだが、真っ赤な顔のヒノを、意地悪くクリルが誂っている。
双子のやり取りを見る限り、ムゥハには、ヒノの意中の人でもいるのだろう。
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